ああ、我が世の春、高校時代…
私はその日、後輩と行き付けのスナックでママを囲み、気持ちよく酒を飲んでいた。
「ついに、アイツも結婚かー」
一緒に飲んでいた国枝がポツリと呟いた。
アイツというのは国枝と同僚の相木のことで、最近結婚したのだった。
「…なんだ国枝さびしいのかぁ?」
同じく飲んでいた加藤は国枝の寂しそうなつぶやきを聞いて、煽るように聞く。
「ハハッ、結婚はうれしいけど、正直、寂しいと言えば寂しいところはあるかな…。相木とえみちゃんとは昔から友人だったしな。」
国枝と相木は学生時代からの友人だったらしい。
相木の結婚した彼女も学生時代からの付き合いで国枝とも友人関係だったらしい。
結婚したら当然今までの関係以上に遊ぶこともなく疎遠になっていくものだろう。だから国枝は寂しがっているのだろうか…。
「でも、俺さ…おれ、ジツはさ…えみちゃんのこと少し好きだったかもしれない。」
「…マジかよ」
遠くで飲んでた私も思わず国枝の方を見てしまった!衝撃発言である。
でもそうだったのか…。
「おれ、相木とえみちゃんとの結婚すごく嬉しかったぁ…!でもな心の奥で悲しい気持ちがある…。なんでだろうなぁ……なんでだろう……なんでだろう……ううっ」
国枝は泣き出した。今のいままで耐えていたのだ
涙を少しこぼすようなものではなく、まるで子供のようにべそをかいていた。加藤が動揺しながらおしぼりを相木に渡そうとする。
その間も「ああ…なんで」と疑問符をぽつりぽつりと呟いていた。
「なんでだろう」と繰り返し言っているが、こいつはたぶん自分でわかっている。
……国枝になんて言ってやったらいいだろうか。
いや、そもそも俺が言うべきことなのだろうか。
しかし、区切りを付けさせてあげないといけないが…
「…国枝、おまえ、遠慮してたのか?」
加藤が深刻そうな顔をして国枝の顔を覗き込むように見て言った。
国枝は自問自答から「…ウッ」と言って黙り込み、間を置くと加藤が語り始めた。
「いいか、国枝。
お前はは失恋したんだ。細かいことはどうでもいい。お前は失恋したんだよ…。
でもいいんだよ。好きだったのはしょうがないじゃないか。罪じゃないんだよ。」
「………」
国枝は一言も言わずに震えている。
「はあ、もう仕方がないな。同期の悩みだ今日は俺も付き合ってやるから、泣いていいから泣け。
だから今日で君の想いは断ち切れ。で、早く自分に合った彼女を見つけような!…えみちゃん以外の良い女見つけるぞ!」
…そういって加藤は国枝と一緒にスナックを出て朝まで付き合ったらしい。
私はその場の空気を察して、離脱したが、加藤らはスナックからそのまま来たらしく、加藤はクマが出て国枝は目元が真っ赤になっていた。
その日の夜、同じスナックで同じように飲んでいた。
すると、ママが昨日の経過を訪ねるように話かけてきた。
「…国枝さんは今日、会社に来られましたか・?」
「ああ、昨日はごめんね。大丈夫、加藤と朝まで飲んだらしく会社に来ても目が真っ赤だったけど。」
私は苦笑いしながら、ママに答えた。
「いえいえ、国枝さんにはいい相手が見つかると思いますよ」
「うん…、そうだね」
国枝にはいい相手が見つかるといいが…。もちろん、人の気持ちがそう簡単に変わることなどない。
「大人と言っても恋愛はするものだし、青春が続くね…」
私はポツリとそう呟いた。国枝の歳ならまだまだこれからだ。
私は…
「…あらっ!田中さんだって同じなのですよ!」
ママは笑いながら酌をしてきた。
…確かにそうじゃないか。
こんなふうにスーツを着てポマードを頭に塗って、会社に勤めて、今ここで酒を飲む。
社会といわれるものに出る前はどうだったろうか?大学、いや高校時代はどうだったろうか。
あの時、私は今こんなふうになっていることを想像できていただろうか?
別に今の生活や環境が不満ではない。
ただあの時私はどうだったろうかと考えるとき、何か切なさで、胸がいっぱいになる気がする。
私は確かにあのときは恋愛をしていた。…元妻に出会ったあの時を。確か、高校のことだったな。
「…ママの高校時代ってどうだった?」
「高校…ですか?そうですね……」
私はその後もしばらくママと自分の高校時代の話で懇談をしていた。夜も深くなったのでいつも通り、自宅に帰ることにした。
「…ただいま」
シンと静まった部屋に私の声だけが響いた。
妻とは、もうずいぶん前に別れた。親父とお袋はもう死んでいない。
悠長に構えていたら、こんなふうになってしまった。
私はもしかしたら、人恋しいのかもしれない。
自分でも何を思うかと考える。もう、そんな歳でもない。私はそう思いながらも寝床に入る。
でも…
「今日は高校生の時の夢でも見れたらいいな…」
でも、夢ならいいじゃないか。
だが一度考えてみるといつまでも引きずる性であった私は、どうしても、高校時代のあの青春時代を感じてしまい、自分もかつてのその時代を思い出してみたくなり、それがどんどん膨れ上がっていく。
私も別に枯れているわけではないのだなと思った。
そこで、私は手っ取り早く問題を解決するため、とりあえず青春恋愛小説を買う事にした。
自分の中で世界観に触れて妄想するのだ。
とりあえず、元妻が高校の頃読んでいたようなアメリカ舞台のあのクラシックな小説を探して、早速読んでみたが…
「…なんか違う。」
なんか違うなと思い、某検索サイトで「小説 恋愛 高校 文庫」で検索してみると、これがいわゆるカルチャーショックというものだろうか。「一瞬これは何だ」という感想と共に、ブラウザ―を閉じたくなった。
…やはりか。最近、今の若い世代ではオタク文化というものが流行っていた。我々の世代が、ヒッピーとか学生運動とか某アイドルの真似などが流行ったように、彼らの間では、萌とかオタクとかが同じように流行っているようだ。その影響が大いに現れているような検索結果だった。
「なんだこの目が大きいのは?トンボの目みたいだぞ…」
文庫の表紙には、必ずといっていいほど、女の子あるいは女子生徒と思しき絵が載っている。それがなんと検索結果いっぱいにあるのだ。
「全くもって変だ。異質である!」
(こんなもの!とオッサンは言おうとしていたが、オッサンも男の子だった…実はちょっと検索結果の絵達に興味を惹かれてしまったのである。それから彼は誰もいない部屋をキョロキョロとして、マウスをその絵が描かれている表紙の書籍へと合わせ”人物に触らないように”クリックする。この表紙の女の子がタイプだったようだ。)
私は無言でこの表紙に注目する。取りあえずこの表紙の絵が描かれている本をネット注文した。さっきまで小説の内容に注目していたのに、今度は絵に注目し購入し始めてしまった。ライトノベルという分類の書籍だ。たぶん、今までの私だったら間違いなく買わない分類の書籍だろう。だが私は買った。
注文した本を取りあえず読んでみると、まあ内容はハードカバーのものと比べると薄っぺらい。本も薄っぺらい。だが「高校」とか「青春」とかは何となく描写されていた。表紙の女の子もかわいい。
私の欲求は、別に小説を読むことで満足するわけではないのだろう。だって、今この小説の女の子に歳がらにもなく「キュン」としてしまっているのだから…。
私にはしばらくこの絵を見つめている内に、ある思いが芽吹き始めた。
一旦、始まった欲望に尽きる事はないように今度は「この女の子が動くのがあったらなぁ」と思ったのである。
ふと、この本の主人公が幼馴染に”ドヤされていた”入り浸っている悪い趣味を思い出す。
主人公は、ゲームにハマっているらしく、かわいい女の子が動くものらしいのだ。いわゆる美少女ゲームだ。
…私もやってみたいと思った。
ところで美少女ゲームとはあまり言わないらしい。この道のツウの間では「ギャルゲー」或は
「エロゲー」
と言うらしい。
改稿しました。