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第十一話 ~決着~

 状況は、お世辞にも良いとは言えない。


 前には今も少しずつ増える三十を超える敵で、後ろは座り込む後衛職の味方。

 完全に捕捉されて壁際に追いつめられている現状から、二人で逃げ切るのは厳しいだろう。


 だったら、仕方ない。

 うん、そうだ。

 逃げられないなら――


「全部……全部斬り捨てるしかないよなぁ!」


 大きく一歩踏み込み、まずは一人薙ぎ払った。


「くそっ、囲め! 相手はたったの一人だ! 数で押せ!」


 そんな指示が飛んだ頃には、もう一歩踏み込んでまとめて三人を薙ぎ払う。

 そのまま次の獲物を探そうとすると、後ろに回り込む気配がある。

 このまま当て身でも喰らわせて、そこから一撃を叩き込むか。


「『――「氷矢アイスアロー」』!」


 しかし、後方からの攻撃に対処する必要が消えた。

 振り向くと、倒れ行く敵越しに、倒れ込んだままのメアリーと目が合う。


「ちょっと! こっちは矢も尽きて、攻撃魔法は得意じゃないんだから、後ろを任されても次はないんだからね!」


 そうして会話している隙を狙って後ろからまた一人。

 右手の刀を逆手に持ち替え、その心臓を刺し貫く。


「うん。忠告ありがとう」

「あ、うん……分かってるなら良いや」


 なぜか呆れられたような気がしながら、敵の群れへと向き直る。

 突き立ったままの刀を抜きながら振り返ると、仰向けに倒れる死体と、一斉に一歩下がる連中が目に入る。


「さあ、来なよ。たったの一人、数で押してくれ! 僕に、答えを!」


 ここで逃がせば、アイラさんたちの手間が増えるし、後から思わぬところで足元をすくわれるかもしれない。


 ――だから、逃がすわけにはいかないよな?


「はぁっ!」


 敵中へと、一気に突っ込んだ。


 斬る。違う。

 斬る。これも違う。

 斬る。これでもない。

 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る――


「うわ、逃げる敵までほとんど斬り捨ててる……。てか、あれだけいた敵全滅させてるよ……」


 ダメだ。掴めそうだけど、結局答えを得られなかった。


 もうちょっと、あとちょっとで何か答えが出るかもしれないんだ。


 ……いや、そうだ!


「メアリー! 斬ってもいいか!?」

「ん? ……いやいや、ちょっと待って」

「良いだろ? ちょっとだけ、先っちょだけだから!」

「どこをどう考えたら素面しらふでそんなこと頼めるんだ!?」

「くっ、仕方ない……」

「ああもう、なんでこんなやつに……」


 答えはまたの機会まで持ち越しらしい。


 何がダメなのか。

 敵が弱すぎる?

 僕の実力が足りない?

 デリグとの戦いで感じた、絶望的なまでの死の恐怖がないから?


 ――考えてもどうにもなりそうにない。


 とりあえずは、答えを得るための手がかりを得られたことで満足しておこう。


「……にしても、本当に凄いや。流石さすがは二番弟子ってところかな」


 見るからに沈むメアリー。

 そういえば、こっちの問題もあったか……。


 まあ、同じパーティの仲間だし、少しくらい手を出しても良いだろう。

 何より、精神状態に不安を抱えたまま同行されても困るし。

 うん。だから、よそ様の親子関係に口出しするのも許されるはず。


「メアリーは、さ。剣の道に進みたいの?」

「は? お前、今まで何聞いてたの?」

「聞き方が悪かったかなぁ? ――じゃあさ。メアリーは、師匠うんぬん関係なく、剣の道を進みたい?」

「だから、イサミパパの少しでも近くに一緒に居たいんだよ。なに? ケンカ売ってるの?」


 不機嫌そうなメアリーを見て、満足する。

 ……僕の趣味が悪いとか、そう話ではないぞ。

 やっぱり、メアリーの悩みは、実体がない・・・・・


 むしろ、この程度のことが解決していないあたり、本当に誰にも漏らさずに抱え込んできたのだろう。


「だったらさ。もう、君の願いは叶ってる」

「は? ……はぁ?」


 怒りだとかよりも、呆れだとか困惑が出ている表情。

 そのままさらに畳み掛ける。


「確かに、僕やリディは師匠と同じ道を進んでる。でもさ、それは、一緒に居るわけじゃない。単に、後を追ってるだけなんだよ」

「うん?」

「だって、そうだ。僕らのできることってさ、師匠は全部一人でできるんだよ。だから、戦いの中で必要かどうかだけなら、師匠に僕とリディは必要ないんだ」

「……あ」


 うんうん。変に反発してきたりはない。

 今のところ、納得してるみたいだ。


「でもさ、メアリーにはその治癒がある。師匠に出来ないことができるからこそ、師匠にとって必要な存在になれる。足りないものを補うからこそ、本当の意味で並び立てるんだよ」


 口を開けたまま、黙るメアリー。

 しばらくの沈黙を経て、言葉が発される。


「……なにそれ」

「ん? 何か変だった?」

「変って言うか、そういう簡単な話じゃないっての」


 その発言を聞いて、安堵した。

 だって――


「まったく、一人でうんうん唸ってたのが、バカみたいだ」


 そう語るメアリーは、目の端に涙を浮かべながらも、間違いなく、今までで一番魅力的な笑顔だったのだから。





「誰――ぐふぉあっ!?」


 地下水道からハシゴをのぼった先で男が一人覗き込んできたので、何も考えずにとりあえず頭突きをかまして意識を奪う。


 敵の集団を打ち倒した後、メアリーに連れられるままに地下水道のさらに奥に進むと、見るからに不自然な上に続く穴と、安っぽい木製のハシゴがあった。

 いわく、ここから出てくる男たちを目撃したことで追われていたのだとか。


 そして、ここは大当たりのようだ。

 出た先は、どこかの地下室のようなところ。

 正面には上へと続く階段。右と左に三つずつ牢屋があり、中には、様々な年代の若い男女が居る。比率が、男牢屋一つで、残りは女なあたり、ここの連中の主力商売の方向性が見える。

 さっき意識を奪った男以外には敵がいないことを確認して、それぞれの牢屋の中を確認する。

 続いてやってきたメアリーと黙って頷きあうと、メアリーは右の、僕は左の牢屋を見ていく。


 階段から一番遠い牢屋から見るが、みんな何かに怯えているような様子。目を合わせようともしない。

 一通り見た後、続いて真ん中の牢屋を見る。

 そんな中、一人の少女と目が合う。

 あぁ、ようやく――


「ニーナ!」

「ん? あ、お兄ちゃん。ヤッホー。遅かったね」


 ……別に、一人で極まって感動の再会な空気を出してて、恥ずかしくなったとかいうことはない。

 ないったらない。


 本当に、元気なのは良いことだと思うよ。うん。

 でもさ、


「ニーナさん。もしかして、この人が……?」

「帝国を救った伝説の冒険者だって言う、ニーナさんのお兄さん!?」

「え、ニーナさんのおにーさん? すごーい、ホンモノだー!」

「本当に助けに来てくれた……。あぁ、ニーナさんの言うとおりだ……!」


 僕より年上っぽい人から幼女までざっと十人ちょっとそろってる中、何か同じ牢内の女の子たちのニーナの扱いがおかしくはありませんかね……。





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