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Kの冒涜  作者: カキヒト・シラズ


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第23章 Kの謀略

 東アジア連邦政府推進懇談会は非公式会議ながら、函館五稜郭跡地に建設された真日本帝国首相官邸の第一会議室には、加盟国各国首脳が顔をそろえていた。

 竹川俊介は欠伸をこらえるのに苦労した。

 どうもこういう堅苦しいのは苦手だ。

 酒を飲み、女をはべらせ、つまみでもつついて・・・・そういう場所で話し合いをする方が、おれの性分にあっている。

 朝鮮民国の首相に就任してから、竹川にとって退屈な日々が続いていた。 

「ご承知の通り」議長が言う。「東アジア連邦政府設立に向け、大統領選挙を実施しますが、私自身が立候補いたします。異議ありませんね」

 巨大な円形のテーブルには竹川と議長の他に、ジャパン共和国大統領の南田吉郎、佐渡公国首相の森野成吉、琉球共和国首相の川本孝義が一堂に会している。

 誰も口をはさまない。いや、はさめる雰囲気ではない。竹川はそう直感した。

 それだけ議長――磯崎俊太郎は、このメンバーの中で絶対的なボスになっていた。

「では全員、異議なしとみなします。私が連邦政府大統領に就任後、真日本帝国の首相は外務大臣の水原が兼任します」

 磯崎の説明では、これまで真日本帝国は名前のない元帥(マーシャル)と後閑静江国民最高会議議長の二人が国家元首だったが、今後は元帥(マーシャル)に一本化するとのことだった。

 その際、元帥(マーシャル)の称号を天皇に変え、名前を「霧島カズマ」にする。「霧島カズマ」はこれまで元帥(マーシャル)の日本国籍での戸籍名だった。

「ですけど、磯崎の旦那」竹川が手を上げる。「いや失敬、磯崎首相、選挙があるんですよねえ。加盟国の全国民が有権者ですぜ。この場でわれわれだけで連邦大統領を決めても、ひっくり返されるなんてことはないんですか」

「竹川首相、この部屋の中で、あなただけはご存じなかったかもしれませんが、他の方は政治家や高級官僚の仕事を長年経験されていらっしゃるので、ご存じだと思います。

 選挙は集計マシンを使います。

 集計マシンのソフトウェアに細工できれば、国民が誰に投票しても、われわれが決めた結果になります。

 選挙管理委員会と集計マシン業者の経営者がすべてわれわれの支配下にありますので、これは可能です」

 なんてこったい。政治の世界もヤクザの世界も腹黒さは同じじゃねえか。

 竹川は胸の中で毒づいた。

「昔から不正選挙はありましたが」磯崎が続ける。「投票集計のコンピュータ化が進んでから、最近、どこの国でも不正選挙率は上昇傾向にあるようです。

 しかしながら、どこの国でもマスメディアを権力で押さえ、国民をプロパガンダで洗脳しているおかげで、この事実を国民はほとんど知らないようです。

 『票を投じる者でなく、票を数える者が決定するのだ』と言ったのはスターリンだったでしょうか」

 竹川は思わず欠伸をする。 

 民主主義なんて国民が信じ込まされている幻想で、実際の世の中の仕組みはその正反対だったのか。



「気をつけて」黒いマネキン人形が言う。「何か危険な目にあったら、すぐスマホで連絡して」

「わかってるわ」 

 姉ヶ崎姫香は微笑む。

 《ミナカヌシ6号》から電脳潜水空母(サイバーサブマリン)《スサノウ3号》に乗り、陸が見えて来たら人型電脳戦闘機(サイバーファイター)《アマテラス2号》を使って飛行して、晴海ふ頭に着陸した。

 着陸すると《アマテラス2号》は黒いマネキン人形に形状変身(トランスフォーム)し、姫香に話しかけてきた。

 Kが没入(ジャックイン)しているのだろう。

 黒いマネキン人形は口は動かないが、顔がKそっくりなので、姫香はふとKと話しているような錯覚に陥る。

 なかなか姫香を一人にさせようとしない様子なので、姫香は黒いマネキン人形を無視して一人で歩き出した。



「ところで」磯崎が言う。「浦島桃子博士が発明した遠隔ニュークリア装置をご存じだと思います。

 ネットで設計データが拡散され、発展途上国を含め世界中で遠隔ニュークリア装置が生産されました。

 このおかげでこれまでの核保有国は、大きく権威を失墜しました。

 われわれ東アジア連邦が中国、ロシアと並ぶ世界の覇権国家の一角に台頭できたのは、このためだと分析するアナリストもいますが、私の見方は少しちがいます。

 もともと遠隔ニュークリア装置はわれわれ真日本帝国が独占していた技術です。それが内部リークされたのです。

 もしリークされなければ、われわれ東アジア連邦がまちがいなく世界唯一の超大国になっていました。

 リークした人間は国家反逆罪です。われわれの敵です。

 今すぐにでも制裁を加えるべきでしょう」

 磯崎は円形テーブルを見回す。

 誰もが呆けた顔をしているように磯崎には見え、そのことが苛立たしくも、望ましくもあった。

 この面子の中で、東アジア連邦を仕切れるのは自分だけだろう。

 磯崎はそう思う。

「でも公式声明では」森野が言う。「磯崎首相は、遠隔ニュークリア装置の設計データの情報拡散が、核兵器撲滅および世界平和に役だったと好意的に発表してますよねえ」

「あれはマスコミ向けの外交辞令です。本音はちがいます」

「もともと米国の技術だったのではないでしょうか」川本が言う。「私のところへはそんな情報が届いてますが」

「そうですね。浦島桃子博士はパシフィック電気を解雇された後、米国の軍事研究施設に雇われ、そこで遠隔ニュークリア装置を完成させたのです。ところががある理由から、彼女はわれわれに設計データを提供したのです」

 重苦しい空気が会議室に流れているのを磯崎は感じた。

「ところで誰なんですか」南田が訊く。「その内部リークした人物は」

 磯崎は吐息を漏らす。

 本来なら、これは言いたくないことなのだが、やはりこの場で発表せざるを得ないのか。

「実はわれわれ真日本帝国政府が、長らく元帥(マーシャル)と呼んでいた少年です」


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