4.運命の出逢い1
前世の記憶が甦ってから3年の月日が経ち、僕達は8歳になった。
成長と共に、この世界での生活の違和感も薄れてきた。
元アイドルだった前世の知識を生かし、食事の管理や体力作りをして体型にも気をつけ、美容や髪型、洋服などをアレンジすることも楽しんでいた。
そして、この世界やこの国のことを知るために勉強もしている。
僕達はお母様と一緒に紅茶を飲みながらお話をしていた。
お母様は長くて綺麗な金色の髪に茶色の瞳。
スタイルが良くて、とても優しい自慢のお母様だ。
お父様がベタ惚れなのだ。
「本日は我が家にお客様が来られますよ」
僕とルイはお母様の向かいのソファーに座っている。
「お客様ですか?」
「どのようなお方ですか?」
「お父様のお友達よ。ルイやルカと同じ年頃のお嬢様がいらっしゃるのよ」
「へぇー。そうなのですね」
「楽しみですね」
お友達になれるかな?なんて8歳らしく思いつつ、僕達もお洒落をして到着を待っていた。
前世のスーツをアレンジした洋服をルイとお揃いで着ている。
クスフォード侯爵家がいつも依頼している仕立屋さんにデザインを見せて作ってもらったのだ。
馬車の音がした!
そして、お父様達の賑やかな声が聞こえる。
「やぁ、君達が噂の双子だね」
お父様のお友達のアリストロ伯爵家当主にそんな事を言われた。
「噂ですか?」
「君達がもっと小さな頃から社交界でも噂になっているよ。見目麗しく女性達を虜にさせるふたりだとね。なるほど、納得だ」
少しふくよかな体型のアリストロ伯爵はウインクをしながら教えてくれた。明るくお茶目な性格みたい。
僕とルイは顔を見合わせる。
まだ社交界デビューはしていないけど、年齢の近い令息達のパーティーなどに呼ばれることはあるし、家族で参加したものもある。
確かにお洒落には気をつけたりしてはいるけど、そんなに噂になるほどかな……?
「特に可愛らしい笑顔で甘く優しい言葉を掛けてくれると噂だよ」
フフフとアリストロ伯爵は笑っている。
「そうですか?」
ルイがニコリと笑ってとっさにごまかしてくれた。
「……」
アイドルだった前世の頃の癖なのかな。
無自覚だった!
僕達は何を言っていたのかな?
曲の歌詞とか!? ドラマのセリフとか!?
前世の記憶を思い出すの前の小さな頃のことは、記憶があやふやなところがある。
『クスフォードツインズ』の曲のダンスも踊ってたみたいだし…。
「さぁ、私の美しい妻と可愛い娘達も紹介させてくれ」
「妻のサラだ」
「ラーク様、サフィア様お久しぶりでございます。ルイ様とルカ様は初めてお会いしますね。よろしくお願いいたします」
「そして、長女シェイラ9歳、次女クレア8歳だよ」
両親のうしろで恥ずかしそうにしていたふたりが前に出て挨拶をしてくれた。
「よろしくお願いいたします」
少女達は綺麗なお辞儀をした。
シェイラ様は僕達よりひとつ年上で、長く艶やかなストレートの黒い髪に茶色の瞳。おとなしそうで綺麗な人だ。
そして、妹のクレア様は明るいふわふわしたオレンジブラウンの長い髪に大きくてパッチリした黒い瞳。とても可愛らしい人だ。
前世の記憶が甦った時以上の衝撃かもしれない……。
僕は妹のクレア様から目が離せず、しばらく動けなかった。
そう、これは運命の出逢いだ。
僕は一目惚れというものを経験した。
胸がドキドキと高鳴り頬が赤くなる。
舞台の上や人前では緊張しないはずなのに、どうすればいいのか分からない。
胸の鼓動をごまかすように、顎に手を添えて考えていた。
そんな僕達の沈黙を破ったのはアリストロ伯爵だ。
「おや、ふたりはそっくりだけど、ホクロの位置が違うんだね」
ハッとしたルイが笑顔で答える。
「そうなんです。皆様も分からないときはホクロの位置で確認をお願いいたします」
「それは助かるね!」
ニコリと笑うアリストロ伯爵。
「さぁ、こちらへどうぞ。ゆっくり話をしよう」
お父様が皆をお茶の用意ができている席へ勧める。
大人達は久しぶりの再会を喜び合い、話に花が咲いている。
そのあいだ子供達は頬を染めてチラチラと向かいにいる相手を見ては俯き、またチラリと見ては俯きを繰り返していた。
アリストロ伯爵家は隣に引越して来たそうだ。
隣にといっても敷地面積が広すぎるので歩いてすぐに、というわけではないけれど。
そして僕はまたチラリとクレア様を見る。
ふわふわで緩やかにウェーブしている髪が柔らかそうで大きな瞳が可愛い!
レースがたくさん飾られたドレスも似合っている。
ポーッと見てたらクレア様とパチリと目が合ってしまった!
僕は焦ってサッと目をそらす。
あれ?こんなことはしたくないのに!
「ぜひ、私の屋敷の方にも遊びに来てくれ」
うまく話ができないまま時間が経過し、アリストロ伯爵一家は帰っていった。
僕達はルイの部屋へと移動した。
僕は顔を赤くしてルイに伝える。
「ねぇ!どうしよう!僕、ドキドキしてるよ」
すると、ルイも顔を赤くする。
「僕もだよ……」
「えっ!?ルイも一緒!?」
もしかしてクレア様に?
双子だし同じ相手を好きになっちゃった!?
もしそうだったらどうしよう。
怖いけど聞いてみる。
「だ、誰に……?」
ルイは目を丸くしてから当然とばかりに答えた。
「もちろんシェイラ様にだよ!なんて可憐な人なんだ!僕は一瞬で恋に落ちたよ。こんな気持ちは初めてだ……!」
出逢いを思い出すように胸に手を当てている。
「そ、そっか。クレア様じゃないんだね」
ホッとした僕にルイが言う。
「ルカはクレア様だろ?見過ぎだよ」
「えっ!バレてた!?」
「まあね。でもお互い同じ相手じゃなくてよかったよ。これからはお隣にいるんだし、うまくアプローチしていこう!」
「う、うん!」
恋をした相手は違うけど、恋に落ちた瞬間は同じだった。
僕とルイの初めての恋だ!