5 入学式 二
私たちは担任の教師に誘導され、入学式が行われる体育館まで行くことになった。
体育館は私達と保護者、父兄でいっぱいである。初めはおしゃべりの大好きな人々の話声などでざわついていたが、入学式が始まると当たり前だが、急にシンと静まり返った。
昨日考えて書いたように「えーえー」と言いながら式辞を読み上げる校長から始まり、PTA会長とか学校評議会とかの人が祝辞を読み上げていく。一々頭を下げなければいけないのが面倒くさい。
長ったらしい式辞を聞いている最中にふと、校長の横に座っている教頭を見た。
「…あれか」
素晴らしき「先生ルート」で鎌将君に吹っ掛ける女はあれか…。
度が強そうな眼鏡を掛け、長年の上と下からくる圧力にさらされた結果、豊齢線が出来始めているが、お肌のケアは怠っていないようで、加齢という侵攻を食い止めているようだ。結構美人じゃないか。熟女特有の色香を感じるぞ…。
でも正直化粧濃いけどな!
翼君の中のおっさんは、黒い笑いが止まらない!
「けっけっけ!はやく、一刻も早くフィアンセに合わせやるからな!」
目標を認識し計画を考えている彼には、彼女が天使に見えたのであった。
それから、我らがクラスの担任の横にいる人は確かヤバい奴だよな。お、あそこの居る奴もそうだ。入学式は、在校生以外の学校関係者が集まるものなので、いやがおうにもこれから、色んな意味でお世話になる人々が見えた。
入学式の新入生読み上げはこの高校では最後に行われる。ホームルームでは担任が一人ひとりの机まで行き名前を確認していたが、大きく読み上げるのはここで初めてとなる。教室での担任の確認で、声が聞き取れる範囲では主人公の名前はなかった。だからそれなりに安心している。
各クラスの担任が名簿を見つつ生徒を一人一人読み上げる。
私たちのクラスには主人公はいないはずだ。私はどこのクラスで主人公の名前が読み上げられるのか今か今かと思って聞いていた。
…1組のクラスにはいない。次に私のクラスが読み上げられる。すこし緊張する。
で、5番目くらいに、
「鎌将 正矢」
と名前が呼ばれたのである。このエロゲー世界の主人公である。
私は、素で「えっ!?」と声を出してしまった。
近くでも「えっ!?」という声がした。
静かな中でのことだったので、一気に視線が私の方に集中する。私は誤魔化そうと何食わぬ顔で、式をみるふりをした。全ての視線はもう一方の驚きが隠せないでいる女の子?に任せよう。
だが心臓はバクバクし何食わぬ顔をするのがやっとで、心中では
「なんで鎌将正矢がこのクラスにいるんだぁ~!!?」と思いただただパニックである。突然地獄に突き落とされたような気分だ。いい感じだったのに!何も悪いことしてないのにー!!
彼の名前は教室で担任が名前と顔を一致させている時にはいなかったが…
…あれか。
入学式すれすれに入ってきた学生がいた確かにいた。まさかあれが鎌将であるとは思っていなかった。
私自身思いたくなかったのである。
…私自身、バカとかクソとか心の中で言ってはいるが、別に鎌将正矢という人物を特別嫌いというわけではない。エロゲーをやっている時には、別段とくに悪いところはなく、返って面白いやつだなと思ってプレイしていた。
だが、それは主人公視点でプレイをしているやつから見ればである。
問題はそこだ。あらゆる視点から物事は見ていかなくてはならない。
傍からみたら…客観的にみたらどうだろうか。
もっと端的に言おう。
つまりわたくし、谷口翼というようなモブキャラから全体をみたらどうだろうか。
この世界設定のエロゲーはグロいんだぞ!主人公視点からでも、恐怖イベントの回数は両手の指が足りないほどだ。しかも物語の後半に行くにつれ主人公が関わるイベントが増える。つまり、主人公の近くにいれば、そういったことが起こりやすくなるんだ!
大迷惑なんてもんじゃない。
きっと思う頃には、スケープゴートをされて幸せなあの世に行っていることだろう!!
…主人公とは少なくとも同じ教室には居たくなかった。授業をやっている時に、突然モブが血みどろになるなんてことは「当然」あるからだ。そんなリスキーな教室にいったい誰が居たがるだろうか?
少なくても私はそんなところで勉強をしたくない。
チツ!間接的に関わって安全な環境の中でルート操作してやろうと思ったのに!
この間にも粛々と入学式は行われていく…。
これは何とか上手い方法を考えるより、逆転の発想をするべきだろう。
少なくても主人公とはクラスメイトになるので、接近するには都合が良いと考えるべきだろう。「先生ルート」を遂行するにも、少なくとも彼とは知人以上の存在にならなくてはいけないので、親交を深めるという意味ではメリットというのがあるのだ。
教室が違うだけで接点というのは少なくなる。同時に接近も難しくなるのだ。だが、クラスメイトであればそれも容易いわけだ。しかも主人公は高校入学を機にこの町に来た設定である。つまり実質友達がいない状態であるわけで、私が介入するのも容易いわけだ。こう考えてみると、なかなか怪我の功明とはいうもので以外と私は幸運ではないか?
つまり、わたしが実行するべきことは主人公と接点をもって、早急にとにかくお友達になり、その間にもノコノコ出現するヒロインたちと主人公の出会いを全くもって妨害し!
間接的に教頭と主人公の接点を積極的に作り上げればいい。
それも出来るだけ早く、先生と教え子の関係から恋愛感情を持った関係へと転化させなくてはならない。
少なくとも、妖怪の被害が出始める前にだ!!
なんだ、こう考えるとどのみちやらなくてはいけないことが、早まっただけじゃないか…
…あとやることが実は一つ増えている。
主人公とクラスメイトになるのだから、自分がなるべく犠牲にならないように、基本的に彼の席から遠くに座れるようにしなくてはいけない。
「え?席近いほうが、主人公と距離縮められるんじゃないの?」と思うだろうが、ここは万一の最低限の保険と補償が必要だ。これは断じて譲れない。
妖怪が来るのが早まってついには自分の血祭なんてまっぴらごめんだ。
…あっ勿論人のも嫌だけど
…でも、痛い思いもしたくないし!
だから私は席替えに介入し、自分の思った良い立地のところに私の机を置かなくてはならないのだ!
そのためには、私は席替えをするクラス委員にならなくてはならない。
学級委員長にだ。
この学校の教頭の特徴は、筆者の好みです。