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六 屍者の街角

          1

鎌倉から北西にいったところに小さな町がある。

 その閑静な町の小高い山の中腹に古い寺がある。以前は無人の寺であったが、つい最近、人が住むようになったと、住民の間で噂が広がっていた。

 夜になると灯りが見えると、何人かが言っているのだが、それを確かめた者はいない。薄気味悪く、誰も近づこうとしないためだ。

 その日の夜も、寺の小さな本堂に灯りが(とも)った。

 月も出ていないため、本堂以外は真の闇に包まれている。

 灯りの元はろうそくなのか、時折、光が揺らめく。

 その灯りを目指すように、石段を登り、本堂に向かう影があった。

 本堂に近づくに従い、その灯りに照らされて、姿が徐々に現れてくる。

 右目に眼帯をした、黒い革の上下を着た男だ。

 男は、本堂の引き戸を開けると、挨拶もなしに本堂の中に入っていった。しかも土足だ。

 「靴ぐらい脱いだらどうじゃ、牙堂。」

 本堂の奥から叱責の声が響いた。

 「もともと汚れているんだ。靴を脱いだら、こっちが汚れる。」

 牙堂が皮肉たっぷりに言い放った。

 それに応えて、笑い声があがった。

 「それもそうじゃの。」

 牙堂の視線の先に黒い法衣を着た坊主が一人、いわゆる須弥壇(しゅみだん)と呼ばれるものの前に座っていた。声の主はその坊主であった。

 「こんなところに呼んで、何の用だ。幽斎。」

 幽斎と呼ばれた坊主がゆっくりと体を回すと、燭台のろうそくの灯りに、その顔が照らし出された。

 まるでミイラのような顔つきの幽斎は、牙堂を見て、気味の悪い笑顔を見せた。

 「わざわざ来てもろうて、すまなんだの。牙堂。ま、座れ。」

 そう勧められても、牙堂は床の上に座ろうとはしなかった。それを見て幽斎は苦笑した。

 「お主を呼んだのは他でもない。わしの手伝いをしてもらいたいためじゃ。」

 「手伝い?」

 幽斎の申し出に、はじめ目を見張った牙堂は、すぐに不愉快な表情を幽斎に向けた。

 「なぜ、おれがお前の手伝いをせねばならん。」

 目を剥いて迫る牙堂に、幽斎は平然としていた。

 「お主にとっても悪い話ではないと思うがの。」

 「どこがだ!?帰る!」

 そう言って踵を返した牙堂を、幽斎は手で制した。

 「まあ、話は最後まで聞け。最後まで聞いて、帰るなりなんなりすればよいじゃろ。」

 幽斎にしては珍しく引き止めるのを見て、牙堂も振り向きなおした。

 「で、俺にとって悪くない話とは?」

 牙堂は不機嫌な顔を残したまま、幽斎に尋ねた。

 「いま、ここに例の女子(おなご)どもをおびき寄せている。」

 「例の女子(おなご)?」

 牙堂の脳裏に麻里江たちの顔が浮かんだ。

 「それは、霧子も含めてということか?」

 「当然じゃ。」

 幽斎の誇らしげな顔に、不満げな牙堂だが、内心は嬉々としている。

 (霧子のやつも来るのか。)

 思わず、右手を握りしめた。

 「この町でやつらを一網打尽にする。しかし、わし一人であやつら全員を相手にするのは、ちと骨が折れる。」

 「それで俺に手伝えと。」

 牙堂は幽斎の意図を初めて理解した。

 「一挙に片付けるのじゃ。だれがだれをなどわからんじゃろ。左京様も納得されるはずじゃ。」

 幽斎の口元にいやらしい笑いが浮かんだ。それにつられて、牙堂も邪悪な笑みを浮かべた。

 「しかし、大丈夫なのか?」

 牙堂は疑いの目で幽斎を見つめ直した。

 「細工は流々。仕上げを御覧(ごろう)じろじゃ。」

 自信ありげに言うと、幽斎は本堂の奥の方に目を向けた。闇の中、ろうそくの灯りが微かに届くところに、女が一人、正座して頭を下げていた。

 「あれは?」

 「その細工じゃ。」

 幽斎の口からこもった笑いが漏れた。

 それを聞く牙堂は、幽斎を気味悪く見ていた。

 

 同じ頃、三浦半島の別荘にいる奈美たちは、テーブルを囲んで議論を戦わせていた。

 「すぐに行こうよ!」

 美樹が身を乗り出して叫んだ。

 「罠ってこともあるわよ。」

 霧子が静かに反論した。

 「翔が罠をかけるわけないだろ。」

 「ほんとに翔なの?」

 霧子の疑問に美樹が目を吊り上げた。

 「翔の声だったんだろ。麻里江。」

 麻里江の方に顔を向けて、美樹は問いただした。

 「確かに翔の声だった。」

 しばらく間を置いて、麻里江が答えた。

 「ほら、麻里江が言うんだ。まちがいないよ。」

 美樹が鼻を膨らませて、確信めいて言うのを見て、霧子はため息をついた。

 「声だけじゃあね…。」

 霧子はまだ、疑ってかかっている。

 前日、突然、麻里江にかかってきた電話。それは翔からであり、敵の本拠地から脱出して、いま、とある町に隠れているという連絡であった。

 電話を受けた麻里江は、翔の声にまちがいないと言い、美樹がすぐに助けに行こうと言ったが、霧子は罠を疑い、慎重になっている。

 奈美は、ずっと黙って聞いていた。

 「こうしている間にも、翔が敵に見つかって捕まるかもしれないよ。」

 美樹の心配そうな目に、麻里江は顎に指を当てて考えた。

 「麻里江はどう思うのさ。」

 美樹が麻里江に水を向けた。

 「確かに美樹の言うとおり、早く行かないと翔の身に危険が迫るかもしれない。それに敵の本拠地を知るいい機会でもある。ただ…」

 「ただ、霧子の言うとおり、罠の可能性も高い?」

 いままで黙っていた奈美が口を開いた。それに合わせて、皆が奈美に顔を向けた。

 腕を組んで、壁に寄りかかっていた奈美は、壁から離れると、三人の真ん中に座って、順に三人の顔を見回した。

 「麻里江さんや美樹ちゃんの言うこともわかる。霧子の心配もわかる。でも、ここはこの機会(チャンス)に賭けてみてもいいんじゃない?」

 「奈美」

 「奈美さん。」

 「おねえさん。」

 ここ数日の関わりから三人は、奈美のリーダーとしての振る舞いを自然に受け入れていた。

 「でも、罠にも対処しないといけないから、二手に分かれましょう。」

 「二手?」

 「麻里江さんと美樹ちゃんは、翔さんに会うためにも正面から。私と霧子は裏から町に入るわ。」

 「裏から?」

 麻里江と美樹が顔を見合わせた。

 「敵に覚られぬように密かに町に侵入する。霧子はそういう方面は専門だと思うから。」

 奈美が霧子の顔を見て、ニッコリ笑った。それに対して、霧子は渋い顔をした。

 「麻里江さんと美樹ちゃんは、翔さんのことをこの中で一番わかっているはず。本物か偽者かも判断がつきやすいと思うの。」

 今度は、二人の方へ顔を向けた奈美の表情は、厳しく、つらそうなものであった。麻里江はその意味を察した。

 「私たちが(おとり)になるということね。」

 麻里江の言葉に美樹がびっくりした。

 「罠の場合、そうなるわね。」

 奈美と麻里江はまっすぐ見つめ合った。

 「覚悟の上だわ。」

 「麻里江さん。」

 麻里江の言葉に、奈美の目が更に辛そうな色になった。その目は美樹にも向けられた。

 「大丈夫だよ。おねえさん。それにまだ、罠と決まったわけじゃあないだろ。」

 楽天的に笑顔を見せる美樹に、奈美は悲しげな微笑みを見せた。

 「くれぐれも用心してね。」

 奈美は美樹の手をそっと握った。

 「まかせておいて。」

 美樹の笑顔はあくまでも明るい。

           2

 翌日の昼過ぎ、麻里江と美樹は、翔が隠れているという町に着いた。

 「ずっとバスに揺られたから、お尻が痛いや。」

 伸びをしながら美樹はお尻をさすった。

 「静かな町ね。」

 麻里江は通りを見渡し、率直な感想を言った。

 「そうだね。人が見当たらないや。」

 美樹も手をかざして、通りの向こうを見たが、確かに人の往来がない。

 「とにかく、行きましょう。」

 麻里江と美樹は、翔がいるはずの旅館に向かった。

 歩いて数分。目指す旅館はすぐに見つかった。

 「ここね。」

 “緑翠園(りょくすいえん)”と書かれた看板を前に、麻里江は少し緊張した面持ちを見せた。そばでは、美樹が浮かれた様子で中を覗き込んでいる。

 意を決したように中に入ると、

 「ごめんください。」

 と、麻里江が声をかけた。しかし、すぐには反応がない。

 「留守かな?ごめんください。」

 更に声を張って呼びかけると、

 「いらっしゃいませ。」

 と、後ろから返事が返ってきた。

 突然の返事に、麻里江も美樹も飛び上がらんばかりに驚いた。

 急いで振り向くと、そこに着物を着た、女将(おかみ)らしき中年女性が立っていた。

 「御用ですか?」

 血色の悪い顔に笑顔も見せず、女将は二人に尋ねた。

 「あ、はい。あの、ここに火鳥翔という女性が泊まっているはずですが?」

 「火鳥…?ああ、あの女性の方。」

 思い当たったようで、女将は大きく頷いた。

 「いますか?」

 「いま、出かけているところです。すぐに戻りますけど、中でお待ちになりますか?」

 女将の親切な言葉に、二人は頷き、待たせてもらうことにした。

 案内されるまま二階に登った二人は、ある客室に通された。

 「こちらでお待ちください。」

 そう言うと、女将はお茶を入れ、それを置いて部屋から出ていった。

 「無愛想な人だな。」

 「美樹、なんか匂わない?」

 「匂い?ああ、それならさっきから気になっていた。」

 美樹は匂いを嗅ぐ仕草をしながら、湯呑み茶碗を取り上げた。

 「お香の匂いのようだけど、けっこうきついわね。」

 顔をしかめながら麻里江も湯呑み茶碗を取り上げ、口に持っていこうとして、口の前で止めた。

 「美樹、それ、飲むのやめて。」

 「え?」

 美樹はお茶を飲む寸前に、その行動を止めた。

 「どうしたのさ?」

 麻里江の言葉の意味が解らず首を傾げる美樹の前で、麻里江はテーブルの上に札を置き、それにお茶を少しかけた。

 緑色に染まる札に手をかざし、呪文を唱える。するとお茶が緑から赤黒く変色した。

 「毒のようね。」

 「毒!?」

 美樹はあらためて、湯呑みの中のお茶を覗き込んだ。

 麻里江は美樹を横目で見ながら、窓のところに歩み寄り、窓を開けた。窓からすぐ下に隣の家の屋根がある。その高さを確認すると、窓を開けたまま美樹の前に座りなおした。

 そのとき、外から声がかかった。

 二人に緊張が走る。

 「お連れさんがお戻りになりました。」

 「…」

 麻里江は、美樹に目で合図すると座卓に突っ伏した。それを見て、美樹も床に寝そべった。 

 「お客様…」

 表から二・三度、声がかかったが二人は答えなかった。

 返事がないのに呼応して、引き戸が開く音がする。足音を忍ばせて、先ほどの女将が部屋に入ってきた。その後ろには板前の格好をした男が従っている。

 どちらも手に包丁を握っている。

 二人は麻里江たちが毒で倒れていると思い、そばに忍び寄ると包丁を振り上げた。

 そのとき、麻里江が突然起き上がり、女性の包丁を持つ手を手刀で打った。

 「うぐ!」

 美樹も板前の手を足で蹴り上げ、同時に腹部にも蹴りを入れた。

 思わぬ反撃に二人が床に転がった。

 「なんのつもり!?」

 麻里江が立ち上がって、二人を睨んだ。美樹もその後ろに立った。

 「があ!」

 包丁を握りなおした二人は、再び麻里江たちに襲い掛かった。

 麻里江の眼前に振り下ろされた包丁を左手で受け止めると、麻里江の掌底が女将の顔面にさく裂した。

 鼻の骨が折れる音とともに、女将はもんどりうって倒れた。

 美樹の方にも板前が襲い掛かった。

 迫る包丁を両手で受け止めると、美樹は相手の力を利用して肩越しに板前を投げ飛ばした。

 投げ飛ばされた板前はそのまま襖に激突し、その衝撃で襖は真ん中から折れ曲がった。

 それでも二人の男女は何事もなかったように立ち上がった。

 「なんだ、こいつら?」

 「まさか…」

 二人の様子に麻里江の中である推測が浮かんできた。しかし、考える間もなく、二人がまた向ってきた。

 麻里江がポケットからカードを取り出し、それを女将に投げつけた。

 カードは女将の包丁を持つ手を切り裂き、包丁は手から落ちた。その女将を押しのけるように、板前が包丁を脇に構えたまま突進してきた。

 その足を抜群のタイミングで美樹の足が掃った。

 突然、足を掃われた板前はバランスを崩し、そのままスライディングするように床に倒れた。

 「今よ!」

 麻里江が窓に向かう。その後に美樹も続いた。

 開け放たれた窓から外に飛び出した。

 屋根を伝い、そこから路上へ二人同時に飛び降りた。

 後ろを振り向くと、旅館の窓からは誰も追ってこなかった。

 「逃げるわよ。」

 そう言うと、麻里江はいきなり駆け出した。

 「あ、待って!」

 美樹も慌てて駆け出した。


 しばらく走り続けた二人は、追ってくるものを確認するため、物陰に隠れた。

 「追ってくる人はいないようね。」

 路上を見渡した麻里江の言葉に、美樹はホッと一息ついた。

 「ああ、喉が渇いた。」

 「あすこに自販機があるわ。なにか飲み物でも買いましょう。」

 ポツンと置いてある自動販売機を見つけると、注意深く気配を探りながら、麻里江は自販機に近づいた。美樹もその後に続き、二人そろって自販機の前に立つと、小銭を入れ、ジュースを買った。

 すぐに蓋を開け、口をつけると美樹は幸福(しあわせ)そうな顔をした。

 「ああ、おいしい。」

 しかし、麻里江は缶ジュースを開けもせず、じっと考え込んでいた。

 「どうしたの?麻里江。」

 「美樹、さっきの人たち、おかしいと思わなかった。」

 そう言われて、美樹も先ほどの出来事を思い返した。

 「確かに、なんかおかしかったね。」

 美樹の言葉に、麻里江はまた考え込んだ。そのとき、美樹の目にある人物が映った。

 「あれ、おまわりさんじゃあない?」

 美樹の視線の先に警察官がひとり立っていた。

 「美樹、気をつけて。」

 警官の様子がおかしいのを見て取った麻里江は、美樹に注意を促した。

 すると警官が腰から拳銃(リボルバー)を抜いた。

 「逃げて、美樹!」

 麻里江の叫びと同時に、拳銃が火を噴いた。

 左右に散った二人の代わりに、自販機に穴が開いた。

 逃げた二人を狙って、続けざまに警官が発砲する。

 それを転がりながら躱した麻里江は、カードを手にすると、警官に向って投げつけた。

 カードは狙い通り拳銃を持つ手に刺さった。

 「ぐ!」

 しかし、カードが刺さったまま警官は再度、銃口を麻里江に向けた。

 「くらえ!」

 美樹が警官のその手に向って縄鏢を投げた。

 縄鏢はうまく腕にからまり、引き金を引く寸前に縄鏢を引っ張った。

 腕を取られた警官はあらぬ方向に発砲した。

 邪魔された警官が美樹を睨みつけた。

 その目は狂気に満ちていた。

 警官が銃を持ち替えて、美樹に狙いをつけた。

 「盟約に従いて(つど)いし光の精霊よ。わが前にその威を示したまえ。」

 麻里江がかざしたダイヤのカードから眩しいほどの光が放たれた。

 警官の目が眩み、動きが止まる。

 「いまよ!逃げて。」

 駆け出そうとした二人の前に、住民と思われる男二人が家から飛び出し、立ち塞がった。手には鉈や鎌が握られている。

 その二人も無言のまま、手にした凶器を振りかざして襲い掛かってきた。

 思わず身構える二人。

 そのとき、何かが飛んできて、二人の胸に突き刺さった。

 「ぐっ」

 二人は胸を押さえて、その場にひっくり返った。

 「こっちよ!」

 声のする方に目を向けると、麻里江と美樹の良く知る女性が立っていた。

 「翔!」

 美樹が駆け寄り、その後に麻里江が続いた。

 二人を前にして、翔がいきなり小柄(こづか)を構えた。驚いて二人は立ち止まった。

 「翔、何を?」

 麻里江の言葉を無視して翔は、小柄を麻里江に向って投げた。

 小柄は麻里江の脇を取りすぎ、その後ろのなにかに突き刺さった。

 急いで振り向くと、胸に小柄を受けて倒れる警官の姿があった。手には拳銃が握られている。

 それを見て、麻里江は思わずホッと息を吐いた。

 「翔、無事だったんだね。」

 美樹が無邪気な笑顔を見せて翔に駆け寄った。

 「美樹、麻里江も無事でよかった。」

 「翔こそ無事でよかったわ。」

 再会を喜ぶ二人に笑顔を見せながら、翔は辺りを見渡した。

 「とにかく、ここは危険よ。こっちに来て。」

 そう言うと翔は二人を促し、横道へ入っていった。

 

 細い道をどんどん先に進む翔に、遅れないように麻里江たちも必死についていった。

 「一体、どこまで行くんだい。」

 美樹が真っ先に根を上げた。

 「もうすぐそこよ。」

 翔が立ち止まって振り返ると、道の先を指差した。

 「さ、行きましょう。」

 麻里江が美樹の手を引きながら進み始めた。それを見て翔も歩き始めた。やがて細い路地を通り抜け、目の前に開けた場所が現れた。

 どうやら学校のようだ。

 「ここは、廃校になった分校よ。」

 そう説明して、翔は門から中に入っていった。

 建物は珍しい木造建てで、山裾が裏手に迫っている。

 確かに人の気配はなかった。

 靴箱が並ぶ玄関から中にはいると、カビの匂いが鼻についた。

 「さびしいところだね。」

 美樹がもの珍しそうに眺めていると、目の前を何かがかすめていった。

 「ひゃ!」

 「大丈夫、美樹。」

 尻餅をつきそうになる美樹を支えながら麻里江は、今、飛んでいったものを確かめようとした。

 それは玄関を通り抜け、外へ飛び去っていった。

 「蝙蝠よ。」

 「こうもり?」

 二人は薄気味悪そうな顔をして、翔を見つめた。

 「ここの屋根裏に住んでいるらしくて、ときどき見かけるわ。」

 笑顔で答える翔は、廊下を奥の方へ進んでいった。

 教室であったであろう部屋に入ると、翔は転がっていた椅子を起こし、埃を掃って座った。

 「二人とも適当に座って。」

 ガランとした教室には、机も椅子も二・三個転がっているだけであった。翔と同じように椅子を起こして、麻里江と美樹は翔の前に座った。

 改めて見る翔の顔はやつれており、目の下にクマがはっきり表れていた。

 「大丈夫かい?翔。」

 心配そうに尋ねる美樹に、翔は笑顔で答えた。

 「ありがとう、美樹。心配しないで。」

 「いままで、どこにいたの?」

 麻里江が身を乗り出して尋ねた。

 「鬼龍一族のひとりと戦って、不覚をとってね、そのまま意識を失ったの。その間に敵の本拠地に連れて行かれて、いろいろと尋問されたわ。」

 「拷問されたの?」

 麻里江が聞くと、翔はつらそうな顔をして頷いた。

 「なんとか隙をみて、逃げ出したの。追っ手を撒くのに苦労したわ。」

 腕をさすっているの見て、麻里江がそっと手を置いた。

 「傷を負っているの?見せてみて。」

 「大丈夫。私も陰陽師のはしくれ。手当くらい心得ているわ。」

 翔は、自分の腕に置いている麻里江の手をもう一方の手で握り、ゆっくりと離して膝の上に戻した。

 逃走によほど苦労したのか、翔の手は冷たかった。

 「それで、敵の本拠地ってどこなんだい?」

 美樹が遠慮なく聞くと、

 「ここから案外、近いところなのよ。」

 と、翔が場所を口にしようとした時だった。

 「しっ」

 麻里江が突然、口に指を当てた。

 三人の間に緊張が走る。

 教室に静寂が蘇えると、遠くから床が軋む音が聞こえてきた。

 麻里江はポケットからカードを取り出し、美樹はポシェットから縄鏢を出した。翔も袖から小柄を取り出す。

 しばしの沈黙が流れた。

 三人の目が教室の入り口に注がれる。

 そのとき、窓を突き破って男が飛び込んできた。

 手にした木刀が翔を狙う。

 しかし、翔は慌てず、木刀を掻い潜ると手刀で木刀を持つ手を打ち、返す刀で顔面を思いっ切り打ち据えた。

 男が簡単にひっくり返ったが、その間に入り口から男が三人、飛び込んできた。それぞれ手に凶器を持っている。

 「がぁ!」

 獣のような叫びとともに、男たちが躍りかかった。

 麻里江のカードが空を切り、先頭の男の手首に突き刺さった。しかし、それを物ともせず、男は突進してきた。

 男の手にした鉈が麻里江の頭上に振り下ろされる。それを右手でがっちり受け止めた麻里江は、そのまま腕を取って体を回転させ、男を投げ飛ばした。

 美樹の方にも鎌を手にした男が飛びかかった。そこへ美樹の縄鏢が飛び、男の首に巻き付いた。

 そのまま引き倒すと、右足で相手の腹部を蹴り上げた。その衝撃で男の体が一瞬宙に浮き、そのまま床に落ちた。

 どや顔をしている美樹の後ろに三番目の男が迫った。

 バットを手に美樹を殴りつけようとしたとき、翔の小柄が男の手に突き刺さった。

 それによって男のバットは美樹への軌道を外れ、すぐ横の床を打ち付けた。

 「美樹、伏せて。」

 男がバットをまた振り上げると同時に美樹が身を伏せ、その背中に翔が右手をついた。それを軸に翔の左足が大きく旋回し、男の首を横から薙ぎ払った。

 首の骨が折れる音とともに、男は吹き飛び、壁に激突した。

 「どうだ、見たか。」

 美樹が意気込むその目の前で、倒された男たちが何もなかったように立ち上がった。

 「こいつら、どうなってんだ?」

 四人の男が、無表情の顔を麻里江たちに向け、ゆっくりと近づいてきた。

 「みんな、逃げるわよ。」

 翔が叫ぶと、麻里江と美樹はそれに呼応して、破れた窓から外へ飛び出した。

 外は日が西に傾こうしている。

 西日の照らす校庭を校門目指して駆ける三人の前に、別の一団が立ち塞がった。

 皆同じように、うつろな目で麻里江たちを見つめている。後ろからは先ほどの四人が追いかけてきた。

 「くそ、囲まれた。」

 「みんな、目をつぶって。」

 麻里江が叫ぶと、美樹と翔は目をつぶった。

 「盟約に従いて(つど)いし光の精霊よ。わが前にその威を示したまえ。」

 右手に掲げたダイアカードからまぶしいほどの光が当たりを照らし出した。その光を受けて、麻里江たちを囲んでいた男たちの動きが止まった。

 「いまよ!」

 目がくらんで動けぬ男たちを置いて、麻里江たちは裏山へと逃げていった。

 

 麻里江たちが廃校から逃げ出したとき、その廃校から飛び立つ一匹の蝙蝠があった。蝙蝠は町を離れ、北西の山のほうに向かった。

 しばらく飛んだあと、蝙蝠は山の中腹にある古寺に降りて行った。

 本堂の扉の隙間から中に入り込んだ蝙蝠は、梁のひとつにぶら下がり、声にならぬ声で盛んに鳴いた。

 その声に導かれるように須弥壇の陰から現れたのは、幽斎であった。

 「どうじゃ、連中の様子は?」

 幽斎の問いかけに蝙蝠が口を動かした。

 「そうか。山に逃げたか。」

 幽斎の頬に笑みが浮かんだ。

 「予定通りじゃの。」

 梁にぶら下がる蝙蝠がまた口を動かした。それに幽斎が少し驚いた表情を見せた。

 「アメリカの女子がおらんじゃと?」

 その報告に幽斎は思案顔になった。

 「どういうことじゃ。一緒じゃと思っておったが。ふむ。」

 しばらく思案したあと、幽斎は梁の蝙蝠に顔を向けた。

 「牙堂らに生け捕りにせよと伝えよ。」

 幽斎の命令に蝙蝠は飛び立っていった。

 「ま、どこかにはおるじゃろ。」

 幽斎の口から邪悪な笑い声が漏れた。

          3

 その頃、奈美と霧子は町の反対側の山の中にいた。

 霧子のBMWで乗り込んだ二人は、見つからないように山の中の道に車を停め、様子を伺っていた。

 「どうやら麻里江たちも町に着いたみたいね。」

 霧子は膝の上に置いたパソコンの画面を見ながらつぶやいた。奈美は後ろの座席から背もたれ越しにそれを見ている。

 「どうして二人が着いたってわかるの?」

 素直な疑問に霧子は振り返りながら微笑んだ。

 「ここに赤い印が二つあるでしょ。」

 ディスプレイにはこの町の航空写真が映しだされており、その道路上に二つの赤い点が点滅していた。

 「これが麻里江と美樹の現在位置を示しているの。」

 「それがなぜ麻里江と美樹なの?」

 ディスプレイを指さす霧子に、奈美は不思議そうな顔をして尋ねた。

 「この映像は、アメリカの偵察衛星から情報をもらっているの。出かける前に二人には発信チップをつけておいた。それで二人の位置がわかるのよ。」

 「それ、二人は知っているの?」

 「黙ってつけたから知らないはずよ。」

 霧子がいたずらっぽく笑うと、奈美はあきれたような顔をした。

 「二つの点が移動しているわね。」

 奈美が言うと、霧子はディスプレイに目を戻した。確かに二つの点が複雑に動いている。それを見て、霧子はキーボードを操作した。

 「逃げているみたいね。」

 画面がズームアップされると、点が赤っぽい人型になった。その周りに青っぽい人型が群がっている。

 「敵に追われているっていうこと?」

 「そのようだけど…」

 霧子が首を傾げている。

 「やはり、罠だったということね。助けに行かないと。」

 「ちょっと待って。」

 BMWから降りようとする奈美を霧子は引き留めた。

 「どうしたの?」

 「なんかおかしい。」

 「なにがおかしいの?」

 霧子はじっと画面を見つめている。

 「早くしないと、二人が捕まるわ。」

 「奈美、この画面を見て。」

 苛立つ奈美を抑えるように、霧子は画面を指し示した。

 促されて画面を見たが、霧子が言わんとするところがわからない。

 「麻里江たちを敵が追いかけているんでしょ?」

 「これにはサーモグラフィがかけられている。敵味方の位置を把握するためにね。」

 「なるほど。」

 霧子の言わんとすることが、なんとなくわかってきた。

 「普通の人間なら体温の関係で赤っぽくなる。現に麻里江たちの画像は赤っぽい。でも、追いかける敵は青っぽい画像。」

 「どういうこと?」

 「体温が異常に低いということよ。」

 「え?」

 奈美は改めて画面を見つめた。確かに麻里江たちは赤い人型だが、追いかける敵は青い人型だ。

 「体温が低いって、死人じゃあるまいし。」

 奈美の何気ない言葉に、霧子の頭にある記憶が呼び起こされた。

 「まさか…?」

 「なにか思い当たることがあるの、霧子。」

 霧子の仕草に奈美は何かを感じ取った。

 「前に倉庫から脱出したとき、骸骨に襲われたことがあった。」

 「骸骨?」

 突拍子もない発言に奈美は目を丸くした。

 「信じられないことかもしれないけど、本当よ。麻里江たちも目撃している。」

 霧子の目は真剣だった。とても、嘘や冗談とは思えない。

 「じゃあ、敵は死人だというの?」

 「わからない。でも、あの出来事を思うと否定はできない。まして、敵は超常な能力を持った者たち。」

 霧子の脳裏に牙堂の顔が浮かんだ。思わず身震いする。

 「罠とは想像できたけど、死人とは…」

 二人の間に沈黙が流れた。

 「どうする。奈美?」

 霧子の問いに奈美は考え込んだ。


 同じ頃、裏山に逃げ込んだ麻里江たち三人は、林道を上へ上へと逃げていた。

 「麻里江、ちょっと休もうよ。」

 美樹が木に寄りかかり、ゼイゼイ言いながら立ち止まっていた。

 「大丈夫、美樹。」

 麻里江がすぐにそばに駆け寄った。

 「この先に開けたところがある。そこで休みましょう。」

 翔が道の先を指差しながら言った。

 「さ、もうちょっとがんばって。」

 麻里江に励まされて、美樹も重い足を前に出した。

 さらに登ると、たしかにちょっとした広場のようなところに出た。近くに小屋が見える。

 「あそこに行きましょう。」

 翔が先頭に立って、小屋に向かった。

 麻里江と美樹も後に続いた。

 小屋は林業の道具などを入れるために使われているもののようで、中は雑然としていた。しかし、三人が入るには十分な広さはあった。

 「ここで少し休みましょう。私が外を見回ってくる。」

 翔がそう言って外に出た。

 美樹は転がっている木材の上に座り、麻里江はポシェットからさっき買ったジュースを出した。

 「さ、飲んで。」

 美樹に差し出すと、美樹の目が輝いた。

 「いいの?」

 「遠慮するたちじゃあないでしょう。」

 麻里江の言葉にいたずらっぽく笑う美樹は、ジュースを受け取るとすぐに蓋をあけた。おいしそうに飲む美樹の横で、麻里江は棚に寄りかかると、何かを考え込むように腕を組んだ。

 「どうしたの、麻里江?」

 麻里江の様子に美樹は心配そうに尋ねた。

 「さっきの連中のことを考えてた。」

 「さっきの連中?」

 美樹も襲ってきた者たちのことを思い返した。

 「美樹、あの連中、おかしいと思わなかった?」

 「そうだね。そういえばみんな顔色が悪かったね。」

 「それだけじゃあないわ。みんな体が冷たかった。」

 「え?」

 麻里江の眉間に皺が寄った。

 「私のカードを受けても、美樹の縄鏢を受けても平気で向かってきた。」

 「そういや、いくら蹴ってもぶったたいても起き上がってきたね。」

 美樹が気味悪そうに身を縮めた。

 「もしかしたら連中、死人かも。」

 「え、死人?よしてよ、昼間っから。」

 美樹はいそいで残りのジュースを飲み干した。

 「私、景明様の言葉を思い浮かべているの。」

 「景明様の?」

 美樹も思い出そうとしたが、なかなか頭に浮かんでこない。

 「ハンコの意味。」

 「そういえば、あったね。そんな言葉。」

 「あれ、反魂(はんこん)という意味じゃあないかしら。」

 「ハンコン?」

 麻里江の言葉に美樹はピンと来ていない。

 「反魂の術よ。」

 「ああ、死んだ人を生き返らせるという。でも、あれは伝説だろ。」

 「それを実現した者がいるとしたら。」

 「ええ…?」

 美樹が半信半疑な顔をしたとき、麻里江が唇に指を当てた。

 麻里江の鋭い視線が辺りを見回した。

 美樹も同様に周りの異変を感じ取った。

 その時、窓ガラスがいきなり割れた。

 続いてドアが打ち破られた。

 「美樹、逃げて。」

 そう言いながら麻里江は、ドアから侵入する男にカードを投げた。先頭の男の額にカードが突き刺さる。

 少しのけぞった男を押しのけて、別な男が小屋に入ってきた。

 「麻里江、早く。」

 美樹が反対側の窓から外へ出ようとしていた。

 「かまわず行って!」

 麻里江はカードを次々と投げつけた。

 その間に窓から外に出た美樹の上に網が被せられた。

 「わ!」

 屋根から男が飛び降り、網にもがく美樹の上に覆いかぶさると、その手足を抑えた。そこへ別の男が木の棒で美樹を殴りつけた。

 「美樹!」

 美樹の危機に窓へ駆け寄ろうとした麻里江の頭に、棍棒が振り下ろされた。

 「う!」

 激痛と衝撃に麻里江の意識が遠く。

 床に俯せに倒れた麻里江の周りに、男たちが群がってきた。

 手にした凶器を振りかぶる。

 「まて!」

 その命令に男たちの手が一斉に止まった。

 そのあと、小屋に入ってきたのは牙堂であった。

 「殺すんじゃあない。」

 男たちを睨みつけながら牙堂は、倒れている麻里江に近づいた。その髪の毛を掴み、顔を引き上げる。

 「霧子じゃあないのか。」

 お目当ての人物でないことを確かめると、残念そうな表情を浮かべて、掴んだ髪の毛を放した。

 「寺まで連れて行け。」

 周りにいる男たちに威嚇するように命じると、自身はさっさと小屋から出て行った。

 「幽斎のやつ、だましたのか?」

          4

 古寺の本堂にいま、幽斎と牙堂が向き合っていた。しかし、その雰囲気は険悪なものであった。

 「幽斎、約束が違うぞ。」

 「約束が違う?」

 幽斎は牙堂を見ながら首を傾げた。そのとぼけた表情に牙堂はイラついた。

 「霧子が来るという話だ。小娘ふたりだけで霧子はどこにもいなかったぞ。」

 「その話か。」

 幽斎はやっと得心したように頷いた。

 「とぼけるんじゃあねえ。」

 牙堂はすごんで見せたが、幽斎は意に介さない。

 「おかしいの。いっしょに来ると思っておったのに。」

 「思ってた?」

 牙堂の目が血走った。

 いまにも幽斎の首を両手で絞めようと幽斎ににじり寄った。

 「まあ、そう興奮するな。」

 怒り心頭の牙堂を前にしても、幽斎の平然とした態度は変わらない。

 「アメリカの女もきっと来ている。」

 「なぜ、言える。」

 なんとか怒りを抑えた牙堂は、両手を下ろした。

 「前のときも陰陽師の女子どもを手助けしておる。今度もそうじゃ。」

 「えらい自信だな。」

 幽斎の言葉を信用できない牙堂は、そっぽを向いた。それを見て、幽斎はニヤニヤと笑っている。そこへ一匹の蝙蝠が飛んできた。

 梁にぶら下がると、幽斎に向かって盛んに口を動かしている。

 「おまえら、アメリカの女を探して、仲間が捕らわれていることを知らせて来い。」

 そう命令すると、蝙蝠は幽斎の言葉を理解したのか、どこかへ飛んで行った。

 「ま、待っておれ。アメリカの女もじき現れる。」

 「ふん。期待しないで待っているよ。」

 不満げな牙堂は、そっぽを向いたままだ。

 

 当の霧子はいまだ動かず、BMWの中でパソコンを見ていた。

 「どうやら捕まったようね。」

 「え?」

 霧子の言葉に驚いた奈美は、霧子の肩越しにパソコンをのぞき込んだ。画面に出ている赤い印があるところで止まったままになっている。

 「ここは?」

 奈美の質問に霧子はパソコンを操作し、画像を拡大した。

 「お寺のようね。」

 奈美が腕を組んで考え込んだ時、だれかを呼ぶ声が聞こえた。

 二人にさっと緊張が走る。

 表に出た奈美と霧子は、辺りを見渡した。

 すると蝙蝠が一匹、飛び回っている。

 「bat?」

 霧子が珍しそうに見ていると、蝙蝠が突然言葉をしゃべった。

 「アメリカノ女、聞コエルカ?」

 「え!?」

 しゃべる蝙蝠に霧子は目を丸くした。

 「日本の蝙蝠はしゃべるの?」

 「そんなわけないでしょ。」

 奈美は厳しい目つきで蝙蝠を睨んだ。

 「オマエタチノ仲間ハ預カッタ。」

 蝙蝠の発言に霧子と奈美は険しい表情になった。

 「助ケタケレバコノ先ノ寺マデコイ。」

 「やっぱりね。」

 予想通りの言葉に霧子は軽く笑った。

 「コナケレバ命ノ保障ハナイ。」

 蝙蝠は同じ言葉を繰り返しながら二人の頭上を飛び回った。その様子に苛立ったのか、霧子の指がコインを弾いた。

 次の瞬間、蝙蝠は空中で弾かれ、きりきり舞いをしながら地面に落ちた。

 「うるさいのよ。」

 霧子の行動に奈美はため息をついた。

 「で、どうする?」

 尋ねる奈美に霧子は両手を挙げて、お手上げというジェスチャーを見せた。

 「罠だとわかっているところへ乗り込むほど馬鹿じゃあないでしょ。」

 「おあいにくさま。私はその馬鹿なの。」

 奈美の笑顔に霧子はあきらめのため息を吐いた。

 

 麻里江は漆黒の闇の中にいた。

 自分の居場所もわからず、右を見ても左を見ても闇しかなかった。

 「ここは?」

 麻里江は美樹の名を叫んだが、どこからも返答はない。

 不安が胸に広がり、麻里江はやみくもに歩き出した。

 そのとき、遠くに赤い灯りが見えた。

 ゆらゆら揺れる灯りは、やがて、二つ三つと増えていった。

 その灯りを見て、麻里江の中に恐怖が芽生えた。

 「いや、こないで。」

 首を振りながら後ずさりする。灯りは麻里江に向かって近づいてきた。

 それは手に松明を握る男たちであった。

 麻里江は恐怖に駆られて、その場から駆け出した。

 男たちは松明を振りかざし、麻里江を追いかけてくる。

 麻里江にはその顔が鬼に見えた。

 男たちの手が麻里江を捕まえようと伸びる。

 「キャー」

 思わず叫び声をあげたとき、目が覚めた。

 目の前に美樹が心配そうな顔でのぞき込んでいる。

 「大丈夫?麻里江。」

 「あ、美樹。」

 起き上がると頭がズキッと痛んだ。

 「無理しないで。ケガしているんだから。」

 触ると頭に包帯がしてある。

 「美樹がしてくれたの?」

 その問いに美樹は首を振った。見ると美樹も頭に包帯をしていた。

 「私じゃあないわ。目が覚めたら治療をされていた。」

 「そう。ここは?」

 周りを見回すと、箱や調度品やらいろいろなものが雑多に置かれていた。そのすべてがほこりをかぶっている。天井からは裸電球が一個だけぶら下がっていて、か細い灯りを投げかけていた。

 窓らしいのは高いところにある一か所だけ。しかも格子がはまっている。

 「どっかの土蔵のようだよ。」

 美樹が答えると、麻里江はゆっくりと立ち上がった。

 「あ、無理しないで麻里江。」

 「大丈夫。美樹。」

 そう言うと麻里江は土蔵の入り口に近づいた。

 引き戸に手を掛け、開けようとしたがびくともしない。鍵がかかっているようだ。引き戸に付いている格子から外を見たが、真っ暗で何も見えない。

 あきらめて戻ろうとしたとき、格子の外から灯りが漏れた。

 見るとろうそくの炎が宙に浮いている。

 「だれ!?」

 麻里江がにらみつけると、格子越しに黒い法衣を着たミイラがのぞき込んだ。

 「うわ!」

 「!」

 美樹が驚きのあまり尻餅をつき、麻里江は絶句した。

 「フォフォフォ、気がついたようじゃの。」

 ミイラが言葉を発した。

 「あなた、だれ!?」

 麻里江は厳しいまなざしでミイラを睨みながら尋ねた。

 「わしの名は幽斎。」

 「幽斎?もしかしたら鬼龍一族?」

 「ほほ、さすがじゃな。」

 幽斎はそのミイラのような顔に笑みを浮かべて麻里江をほめた。

 「私たちをどうする気?」

 麻里江は厳しい顔つきを崩さない。

 「死んでもらう。」

 事無げに言う幽斎に、美樹は怒りの表情を見せた。

 「ふざけるな!」

 床から起き上がると引き戸に駆け寄った。

 「元気がええの。」

 からかうように言う幽斎に更に怒りを重ね、美樹は格子を握って揺さぶった。

 「やい、ここから出せ!」

 「まあ、そこでおとなしくしておれ。すぐには殺さぬ。お主たちにはアメリカの女をおびき寄せる餌になってもらう。」

 その言葉に美樹は息を飲んだ。

 「餌も何も、私たちだけでこの町に来たのよ。お前の言う女の人はいないわ。」

 麻里江は冷静な顔つきで幽斎に答えた。

 「そうかの。わしの蝙蝠はアメリカの女を探し当てたぞ。」

 今度は麻里江が絶句した。

 「ふふ、ここでアメリカの女が死ぬのをゆっくり見ておれ。もう一人の女のもな。」

 「くそ」

 美樹が歯ぎしりする顔を見て、幽斎はいやらしい笑いを浮かべた。

 「あ、そうか。ここからでは見えんかったな。」

 高笑いをあげて去ろうとする幽斎が、何かを思い出したのかまた扉の前に戻ってきた。

 「これを忘れるところじゃった。」

 幽斎は袖から何かの札を取り出し、それを扉に貼り付けた。それを見ていた麻里江は幽斎に向かって問いかけた。

 「翔はどうしたの?」

 「安心しろ。別なところでちゃんと無事でおるわ。」

 それを聞いて、麻里江と美樹はホッとした。

 「それではまたな。フォフォフォ。」

 それを言い残して、今度こそ幽斎は去っていった。

 

 「ちくしょう。麻里江。こんな扉、ぶち壊してさっさと逃げようよ。」

 美樹が麻里江に顔を向けてまくし立てた。

 「無駄よ。鬼封じの呪符が貼られているわ。どんな法術でもこの扉は壊せない。」

 「え?」

 麻里江の言葉に美樹は扉に目を向けた。

 「それに、翔を別なところに捕えているってことは、私たちに対する人質ってことよ。」

 「あ!」

 麻里江の言葉で初めて気付いた美樹は、相手の狡猾さに腹を立てた。

 「くっそ!」

 腹立ち紛れに美樹は扉を思いっきり蹴った。


 土蔵から本堂に向かう幽斎の前に牙堂が現れた。

 「牙堂か、どうした?」

 「幽斎、本当に霧子が来るのか?」

 牙堂はまだ幽斎を疑っている。

 「安心せい。わしの蝙蝠が女子たちを見つけておるわ。」

 そう言うと幽斎は顔を上に向けた。それにつられて牙堂も上を見た。

 夕日に赤く染まっている上空に何匹かの蝙蝠が飛んでいる。それを見て幽斎はニヤリと笑った。

 「まもなく夜になるな。女子たちを出迎える用意をするか。」

 幽斎はニヤニヤしながら本堂へ向かった。

 牙堂は半信半疑のまま幽斎の後についていった。

          5

 日が西に沈み、夜が静かに広がった頃、古寺の境内のあちこちに篝火が灯った。

 境内の中では死人たちが多数うろうろしている。その手には様々な凶器が握られていた。中には猟銃を持つ者もいた。

 本堂の前では幽斎が相変わらずのニヤついた顔で立っていた。

 その隣では牙堂が腕を組んで正面を睨みつけていた。

 「さて、来るかな?」

 牙堂の言葉に幽斎は何も答えない。ただ、確信めいた表情は見せていた。

 「車が来ます。」

 鐘楼に立って見張りをしていた死人が叫んだ。

 見れば、ヘッドライトの灯りが山道を古寺に向かってくる。

 「来よったか。」

 したり顔で牙堂を見ると、牙堂はそっぽを向いた。

 ヘッドライトは木の陰で見え隠れしながら、古寺にどんどん近づいてきた。

 「皆の者、用心せよ。」

 幽斎の命令に死人たちは凶器を構えた。

 やがて、車種が認識できるところまで車(BMW)が近づいてきた。

 BMWは古寺に通じる登り道に向かうと思われた。

 「正面から来るとは大胆じゃの。」

 幽斎の表情にはまだ余裕が見えた。

 牙堂は本堂の縁側に腰を下ろし、成り行きを見ている。

 皆が登り道の出口に集まっていく。

 BMWのヘッドライトの先に古寺に通じる道と石段が見える。左に曲がれば古寺への登り道だ。

 しかし、BMWは左に曲がらない。

 ギアをローに入れたのか、エンジンの更なる咆哮とともにBMWはスピードを上げ、真っすぐ石段に向い、そのまま急な石段を駆け上がっていった。

 「車が石段を登ってくる。」

 「なんじゃと!」

 予想外の出来事に幽斎は目を見張った。

 縁側に座っている牙堂はおもしろそうに笑っている。

 石段を登り切ったBMWが境内に躍り込んだ。

 目の前にある篝火を弾き飛ばし、集まってくる死人たちを次々と跳ね飛ばしていった。

 「ええい、停めろ。停めるんだ!」

 幽斎が叫ぶ。

 死人の一人が猟銃を撃った。

 ヘッドライトが吹き飛ぶ。しかし、BMWは停まらない。

 境内を散々駆け回った後、その方向を本堂へ向けた。

 慌てて幽斎と牙堂が飛び退くと同時に、BMWからも黒い人影が飛び出した。

 無人のBMWは、そのスピードを維持したまま本堂に突っ込み、本堂の正面を破壊し、須弥壇に激突して停まった。

 飛び降りた人影は奈美であった。

 奈美は地面を転がるとすぐに起き上がり、そのまま駆け出した。それを追って死人たちが集まってくる。

 「捕まえろ!」

 幽斎が声を張るその横で牙堂は、飛び降りた人物を確認するために駆け出していた。

 追ってくる者たちをチラッと見た奈美は、ポケットから黒い小さな箱を取り出し、付いているボタンを押した。

 途端にBMWが大爆発を起こした。

 爆風が辺りを蹂躙し、爆炎が死人たちの上に降り注いだ。

 次々と燃え上がる死人たち。

 呆然とする幽斎を尻目に奈美は、振り向くと手にした銀の針を死人に向かって投げつけた。

 胸に針を受けた死人は、次々とひっくり返っていった。

 そこへ牙堂が現れた。

 「きさま、霧子ではないな。」

 「お生憎さまね。ストーカーさん。」

 嘲笑を浮かべる奈美の髪がいつの間にか銀色に変わり、燃え上がる本堂の炎に照らされてキラキラ輝いていた。

 奈美の姿を見た牙堂の頭に閃くものがあった。

 「囮か!?」

 そう言って牙堂は土蔵の方を見た。

 

 その頃、古寺の背後にある雑木林を駆ける黒い影があった。それは古寺の裏手に出ると、闇に紛れて建物に取りついた。

 辺りを伺いながら、懐から携帯電話を取り出し、スイッチを押した。

 画面の灯りが影の顔を照らす。

 照らし出された霧子は、持っていた携帯をすばやく操作した。

 「こっちのようね。」

 画面に映し出された赤い点を見て動き出そうとしたとき、表の方で人の叫び声が聞こえてきた。

 「始まったようね。こっちも急がないと。」

 霧子は足を忍ばせて土蔵に向かった。


 表の騒ぎは土蔵にいる麻里江と美樹にも聞こえてきた。

 「なにごとだろう?」

 美樹が土蔵の扉から外を伺った。

 そのとき、すさまじい爆発音がした。

 「うわ、なんだ。」

 その音に美樹は扉から飛び退いた.

 「なにかが起こっているようね。」

 いままで床に座っていた麻里江も立ち上がり、扉の前に歩み寄った。

 「奈美が騒ぎを起こしているのよ。」

 いきなり格子の間から顔を見せた霧子を見て、美樹と麻里江は驚いた。

 「霧子さん、脅かさないで。」

 「心臓が縮み上がったぜ。」

 美樹と麻里江の不平顔を見て、霧子は笑った。

 「ごめんごめん、脅すつもりはなかったんだ。」

 「助けに来てくれたの?」

 「いま、開けるから待ってて。」

 「あ、その前にその扉に札が貼ってあるでしょ。それを剥がしてくれない。」

 麻里江に言われて霧子は土蔵の扉を改めて見た。確かに扉の上の方に札が貼ってある。

 「これね。」

 霧子は札を剥がし、麻里江に見せた。

 「これ、なに?」

 「まじないの札よ。早く扉を開けて。」

 麻里江に急かされ、霧子は扉の南京錠にウェストポーチから取り出した金具を差し入れた。しばらく動かしていると、南京錠がカチッという音とともに外れた。

 「さ、急いで。」

 扉を開けると、麻里江と美樹はすぐに外に飛び出した。

 「こっちよ。」

 霧子が先頭立って駆けようとしたとき、麻里江が引き留めた。

 「待って。翔も助けないと。」

 「翔がいるの?」

 「別のところに監禁されているらしいの。」

 麻里江は闇に染まった周りを見渡した。

 「長い時間はいられない。奈美の陽動も限界がある。」

 霧子がめずらしく焦りの顔を見せた。

 「霧子さんと美樹は先に行ってて。」

 「麻里江はどうするのさ。」

 美樹が心配そうな顔をした。

 「私は翔を探して、一緒に逃げる。」

 「じゃあ、私も一緒に探す。」

 美樹が少し興奮した様子で麻里江に向かって言うと、麻里江は微笑みを浮かべて美樹の肩に手を置いた。

 「美樹は霧子さんと一緒に行って。奈美さんのことも心配だから。こっちは私一人でも大丈夫。いえ、却って一人の方が身軽だわ。」

 麻里江の目に浮かぶ意志の強さを感じた美樹は、それ以上何も言えなかった。

 「きっと帰ってくるんだよ。」

 名残惜しそうに何度も振り向く美樹に、麻里江は見えなくなるまで笑顔を送った。そして、二人が闇に消えると厳しい顔つきに変わり、頭の包帯を取りながら古寺の奥に向かった。

 

 麻里江は暗がりの中、翔を探して駆けまわった。

 表では火災で空が赤くなっている。そのせいか、麻里江は敵と一人も出会わなかった。

 「奈美さんの陽動は上手くいっているようね。」

 しかし、霧子が言ったようにそれも長くは続かない。早く翔を探さないと、今度は奈美が、そして美樹や霧子が危うくなる。

 麻里江は庫裏(くり)と思われる建物を見つけ、そこに入ってみた。

 中は電灯が点いておらず、柱ごとにかけてある蝋燭の火だけが灯りであった。

 その薄暗い中、奥に進むと一番奥の和室に人の気配があった。

 柱から蝋燭を取り、その灯りで和室を照らすと、奥まったところに人が蹲っていた。

 蝋燭の灯りを向けると、それは縛られた翔であった。

 「翔!」

 麻里江は急いでそばに近寄ると、蝋燭を傍らに置き、翔の縄をほどいた。

 そのとき、麻里江の鼻腔を甘い香りがくすぐった。

 「大丈夫、翔。」

 「ありがとう、麻里江。油断したわ。」

 戒めから解放されると、翔はすぐに立ち上がった。

 「表の騒ぎは何なの?」

 「仲間が囮なって暴れているのよ。さあ、早くここから出ましょう。」

 麻里江は逃げ出すべく、出口へと急いだ。

 その後ろをついてくる翔は、麻里江の背をじっと見ながら腰に手をまわした。

 腰に差した小太刀を抜くと、その鋭い切っ先を麻里江の背中に向けた。

 「そこからじゃあ、間合いが遠くない?」

 予期せぬ麻里江の言葉に翔の手が固まった。

 その隙に麻里江は翔から離れると、翔に体を向けた。

 「麻里江、どうしたの?」

 翔は小太刀を後ろに隠しながら作り笑いを見せた。

 「翔、半信半疑だったけど今、はっきりしたわ。」

 麻里江は鋭い眼光で翔を睨みつけた。

 「どういう意味?麻里江。」

 「とぼけないで。あなたが幽斎の手先だということよ。」

 「手先?バカなことを言わないで。」

 翔は取ってつけたような笑いをあげた。

 「本拠地を教えると言って私たちをおびき出し、襲われたときには助けたように見せて、逃げる先を教えて、私たちを捕える手助けをした。」

 麻里江の申し立てに、翔は反論しなかった。

 二人の間にほんの数秒の沈黙が流れた。

 「麻里江、私は三人官女の一人よ。仲間を裏切るわけがないでしょう。」

 やっとの思いで口にした言葉に麻里江の目が悲しげに変わった。

 「翔。あなた一度死んだのね。」

 翔の顔が引きつった。

 「そして反魂の術で生き返った。」

 「…」

 「だから、幽斎の言いなりに動いた。」

 「…」

 「私たちだけじゃあない。景明様を殺したのもあなた。」

 「…」

 「否定しないのね。」

 麻里江に真っすぐ見つめられて、翔は顔を伏せた。

 「どうしてわかったの?」

 絞り出すように声を発する翔に、麻里江の苦渋の色は更に深くなった。

 「匂いよ。」

 「匂い?」

 「そう、翔はね、昔から化粧っ気のない()でね、香水なんて一度もつけたことがないのよ。」

 翔は思わず自分の腕を嗅いだ。

 「あなたからは香水の香りがした。きっと腐敗臭をごまかすためなんでしょうけど、それが仇になったわね。」

 麻里江は翔を見つめたまま身構えた。

 「わかったんじゃ、しょうがないわね。」

 顔を伏せた翔が、再び顔を麻里江に向けたとき、そこに見えたのは邪気に染まった鬼のような翔の顔であった。

 「死んでもらうわよ。」

 翔は後ろに隠していた小太刀を逆手に持って構えた。

 麻里江もポケットからカードを取り出し、顔の前で斜めに構えた。

 「私に勝てるかしら?」

 翔の不敵な笑みに麻里江は眉間に皺を寄せた。

 不意に翔が風のように麻里江に迫った。

 持った小太刀が空を切る。

 身を沈めて躱した麻里江は、そのまま前転をして翔から間合いを取り、起き上がりざまにカードを投げた。

 それを翔の小太刀が弾き返す。

 続けてカードが投げられる。

 翔の体が左右に揺れると、カードはその脇を掠めていった。

 床を滑るように移動する翔の小太刀が、麻里江に向かった。

 銀の線が麻里江の目の前を掠める。

 髪の毛が数本、宙に飛んだ。

 大きく飛び下がった麻里江は左右にカードを投げる。カードは大きく弧を描いて左右から翔に迫る。

 それを伏せて躱すと、身を低くしたまま床を滑り、下から切っ先が麻里江の首を目掛けて走った。

 それをすれすれで躱す麻里江の右手が空を切った。

 二人が左右に離れる。

 麻里江の頬から血が滲み、翔の右手にも赤い線が刻まれた。

 それを見た翔の口が軽く吊り上がった。

 「やるわね。これならどうかしら。」

 そう言うと翔は小太刀を背後に隠した。

 それを見て麻里江は両手にカードを握った。

 翔の足が滑るように床を進む。

 両手を背後に隠し、どちらから小太刀が走るか麻里江には見えない。

 麻里江は神経を集中して微動だにしない。

 翔の肩が左に揺れる。

 麻里江の右手からカードが床に落ちる。途端にカードの柱が右側に立った。

 翔の背中から現れた右手には小太刀がない。

 左側から銀の光が走る。 

 麻里江の左手からカードが落ち、カードの柱が立つ。

 間一髪、小太刀は柱にぶつかり、スピードが鈍る。

 その(かん)に麻里江は後ろに飛び下がると、床に向かってカードを投げた。カードは床スレスレを滑空し、翔の目の前で浮き上がった。

 カードが翔の喉を狙う。

 翔は体を少しそらしてそれを躱した。

 その隙に麻里江はカードを剣に変えた。

 「りゃあ── !」

 裂帛の気合とともに麻里江の剣が上段から振り下ろされる。

 それを翔は小太刀で受け止める。

 麻里江の連続攻撃が翔に襲い掛かる。

 しかし、翔はそれをことごとく受け流し、逆に反撃を加えた。

 金属のぶつかる音とともに両者は再度、左右に離れた。

 「腕をあげたわね。麻里江。」

 「…」

 返答しない麻里江の様子を見て、翔の頬に笑いが浮かんだ。

 「でも、大分息があがっているようね。」

 「まだまだ!」

 麻里江は弱みを見せまいと、自分に気合を入れた。

 逆に翔の周りから気迫が消えた。

 水を打ったような静けさが建物中に広がる。

 麻里江の中に警戒心と恐怖心が同時に広がった。

 (翔が決めに来る。)

 翔がゆっくりと小太刀を右脇に構えた。

 麻里江も剣を正眼に構えた。

 二人の間に緊張感が凝縮され、今にも爆発しそうだ。

 時が静けさとともに流れていく。

 先に動いたのは翔であった。

 「ツゥア── !」

 針のような鋭い気合とともに翔の体が床を滑り、小太刀が横に払われた。

 麻里江は少し後ろに下がりながら小太刀を躱し、剣を上段に振り上げて翔の額を狙った。

 鋭い切っ先が上から光となって振り下ろされる。

 翔の体が横にずれ、麻里江の切っ先の軌道から外れた。そのまま体を回転させながら右手に持った小太刀をすばやく左手に持ち替えた。

 麻里江の剣は勢いのまま床に突き刺さると思われた。

 「解呪」

 麻里江の言葉とともに剣がカードに戻り、床に落ちる。

 翔の小太刀が、左側からすさまじいスピードともに麻里江の首を狙って走った。

 「(つるぎ)の柱!」

 落ちたカードが剣となって柱のように麻里江の前に立った。

 翔の小太刀と剣の柱が麻里江の前でぶつかり、小太刀の軌道とスピードが変わった。

 「!」

 その僅かな隙に麻里江は床に身を伏せ、顔をあげるといつの間にか持っていたカードを差し上げ、それを剣に変えた。

 鋭く伸びた剣は翔の胸を刺し貫いた。

 「ぐ!」

 ほんの数秒の攻防で明暗分かれた二人の目が合った。

 「見事ね。麻里江。」

 笑顔を見せた翔の体が後ろに下がった。その拍子に麻里江の剣が抜ける。翔はそのまま床に倒れた。

 「翔!」

 麻里江は剣をかなぐり捨てて、翔に駆け寄った。

 抱き起こす翔の体が徐々に崩れていく。

 「翔、ごめん。」

 涙ぐむ麻里江に翔は微笑みかけた。

 「いいの。麻里江。これでやっと死ねる。」

 そう言い残して翔の体は崩れ落ち、灰になった。

 「翔…」

 灰を握ったまま麻里江はしばらくその場を動けなかった。

          6

 麻里江と別れた霧子と美樹は寺の裏手の雑木林に逃げ込んだ。

 「奈美、聞こえる。二人は無事救出したわ。」

 霧子が胸に装着したマイクに向かって話しかけた。すぐに耳に装着したイヤホンに答えが返ってくる。

 『ご苦労さん。そのまま逃げて。』

 「奈美も切り上げて逃げて。」

 『私はもう少しこいつらと付き合う。』

 「なにバカなことを言ってるの。さっさと逃げて。」

 マイクに向かって怒鳴る霧子を見て、美樹の中に嫌な予感が過った。

 「奈美、奈美、応答して。」

 奈美の応答が切れたことで、美樹の予感が確信に変わった。すると美樹の行動はすばやかった。

 美樹は頭の包帯を外すと、古寺の境内へ向かって駆け出した。

 「美樹、待ちなさい。」

 霧子もその後を追おうとした。

 その前に突然、飛んで来た物があった。

 地面に刺さったナイフのような爪を見て、霧子の中に嫌な予感が過った。

 「霧子…」

 目の前に牙堂が立っていた。

 「また、あなたなの。」

 予感が当たったことに霧子はあからさまに嫌な顔をした。

 「いいかげん、付きまとうのはやめたら。」

 「ああ、おまえさんをあの世に送ったらやめるさ。」

 邪悪な笑みが霧子の背中に悪寒を走らせた。

 「めんどうね。」

 そう言うが早いか、霧子が雑木林の奥に向かって駆け出した。

 「逃がすか。」

 牙堂もその後を追った。

 木々の間を縫うように駆ける霧子に向かって、牙堂は自身の爪を投げた。

 風切り音とともに爪が木に突き刺さる。

 しかし、霧子は構わず走り続けた。

 牙堂の爪が次々と(くう)を飛ぶ。

 だが、木が邪魔して霧子に当たらない。

 「くそ!」

 地団駄を踏む牙堂を見て、霧子が笑った。

 「この林の中じゃあご自慢の爪も当たらないわね。」

 そのまま逃げ去ってしまうかに見えた。しかし、牙堂は慌てていない。

 「そっちがその気ならこっちも方法を変えるまでよ。」

 そう言うと、牙堂がいきなり地面に手を突き刺した。

 「妖法 地走り(じばしり)」

 地面の中を何かが走り始めた。それは逃げる霧子の後を追って突き進む。

 「!」

 異様な殺気に霧子は振り返った。

 すると、目の前に二本の爪が地面から突き出し、さながら鮫の背ビレが海面を進むように地面の上を走りだした。

 「うそでしょ!?」

 霧子は木を盾に爪を避けようとした。しかし、爪はその木をなぎ倒して突き進んでくる。猛スピードで迫る爪が霧子の背後に追いついた。

 それを横っ飛びに避ける。

 爪は逃すまいとUターンしてくる。もう一本も霧子を切り裂かんと走ってきた。

 挟まれた霧子は瞬時に地面を蹴ると、上にある木の枝に掴まった。

 その足の下で二本の爪がぶつかり合う。

 「それで逃げたつもりか?」

 嘲笑を浮かべて立っている牙堂を横目に、霧子は隣の木に飛び移った。

 その木を目掛けて二本の爪が地面を滑ってくる。

 霧子の飛び乗った木を一本が根元から切り裂いた。

 その前に別の木に飛び移る。

 その木ももう一本が切り倒した。

 飛び移る間もなく霧子は木とともに地面に倒れた。

 地面に激突する前に霧子は飛び降り、地面を転がるとすぐに起き上がり、駆け出そうとした。そこへ牙堂の爪が飛んで来た。

 「!」

 思わず木の陰に隠れる。

 そこへ地走りの爪が左右から迫ってきた。

 霧子の体を切り裂こうとした瞬間、霧子の目が金色に輝いた。

 衝撃音とともに爪が二本とも霧子の目の前で止まった。

 見えない壁に阻まれて爪は霧子を切り裂けない。その()に腰に差した特殊警棒を取り出すとそれで爪を思いっきり叩いた。

 爪は真ん中からへし折れて、ただの爪に戻った。

 「があ── !」

 そこへ奇声とともに牙堂が躍りかかってきた。

 本能的に警棒を頭の上に持ってくる。

 “ガツン”という金属音とともに牙堂の五本の爪が頭上で止まった。

 「芸がないわね。」

 必死に堪えながら皮肉は忘れない。

 それに牙堂はサディスティックな笑いで返した。

 「ゆっくり切り刻んでやるぜ。」

 更に力が加わり、爪が顔面に近づく。

 「くっ」

 そのとき、霧子の身がいきなり沈んだ。牙堂の下に潜り込むと右足を牙堂の腹部に当て、おもいっきり蹴り上げた。

 「うお!」

 不意の巴投げだったが、牙堂は体を回転させて着地した。

 「同じ手にひっかかるか。」

 得意顔で振り向いた時、霧子のそばに倒れていた樹木が少し浮き上がり、牙堂に向かって飛んで来た。

 「なに!」

 それを木の陰に隠れるように躱す間に、霧子は雑木林から古寺の方に走っていた。

 「逃がすか!」

 牙堂もその後を追った。


 その頃、奈美は境内で死人たちを相手に奮闘していた。

 倒されても起き上がり、次々と襲い掛かる死人たちに奈美は苦戦をしていた。それを見ている幽斎は、残忍な笑みを浮かべていた。

 「ほらほら、がんばらんとやられてしまうぞ。」

 幽斎の嘲りに腹を立てながら、奈美は油断なく身構えた。

 前から襲い掛かる死人を前蹴りで倒したとき、後ろから別の死人が羽交い絞めしてきた。そして前からは鉈を握った死人が突っ込んでくる。

 奈美の銀の髪が風に吹かれたようになびき、光が瞬く。

 光は銀の針となって、鉈を持った額に当たった。

 その()に後ろの死人の首に手を掛けると、前に投げ飛ばした。

 鉈を持った死人と投げられた死人が折り重なるように倒れると、奈美は横に急いで駆け出した。しかし、その周りに死人がすぐに集まってくる。

 奈美の髪が再び瞬く。

 銀の針が夜の空間を走り、死人の首と胸に突き刺さった。

 片方は倒れ、もう片方はすこし体が揺れたが、すぐに奈美に襲い掛かった。

 それにカウンターぎみに掌底を顎に食らわせる。顎を砕かれて死人は吹き飛ぶが、すぐに起き上がる。

 「くそ!」

 キリがないと思った時、倒れている死人が目に入った。

 同じように針で攻撃した死人だ。

 一方は倒れて動かなくなり、もう一方は平気に動いてくる。

 奈美の中で閃くものがあった。

 前に死人が立ちはだかり、左右からも奈美を挟み撃ちにした。

 三人同時に襲い掛かった時、前から来る死人の顔面にストレートを喰らわし、左から来る者には後ろ蹴りを、右から来る者の首に手刀を喰らわして動きを停めたところに、腕を取って投げ飛ばした。

 三人の囲みから逃れると、振り向きざまに奈美の銀の針が飛んだ。

 それは寸分たがわず死人の心臓部分に突き刺さった。

 死人の動きが一瞬止まり、そのまま倒れた。

 「そういうこと。」

 確信を得た奈美は、襲い掛かってくる死人に向かって、また銀の針を撃った。

 胸に当たったとたん、死人はひっくり返り、動かなくなった。

 「あぶない!」

 聞き覚えのある声にハッとした奈美の後ろに、猟銃を構えた死人がいた。

 奈美の体が瞬間、硬直した時、風切り音とともに鏢が死人の腕に突き刺さった。

 狙いは奈美から逸れ、あらぬ方向へ引き金が引かれた。

 銃音を頭の上で聞きながら、奈美は針を死人の胸に向って撃つと、猟銃を握ったままその死人は仰向けに倒れた。

 「おねえさん。」

 声の方へ目を向けると、本堂の横に美樹が立っている。

 「美樹ちゃん。」

 その声に幽斎も目を向けた。

 「おのれ、いつの間に。」

 本堂の前に陣取っていた幽斎は、死人たちに号令を掛けて、美樹を襲わせた。

 自分の方へ向かってくる死人を前に、美樹は縄鏢を取り出し、胸の前で構えた。

 それを見た奈美が叫ぶ。

 「美樹ちゃん、そいつらの心臓を狙って。それが弱点よ。」

 「わかった!」

 大きく頷くと、美樹は縄鏢を迫ってくる死人に向かって投げた。

 持っているバットに縄鏢が絡まる。そのままバットを手からもぎ取ると、すかさず、鏢を投げた。

 鏢は寸分の狂いもなく心臓に命中し、死人は動きを止めて倒れた。

 次に襲ってくる死人も縄鏢で体を絡めると、鏢で止めを刺した。

 次々倒される死人たちを見て、幽斎に焦りの色が見えた。

 「くそ!」

 陣取った本堂から裏手に逃れようとしたとき、その前に奈美が立ちはだかった。

 「逃げる気?」

 美樹も駆け寄ってきた。

 「おまえ一人だよ。」

 すでに死人たちはすべて倒されていた。

 「あなたには聞きたいことが山ほどあるわ。」

 奈美がにじり寄った時、幽斎が不敵な笑みを浮かべた。

 「これで勝ったつもりか?」

 そう言って幽斎が印を結んだ。

 「妖法 傀儡返し。」

 途端に古寺周辺に妙な霧が立ち込め始めた。

 「これは?」

 奈美も美樹も見覚えがある霧であった。

 「ふふふ、儂がなぜ古寺に陣取ったか、その意味がわかるか。」

 そう言うが早いか、幽斎は驚くべき跳躍力で本堂の隣の社務所の屋根に飛び上がった。

 「あっ」

 一瞬の隙をつかれ、幽斎に逃げられた奈美は思わず唇を噛んだ。

 「おねえさん、気を付けて。なんかいやな気配がする。」

 美樹が奈美のそばに歩み寄った。

 「ほんとね。」

 そう答えると、奈美は美樹と背中合わせになり、周囲に鋭い視線を向けた。

 霧が更に濃くなり、その奥からいくつかの人影がぼんやりと浮かんできた。

 「ふふふ、ほら来たぞ。」

 屋根の上で幽斎がおどけて笑っている。

 真剣な眼差しで周囲を睨む二人の目に、やがてぼんやりした人影がはっきりとした姿になった。

 それは古びた鎧を着た骸骨であった。

 しかも、三体。

 「なにかの映画?」

 骸骨を睨みながら奈美が皮肉っぽく言った。美樹は無言のまま縄鏢を構えた。

 骸骨の口が大きく開いたかと思うと、いきなり駆け出した。手には錆びついた刀が握られている。

 それが大きく振り下ろされる。

 奈美はそれを寸前で躱し、刀は地面に突き刺さった。

 美樹にも別の骸骨が襲い掛かった。やはり、手には錆びついた刀が握られている。

 それを後ろに下がりながら躱すと、縄鏢を胸に投げつけた。しかし、あばら骨は砕くが、そのまま後ろに突き抜けてしまった。

 骸骨は意に介さず、さらに刀を振り上げる。

 「くそ!」

 縄鏢を一旦戻すと、そのまま刀を持った手に縄鏢を絡める。一気に引くと、刀ごと腕が千切れた。

 「気を付けて。錆びてるとはいえ、当たれば打ち身だけじゃあすまないわ。」

 美樹に向かって注意しながら、奈美は正面から振り下ろされる刀を受け止めると、それをおもいっきり引き、引きずられてきた骸骨に横蹴りを加えた。

 骸骨は腰骨から折れて、そのまま地面に転げ落ちた。

 美樹も縄鏢を振り回し、向かってくる骸骨の頭を叩き落とした。

 今度は槍を持った骸骨が突っ込んでくる。

 その槍を躱しながら上から握り、奈美の手刀が槍の柄を真っ二つに叩き折った。そして、その槍を持ち直すと折れた槍を持って向かってくる骸骨を袈裟懸けに殴り、翻す槍をあばら骨に引っ掛けるとそのまま投げ飛ばした。

 投げ飛ばされた骸骨は地面に叩きつけられバラバラになった。

 「おねえさん、こっち。」

 美樹が隙を見て、奈美の手を取って駆け出した。

 「逃がすな。追え!」

 屋根の上で叫ぶ幽斎に突き動かされて、地面に倒れてバラバラになった骸骨が元通りになって立ち上がった。

 「あいつら不死身!?」

 「とっくに死んでるんだけどね。」

 美樹の皮肉に奈美は思わず笑みを浮かべた。

 そんな束の間に骸骨どもは二人の行く手を阻もうと集まってきた。

 美樹は走りながら縄鏢を輪にすると、骸骨の方に投げた。そして、追ってくる骸骨に正面を向けると印を結び、呪文を唱えた。

 「地に司る五行の精霊に物申す。我が願いに答えて地より生まれしものを地に返したまえ。」

 とたんに縄鏢に緋色(あけいろ)の光が宿り、地面に亀裂が走った。

 亀裂は集まってきた骸骨の足元を走り、やがて地響きとともに地面が裂け始めた。

 骸骨たちはその裂け目に次々と落ちてゆく。中には落ちまいと必死に地面に取りすがっている者もあったが、その地面が崩れ、亀裂の中に落ちていった。

 「なんだと!?」

 幽斎は目の前で起きていることが信じられなかった。

 やがて、すべての骸骨が落ちると、裂け目は自然に閉じていき、境内は元に戻った。

 美樹は落ちている縄鏢を取り上げると、屋根の上の幽斎を睨みつけた。

「ご自慢の骸骨はもういないぜ。次は何を出す?」

 幽斎をからかうように言う美樹に、幽斎の眉間に皺が寄った。

 「ふざけた真似を、小娘が。」

 怒り心頭の幽斎は、再び胸の前で印を結び、呪文を唱えた。

 「(いにしえ)に眠りし強者(つわもの)よ。その眠りより目覚めて我が前にその威を示せ。」

 その姿に奈美はいやな予感がした。

 「美樹ちゃん、早くこの場から逃げよう。」

 美樹の手を取って駆け出そうとしたときだった。

 BMWの爆発で炎に包まれた本堂が大きく揺れた。

 瓦が弾け飛び、大音響とともに屋根が大きく裂けた。

 「なに!?」

 「妖法 傀儡獣」

 ニヤつく幽斎の目の先に炎を掻き分けて出現したものがあった。

 それは恐竜の姿をした骸骨であった。

          7

 その少し前に古寺の裏手に出た霧子は、奈美たちと合流すべく境内へと足を向けようとした。そのとき、人の気配に霧子は思わず身構えた。

 「わたしよ。霧子さん。」

 庫裏の方から出てきたのは、麻里江であった。

 「麻里江。びっくりさせないで。」

 そう言いながら霧子は麻里江の戦いの痕を見て、目を見張った。

 「どうしたの、それ?」

 「大丈夫です。」

 「大丈夫ですって。そういえば翔はどうしたの?」

 霧子は翔が一緒でないことに気付き、辺りを見回した。

 「翔は死にました。」

 ぽつりと言う麻里江に、霧子は再度、目を見張った。

 「どういうこと?」

 「あぶない!」

 麻里江がいきなり霧子の身体を押し倒した。その後に風切り音とともに鋭い物が飛んできて、壁に突き刺さった。

 「!」

 霧子の目が飛んで来た方向を見た。

 その先に牙堂が立っている。

 「逃げられると思っているのか?」

 すさまじい殺気で霧子を睨む牙堂に、麻里江は思わず、

 「だれ?」

 と霧子に聞いた。

 「変態ストーカーよ。」

 奈美に言ったのと同じ返答を麻里江にもした。

 それに対して麻里江の反応は、奈美と同じものであった。

 「陰陽師の女もいっしょか。丁度いい。まとめてかたづけてやる。」

 牙堂が右手を顔の前にかざした。

 五本の爪がナイフのように鋭く伸びている。

 その姿を見て、麻里江は思わずカードを構えた。

 「死ね!」

 右手が大きく振られると同時に、五本の爪がダーツのように飛んだ。

 「シャ!」

 麻里江からもカードが放たれる。

 空中で爪とカードが正面衝突した。

 弾けて地面に落ちる。

 「うぬっ」

 牙堂が再度、爪を飛ばそうと振りかぶった時、霧子の指がコインを弾いた。

 高速で飛ぶコインが牙堂の爪を次々とへし折った。

 「おのれ!」

 牙堂が胸の前で印を結んだ。

 「妖法 魔爪林(まそうりん)。」

 牙堂の右手が横の樹木に突き刺さった。途端に樹木が細かく振動する。それは地面を伝わって二人の元へ走った。

 「麻里江、逃げて!」

 叫ぶと同時に両者が左右に飛び跳ねた。その下から丸太のような爪が突き出してきた。

 「!」

 巨大な爪が二人を追いかけるように次々と突き出す。

 「毎度おなじことを!」

 霧子がコインを弾いた。

 それは霧子の念動力で加速して行き、牙堂に一直線に向かった。

 「む!」

 牙堂がなにか引っ張り上げるような仕草をすると、地面から巨大な爪が壁になってせり上がった。

 そこへ霧子のコインが突き刺さる。

 「今度こそバラバラにしてやる。」

 壁の向こうで牙堂の目が狂気に彩られていく。

 麻里江が駆けていくその後ろから、牙堂の爪が追いかけるように突き出してくる。

 「木の精霊に願い奉る。我が盟約に従いて我が前に盾となりて、我を守りたまえ。」

 麻里江がクローバーのカードを地面に投げた。

 地面に刺さったカードが地面に潜り込むと、そこから蔦が伸びてきた。

 急速に伸びる蔦が突き出してくる爪に次々と絡まっていった。

 その蔦を切り刻むように突き出してくる爪だが、やがて麻里江の周りを囲む蔦によってその進行が止められた。

 「なんだと!」

 「麻里江!」

 麻里江の呪法に驚くと同時に感心した霧子は、自分の周りに突き出してくる爪を念動力でへし折ると、すぐに麻里江の方へ駆けて行った。

 牙堂も麻里江の方に駆け出した。

 「蔦よ、伸びよ!」

 麻里江の元から蔦が牙堂に向けて急速に伸びていった。

 「こんなもの、切り裂いてやる。」

 自分に向かって伸びてくる蔦を、牙堂は次々と切り倒していった。しかし、切り倒されたそばから蔦は伸びてくる。そのうちの一本が牙堂の足に絡みついた。

 「しまった。」

 バランスを崩した牙堂は地面に倒れこみ、したたか顔を打ち付けた。そこへ蔦が次々と体に絡んできた。

 「くそ!」

 絡まる蔦を切り裂こうとしたが、すぐに身動きができなくなり、倒れたまま起きることできなくなった。

 「いまよ!」

 麻里江の声に霧子のコインが牙堂の額を狙って放たれようとした。

 そのとき、すさまじい音と振動が駆け抜けた。

 二人が振り返ったとき、目の前に信じられない光景が映った。

 寺の本堂から巨大な恐竜の骸骨が出現したのだ。

 「なに、あれ!?」

 「こんなところでグズグズしている暇はないようね。」

 麻里江が境内に向かって駆け出すと、霧子もその後を追った。

 牙堂だけが身動きとれないまま取り残された。

 

 炎の中から出現した恐竜の骸骨は、燃え盛る本堂を破壊しながら奈美と美樹の元へ近づいてきた。

 その頭に幽斎が飛び乗った。

 「フォフォフォ、踏みつぶしてやる。」

 巨大な足が地響きをたてて、二人に迫ってくる。

 「くそ!」

 美樹が鏢を投げるが、弾き返される。

 「美樹ちゃん、逃げるのよ。」

 美樹の手を引いて石段の方へ逃げようとしたが、その前に例の骸骨が、また三体、立ち塞がった。

 「逃がしはせんぞ。」

 恐竜の頭の上で幽斎がカラカラと笑っている。

 恐竜の足が二人の頭上から踏み潰そうと落ちてきた。

 「こっちよ。」

 間一髪、恐竜の足を避けた二人は、石段とは反対の方へ逃げた。

 「骸骨ども、行け!」

 骸骨の侍と恐竜が一緒になって奈美たちを追いかけた。

 一人の骸骨が奈美に追いつき、刀を振りかぶった。

 奈美の頭に錆び刀が振り下ろされる刹那、どこからともなくコインが飛来し、襲い掛かった骸骨の腕と頭を吹き飛ばした。 

 奈美、美樹、そして幽斎がコインの飛んで来た方を同時に見た。

 寺の裏から走ってきたのは、霧子と麻里江であった。

 「麻里江。」

 美樹はホッとしたような顔をして麻里江の方へ駆け寄った。

 奈美も霧子の元に駆け寄り、その無事に安心した。

 「一体、なんなの、あれ。」

 霧子が信じられないような目をして、恐竜の骸骨を見上げた。

 「とにかく逃げるのよ。」

 「牙堂め、しくじりおったな。」

 恐竜の頭の上で歯軋りする幽斎を尻目に、四人は裏山に通じる道へ駆けて行った。


 その頃、体に絡まった蔦と格闘していた牙堂に、話しかける声があった。

 「無様な姿ね。牙堂。」

 その声のする方を見たが、誰もいない。ただ、ヨルガオの花があるだけであった。

 「樹魔か?」

 不機嫌な顔で答えると、ヨルガオの花から声がした。

 「助けてあげようか?」

 からかうような声に、牙堂のこめかみに血管が浮かんだ。

 「こんなもの、お前の手を借りずとも抜け出せる。」

 そう言いながらもがくが、蔦は中々切れない。

 「つまらない意地なんか張らずに、素直に助けてもらったら。」

 そう言うとヨルガオから弦がスルスルと伸び始め、牙堂を絡めている蔦に触れると、その部分から蔦が枯れていった。

 牙堂の全身に絡んでいた蔦は、あっという間に枯れ、牙堂の戒めはすぐに解かれた。

 すぐに立ち上がった牙堂は、ヨルガオの花を見つめて、

 「礼はいわんぞ。」

 と、言って境内の方へ駆けて行った。

 「かわいいんだから。」

 その言葉を最後にヨルガオの花は地面に落ちた。


 奈美、美樹、霧子、麻里江の四人が古寺から逃げ出そうとするその後を、骸骨竜と骸骨侍が追いかけた。

 「追え、追え。」

 幽斎が恐竜の頭の上ではしゃぐように叫ぶ。

 それを聞いて頭にきたのか、霧子がいきなり振り返ると、コインを投げた。

 コインは幽斎の顔を掠め、それに驚いた幽斎は恐竜から落ちそうになった。

 「おのれ、こしゃくな。」

 幽斎が口笛を吹いた。

 それに呼応するように、どこからか蝙蝠が数十匹飛んで来た。

 「いけ!」

 幽斎の指図に従うように蝙蝠が四人に襲い掛かった。

 「わ、なに、こいつら。」

 美樹はなんとか追い返そうと、手をめちゃくちゃに振り回した。

 「みんな、伏せて。」

 奈美が叫ぶと、反射的に三人は地面に伏せた。

 奈美の銀の髪が風に吹かれたようになびくと同時に、奈美の髪から銀の光が次々と瞬いた。

 すると、飛来する蝙蝠が次々と落ちていく。

 見ると、そのすべてに銀の針が突き刺さっていた。

 「おねえさん、すごい。」

 「感心している場合じゃあないわよ。やつらが追いついた。」

 身構える麻里江と美樹の視線の方向に骸骨侍が立っており、その後ろには骸骨竜が威嚇するように聳え立っていた。

 「死ね!」

 骸骨竜の頭の上で幽斎がヒステリックに叫んだ。それに押されるように骸骨侍が手にした刀や槍で四人に襲い掛かってきた。

 それに迎える麻里江はカードを剣にし、霧子は特殊警棒を取り出し、美樹は縄鏢を構えた。

 奈美だけが素手で相手を睨みつけていた。

 骸骨が大きく口を開きながら麻里江に向かってきた。

 麻里江の剣が刀をがっしりと受け止めると、それを弾き返しながら袈裟懸けに斬りつけた。

 霧子に襲い掛かる骸骨の刀を、持っている警棒で受け止めると、霧子の右足が骸骨の腹部を蹴り上げた。

 骸骨は、一旦は地面に倒れるが、すぐに起き上がってきた。

 「フォフォフォ、死人と違って心臓がないから倒してもすぐ起き上がるぞ。」

 幽斎は骸骨竜の頭の上でからかうように笑い声をあげる。

 しかし、四人にはそれを聞いている余裕はなかった。

 三体の骸骨侍が一斉に襲い掛かってきたのだ。

 奈美が意を決した表情でその前に立った。

 「奈美?」

 「奈美さん?」

 「おねえさん?」

 「みんな、下がって。」

 前を向いたままみんなに指図すると、奈美は骸骨侍に向かって駆け出した。

 すぐに三体の骸骨が奈美を囲んだ。

 「奈美さん!」

 三人の心配を他所に、奈美の右手が向かってくる骸骨の頭にかかった。それと同時に奈美の全身が銀色に輝きだした。

 すさまじい金属音とともに骸骨の全身に細かいヒビが入った。

 次の瞬間、骸骨が崩れ落ち、砂状になった。

 次に向かってくる骸骨も同じ運命をたどった。

 あっという間に三体の骸骨は砂と化した。

 その現実に幽斎を含めて、その場にいる人間はあっけにとられた。

 それは、蔦から解放された牙堂も同様であった。

 「みんな、今のうちに逃げて。」

 奈美の声に我に返った三人は裏山に続く道へ駆け出した。幽斎と牙堂も奈美の声に我に返り、追跡を始めた。

 「まて、霧子!」

 狂気の入り混じった声で叫びながら牙堂の手から、三人に向かって爪が飛んだ。麻里江と霧子が振り向きざまにそれを叩き落とした。

 「くそ!」

 焦る牙堂がもう一度、爪を飛ばそうとしたとき、その横を骸骨竜が駆け抜けていった。

 「押しつぶしてやるわ。」

 骸骨竜の頭の上で幽斎がわめく。

 巨大な足が四人を押しつぶそうと迫る。

 地響きをたてる恐竜の足に、四人はバラバラになって逃げた。

 その中で骸骨竜は奈美を追った。

 「よくもわしの骸骨を粉々にしてくれたな。」

 幽斎は奈美を目の敵にしていた。

 「しつこいおじいちゃんね。」

 駆けるのをやめた奈美は、いきなり振り向くと骸骨竜に向かって駆け出した。

 「おねえさん!」

 美樹が驚いて立ち止まった。

 「美樹、早く逃げて。」

 麻里江が美樹の手を取ると、いっしょに逃げようとした。しかし、美樹はその手を振り払い、奈美の後を追った。

 「美樹!」

 麻里江も後に続いた。

 「もう、いいかげんにして。」

 ついてこない三人を見て、あきれ顔の霧子はしかたなく後に続いた。

 「死ににきたか!?」

 幽斎が奈美の向かってくる姿を見て、ほくそ笑んだ。

 骸骨竜の足が奈美の頭上から落ちてくる。奈美が恐竜の足の下敷きになったかに見えた。

 美樹と麻里江は息を飲んだ。

 「ふぁふぁふぁ、バカな娘じゃ。」

 幽斎が嘲笑を見せている姿に、美樹の怒りが爆発した。

 「ちくしょう!」

 手にした鏢を幽斎に向かって投げる。

 しかし、幽斎はそれを難なく躱した。

 「つぎはお前たちだ。」

 「霧子はおれに残しておけよ。幽斎。」

 骸骨竜の横に立った牙堂は、鋭い爪を見せながら叫んだ。

 「くそっ」

 骸骨竜に向かおうとした美樹を、麻里江が引き留めた。

 「まって、美樹。あれを見て。」

 冷静な目で見る麻里江の視線を美樹はたどった。

 後ろに立った霧子も同じように麻里江の視線の先を見た。

 「ん?」

 三人の様子に異変を感じた牙堂は、骸骨竜に顔を向けた。

 骸骨竜の足が徐々に上がり始めている。

 「なんだ。」

 骸骨竜の足は更に上がり、その下から奈美の姿が現れた。

 「おねえさん!」

 「奈美さん!」

 「奈美!」

 「!」

 三人は歓喜の声を上げ、牙堂はその光景が信じられず、声が出なかった。

 その異変は幽斎にも伝わった。

 骸骨竜が急に斜めになったからだ。

 「何事だ。」

 幽斎は今の状況が理解できず、骸骨竜の頭の上でおたおたしている。

 奈美は恐竜の足を頭の上に持ち上げた。

 「おのれ!」

 奈美の脅威の力に驚きながらも、牙堂は奈美を狙って爪を飛ばそうとした。そこへコインが高速で飛んで来た。

 「邪魔はさせないわよ。」

 霧子が牙堂を睨みつける。

 「霧子~」

 殺意と呪いの籠った目で睨み返す牙堂の横で、奈美が恐竜の足を放り投げた。

 バランスを崩した骸骨竜は無様にひっくり返った。

 その衝撃で幽斎は地面に投げ出された。

 ひっくり返った恐竜の足の裏に、奈美の拳が突き刺さった。

 奈美の身体が銀色に輝く。

 途端に骸骨竜の足にヒビが入り、次の瞬間、爆発するように吹き飛んだ。

 砂状と化した恐竜の足が辺りに舞い上がる。

 「いまだわ。天と地の間に生じたる風の精霊よ。盟約に従いてその威を示したまえ。」

 麻里江が胸の前で印を結ぶと、麻里江の体の周辺に空気が流れ始め、それは風となって辺りに吹き始めた。

 風は風を呼び、やがて旋風となって土埃を巻き上げた。

 「霧子さん、今のうちに逃げて。美樹も、奈美さんも。」

 巻き上がる土埃で辺りの視界が閉ざされた。

 奈美たちは麻里江の指示に従って、土埃の中を駆け出した。

 「待て!」

 牙堂が後を追おうとしたが、突風が行く手を(さえぎ)った。

 「まて、小娘ども。いたたた。」

 地面に倒れながら後を追おうとした幽斎は、腰の痛みに立ち上がることができなかった。

 しばらくして、風と土埃が止み、二人の前から四人の姿は消えていた。

          8

 古寺から辛うじて逃げ出した四人は、霧子を先頭に森の中を歩いていた。

 夜の森の中、右も左もわからず、三人は不安に包まれていた。霧子だけは黙々と前を歩いていく。

 「大丈夫なの?霧子さん。」

 美樹が不安顔で霧子に聞いた。しかし、霧子はそれに答えず、さっきから自分の携帯を見ていた。

 「霧子さん、どこへ行くんですか?」

 麻里江もたまりかねて霧子の肩に手を掛けた。

 「少しは黙って歩いたら。ここで迷うと大変なことになるのよ。」

 霧子が振り向きざまに、三人を睨みつけた。

 「霧子、みんな疲れているのよ。少し休みましょう。」

 奈美の言葉に、霧子は仕方がないという顔をして、闇の奥を指差した。

 「この向こうに炭焼き小屋があるわ。そこで休みましょう。」

 そう言うと霧子は前を歩き始めた。

 「さ、美樹ちゃん、麻里江さん、行きましょう。」

 奈美は霧子の後に続いて歩き始めた。

 「美樹ちゃん、私の手を握って。迷うといけないから。」

 差し出す奈美の手を美樹は素直に握った。

 「麻里江はあたしの手を握って。」

 麻里江には美樹が手を差し出し、麻里江も素直に美樹の手を握った。

 その様子を渋い笑顔で見る霧子は、携帯の灯りを三人に見せながら歩き続けた。

 闇夜の森の中を女性の一団が歩いていく。

 時折、風が梢を鳴らし、フクロウの声が遠くから聞こえた。

 その中を歩き続けること、十数分。

 霧子が急に立ち止まった。

 「小屋が見えたわ。」

 霧子が指差す方向を美樹と麻里江は見たが、暗闇で何も見えない。

 「あすこね。」

 奈美だけは小屋が見えるようだ。

 更に歩くと、暗闇の中に小屋らしきものがぼんやりと浮かんできた。

 「ちょっと待って。」

 霧子が腰に手を回して、ウェストポーチを下ろすと、その中から棒状の物を取り出した。

 パキッという音ともに棒状の物が光り始めた。

 「うわ、なにそれ?」

 美樹が興味津々の顔でその光るものを見た。

 「ケミカルライトよ。」

 そう言って霧子はそれを地面に突き刺した。そして、もう一本取り出すと、それを軽く折った。するとまた光り始めた。

 二本の灯りが辺りをぼんやりと照らし出す。

 屋根だけの簡単な小屋であった。

 「幸いゴザがあるようだから敷いたら。」

 霧子が奥にあったゴザを取り出した。

 炭を入れるものらしい。

 敷いたゴザに美樹と麻里江が座った。霧子は転がっていた木材に座り、奈美は地面に直に座った。

 「ああ、お腹空いた。」

 「昼から何も食べてないものね。」

 麻里江と美樹が愚痴るように独り言を言うと、霧子がウェストポーチからまた何かを出した。

 「とりあえず、それでも食べて。」

 二人に放り投げたのは、銀の包みであった。美樹がそれを開くと中にブロック状の食べ物が入っていた。

 「いただきます。」

 さっそく、それに噛り付いた。

 「意外といけるね。」

 美樹に釣られて麻里江も口にした。

 それを見て、霧子は軽く微笑むと奈美にも同じものを差し出した。

 「私はいいわ。お腹空いてないから。」

 霧子の差し出す非常食を断ると、ケミカルライトをじっと見つめた。その様子を見ながら霧子は非常食を口に入れた。

 「そういえば、翔はどうしたの?麻里江。」

 非常食を平らげた美樹が、思い出したように麻里江に尋ねた。

 その質問にハッとした麻里江は、すぐに答えられなかった。

 「翔は死んだようよ。」

 麻里江の代わりに霧子が答えた。

 「え!?どういうこと?」

 美樹が麻里江に詰め寄るように再度、尋ねた。

 「翔は反魂の術で蘇った死人だったわ。」

 やっとの思いで答えた麻里江の言葉に、美樹は目を見開いた。

 「死人って…。」

 麻里江の言う意味を察した美樹の目が、悲しみに潤んだ。それを見て、麻里江も拳を握りしめ、唇を噛みしめた。その様子を見守る奈美は、深いため息をついた。

 「麻里江さん、あなたが翔さんを看取ったの?」

 その言葉に麻里江は静かに頷いた。

 「ありがとうって、言って。」

 絞り出すように話す麻里江の姿を見て、三人が三人とも麻里江のつらい気持ちを察した。

 その後は、だれも口を開く者はいなかった。

 しばらく沈黙が流れた。

 「これからどうする?」

 不意に奈美が口を開いた。

 「出直しね。」

 霧子がポツっと答える。

 その答えに誰も異論を挟まなかった。

 「ここはどの辺ですか?」

 と、尋ねる麻里江に、

 「町の西側にある山の中。この先につり橋があるからそれを渡って下っていけば、町の反対側の国道に出るわ。」

 霧子がスラスラと答え、美樹や麻里江は目を丸くした。

 「どうしてわかるんだい?」

 「事前にこの辺の地理は調べてあるの。訓練を受けた者なら初歩的なことよ。」

 自慢げに語る霧子の様子に、三人はなぜかほのぼのとした感じを受けた。

 「夜明けにはここを発つから、いまのうちに休んで。」

 「は~い」

 そう答えて、美樹がゴザの上に横になった。

 「麻里江も休んだら。」

 「霧子さんは休まないんですか?」

 逆に尋ねられた霧子は、なにを思ったか突然、立ち上がった。

 「どこへいくの?」

 奈美に聞かれて、霧子は笑みを返した。

 「ちょっとそこら辺を一回りしてくるわ。先に休んでて。」

 そう言うと、霧子は小屋から出ていった。

 「さ、麻里江さんも休んで。疲れているんでしょう。」

 奈美がやさしく微笑みかけると、麻里江は真剣な眼差しで口を開いた。

 「奈美さん、もうそろそろ話してもらえませんか?」

 「ん?」

 「史郎という男とあなたの関係です。」

 以前からの疑問を麻里江はこの機会に奈美にぶつけてみた。

 「そうね。いつまでも隠しておくわけにいかないわね。」

 そう言いながら、奈美はすぐに話出そうとはせず、地面に刺さっているケミカルライトをしばらく眺め続けた。麻里江はそれを辛抱強く待った。

 「史郎とのことを話すためには、私のことを語らないといけないわね。」

 意を決した表情を見せた奈美が、麻里江に向かって口を開いた。

 「私ね、アーマノイドなの。」

 「アーマノイド?」

 聞きなれない言葉に、麻里江は首を傾げた。

 「戦うために作られた人間。」

 「作られた人間?」

 奈美の美しい姿を改めて見るにつけ、彼女が戦うために作られた人間であるということは、麻里江には信じられなかった。

 「本当なんですか?」

 「私の戦いぶりは見たでしょう。」

 それを言われると、麻里江は二の句が告げなかった。

 「私は、面 史郎が自分の野望の成就のために作られた戦闘人間なのよ。」

 そこへ丁度、霧子が帰ってきた。

 「何の話?」

 「私がアーマノイドだっていう話。」

 自分の隣に座った霧子に、奈美は他人事のように語った。

 「話したの?」

 そう聞く霧子に、奈美は黙って頷いた。

 「霧子さんは知ってたんですか?」

 「まあね。」

 ポケットから携帯を取り出した霧子は、なにかの操作を始めながらおもむろに語り始めた。

 「3年前、ある目撃証言から常人をはるかに超える能力を持った人間がいることがわかった。しかも、特有の武器を身体に融合させている超人だという。国防総省は大いに興味を持ったわけ。」

 「それでわざわざ日本まで来て、私と接触したというわけ?」

 奈美は皮肉っぽい笑いを浮かべて霧子を見た。霧子も皮肉とも自嘲とも取れる笑みを返した。

 「じゃあ、奈美さんは鬼龍一族とは関係ないのですか?」

 麻里江はあくまでも真剣だ。

 「ええ、鬼龍一族とは無関係よ。」

 「面 史郎の野望ってなんですか?」

 その問いに答えることを、奈美は躊躇した。

 「史郎の野望は日本滅亡よ。」

 やっとの思いで口にした奈美の答えに、麻里江も霧子も目を見張った。

 「日本滅亡!?」

 「Unbelievable(信じられない)!」

 予想通りの反応に奈美は苦笑いをした。

 「どういうことなんですか?」

 「史郎は、学校の教育機器を使って、生徒に催眠音波による人格操作を行い、自分の命令通りに動く人形のような人間を育ててきたの。その人間が史郎の号令で国内で内乱を起こす。そして、その内乱を鎮圧しようとする者も、史郎の命令で動く人形たち。人形たち同士の争いが日本中に広がり、すべての日本人が死に絶えるまで争いは終わらない。」

 そのあまりに非道な計画に、麻里江と霧子は唖然とした。

 「でも、それって無理があるんじゃあない。」

 霧子が顎に手をあてたまま、思案顔で疑問を口にした。

 「無理って?」

 「昔の鎖国時代ならいざ知らず、このグローバル化のご時世で内乱を起こせば、諸外国は黙っていないわ。」

 霧子の意見に二人はハッとした。

 「そうだわ。日本にだって外国人は多数いる。その自国民を保護する口実で、諸外国が関与してくる可能性は大きいわ。」

 麻里江も霧子の意見に同調した。奈美も霧子の言葉に深く考え込んだ。

 「特にアメリカは多くの基地や軍を駐留させている。内乱ともなれば、鎮圧目的で軍を動かし、日本を再占領なんてことにもなりかねない。」

 CIAの霧子の意見は現実味をおび、二人を不安にさせるのに十分であった。

 「史郎はそれをわかっているのかしら。史郎だって諸外国に日本がいいようにされるのは望まないはず。だとしたら何かの手を打つはずなんだけど。」

 奈美の言葉に、それぞれがそれぞれの思いを胸に口を閉ざした。

 「魔法陣…」

 麻里江が思い出したように口にした。

 「マホウジン?ああ、前に言っていた紋様のことね。」

 奈美も麻里江が言っていたことを思い出した。

 「でも、それがマリオネット計画とどういう関係があるのかしら。」

 「マリオネット計画?」

 奈美のはじめて口にする言葉(ワード)に、二人は同時に奈美を見た。

 「さっき言った史郎の計画の名前よ。」

 「なるほどね。マリオネットとはいい名前をつけたものね。」

 皮肉っぽく笑う霧子を見て、麻里江は眉間に皺を寄せた。

 「えにしの会にも史郎が関与していると思うから、魔法陣のこともマリオネット計画に関係していると思って間違いないわね。」

 「ともかく、一度東京に戻った方がいいようね。」

 「そうね。」

 奈美が同意すると、霧子が軽くあくびをした。

 「さきに休むわね。」

 そう言うと、霧子は地面に横になり、腕枕をして目をつぶった。

 「さ、麻里江さんも休んで。」

 その時、麻里江の目が横に動いた。それに気づいた奈美も横目で麻里江の視線の先を見た。

 暗がりで見づらいが、木の枝に何かがぶら下がっていた。

 「じゃあ、おやすみなさい。奈美さん。」

 「おやすみ。」

 何事もないように頭を並べて横になった。

 しばらくして、枝にぶら下がっていたものが、枝から離れ、飛び去って行った。

 「蝙蝠のようね。」

 奈美がささやくように言った。

 「ええ、連中の手先でしょうか?」

 麻里江もささやくように答えた。

 「多分、そうでしょうね。」

 霧子がこれもささやくように答えた。

 「ゆっくり休めないようね。」

 奈美が深いため息をついた。

 「ま、まだ連中は来てないようだし。」

 「なぜ、わかるの?」

 自信ありげに言う霧子に、奈美は率直に聞いた。

 「さっき、この周りにセンサーを設置した。来ていればすぐわかるわ。」

 そう言って、霧子は自分の携帯を見せた。

 「抜け目ないわね。」

 奈美の笑顔に、麻里江と霧子もつられて笑顔を見せた。その横では美樹が軽い寝息を立てている。

 「美樹には奈美さんのことを話さないほうがいいかもしれませんね。」

 麻里江は美樹の寝顔を見ながらやさしい表情になった。奈美も美樹の寝顔を見て微笑んだ。

 「私がおねえさんなんてね。」

 「え、なんですか?」

 奈美の何気ない言葉に麻里江は不思議な感覚を覚えた。

 「いえ、美樹ちゃんが私のことをおねえさんと呼ぶけど、ほんとはおねえさんじゃあないのよね。」

 「それは姉妹という意味じゃあなく…」

 「そうじゃないの。」

 奈美の目が哀しい色に変わった。

 「私はあなたたちより年下なのよ。」

 麻里江の目を見ながら奈美は不思議なことを言い出した。

 「年下って…」

 霧子も奈美が冗談を言っているのかと思い、身を起こした。

 「私ね、生まれてから五年ほどしか経ってないのよ。」

 奈美の言っている意味が分かりかねて、麻里江と霧子は改めて奈美の姿を見た。どう見ても二十代に見える。

 「五年しか経ってないって、冗談でしょう。」

 麻里江が信じられない顔をしたが、霧子は何か思い至ったらしく考え込むように沈黙した。

 「私ね、人造人間なの。」

 「え!?」

 奈美の突然の告白に二人は絶句した。

 「史郎は従来のアーマノイドでは物足りず、一から生命を作り出すことを考えたの。その生まれた生命にアーマノイドとして必要な能力やプログラムを施して完全無欠なアーマノイドを作ろうとしたのよ。そうして誕生したのがわたし。」

 奈美は他人事のように淡々と話したが、その驚きの事実は二人の予想を大きく超えていた。

 「まさかとは思ったけど…」

 「奈美さん…」

 それ以上はなにも言えなかった。

 「美樹ちゃんには言わないでね。こんな化け物と知ったらがっかりするだろうから。」

 「そんな、化け物だなんて。」

 「化け物と言ったら私もおなじよ。」

 霧子が自嘲気味に言うと、また横になった。

 「私もこの能力のおかげで小さい頃は、化け物と言われたわ。」

 「霧子さん…」

 二人に背中を向ける霧子に、奈美と麻里江は霧子の心情に思い至った。

 「初めてね。あなたが自分のことを話すの。」

 奈美が霧子の背中に向かって話しかけた。しかし、霧子は返答しない。

 「能力で言えば、私も普通の人じゃあないですよ。」

 麻里江が悲しげな笑みを浮かべて口にした。

 「もう休みましょう。」

 奈美の言葉に、三人は無言で同意して、横になった。

 その横で先に寝ていた美樹が、いつの間にか目を開け、その両目に涙をためていた。

 「おねえさん…」

          9

 時が流れた。

 炭焼き小屋には闇と沈黙が覆っている。

 ケミカルライトもいつのまにか光を失い、四人は横になったままピクリとも動かない。

 東の空は夜明けを知らせるように(あお)に変色していた。

 しかし、森の中はまだ闇が優勢だ。その闇の中を静かに動くものがあった。

 ゆっくりと、そして着実に炭焼き小屋に近づくそのものは、手に錆びた刀を持ち、息遣いもなく、人としての気配もない。

 しかも、一体ではない。

 六体もの人ならざる者、骸骨たちが炭焼き小屋を囲んだ。

 その後ろから木から木へ飛び移るように移動する影があった。

 小屋を見下ろす木に取りつくと、小屋で横になる四人をじっと見つめた。

 「フォフォフォ、よく寝ておるわ。」

 幽斎がそのミイラのような顔に満面の笑みを浮かべて、木の枝に座っている。その横の木に、いつのまにか牙堂が同じように木の枝の上に立っていた。

 「霧子、今度こそ引導を渡してやるぜ。」

 サディスティックな笑みを唇に浮かべ、牙堂は自分の爪を舐めた。

 「やれ!」

 幽斎が号令を掛けた。

 骸骨侍が四方から小屋を襲う。

 牙堂も木から飛び降り、その爪を横になっている霧子に突き立てた。

 霧子の胸に牙堂の五本の爪が深々と食い込む。

 他の三人にも骸骨侍の錆びた刀が突き立った。

 一瞬、牙堂の顔に歓喜の色が浮かんだが、それはすぐに消えた。

 「これは…?」

 目の前に上げた爪に突き刺さっていたのは、人型の紙であった。

 「式!」

 他の三人に目を向けると、骸骨侍の刀の先に刺さっているのは、すべて人型の紙であった。

 「やられた。」

 牙堂が幽斎の方を見た。

 「しまった、逃げられたか?」

 幽斎が森の彼方を見た。

 「吊り橋か!?」

 

 その頃、奈美たち四人は炭焼き小屋を後にして、吊り橋へと向かっていた。

 「もう気付いたかな?」

 美樹が後ろを振り返りながら言った。

 「とっくに気付いて、追っている頃でしょうね。」

 最後尾に立つ麻里江が美樹に向かって答えた。

 「とにかく早く吊り橋を渡りましょう。」

 先頭の霧子が足を速めた。

 三人は無言で頷き、後に続いた。

 やがて、森が切れ、舗装道路に出た。

 「もうすぐ吊り橋よ。」

 道路に降りると、さらに四人は足を速めた。

 「待って!」

 奈美が三人を止めた。

 鋭い目つきで周りを見渡す奈美を見て、霧子たちはなにが起きたか察した。自然、皆が皆、身構える。

 「散って!」

 奈美の叫びに四人が四方に駆け出したとき、そこへ矢が雨のように降り注いだ。

 「くそ!もう、追いついたのか!」

 美樹の目に森の中に潜む死人が弓矢を構えているのが映った。

 死人たちが次々と矢を放つ。

 飛んでくる矢を美樹は縄鏢で弾き返した。

 麻里江の手からカードが投げられると、カードは弧を描いて、死人の持つ弓の弦を次々と断ち切っていった。

 弦を切られた死人が弓を捨て、森から駆け下りてきた。

 迫る死人に銀の光が飛ぶ。

 その胸に正確に針が刺さり、死人はその場に倒れていった。

 霧子もコインを飛ばすと、襲い掛かる死人の胸を貫いた。

 バタバタと倒れる死人を見て、霧子はホッと一息ついた。

 「どうやら本命はまだ来てないようね。」

 「そうでもないわよ。」

 奈美が道路の向こうを睨んでいる。

 濃い霧が向こうから漂ってくる。その奥から妙なリズムの地響きが轟いてきた。

 「来る。」

 奈美がポツンと言うと、三人はそれぞれの獲物を構えた。

 霧が四人の元に流れてきた。その向こうから大きな影が地響きとともに現れた。

 例の骸骨の恐竜だ。

 奈美に砕かれた右足はないまま、体を傾けながらこちらに向かってくる。その頭の上には幽斎がいた。

 「見つけたぞ。小娘ども。覚悟せい。」

 幽斎が引きつったような笑いを見せた。

 「無様な恐竜に乗ったやつに言われたって、怖くはないわ。」

 麻里江が気丈に叫んだ。

 「強がるのも今のうちじゃ。」

 そう言うが早いか恐竜の両脇から骸骨侍が飛び出した。

 手にした刀が四人に襲い掛かる。

 森の中からも骸骨侍が躍り出た。

 計六体の骸骨だ。

 長柄の槍が麻里江に突きかかる。

 それを左右に躱す麻里江は、手にしたカードを投げた。カードは骸骨の手首から切り落とし、槍が地面に落ちた。それでもなお、骸骨は大きく口を開け、麻里江に噛みつこうと躍りかかった。

 麻里江の右掌が下から骸骨の顎を突き上げた。

 衝撃で下顎が上顎に食い込み、口が開かなくなったところへ、後ろ回し蹴りが頭を吹き飛ばした。

 頭を失くした骸骨はそのまま仰向けに倒れ、起き上がれずに手足をバタつかせていた。

 美樹に向かってきた骸骨に、美樹は縄鏢を投げ、その体に巻き付けると、それを思いっきり引っ張りまわした。

 「いけ── !」

 ハンマー投げのハンマーのように振り回された骸骨は、襲い掛かってきた別な骸骨と正面衝突し、バラバラになった。

 刀を大上段に構えた骸骨が奈美に向かって駆けてきた。振り下ろされる刀を銀に輝く右手が無造作に受け止めた。

 その瞬間、刀が砂のように崩れ、真ん中から折れた。

 それでもなお、向かってくる骸骨の頭を奈美の左手が掴んだ。

 左手が銀色に輝くとともに骸骨の頭が一瞬で崩れた。

 後ろから襲い掛かる骸骨に、奈美の右足がすばやく反応した。

 後ろ蹴りが骸骨のあばら骨を砕き、体を折れ曲げながら後ろに吹き飛んでいった。

 「みんな、吊り橋に向かって!」

 霧子の叫びに麻里江と美樹が反射的に駆け出した。

 「逃すか!」

 幽斎が恐竜の頭の上で叫ぶと、骸骨恐竜が三人を追い駆けた。

 「行かせないわよ。」

 その前に奈美が立ちはだかった。

 「おねえさん!」

 「美樹!」

 奈美の方へ向かおうとした美樹を、麻里江は腕を掴んで引き留めた。

 「麻里江さん、美樹ちゃん、先に逃げて!」

 奈美の言葉に軽く頷いた麻里江は、美樹の腕を引っ張り、霧子の後を追った。

 吊り橋が見えたとき、霧子は腰のウェストポーチを外し、それを欄干めがけて投げた。

 欄干に絡まるウェストポーチを見届けると、霧子は立ち止まり、後ろから走ってくる麻里江と美樹に急いでくるように手招きした。

 「奈美はどうしたの?」

 「あすこで幽斎と戦っているわ。」

 そう言って指差す方向に、骸骨恐竜の頭が見えた。

 「残ったの!?」

 非難めいた目で二人を見た後、霧子は骸骨恐竜に視線を移した。

 「くそ!」

 霧子が駆けだそうとした時、風切り音とともになにかが飛んで来た。

 腰から抜いた警棒がそれを叩き落とす。

 落ちていたのは、ナイフのような爪であった。

 「また!」

 苛立った口調で飛んで来た方向を見ると、黒い革ジャンを着た片目の男が殺意むき出しで立っていた。

 「どこへ行く?霧子。」

 「いいかげんにしてよね!」

 ヒステリックに叫ぶ霧子に、牙堂はニヤリと笑った。

 「ようやく引導を渡せるぜ。」

 「インドウ?日本語、解らな~い。」

 からかうように答える霧子だったが、牙堂は何の反応も示さない。ただ、殺気を霧子にぶつけるだけだった。

 牙堂の十本の爪がサーベルのように長く伸びた。

 それを軽々と降り回して来る。

 風切り音と風圧が霧子の髪をなびかせる。

 牙堂の爪は勢いを増し、霧子はぎりぎりで躱し続けなければならなかった。

 衣服があちこち切られていく。

 その下の白い肌に赤い線が刻まれ、血が体を染めていく。

 「どうした。反撃しないのか?」

 牙堂の残忍な笑いが粘るように霧子に届いた。

 霧子の奥歯がギリッと鳴る。

 そこへ牙堂の爪が猛スピードで襲い掛かった。

 霧子は手に持った警棒でそれを正面で受ける。

 火花が散り、警棒に深い傷が刻まれた。

 「そんなおもちゃ、もう通用しないぜ。」

 言葉とともに牙堂の爪が更なるスピードで迫った。

 霧子の警棒がそれを防ごうとする。

 すさまじい金属音と火花が飛び、警棒が真ん中から折れた。

 「死ね!」

 牙堂の爪が真上から振り下ろされた。

 そのとき一本の縄が牙堂の腕に絡まった。

 美樹の投げた縄鏢が牙堂の腕を捕え、霧子への攻撃を防いだ。

 「やらせるか!」

 美樹が歯を食いしばって、縄鏢を引く。

 そこへ麻里江のカードが飛んだ。

 すばやく反応した牙堂の爪が、飛んで来たカードを四等分した。

 「邪魔をするな!」

 美樹の縄鏢を切ると、五本の爪を二人に向かって飛ばした。

 麻里江は爪を避けながら、牙堂に向かって駆けた。しかし、美樹は地面に突き立つ爪に邪魔されて、前に進めない。

 「くそ!」

 唇を噛んだ時、後ろからすさまじい地響きが体を揺らした。急いで振り向くと、奈美が幽斎の乗る骸骨竜と戦っている。


 片足跳びの格好で、骸骨恐竜は奈美を踏み潰そうとしていたが、奈美はそれを悉く躱した。

 「おのれ、ちょこまかと!」

 幽斎が苛立った言葉を浴びせながら、恐竜の頭にしがみついていた。

 大きく飛び下がって恐竜の足を躱した奈美が、幽斎に向かって超振動ニードルを放った。しかし、下からでは幽斎が隠れて届かない。

 また、骸骨恐竜の足が奈美に迫った。

 横っ飛びにそれを躱した奈美は、道路脇に立つ樹木に駆け上り、そこから大きくジャンプした。

 幽斎の頭上に飛び上がった奈美の目と幽斎の目がぶつかった。

 「ぬ!」

 「かくご!」

 奈美の髪がなびいた。

 そのとき、恐竜の尻尾がすさまじいスピードで奈美を横から掃った。

 「きゃあ!」

 重い衝撃が奈美の全身を貫き、テニスボールのように吹き飛ばされた。

 「おねえさん!」

 その様子を目撃した美樹は、霧子や麻里江に目もくれず、奈美の元へ駆け出した。

 吹き飛ばされた奈美は、地面に激突し、二・三度バウンドした後、地面を転がって止まった。

 「うぅぅ…」

 激痛と呼吸困難で奈美は身動きがとれなかった。

 「死ね!小娘!」

 骸骨恐竜の足が奈美に迫った。

 その足に縄鏢が飛んで来た。

 足首の部分にそれが絡まる。

 縄鏢がピンと張り、それで恐竜の足の動きが止まった。

 「なんじゃあ」

 幽斎が不思議がって縄鏢の先を目で追うと、その先が電信柱に括り付けられていた。

 「くそ、やりおったな。」

 悔しがる幽斎を尻目に、美樹がその脇をすり抜け、奈美の元に駆け寄った。

 「大丈夫!?おねえさん」

 「美樹ちゃん…?」

 抱き起こす美樹の腕の中で、奈美はうっすらと目を開けた。

 「なにをグズグズしておる。あやつらを踏み潰せ!」

 恐竜の頭の上で幽斎が喚くと、恐竜が絡まった縄を引き千切ろうと足に力を入れた。

 縄鏢が更にピンと張り、悲鳴を上げる。

 やがて、力に抗しきれず、縄鏢が千切れた。しかし、抵抗がなくなった途端、恐竜はバランスを崩し、頭から地面に突っ込んだ。

 幽斎はその直前、恐竜の頭からジャンプし、美樹は奈美に抱えられて、その場から逃げた。

 骸骨竜の鼻面が地面をえぐり、土埃が舞い上がる。

 「なにをしておる!さっさと起きろ!」

 恐竜から飛び降りた幽斎は、電柱の陰に隠れながら叫んだ。それに呼応するように、骸骨恐竜が地面から頭をもたげ、大きく口を開けた。

 「よしよし、あやつらを噛み殺せ!」

 喜々として叫ぶ幽斎に動かされて、無秩序に並ぶ牙が奈美と美樹を噛み砕こうと迫った。

 「逃げて、美樹ちゃん!」

 奈美の叫びを合図に、奈美と美樹は左右に逃げた。そこへ骸骨恐竜の口が地面に食い込み、アスファルトを噛み砕いた。

 アスファルトを口に咥えたまま起き上がった恐竜は、奈美と美樹を交互に見て、どちらを襲おうか、選ぶ素振りを見せた。

 そこへ、美樹の鏢が恐竜の足元に向かって投げられた。

 足元を囲むように突き刺さる鏢を確認すると、美樹は胸の前で印を結んだ。

 それを見て、恐竜の頭が美樹に向いた。

 「そうはさせない!」

 奈美の髪が(なび)くと同時に、超振動ニードルが骸骨恐竜に向かって飛んだ。

 左側面に銀の針が突き刺さる。

 それに刺激されて、恐竜の頭が奈美に向いた。

 再び、奈美を噛み砕こうと大きく口が開く。

 「大地に宿る地の精霊よ。我が盟約に従いて、大いなる御業(みわざ)を示したまえ。」

 美樹の呪文とともに、恐竜の足元の鏢が緋色に輝いた。

 途端に、地面が大きく揺れ、アスファルトに亀裂が走った。

 地面が陥没し、骸骨恐竜の足が地面の中に沈んだ。

 足を取られた格好の骸骨恐竜は体を大きく傾け、路面に横倒しになった。

 「いまだ!」

 その機に奈美が恐竜に向かって駆け出した。

 握った右手が銀色に輝く。

 恐竜も横倒しのまま尻尾を振り上げ、奈美に向かって猛烈な勢いで振り下ろした。しかし、奈美のスピードはその尻尾の攻撃を掻い潜り、そのスピードのまま、恐竜の頭に向かって右拳(みぎこぶし)を突き出した。

 恐竜の顎の付け根に拳が深く突き刺さる。

 同時にすさまじい金属音が響いた。

 突き刺さった拳から骸骨恐竜の頭、体、足と猛烈な勢いで亀裂が入っていった。

 再度、奈美に攻撃を仕掛けようと、骸骨恐竜が体を起こそうとした瞬間、その体は粉々に砕けていった。

 崩れる体から逃げるように、奈美は横っ飛びにジャンプした。

 崩壊は続き、骸骨恐竜は砂の山と化した。

 「やったね。おねえさん。」

 美樹がはしゃぎながら奈美に駆け寄った。

 「おのれ、よくもわしの恐竜を!」

 その様子を見ていた幽斎は、地団駄を踏んで悔しがった。

 「おまえの骸骨どもはみんな退治したぜ。もうお前を守る者はいない。」

 美樹が幽斎を睨んで、挑発するように叫んだ。それに刺激されたように幽斎は電柱の陰から前に進み、奈美と美樹を交互に睨みつけた。

 「儂を甘く見るな。」

 幽斎の体から陽炎のように妖気が立ち上った。

 その姿を見て、二人の間に緊張が走った。

 「挑発しすぎたかな?」

 「みたいね。」

 幽斎の動きを見張るように、二人は視線を幽斎に集めた。

          10

 幽斎が黒い法衣の袖の中に腕をしまい込むと、そのままの姿で二人にゆっくりと近づいた。

 あまりに無造作な動きに、却って二人は警戒心を強めた。

 突然、幽斎の右袖の中から黒く長いものが飛び出し、美樹の首を狙って空を走った。

 美樹は不意を突かれ、危うく首を切られる寸前、身体を後ろにずらしてそれを躱した。

 「美樹ちゃん!」

 奈美の目に、美樹の首から赤い血が滲み出しているのが映った。

 思わず、首を押さえる。

 「フォフォフォ、よく躱したな。小娘。」

 いつの間にか、幽斎は前と同じ格好に戻っている。

 「次は躱せるかな?」

 幽斎が音もなく、地面を走ってくる。

 美樹が鏢を取り出し、それを幽斎めがけて投げた。

 それを難なく躱すと、今度は左袖の中から黒く長いものが飛び出してきた。

 「あぶない!」

 美樹の前に奈美が飛び出し、空を切るその長いものを両手で下から突き上げた。

 弾かれて宙に浮いたものは、異常に長い人間の腕であり、その手には小さな鎌が握られていた。

 「これは!?」

 信じられない光景に唖然としたところに、その腕が上から急速に落ちてきた。銀色に光る鎌が奈美の肩口を切り裂く。

 「うっ」

 「おねえさん!」

 肩口を押さえる指の間から血が滲んだ。

 鎌を握った腕は幽斎の袖の中にすぐに引っ込んでいった。

 「フォフォフォ、ゆっくり料理してやる。」

 残忍な笑いが幽斎の目に浮かんだ。

 また、右袖から黒い鞭のように腕が飛び出し、二人を横から薙ぎ払おうとした。

 「伏せて!」

 奈美の叫びのまま、美樹と奈美は地面に伏せた。その上を黒い鎌が銀の光を伴って通り過ぎていく。そして、幽斎の袖の中に納まっていった。

 二人の顔に脅威が張り付いた。

 「やるの。」

 三度の攻撃を躱すのを見て、嘲るように幽斎が感心する。

 「くそ!」

 「焦ってはダメ。」

 奈美が熱くなる美樹を押さえるように、肩に手を置いた。

 「いい、私が囮になって走る。あいつが私を攻撃したら、その隙に反対側から鏢を投げて。」

 小声でささやく奈美に、美樹は無言で頷いた。

 「何を話しているか知らんが、無駄なことじゃ。」

 再び、袖に両手を隠したまま、幽斎がゆっくりと近づいてきた。

 それに反応して、奈美が左側に走った。

 それを目で追う幽斎の左袖から鎌を握った腕がすばやく伸びた。

 鞭のようにしなりながら鎌を握った腕が、奈美の首を狙った。

 奈美の身が沈み、その上を鎌が走り抜けていく。しかし、腕は宙で翻り、今度は奈美の足を狙ってきた。

 奈美の両足が地面を蹴る。

 鎌がその下を通り過ぎる。

 「いまよ!」

 奈美の叫びに、幽斎がその声の先に顔を向けた。

 美樹が反対側に移動し、鏢を右手に構えていた。

 「ヤッ!」

 気合一閃、美樹の手から鏢が放たれた。

 「ムッ」

 幽斎は右腕を伸ばそうとした。だが、伸びない。

 「なに!」

 奈美が幽斎の左腕を足で押さえていた。

 美樹の鏢が幽斎の肩口に突き刺さった。

 「ぐわっ」

 「もう一丁!」

 美樹が次の鏢を投げた。

 左腕を抑えられたまま、幽斎は身をよじった。

 鏢が幽斎の法衣の袖を引き裂く。

 その下に見えたのは身体に納まるように縮んだ右腕だった。

 「なんだ、ありゃ。」

 「思った通り、片方の腕が伸びると、もう片方は縮む仕組みだったようね。」

 「気持ち悪い。」

 美樹が吐き捨てるように言った。

 その言葉に幽斎のこめかみに血管が浮かび上がった。

 「ふざけおって!」

 怒声とともに左腕を無理やり引き抜くと、美樹に向かって駆け出した。

 今度は普通の両手の長さだ。ただ、両手に鎌が握られている。

 美樹が鏢を続けて投げる。

 それを幽斎は軽々と叩き落とすと、左右から美樹に切りつけた。

 寸前で横に逃げる美樹。それを追う幽斎。

 奈美がその後ろから追った。

 幽斎の左腕が伸び、美樹の足を払った。

 バランスを崩した美樹は、地面に片手、片膝をついた。

 そこへ幽斎の鎌が頭上から降ってきた。

 「死ね!」

 「くっ」

 思わず鏢で鎌を受け止めようとする。

 そこへ銀の光が飛んで来た。

 「ぐわ!」

 幽斎の悲鳴とともに右手が宙で止まる。

 右手の甲に銀の針が深々と突き刺さっていた。

 「やらせるか。」

 奈美の手刀が幽斎の頭を狙った。

 幽斎の身体が急速に回転する。その勢いで奈美の手刀を弾くと同時に、幽斎の鎌が奈美の胴を裂いた。

 「うっ」

 思わず傷口を手で押さえる。

 奈美の攻撃の手が止まったのを見計らって、幽斎が止めを刺そうと大きく振りかぶった。その手の先には、死の光を放つ鎌が握られている。

 「!」

 相打ち覚悟で奈美が身構えた。

 まさに鎌が振り下ろされようとしたとき、後ろから縄鏢が飛んできて、幽斎の両腕に絡まった。

 「いまだ!」

 奈美の銀の髪が(なび)き、超振動ニードルが幽斎の胸に向かって放たれた。

 銀の(ニードル)は見事に心臓の部分に突き刺さり、幽斎は思わず数歩後ずさった。

 幽斎の身体は大きく揺れ、いまにも倒れそうに見えた。

 美樹と奈美は倒したと思った。

 そこに隙ができた。

 幽斎の目がギラリと光ると、突然おおきく口を開け、そこから土気色の(ガス)を吐いた。

 「う、これは。」

 奈美が口を塞いだが、ガスは奈美の全身を覆った。

 「おねえさん!」

 思わず叫ぶに美樹の声に、幽斎が反応し、その首が百八十度回転した。

 身体は背中向きで、頭だけ美樹の方を向いている奇妙な姿に、美樹がたじろいだとき、幽斎の口から奈美に吹きかけたものと同じガスが吐き出された。

 「うわ、これは…」

 美樹も同様にガスに包まれ、反射的に口と鼻を抑えた。

 「儂の瘴気(しょうき)は、毒ガスより強力じゃぞ。」

 残忍な笑いを浮かべながら、幽斎は更に瘴気を吐き出した。

 周り一面が土気色のガスに覆われ、草花が次々と枯れていった。

 「く、苦しい…」

 全身の力が急速に萎え、美樹は立っているのも苦しくなった。

 「美樹ちゃん!」

 瞬間的に息を止めた奈美であったが、肩と胴の傷口からの出血で意識が朦朧となっていた。足元がふらつき、思わず片膝をついた。

 美樹も地面に突っ伏した。

 「苦しいじゃろ。」

 幽斎は全身で残忍な喜びを表しながら、手に巻き付いた縄鏢をはずし、片膝をついている奈美に近づいた。

 「フォフォフォ、息を止めて耐えているようじゃが、それもこれで(しま)いじゃ。」

 手にした鎌を頭上に振り上げた。

 自分の勝利に酔いしれている幽斎の隙を見て、奈美はそっと髪の毛を一本抜いた。そして、超振動を与えて一本の針と化した。

 「死ね!」

 二度目の死の宣告とともに、鎌が振り下ろされた。

 それを見定めて、奈美の左手が幽斎の鎌を持つ手を受け止めると同時に、右手の針が幽斎の額を狙った。

 「!」

 予期せぬ反撃に、幽斎の身体が硬直した。

 そのとき、奈美の右手に蔦が突然絡みつき、その動きを封じた。

 続いて、左手、そして首にも蔦が巻き付いた。

 「これは!?」

 訳も分からぬまま奈美の身体が後ろに引っ張られた。

 抵抗しようとしたが、その強力な力に抗しきれず、奈美は地面に引き倒され、そのまま引きずられていった。

 「くそ!離れろ!」

 奈美がなんとか蔦を引きはがそうとしたが、思うようにいかず、奈美は引きずられるまま森の中に消えていった。

 しばらくの間、幽斎は奈美の消えた森の方を見ていたが、やがて口を三日月に折り曲げながら籠った笑いをあげた。

 「樹魔のやつ…」

 奈美の拉致した相手に思い当たった幽斎は、すぐに奈美のことを頭から離し、後ろを振り返った。

 その向こうには瘴気で倒れた美樹の姿があった。

 「お…ねえさ…ん…」

 美樹は奈美が消えた方向に手を伸ばしたが、空を掴んだまま力尽きたようにその手は地面に落ちた。

 「やっと、静かになったか。手間取らせおって。」

 幽斎の皺だらけの顔に嘲笑が浮かんだ。

 その足がゆっくりと美樹に近づいていく。

 地面に突っ伏した美樹は、ピクリとも動かない。

 「死んだか?」

 倒れている美樹の前に立ち、幽斎は様子を見るように顔を近づけた。

 「まだ、息はあるようじゃな。」

 美樹の微かな息遣いを感じた幽斎は、手にした鎌を持ち直した。

 「いま、楽にしてしんぜよう。ククク…」

 例のこもった笑いを口にしながら、幽斎は鎌を振りかぶった。

 そのとき、美樹の目が開いた。

 「いけ!ユキ!」

 そう叫ぶと、腕を幽斎の顔へ向けた。

 美樹の掛け声とともに、背中の管から管狐のユキが飛び出し、美樹の腕を伝って幽斎の口へと押し入った。

 「ぐ!」

 突然のことに、幽斎は避けることもできず、手にした鎌を放り投げると、口に飛び込んだユキをあわてて引っ張り出そうとした。しかし、ユキはその身をくねらせ、幽斎の口から喉、食道へとその身を滑り込ませた。

 「ぐぇ、ゲッ、ガッ!」

 何とか吐き出そうとする幽斎だが、ユキはどんどん幽斎の体内に侵入していった。

 「ぐぇ、ぐぇ」

 幽斎の口からどす黒い血が溢れ出た。

 ユキが幽斎の臓器を食い破っているのだ。

 「ゲッ、ゲッ!」

 幽斎の顔が恐ろしいほどの苦悶の表情となり、両手で胸をかきむしった。

 激痛が全身を走り、立っていることもできず、地面に倒れ込むと、その場でのたうちまわった。

 やがて、その腹が膨れ上がり、次の瞬間、どす黒い血と肉片をまき散らしながらその腹が弾け飛んだ。

 「ぐぇ─── ‼」

 絶叫があたりに木霊し、幽斎はしばらく痙攣を起こしていたが、それもすぐに静かになった。

 動かなくなった幽斎の腹から、血まみれのユキがゆっくりと出てきた。

 のろのろと歩きながら、倒れた美樹の元へ近づいていく。

 美樹も(かす)む目をあげながら、ユキに向って手を伸ばした。

 「ユキ、がんばったね。」

 笑顔を向けながら、美樹は血まみれのユキの頭をなでてあげた。

 やがて、その手が地面に落ち、美樹は動かなくなった。

 動かぬ美樹の手をなめながら、ユキが一鳴きした。それを最後に美樹の傍らに倒れたユキも、そのまま動かなくなった。




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