2.双子アイドル2
お誕生日パーティーのあとに眠ってしまった双子達は翌日もまだ眠ったままだった。
「主治医も原因が分からないとは……」
クスフォード侯爵家当主、ラークが子供達を見ながら悲痛な顔をする。
「ルイ、ルカッ!!」
ラークの妻、サフィアは涙を流しながら我が子達を抱きしめる。
家族や屋敷の人達がとても心配するほど眠り続けていた。
そしてパーティーから3日後。
ふたりは同時に目を覚まし、目を擦りながら上半身を起こした。
「…あれ?ベッドにいる?」
「パーティーだったんじゃ……?」
部屋の中にいたお母様やメイド達が驚き、そして歓喜の声を上げた。
「ああッ!ルイ!ルカ!」
「お目覚めになられたわ!」
皆の様子に双子達はポカンとする。
「え?なに?」
「どうしたの?」
お父様や主治医もすぐに駆けつけた。
「3日!?」
「そんなに寝ちゃったの、僕達!?」
お母様が僕達を抱きしめながら教えてくれた。
「そうよ。とても心配したわ!!」
お父様も目が潤んでいる。
「良かった……。主治医によると体には特に異常はないそうだ」
「心配かけてごめんなさい」
お父様は安心したように僕達の頭を撫でてくれた。
そして、久しぶりの食事やお風呂も済ませてまたふたりでベッドの上にいる。
部屋には僕達だけだ。
「これは転生したってことだと思う」
ネイビーブルーの髪色にグレーの瞳のルイが言う。
「どういうこと?」
まったく同じ髪色と瞳の僕は、顎に手の指を添えて聞く。
考え事をしている時の僕の癖だ。
「あの世界でアイドルだった頃の自分の、琉生の記憶がある」
「僕にもあの頃の琉翔の記憶があるよ」
「僕達はどう見てもあの頃と見た目が違いすぎるだろ?」
「うん。しかも子供だしね」
「あのコンサートの帰りに事故に遭遇したかなにかで、僕達はきっとそのまま……。子猫ちゃん達を悲しませちゃったね」
「そうか…。そうだね。皆を悲しませちゃったね……。それで次の人生も双子として生まれたってこと?」
「うん。しかもあの頃と同じ名前で。不思議な話だ」
「ホクロの位置も前と同じだね。誕生日も同じだ。あと、ユニット名が名字になってるね」
「もしかしたらこの家へと導かれるユニット名だったのかもな」
お互いに顔を見合わせる。
前世と今世の記憶が巡り複雑な気持ちだ……。
「あのコンサートと似た状況だった誕生日パーティーの挨拶の時に記憶が甦ったんだな」
ルイが腕を組み、目を閉じてうんうんと頷きながら言う。
「そして、僕達の小さな体には耐えきれないほどの前世の記憶が甦ったから3日間も眠り続けたんだと思う」
ルイが目を開き僕を見る。
「……ルイすごいな!」
僕はルイの思考に感心する。
前世の頃から僕の頼れる兄だったルイ。
それはこの人生でも同じのようだ。
「僕はまたルイと一緒で良かったよ!ルイ、大好きだよ!」
ルイの小さな手をギュッと両手で握る!
「ふふっ。僕もだよ」
ルイは笑いながら手を握り返してくれた。
不思議なことが起きてもルイとふたりでいれば乗り越えていけると思った。
僕の大切なルイ。
離れ離れにならなくて良かった!
翌日はルイと庭で遊ぶと外に出た。
まだ体調のことを心配されることと、寒いから余計にダメだと止められたが、ほんの少しの時間だけとわがままを言った。
「前世の記憶が甦る前までは普通に暮らしていたが、今では違和感がありすぎる」
「うん。外国にいるとしてもテレビも携帯もないもんね」
僕達は屋敷の庭から空を見上げ、そして屋敷全体を見た。
この青い空と暦と四季は前世の頃と同じ。
今は僕達の誕生日月の12月。
しかし、高くそびえるビルや、飛行機なんて見かけない。
移動手段は馬車だ。
ここは中世ヨーロッパのような世界だ。
女性の洋服も舞台や昔の映画の人が着ていたようなドレス。
そして、この家の広く見渡せる綺麗に整えられた庭、立派な屋敷、使用人が常にいて料理も自分達で作ることはない。
僕達は一体どんな世界へ生まれ変わったというのか。
「ルイ様!ルカ様!そろそろお屋敷の中へ戻りますよ」
メイドに声をかけられる。
「はあーい」
「何をして遊んでいたのですか?」
「ルカとお庭でお散歩してたの!」
「本当に仲がよろしいですわね」
「うん!」
「うん!」
ニコッと双子は笑う。
「まあ!可愛いわぁ!」
前世の記憶があると、今までと同じ子供のままの考えではいられない。
ふたりでいる時は前世の頃と変わらなく話してしまうが、他の人の前ではその年齢らしくしようと決めた。
急に大人びた話し方をして怪しまれても困る。
そして元アイドルとしてのキラキラスマイルは、前世の記憶が甦る前から健在で女性達の心を掴んでいる双子なのだった。