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Kの冒涜  作者: カキヒト・シラズ


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第16章 Kの工作

 虫型電脳偵察機(サイバーインセクト)《リリパット4号》――それはKにとり、没入(ジャックイン)モードが最も困難でそれゆえ最もやりがいのある電脳装置(サイバーマシン)だった。

 ニュー山王ホテルの駐車場から1台のリムジン車が走り去る。

 Kは昆虫だった。リムジン車を追いかけ、後部ガラスに留まる。

 音量をいっぱいにして、車内の会話を盗聴する。


「シンフィールド君、スシボーイ計画はどうなってるんだね」

 在韓米軍のトップにして、極東総司令官のジャック・ウォーカー陸軍大将は、小男にも関わらず、胸章がやたら多くて、不釣合いだ。

 隣に座っていたジョナサン・シンフィールドはそう思った。

「お言葉ですが大将、車の中も盗聴されている可能性があります。ここで機密の話をするのは危険かと。われわれがニュー山王ホテルを後にしたのは、そもそも盗聴されている可能性があったからです」

「誰に盗聴されているんだ」

「まだ調査中ですが・・・・真日本帝国の連中かと・・・・」

 リムジンの後部座席にはジョナサンとウォーカーの他に、ウォーカーの直属の部下であるスティアート中佐が座っていた。

 二人とも在韓米軍の所属で、今回のスシボーイ計画で日本にやってきたのだった。

 東京のテロ騒動にかこつけて在韓米軍が日本へ移動した隙に、北朝鮮軍が韓国を征服する。

 これがスシボーイ計画のはずだった。

 ところが北朝鮮が韓国を征服した途端、真日本帝国が北朝鮮を征服し、朝鮮民国を建国したのだ。

 さらには佐渡島が独立宣言し、佐渡公国を建国した。

 すべて誤算だった。

 そもそもスシボーイ計画の直前に、沖縄が台湾と合併して琉球共和国を建国することからして誤算だった。

 するとジョナサンのスマホが鳴る。マイク少佐からだった。

「中将、緊急事態です。実は北海道が真日本帝国に占拠されました」

「何だって」

「真日本帝国は北海道を自分たちの領土だと主張しています。首都は函館に置くようです。

 さらに未確認情報ですが、ロシアが北方領土四島、または二島を真日本帝国に返還するようです。

 オホーツク海を巡航中のロシア海軍を真日本帝国の潜水艦が壊滅させ、軍事的に圧力をかけた様子です。

 その一方で、ロシアからの天然ガスパイプラインを自分たちの費用で建設することを約束したようです。ロシアとしては真日本帝国が自国の天然ガスの大口顧客になるわけです」

「アメとムチか・・・・やつらは外交の天才だな」

 するとウォーカーが「貸せ」と言って、スマホを引ったくる。

「一体どういうことだ。北海道まで取られるとは、おまえたちは何をやってるんだ」

 やれやれ、部下の手柄は自分のもの、自分の失敗は部下のものを信条とする、典型的な出世タイプか。

 こういう上司は苦手だ。

「ところで大将」ジョナサンが言う。「考え方によってはこれはチャンスです。

 彼らは函館を首都にするらしいです。だとしたらイージス艦でも使って函館に核ミサイルを撃ち込んだらどうでしょう」



 リムジンは米国大使館の門をくぐり、芝生の上で停車する。

 後部座席のドアが開く。

 昆虫になったKは後部ガラスから飛び上がり、スチュアート中佐の後頭部に留まる。

 針を刺し、電流を流す。

 人間の意識に没入(ジャックイン)するのは、あらゆる電脳没入操作サイバーオペレーションの中で最も高度なテクニックだ。



 スチュアート中佐の口から狂犬病の犬のようによだれが垂れている。

 ふらふらした足取りでホスルターから拳銃を抜く。

「やめるんだ」

 ジョナサンが叫ぶ。 

 銃声が響く。

 ウォーカーは側頭部から血を流し、崩れるように倒れる。

 即死だった。

 ジョナサンは反射的に拳銃でスチュアートの額を撃つ。

 リムジンの運転手が震えている。

 足元には二人の軍人の死体。

 スチュアートの後頭部から昆虫のようなものが飛んで行く。

 それを狙ってジョナサンは拳銃を数発撃つが、昆虫はたくみにかわして視界から消えていく。

 おそろしいやつらだ。ジョナサンはそう思う。

 だがウォーカーの旦那がいなくなれば、極東総司令官は必然的に自分になる。

 北海道と沖縄を除く、日本の支配者はこのおれなのだ。

 そう思うと少し気が大きくなってくる。

 不意にスマホが鳴る。

「マイク少佐です。たった今、横須賀基地に核ミサイルが落とされました」

「何だと。そんなばかなことがあるか」

「それと・・・・これは未確認情報ですが・・・・アメリカ本国で内戦が勃発したようです。政府は破産状態で主な銀行は預金封鎖したとのことです。

 別の情報筋では、すでにクーデターが起きているとのことです」



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