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第64話

 私もカルシラスト様も相手を包む手を離さない。ああ、幸せ……。時を止めてしまいたい……。


 こんな幸福な時間がまたくるかしら? そう考えると不安の津波が押し寄せ浜辺を飲み込み、街へとやってくるかのよう……。


 カルシラスト様の体は暖かく良い香りがする。芳香というか……。私がクンクンしているとカルシラスト様もスンスン言っている。


 風邪気味なのかしら? 鼻がつまっているとか? やだ、完璧なカルシラスト様がそんなこと……あるわけないじゃない。


 もしかして泣かれている? 私なんかと抱擁している自分を蔑視して? やっぱり私ってダメね。すぐ自惚れて……鬼の首をとったみたいに。


 最低ね。手を離すべきだわ。彼を自由にしてあげなきゃ……でも手が言うことをきかない。まるで拒絶する……みたいだ。


 確かに怖い。離してしまうと野生のウサギのように遁走してしまいそうで……。


 ずっとずっと傍にいたい……たとえ、その結果私が死ぬことになっても。


 カルシラスト様は「マリカナ……マリカナ……」と端正な顔を私の頭に擦り付けささやく。


 背中がぞわぞわする……これは幸せの証かしら……それとも……別の何か……?


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