7 嵐の前の静けさ
私は昨日、色々と思い耽りながら作った割り箸を鞄の中に入れ、学校へと部屋のドアを開けた。
翼君には妹が居るが、確か彼女は中学2年生でバレー部に所属しており、練習のため朝早くから学校に登校している。
しかし早くと言っても、そんなに早朝ではない。だいたい早くても5時半とか6時とかそこらへんから起き始める。ちなみにいつもの翼君は、登校に間に合うようにぎりぎりで起きるタイプの寝坊助で、最近は早く起きるように努力していたようだが、無駄になっていた。
だからいつも翼君の部屋からは、努力のため今日も空しく6時半にセットされた目覚まし時計がけたたましく予定であったが、いつもと違って今日はならなかった。というのも翼君に憑依したオッサンの習慣になっていた早寝早起きが、効果を示し既に起きていたからである。(すごい!!)
これには翼君の母親も、登校時間にたたき起こされて初めて布団から這い出る息子が、今日はすでに支度を済ませてリビングに現れたのだから、今日は雪でも降るのか言い、父親は息子の姿を見て一瞬身震いをして、今日は何かあるかと聞いたほどだった。
そしてそんな所に、いつもは兄よりはるかに早く起きる妹がやって来たのである。
当然妹もいつもより早く起きた兄を見て、
「こんなに早くなんで起きてんのよ…」と問うてきた。
私は「もう高校生だからね。寝坊するわけにもいかないでしょ。」と言ってみる。
それを聞いた母が「あら~!ご立派」と朝食を前に出しつつ冷やかしてくるので、
私は笑いながら「健康にも時間にもいいから、俺はこれから早起きしまっせ!」と言うと、
すかさず言うと妹が「キモッ!! どうせ三日坊主でしょ」と言ってきたのである。
(キモッ!!キターー!!きました!!)
私はすかさず「おっ!だったら、平日だけでも毎日たたき起こしてよ。」と冗句を飛ばすと
「馬鹿じゃないの?」と返ってくる。私は思わず肩をすくめる。両親は驚いたようである。
通常の兄と妹の間であれば喧嘩になるからである。
だがこの少しの会話から私は、妹と翼君の関係が兄妹の関係として、そこまで悪くないことに少し安堵した。…記憶の中では全く良くなかったからだ。
きっと、私が翼君と同年代であったなら今の会話は腹が立つのだろう。だが相手は思春期真っ盛りの少女であるし、そういう時期なのかなぁと思うと私は可愛く思えたのである。
それに自分の息子と同じくらいの年齢になる子に、ケンカを売られたところで腹が立つことは…普通はない。
…ちなみにもっともっと胸糞悪い罵倒は、元妻から受けて心の防弾も強力になっているのでものともしないのだ!!
しかし、そこで困ったのは両親である。
仕方がないので「…ちょっと」と妹に声を掛け、今の兄へのふるまいはどうだと言うことにしたのである。
当然、ややこしいことになるので妹が注意を受けている間、妹には一切を何もせず出された朝食を黙々と食べる。母と妹の喧騒がヒートアップしている。
私からすればすでに対岸の火事である。面白いことこの上ない。目の前にいる父は火の粉を被らないように新聞で顔を隠すようにして、彼女たちから見えないようにしている。コーヒーを机から取ろうしたときに見えた顔はにやけていた。
取りあえず「それはないんじゃないの?」という視線を送って見ると慌てたように
「そこまでにしなさい!!」といい、火事は鎮火した。
私と父は、燻っている彼女らを相手になどせずにさっさと学校、仕事と、それぞれ行くことにした。
途中で父親から「朝早くあんまり起きてほしくないぞ!」と苦笑いで言われる。
嘘コケ!と思うと同時に「いい習慣だから治すつもりはないね」と言った。
そんなわけで私は朝早く学校に来ていた。
そもそも学校が開いていないのではないか疑ったが、そんなこともなく生徒玄関は開いていた。何事もなく教室を開ける。誰もいない教室は静かだった。
暇なので、家から持って来た文庫本に目を通すことにした。当然自室から持って来たわけだが、翼君が持っている本の半分がライトノベルということで、そこらへんに最近興味をもっているオッサンとしては「とりあえず、読んでみっかな」と思ったわけである。
本の内容としては、当然私の好きな学園モノだ。
…当然のごとくなんの取柄もない高校生が、複数の女の子と交友関係をもつ。
そんな内容だから当然表紙に描かれている絵もかわいい萌え絵だ。最初ブックカバーを使っとこうかなと思ったのだが、あえて表紙を見えるようにした。
それには理由がある。
私はこれからの学生生活を楽しくやっていこうとは思うが、部活に入ったり、クラブ活動に勤しんだりしようとは思わない。危ないからだ。だが友人や交友関係は少なからずほしい。
部活やクラブなどをしていくと、それなりの人数と密接に関わる時間が多いため、友人関係がそれなりにできるのだが、帰宅部になるとあまりそういう時間が少ないため、友人関係や数は限られる。
私は後者の帰宅部に入る部類になるのだが、当然ながら帰宅部という関係上このままでは友達が少ないままになってしまうと考えたほうが良い。
そこでこの萌え絵ツールである。
つまり、萌え絵ツールを利用して「文化」を共有することで、友人を作ろうと思ったわけである。
この世界では、萌え文化はまだ広く市民権を得ているわけではないが、少なくても黎明期は過ぎている。深夜アニメやこういったラノベの種類も沢山あり、近年そういったドラマが一般にもヒットしたため、受け入れる層が増えている。
特に学生は見ている数が多いはずだ。なぜなら基本的に萌え文化のストーリーは主として、学生時代や若年を取り扱っていることが多いからである。
まずは言葉を交わさなくても、クラスで谷口が萌え文化にあからさまに傾倒しているということを認識させ、その上で話題性を作り友人関係を構築していくのだ。
ちなみに正矢君はオタクというほどではないが、少なくても萌え文化に親しんでいるという描写はエロゲ―の中でも各部分に存在するので、共通の趣味をもつという意味では友人になるきっかけは得られると思う。
そういう魂胆も含みつつ、このラノベ面白いなぁと思って読み続けていると、学生もしだいに登校し始めあっという間に朝のLHRの時間になり担任が教室に入ってきた。
この後1時限目に学級委員長などの各種係りが決められる。私はそこでとにかく思いっきり「ハイッ!!」と手を挙げ学級委員長に立候補するのだ!!
…主人公はラノベに集中していたため、気付かなかったが教室の外から“白い目線”があることに気付くべきだったろう。それよりも早く学校に着いたらどういったことに注意すべきか確認しておくべきだった。
さらに積極的に行った行為が、すべて自分が考えた通りに上手くいく結果につながるというように、考えたことは浅はかであることを、オッサンは厄介事に巻き込まれることで失敗であったと気づくことになる。
主人公は次話で自分の命を守るため、学級委員長に立候補します。
主人公に清き一票を投じるのは皆さんの”義務”ですので、ぜひ投票に行きましょう!!