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オッサンのエロゲー世界攻略記  作者: 土門 水
第一章 いざ改変!先生ルートを目指せ!!
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 3 夜と考え事




 もう、随分と夜も更けている。


 昨日は、私は確かに自分が自分である世界に存在していた。

 今日一日私は多くの衝撃を受け、自分の今の状態を受け入れることを当たり前として過ごしたのだ。

 だがこの家の住人が寝静まり、窓の外も部屋も暗く布団を被って横になっている今、自分のことを考える時間をこの世界は私に提供していた。明日は入学式で主人公と接触する大切な日であるにも関わらず、眠れないでいる。

 たまらなく、私は学習机の上に置いた水を取りにベットからむくりと起き上がった。

 街路灯のほのかに赤い光が、カーテンの隙間から部屋に入るため、暗闇に慣れた目には電灯を点けていないにも関わらず、水の入った容器の輪郭が容易にわかった。私はそのまま学習机の椅子に座りコップに水を入れ、まるでウイスキーロックが入っているかのように、コップを手で転がしながら水を一口飲んだ。


 …私は何故ここにいるのだろうか?何故だろうか?

 夢ってことはないだろうか?もし夢ならさめてくれ…


 私はそう願ってしばらく硬く目を瞑るも、目に映る部屋は一切変わらなかった…。

 少なくともこれが夢であったとしても、痛い目には遭いたくないので私は行動をしなければならないし、この夢が本当に夢であったとしても今現実に知覚できる以上、私はこの世界で存在し続け行動しなければならないことも考慮しなければならない。


 今の私は、高校入学を翌日に控えた15歳だ。名前も谷口翼という少年だ。私はこのままこの谷口翼という人間の”容”をして生きていくことになるのだろうか?

 今までの田中太郎としての人生はどうなる?

 

 …死者が埋葬され、その死者のことを誰も知りえなくなった時のことを第二の死とも言うらしいが、埋葬過程もスッパリ無くなって、いきなり田中太郎は第二の死を迎えてしまった。

 

 別に田中太郎という人生は、それほど楽しかったかというとそうでもない退屈な普通の人生を歩んでいただろう。だが、その退屈な普通の人生だからと言いって、突然無くなっていいものではない。

 

 今の私は、それまでのすべてが無くなってしまったのだ。

 唯一つこの田中太郎という人生を歩んだという記憶を残して…だ。今までの事を共有できなくなることは、酷く厳しいものだ。いっそ田中太郎という記憶が消し飛んでしまえばいいのに…

 

 …夕食の時、この家の家族が揃っての食卓があった。

 両親とその妹と翼の容を借りた私の4人だった。笑顔のあふれる家庭がそこには確かに存在していた。

 それがかえって私をより苦しめる。私はその時、谷口翼と言う人物をそれを装って彼らには全くわからないように偽装することが出来た…。

 

 元々の谷口翼という存在はどうなったのだろうか?

 彼の存在は、この世界の田中太郎という存在よりも酷い扱いだろう。翼君の存在はこうして私が受け取っているが、彼自身の感情や思いというものの存在が許されなくなってしまっている。私に谷口翼の今までの記憶を残したそれ以外がこの世界から抹消されてしまったのだ。

 だがもしかしたら、私がこうなっているように彼の意思は私と同じように違うところへ飛ばされているのかもしれない。

 …抹消されていないかもしれない。今は、そう思いたいし、そう願うだけだ。

 そして何時か私は私自身の体に戻り、この体を谷口翼君の意思に戻したい。

 

 …そう思うと少し罪悪感のようなものが、晴れた気がする。

 

 「そう、いつか返せるように」

 

 ――自分がこの世界で簡単に死ねない理由の一つになった――

 

 

 それまで思考を巡らせていたものを放棄し深呼吸をして気分を変える。


 …このままでは眠れない。


 しかし、翼君は学生時代の中で一番面白い時期を過ごすことができないのは、正直可哀想だと思う。

 斯くいうオッサンは学生時代がとうに過ぎてから、美少女ゲームなどというものにハマってまでも、学生時代を思い出し「もう一回あの時を過ごしてみたい」とまでも思うようになったんだから…。

 

 このときわたしは自分が、翼君への罪悪感からこれから始まる高校生活を全く楽しくもないような高校生活を送ろうとしていることに気づいた。

 

 …それじゃだめだろう。面白くない。

 美少女ゲームをしてまで憧れたこの生活を少しは満喫というほどでもないがしてやろうじゃないか。まあ、主人公ではないがこの世界は一応美少女ゲームのなかだ!

 

 モブはモブなりにこの世界の住民となり、この世界の住民と恋をすればよい。別にエロゲーに出てくる数人の女だけがこの世界の女の数ではない。この社会を支えている住民の数だけ人がいることは、その数だけ女の人も数多に存在するのだ。

 もっと言えば、付き合いでわざわざエロゲーの物語に固執する必要もない。自分がゲームにも出てこないという条件を有効に使うのだ。西洋東洋に関わらず存在する物語が一つの世界でそれだけ数多に存在するように、この世界でも同じように存在するはずだ。だから一つの既存の物語に固執するより、自分の物語を作るべきであろう。

 

 私は…この世界で…この切望した年代を後悔することのないように、生きる!


 これからあらゆる障害が存在するが、私は、あらゆる謀略と行動で避け或は対処する。


 思い通りの悔いが無く、楽しく、すばらしい、生活を出来る限り送るのだ!


…そして、その時が来たときこの体の持ち主に最高の状態で返せれば何よりだ…。

 おっとこんな事を考えていたら、時計をみたらもう2時をまわっているじゃないか!

 腹を決めたし、さっさと寝よう。



  明日は入学式だ。





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