第8話
私は沈黙し涙をドレスの袖で拭う。ちょっと濡らしてしまった。でも、私の表情は晴れ晴れとしたものになった。背後から私はカルシラストをギュッとする。
それに愕然としたのか王子様が「わわわ」とあわてふためきコホンとやった後こう言った。
「マリカナ、もう一度お願いします。あのさっきのを……」
私は意地悪したくなりこう聞く。やっぱり悪役令嬢だ。私は。
「さっきのってなんですか? よくわかりません」
それに相手ははたと足を止め息を盛大に吸い込んでからこっそりこう言った。
「っ!……あの……その……ギュッとしてほしくて……」
私はワンコみたいにかわいいカルシラスト様にまた意地悪を敢行する。くくく。
「今度は声が小さすぎて耳に入りませんでした。もう少し大きな声でお願いします」
ちょっとブランコみたいに揺れる遊具なカルシラスト様。かなり動じているようだ。やり過ぎちゃったかしら? ごめんなさいね。
「そ、そのハグを……ハグをお願いします! これでいいでしょうか? マリカナ?」
私は「はい!」と言いギュギュギュー。抱きしめてみる。歩みを止めていたカルシラスト様は「は、はわわ!」と妙に滑稽且つ愛らしい反応をする。