表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

6 お隣さんと席替えを

あの日の満月の夜から、一週間経った今も、一人悩んでいる。


あの日から、彼女に話しかけては罵倒され、昼休みご飯に誘っては罵倒され、頭が良いと聞いたので解けない問題を聞きに行くと罵倒され、また、罵倒、罵倒、罵倒、罵倒と、この一週間罵倒の日々を過ごした。


流石にもう友達になるのは諦めようかと思ったが、あの日の結衣さんの顔を思い出してしまい、諦めることは出来なかったのである。



昼休みのベルが鳴り、会話くらいまともに出来ないかと悩んでいると、


「やっと終わったなー、栄斗。ほんと数学の時間は疲れるよな」


と一真が声をかけてきた。


「ああ、そうだな」


机に突っ伏しながらそう返すと、


「なんだ、元気ないな。もう失恋か?」


とニヤケながらからかってくる。


「違うよ、友達になりたいだけだよ」


直ぐに茜音のことだと分かった。


「一真、パン買いに行こー、って栄斗どうしたの?」

「なんか元気無さそーだね」


茜音の件だと察した一輝は、


「まぁ、仕方ないよ。でも、あんまり病むことは無いと思うよ」


「どうして?」


「だって、話しかけられても逃げて行かないのは栄斗だけだろ?」


一輝の言う通り、僕以外の人が茜音に話しかけると、茜音は言葉も返さずに立ち去る。このせいで、茜音の周りにはもう誰も近づかなくなった。


「それはそうだけど…。『キモい、近づくな』とか言われてると流石に僕も悲しくなるよ…」


あー、結衣さんに僕の傷ついた心を癒してもらいたいものだ。


夢の中に入りかけたところで、



「おい、栄斗。桑鶴の奴、弁当忘れたっぽいぞ」


と一真が言う。


茜音の方に目をやると、本当にそのようだ。茜音は昼休みなのに席に座ってじっとしている。


その様子に少し見惚れてしまう。大人しくしてれば、結衣さんくらい可愛いげもあるのになぁ。


僕は学校の途中で買ったパンを一つ持って、茜音の席に近づく。


茜音に近づくにつれて、男子からは「おいおい、あいつまだ懲りてなかったのか」「お、また振られに行ったぞ」とか、女子からは「ほんと、男子って顔ばっかり」などという声や、笑い声が聞こえてくる。


まぁ、鬱陶しいが無視しておこう。



僕は茜音の席の前に立つ。


「ほれ、コレやるよ」


パンを無理矢理、茜音の手に押し付ける。


もちろん、茜音は「あなたのパンなんか別に要りません」と言ってくるが、


「別にお前に同情してあげた訳じゃないからな?俺が食べ切れないと思ったからあげるだけだ」


僕がそう言うと茜音は何も言ってこなかった。


茜音はああでも言わないと、受け取らないのは目に見えていたが、少しきつく言い過ぎたなと反省する。今度からはもう少しマシな言い方を考えておこう。



その日の夜、桑鶴家にてーーーーー


「お姉ちゃん!何なのアイツは?」


私は眉を曲げて言う。


「アイツって?栄斗くん?」


「そうよ。何であんなに私に近づいてくるの?もう、鬱陶しい」


一週間程前から栄斗は私に何かとかまってくるようになった。今まで我慢していたが、もう限界に達したのでお姉ちゃんに打ち明けた。


お姉ちゃんは「コラ」と言って、私の頭を軽くチョップする。


「女の子がそんな言葉使いしないの」


「分かってるよ、でも……」


「まだ、怖いの」とは言えない。これ以上お姉ちゃんに心配はかけられないから…。


「でも、茜音ちゃん。栄斗くんとは普通に話せてるんじゃない?中身はともかく…」


「…………」


確かに言われてみればそんな気がする。


他の人に声をかけられたら、足が震えて逃げてしまうけど、栄斗は何故か怖くはないと思う。その証拠に会話は出来ている。


「とにかく、今度栄斗くんに話しかけられたら、ちゃんと優しくしてあげること!」

「分かった?」


「うん…分かった」


何故だか昔から私はお姉ちゃんには弱い…。




ホームルームが始まると、今日は席替えをすると、担任が言った。


それに喜ぶもの、悲しむものどちらもいる。まぁ、僕も今、一真と席が近いのであまり席替えはしたくないが…。それに後ろの席だし……。


席替えはくじ引き形式で行われる。あらかじめ黒板に書かれた座席に番号が振られていて、名簿順にくじを引いていくという方法だ。


次々とくじは引かれ、とうとう僕の番が回ってきた。手にした番号を見るとそこには三十五番と書かれていた。やった!窓側の後ろの席だ。


こうして、席を移動し、喜びに浸っていると何だか妙な視線を感じる。気のせいだと思ったが、そうではなさそうだ。いや、みんなの視線の先が僕ではなく、僕の少し右である事に気付いた。


まさかと思い、恐る恐る右の席を見るとそこには見慣れた顔があった。


「マジかよ…」


まずい、思わず心の声がもれた。


すると、茜音はこちらを向いて僕を睨んでくる。



更に、僕は一真と一輝とも席が離れてしまったのである。



はぁー、今日から騒がしくなりそうだ…。

評価、感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ