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第二話 ~そして、事件の幕は上がる~

遅くなって申し訳ありません。


では、お楽しみください。

 それはひどいことになった。


「きゃー! ニーナちゃん、久しぶり!」

「あ、リディお姉ちゃん! お久しぶりです!」

「あぁーん! 色々あって一度も行けなくてごめんね。――はぁ、相変わらず、かわいいな

ぁ」


 そんな銀髪犬耳娘を筆頭に、ブレイブハートは全体的に歓迎ムードでニーナを迎え入れた。

 師匠にもあいさつし、初対面のメアリーにもあいさつをして、さっそく事情を話した。


「ふうん。奉公に、ね。……ま、今までの何年間か見てる限り、紹介くらいなら問題ないか。

俺には、ねじ込めるほどには力がないから、正式採用は実力でつかみ取ってくれ」


 そんなこんなで、我が妹はチャンスをつかんだのだ。


 ルシアちゃんの奉公先の洋裁店や、師匠の顔利かおききで近所のいくつかの店に頼んで2~3日ずつ職場体験させてもらったのだが、接客完璧・デザイン画天才的・調子乗って昔教えた掛け算や割り算なんかも使っての帳簿チートなど、ウチに奉公に来いと大人気。


「で、私が来たんですよ。『金の卵を絶対に逃がしてはならないザマス!』ってオーナーの言葉を受けて」


 夕食後のパーティホームの居間でお茶をすすっているルシアちゃんは、呆れ顔だ。

 例えるなら、そう、『私は、こんなやつをスカウトするために頭を下げに来たのか』とでも言いたそうな呆れ方である。


「まあ、私にかかればこんなものよ!」

「えへへぇ、やっぱりニーナちゃんはお利口さんねぇ」


 ニーナはと言えば、ルシアちゃんの冷たい視線を受けながら、嬉しそうにリディに撫で繰り回されていた。

 師匠たちが始めて村に来てうちに泊まったときもそうだったが、我が妹は、今はそれ以上にリディを転がすのが上手くなっている。

 こんな感じで、試用先の人々もたらし込んだのだろうか。


 師匠やアイラさんは温かくそれを見守り、久々に帰ってきたカルドラルさんは我関せずとせんべいをかじり、メアリーは明後日の方をじっと見ながらなぜか笑みを浮かべている。


「しかし、上手くやったな。お前、初めての都会で初対面の相手に気後れしたりしないのか?」

「まあ、お兄ちゃんは人付き合いが面倒になり始める年頃に剣にのめり込んで、ボッチ街道まっしぐらだったからね。都会みたいに人がたくさんいなくても、田舎だって二人以上いれば立ち回りは必要なの。――私くらいまで上手いのがどれだけいるかは別にしてね」


 胸を張って得意げな姿までかわいらしい妹は、その姿を見てどこか機能不全でも起こしたかのようにきゃーきゃー騒いでいるリディを完全にとりこにしていた。


「にしても、この立ち回りの上手さは確かにすごいわ。ねね、お兄さん。ちょっと妹さんをうちの黒竜騎士団に預けてみない?」

「嫌ですよ。武力を一切考慮されずになれる騎士なんて、絶対に裏があるじゃないですか」

「流石はミゼル君だ。確かに、ニーナちゃんはもっと堅気かたぎな世界で生きるべきだよ」

「なによ、二人とも。一応は近衛騎士団だってのに、随分な言いぐさじゃない」


 ここで『一応』なんて言ってしまう連中には妹を絶対に預けまいと決意をしたときのことだった。

 僕がアイラさんや師匠とのん気に会話をしているところに、その爆弾は放り込まれたのだ。


「そう言えば、一つ気になることがあるんですけど。ニーナちゃんって、万や億単位の数え方とか掛け算割り算をどこで学んだんですか?」

「え? お兄ちゃんからですけど」


 そこで一斉に、その場の視線が僕に集中する。

 あぁ、これはマズいことになった。


「田舎でも、基本的な読み書きとか二桁くらいまでの足し算引き算くらいは教えてるそうですけどね。何で田舎から一歩も出たことがない十歳児が、万とか億単位まで数えられる上に、掛け算割り算ができて、筆算みたいな小技まで使いこなしてるんですかね。帝都でもこんな高等教育レベルの技能持ちなんて、そう多くはないですよ」


 そう、だからマズいのだ。

 僕としては、ド田舎で義務教育やってるくらいだし、これくらいは問題がないと思っていた。

 しかし、都会も田舎も教育水準は同じで、それを超える知識は、中規模以上の店の経理を行う人や学者志望のような必要な少数者のみが独占していると知ったころには手遅れ。教えれば教えるだけおもしろいように知識を吸収する我が妹は、連立方程式をマスターしていた。

 まさか理由も告げずに知識を封印せよとも言えず、これ以上教えないように気を付けるしかなかった。

 ……まあ、試用期間初日の夜に、ニーナが喜々として掛け算や割り算を褒められたことを語るまで忘れていた自分自身が招いた厄介事とも言えるのだが。


「えっと、あれだ。ある日、村の外れで謎の旅人が倒れていてだな――」

「ほうほう、たまたま希少高等技能持ちが倒れていて、たまたま教えていただいたんですか?」


 まあ、疑うだろうさ。

と言うか、完全に何かあると疑ってかかっている目だ。


 かと言って、「僕、転生者なんだ。てへっ!」とかいう訳にもいくまい。

 むしろそっちのネタだと、アイラさんの反応がなさ過ぎて怖い。

 明らかに、あの大精霊様と繋がってはいるのだが、転生のことまで知らされているのか。知らされているなら、何かのフォローが貰えるかもしれない。

 しれないのだが、あの平然とお茶をすすっている姿は、何も知らずに様子を見ているのか、知っていてお手並み拝見なのか……。


「まあ、こいつの謎の優秀さとか、いつものことだし。なんかよく分かんないけど、ミゼルはミゼルで、ニーナちゃんは超絶優秀だったってことで良いじゃない。ねー」

「ねー」


 ナイスフォロー!

 そして妹よ、よく乗った!

 リディの僕に対する認識に対して言いたいことがなくもないが、今回ばかりは感謝だ。


 そのままリディがニーナを甘やかしまくる中、完全に僕のことを追及する空気ではなくなっている。

 それでもこちらをじっと見るルシアちゃんをさり気なく警戒していると、今までせんべいを消費する機械と化していた男が、場を動かしにかかった。


「そこなロリよ、なしたことに対して余りに過大な評価はやめておくのである」

「……! いやいや、その辺はこっちの勝手でしょう?」


 何日も付き合えば、いくらリディでも慣れるもの。

 青筋立てて拳を握りしめるくらいで、カルドラルさんの相手を出来るようになっていた。


我輩わがはいは、相手のためにならぬと言っているのである。相手が大切であればこそ、その才を潰さぬように気を付けるべきである」

「べ、別に――」

「カルドラルさん、わたしのことを心配して――」


 ニーナとしては、カルドラルさん相手に言いくるめられかけて困ってるリディへの助け舟で、自分のこともさり気なく売り込むつもりもあったかもしれない。

 そんな、善意とちょっとした打算で放たれた言葉は、


「黙るのだよ、経年劣化物。神聖なるロリの発言を妨げる権利など、お前にありはしないのである」


 そんな『ロリ』という概念の定義から考え直させられるような発言と、


「ちょっと! メアリーはともかく、ニーナちゃんと比べてもあたしが下か!? そこに直れ! 今度こそぶった斬る!」

「お~ち~つ~い~てぇ~!」


 われ関せずを貫き続けた義妹すら必死になる、修羅しゅらを一匹呼び覚ますこととなった。





 と、こんなどんちゃん騒ぎも昨日のこと。


「おはよう、ニーナ。今日も頑張れよ」

「うん、ありがとう、お兄ちゃん」


 早朝の庭で準備運動をしていると、出掛ける支度を終えたニーナが縁側を通りがかった。


「試用期間も今日で終わりだろ。どこか気に入るところはあったのか?」

「んー、どこも悪くはないんだけど、なんていうか、ピンとこないと言うか……」


 そのまま腕を組んで考え込んでしまう。


贅沢ぜいたくな悩みだな。あちこちから声を掛けられているからこそ、か」

「ありがたい話だよ。まあ、今は目の前の仕事に集中! その後は、今日帰ってから考える」


 そういう妹を見送って、いつもの一日が始まる。


 ――そして、その日、ニーナが帰ってくることはなかった。





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