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箱の行方

作者: 加賀守 崇緒

綺麗な箱を見つけた。

艶のある寄木細工で、模様が見事なものだ。

模様というのが、上がり藤紋の藤を火焔に置き換えたような、なんとも不思議で思わず見入ってしまう珍しいものだった。

骨董屋曰く「私が生まれる以前から店の蔵の奥に仕舞い込んであった」青空市への出品物に悩み、蔵の掃除も兼ねて引っ張り出したとのこと。

付け値で売るという破格の条件で、その箱は晴れて我が家の床の間に招かれる運びとなった。

しばらくは、暇なときにそれを眺めて過ごすことが多く、客人に見せると口を揃えて賞賛するものだから見出した側としても鼻が高い。益々、箱への愛着は強くなった。

ただ、接着されているのか、蓋が固くて開けることが出来ず、中身を観たことがない。

最初こそ諦めていたが、愛着が増してくると気にかかり夜も眠れず飯の味も感じとれなくなり、和室に入り浸り悩むようになった。

果たして”あれ”の中身はどんなものか。漆塗りの硯箱のように華やかな世界が表現されているのか。前の持ち主が収めた宝の類が入っているかもしれない。ひょっとしたら、何も入っておらず、期待外れに終わることもありえる。

妄想は留処なく膨らんでいき、遂に開ける決意を固めるに至った。

傷をつけず慎重に、汚さず丁寧に。様々な試みを続け飽きることなく半年も費やした。

何をやっても開かなかった。それなのに、投げ槍な思いで軽く力を込めると、嘘や夢かの如く容易さで蓋が外れた。

突然のことで一瞬呆気にとられた。しかしすぐに歓喜に打って変わり、待ち焦がれた箱の中身を観てみると――――



「店主、その箱が売り物だね」

商店の主が骨董市で目に留まった箱を指さし、露店の店主に問いかけた。

「売り物に違いありませんが……気の良さそうな旦那ですからお教えしますが、この箱の前の持ち主ってのが、それはもう酷い死にかたをしたみたいでして。和室の床の間に倒れ込んで血ヘドを吐いていたと聞きました。しかもその傍らにこの箱が転がっていたようで……酷い死にかたをした人の親御さんとは古い付き合いで、この箱を引き取ってほしいと懇願され、断るわけにもいかず、こうして目利きの少ない青空市に出しているんです。悪いことは言いませんから、これをお買い上げになるのはよしてください」

露店の店主は本心から丁寧に断ったつもりだった。それがかえって商店の主に気に入られてしまい、

「むしろ欲しくなってきたな。俺はこう見えて曰く付きの品物を集めるのが趣味でね。そんなものは滅多に御目にかかれない。その箱を購入しよう。いくらかね」

「ホントに買うんですか。いや、こちらとしてもありがたいのですが……これも御縁というものでしょうね。特別に付け値でお売りしましょう」

露店の店主も、早く箱を手放したくて仕方なかったのだ。彼にとってこの美しい箱は不気味に過ぎる。

商店の主は運が良かったと喜び、それならと礼の意味を込めて多目の値段で箱を買い取った。

「いやあ、良い買い物をした。こんなに凝った意匠のモノは、なかなか手に入らないだろうな。店主はこの箱を不気味に思っていたようだが……うん、確かにこの火焔紋様は、まるで”悪魔の印章”のようにも見えるな」

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