最高の瞬間を永遠に
『好き』という言葉は年を重ねる度に言い難くなる。それは、その言葉を口にしてしまった後、失う物を予想してしまうから。
「着替え終わった？」
「あ、あぁ……」
「なら帰ろう！」
『好き』と伝えて、その後はどうなる？
一生側にいられるなら、きっと最高に幸せなんだろう。
「今日、あんたのご両親、帰るの遅かったよね？よかったらウチで食べる？」
この最高の瞬間が、瞬間でなくなるのなら今すぐにでも『好き』と口にしたい。
でも……もし、瞬間が瞬間で終わってしまったら？『好き』と伝えたせいで、その最高の瞬間が2度と訪れなくなったら？
そんな考えがずっと俺を苦しめる。
「なーに難しい顔してるのよ」
「なんでも……ないよ……」
もし、最高の今が『好き』と伝えたおかげで一時伸びたとして結果として終わってしまったら？
俺は終わった後もまた、最高の今を取り戻せる事は出来るのか？……いや、出来ない気がする。
「ほら、さっさとウチに入った入った」
なら……最高の今を守るために、最高の瞬間を永遠にするのを諦めてもいいんじゃないか？
「ねぇ、美味しい？」
「あぁ……美味しい」
「ふっふーん。今日の夕飯は、なんと！私の手作りです！」
『好き』って言葉。
きっと、それを言えるのは覚悟を決めた人だけが許される最高の言葉。
「今日はありがとうな」
「どういたしまして」
俺はいつか……覚悟を決めて、この最高の瞬間を永遠に変える事が出来ますか──
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