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19:悪魔か天使か

 加藤からの情報提供を終えた聖斗と真紅は、彼の家を後にしていた。

 

 その時、二人は加藤に頼まれた事があった。『僕たちの無念を晴らして下さい』と。


 甘楽達によって騙され裏切られ、嘘によって塗り潰された事で、輝かしい人生を奪われた人は他にもいる。その人達の分まで、聖斗は戦わなければならない。だからこそ聖斗は帰り際に加藤の手を取った。


『任せてくれ、必ずやり遂げる』


 加藤はその言葉を聞いて安心したのか、瞳に涙を浮かべながら聖斗と真紅の二人を見送ってくれた。見送られながら聖斗は改めて決意を固める。


 必ずこの手で終わらせるのだと、甘楽達によって苦しめられてきた彼らに報いる為にも、学園内に蔓延る悪意に絶対に屈してはならないのだ。


「黒曜さん、次は何処に行く? やっぱり他の被害者の所に?」

「いえ。まず一度加藤さんから頂いた情報を整理して、先程の話をもっと具体的に話せればなと」

「ああ、そうか。まずは情報を整理しようか。でもそれも大事だけど――」


 聖斗は腕時計で時間を見る。時刻は既に正午を過ぎており、昼食にはちょうど良い頃合いになっていた。


「もし良かったらさ、これから一緒にお昼を食べないか? 食べながら情報を整理しても悪くないと思う、折角こうして遠い所まで来たんだ。だから美味しい物でも食べていこうよ」

「ほ、本当ですか? 緋根くんと一緒にお昼を頂いても、良いのですか?」


「そんな遠慮することないよ。俺だって黒曜さんには助けられてるんだし」

「た、助けられているのはわたしの方なのです。毎日のようにお食事から何から……緋根くんには手伝ってもらってばかりなのに……」


「隣のよしみってやつさ。それに放っておくと何が起きるか心配で……初日の真っ黒カレー事件とかびっくりしたんだぞ」

「あ、あれは……忘れて下さい。飴色について誤解していたわたしの落ち度です……」


「いやいや、あれだけじゃないでしょ。以前味見してって頼まれたオムライス、あれさ火を吹く程に辛かったからな。ケチャップとタバスコ間違えるのはやばいって」

「え、ええと……そうですね、同じ赤色なので……間違えてしまいました」

 

 そう言って恥ずかしそうに俯く真紅を見て聖斗は思わず笑ってしまう。


 不思議なものだ。さっきまで悪魔のように感じていた真紅の事が、今は少し間の抜けた可愛い一人の女の子にしか思えない。彼女が浮かべる表情の一つ一つがとても可愛らしく見えてくる。


「ともかく、食べに行こうよ。黒曜さんも言ってただろ、何だかデートみたいだって。折角だからもっとデートっぽい事もしていこう」

「もっと……デートみたいな事……っ。は、はい、分かりました。では……」


 聖斗の発言を受けた真紅の行動に、彼はひたすら驚いた。


 彼女は突然、聖斗の手を握ってきた。そしてそのまま指を絡め、それはいわゆる恋人繋ぎのような状態だった。


 真紅から差し出された手を取ったり、手を引かれた事はあるが、こうしてぎゅっと握りしめられたような事は一度もない。


 異性の手を握りしめるだなんて、聖斗にとって初めての経験だった。恋人を演じていた甘楽は一度も彼に手を触れされた事すらなかった。


 身体が熱い、心臓が高鳴っている、今にも爆発してしまいそうなくらいに鼓動している。


 聖斗は顔を真っ赤にしながら慌てて声をあげた。


「ちょっ……こ、黒曜さん……?」

「あ、あの、これならもっとデートっぽくなるかなと思ったのです。あ、憧れていたのですよ、すごく」


 真紅は上目遣いになりながら恥じらうように微笑んだ。


 その顔はあどけなくて、子供っぽさが残っている無垢な笑み、見つめているだけで心が締め付けられるように美しく、聖斗は言葉を失った。


(悪魔なのか……天使なのか……どっちなんだよ、黒曜さん……)


 悪魔のような黒く光る怪しげな笑みを浮かべる真紅と、天使のような白く輝く無垢な笑みを浮かべる真紅。


 どちらが本当の彼女なのか、聖斗はそれを悩みながら彼女の手を離さないように強く握り返していた。

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