スコープの向こう側
テーマ:暗闇の中で
ジャンル:ヒューマンドラマ
闇に溶け込みスコープを覗く。
ターゲットを捉えたら引き金を引く。
私にとっては簡単なことで、人を殺めることに躊躇いもない。
殺し屋を仕事として初めたのは二十の頃。
一年もしないうちに私の名は裏の世界で知れ渡り、付いた通り名が氷結。
そう呼ばれるのも当然だ。
二十の私の初ターゲットは実の両親だったが、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
その後も誰とも組まずに依頼をこなし、その成功率は百発百中。
そんな私を誰かが氷結だと言い付いた名。
依頼を引き受けたら仕留める、それがこの仕事であり、感情なんて捨てなければ続けられない。
「依頼は達成した」
「相変わらず早いな。んじゃ、これが報酬の金な」
この男は仕事を提供することを仕事にしている仲介屋。
私のような一匹狼はこういう男から依頼を受ける。
依頼人は殺し屋を指定もできるが、引き受ける側は依頼人の情報どころか顔も教えられない。
仲介屋のみが知るからこそ、依頼人も殺し屋も安心して仕事ができるわけだ。
基本的には依頼人が殺し屋を指定することは少ないが、私のように名の知れた者には時々ご指名が入る。
引き受けるかは殺し屋次第だが、私は依頼を断らない。
唯一断るとすれば、他の殺し屋と組む依頼くらいだ。
「そういえば氷結にご指名があるが、どうする?」
「決まってるだろ」
ひらひらとチラつかせてきた紙を奪い取ると、私は次の依頼に向かう。
紙に書かれていたのは資産家の男の名と顔写真。
そして、指名する殺し屋の名。
「は?」
私は紙に書かれていた文字につい声が漏れる。
何故ならこの依頼は、私ともう一人に来ているから。
つまり、二人でこの依頼を成功させろということ。
仲介屋はそんなこと一言も言っていなかった。
話せば断ることがわかってるからわざと言わなかったんだろう。
今すぐ断りたいところだが、引き受けたからには仕方がない。
組む相手の電話番号が書いてあるが、私は無視して早速情報屋に行きターゲットの情報を得ると、狙撃が可能な場所を見つけスコープを覗く。
ターゲットを捉えて引き金を引こうとしたその時、背後に気配を感じスコープから目を離し振り返る。
「すみません、邪魔をしてしまって。貴方が氷結さんですか?」
眼鏡をかけた、見るからに弱々しい男がそこにいた。
まさか私が背後に近付かれるまで気付かないなんて。
取り敢えず見られたからには始末するべきかと腰に指していた銃に手を伸ばす。
「あ、撃たないでください。僕は、今回の依頼で貴方と組むことになった仮面です」
確かに組む相手の名は仮面と書いてあったが、見るからに一般人。
名で指名が来るようには見えない。
「悪いがこの依頼、私一人でやらせてもらう。仲介屋には二人で殺ったことにする」
「わかりました。と言いたいところですが、一緒に受けた依頼ですから二人で成功させましょう」
こんな足手まといがいたんじゃ仕事なんて出来やしない。
ライフルを仕舞い立ち去ろうとすると「明日は電話してくださいね」と言われたが無視して廃墟ビルを降りていく。
そしてその先で見たのは、数十人の男の死体。
銃を全員所持していることから、私の狙撃場所を知ったターゲットが差し向けたんだと予想出来る。
どうやらあの仮面という男、只者ではなさそうだ。
あんな男に助けられるなんて、この仕事を始めて以来の恥だ。
次の深夜、私はターゲットが移動したという情報を入手し、その場所を狙撃できるビルへと来ていた。
勿論あの仮面という男には知らせていない。
昨日は不覚をとってしまったが、元々こんな依頼私一人で十分。
スコープを覗き標的を捉えると、私は躊躇いなく引き金を引く。
これで依頼完了。
ライフルをケースに仕舞いビルを降りると、そこには仮面がいた。
「遅かったみたいだな」
「そうみたいですね」
ヘラヘラとした態度が私を苛つかせる。
こんなのと同レベルで依頼されたんだと思うと無性に腹が立つ。
私はその足で依頼達成を報告しに仲介屋へ行く。
これであのふざけた奴とも顔を合わせることはないと思うと、気分は清々しいものだ。
「依頼は達成した」
「ご苦労さん。まさかターゲットが替え玉を使うとはな」
仲介屋の言っている言葉の意味がわからず聞けば、依頼達成の報告は仮面から受けていたらしい。
それも、ターゲットが替え玉を使うことに気付いた私と仮面は二手に分かれ、私はターゲットが油断するように替え玉を狙い、その隙に仮面がターゲットを始末するという内容。
事実は、替え玉を使いあの場所にいなかったターゲットを仮面が始末し、私は替え玉を撃ち抜いたということ。
つまり私の完全なるミス。
だが仮面はその事を伏せ、二人で協力してターゲットを始末したと話したようだ。
勿論失敗した依頼の報酬など受け取る気はない。
全額仮面に渡すよう仲介屋に伝えて私は次の依頼を引き受ける。
今となっては何故あの男が私のミスを話さなかったのか知る術はなく、仲介屋に居場所を聞いたところで話すことはない。
同じ商売をする裏の者の情報を流すなんてことがあれば、仲介屋が始末されかねないからだ。
あれから数年後——。
私はミスをしない完璧な仕事をこなしている。
そして今日も深夜のビルでスコープを覗く。
月は雲に隠れ、私も闇に溶け込む。
「さようなら」
引き金を引く瞬間、初めてターゲットに別れを告げた。
スコープの向こうには、床に倒れる仮面の姿。
私達は殺し屋。
殺し屋が殺し屋を始末する依頼もある。
あの時のミスがあり今の完璧な私がある。
そして、この世界で生きることができている。
もしあの時のミスが知られていれば、私の殺し屋としての評判は下りこの世界にいられなかっただろう。
一つのミスが自分を殺す弾丸となるこの世界。
私もいつか誰かのスコープの向こう側に映る日が来るかもしれない。
そんなことを思いながら、私は暗闇の中へと姿を消した。
《完》




