表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第十章 Bランク昇格試験
104/104

第五話 ~籠城戦の始まり~

「よう。遅かったな」

「久しぶりだね、もうすぐBランク冒険様」


 ナマールの中央部にある冒険者ギルドの扉をくぐると、そう広くはない田舎ギルドの受付スペースにずらっと集まった冒険者たち。

 恐らくは外に居る様々な規模の連中の代表者ばかりが揃うその中で、先に向かったブレイブハートのメンバーと試験官のアジュラさん以外に見知った二つの顔が声を掛けてきた。

 Aランクパーティ―『ブラックウルブズ』代表でアルクスの特異個体騒動時に知り合ったゲイルさんと、同じく特異個体騒動や虹色蜘蛛討伐で一緒だったDランクパーティ―『白銀の戦乙女』代表のシルルさんだ。


 ナマールの路地裏でのマトイ・ヤクサとそのお付きのサラという天剣使いとの取引を終えた僕は、ナマール中央部にあるギルドへと急いでやってきて、扉を開けたらこの状態である。


「お二人とも、お久しぶりです。こんな時に会えるなんて、ビックリしました」

「『ブラックウルブス』で竜狩りの依頼が舞い込んでな。久々の大仕事に各地から全構成員に召集をかけて集合場所に行く途中で、この騒ぎだ。なんで、装備はしっかり揃ってるが、頭数はアテにしないでくれ」

「で、あたしら『白銀の戦乙女』は、主力を出来るだけ損耗させずに狩場に届けるための露払つゆはらいとして雇われてたんだ。いやー、割は良いし、持つべきものはコネと伝手つてだわ」


 緊急事態こそ、知り合いがいるのは助かる。

 立ち見も多い冒険者たちの中で一番上座に腰掛けるゲイルさんが今回も代表として取りまとめるみたいだし、見知らぬ相手よりはマトイ達のことを話すのも気が楽だ。


「って、なんであんたたちまで――モガモガ」

「じゃあ~、後はよろしくねぇ~」


 当然のように詰め寄ってきたリディの口を右手で押さえながら首を抱えて引っ張り、左手でルーテリッツさんの手を引いて、メアリーが去っていく。

 すれ違いざま、『貸し一つな?』といった目をこちらに向けてきた。随分と高くつきそうだが、緊急事態だし、一つ頷いて見送った。


「で。後ろのお嬢さん方は何だ? 見覚えがないんだが、冒険者か?」


 そしていきなりだが、当然のゲイルさんの質問。

 さあ、本題だ。


「ああ、彼女たちはマ――」

「初めまして! 私の名前はナズナと――」


 気付けば、僕の右手から放たれたヘロヘロ・・・・の斬撃がマトイの首を狙い、その刃をマトイが両手で挟み込んで止めていた。

 俗に言う、白刃取りである。


 僕とマトイは、驚いたように互いに見つめ合い、すぐにマトイが営業スマイルを取り戻した。


「私はサクラ・・・と申します。あ、こっちはサラです。皆様ご覧のように、あんなヘロヘロ・・・・な斬撃程度なら、受け止められる実力はあります。あ、打ち合わせとかはないですよ?」


 なぜか静まり返る冒険者ギルド内で、サラの首に手を回しながらそう言うマトイ。


 偽名は、本名を警戒して出さなかったのだろう。打ち合わせがなかったのは、ド田舎の冒険者くらいなら本名でもリスクが少ないと思ったら大パーティーの代表が居てリスクが高いを見たか。もしくは、ただ今まで気付かなかったか。

 サラを押さえに行ったたのは、呆然としてるうちに落ち着かせて、僕に斬りかかったりして話をややこしくしないためか。


「いや、あの凄まじい剣速でヘロヘロとか、打ち合わせ済みでも普通は無理な……ああ、『そっちの世界』の奴なのか……」


 そんな、静まり返る中でのシルルさんの発言も大したことじゃない。


――くぅっ! あのクソ女、殺し損ねた! ナズナは、レーヤがくれた大切な名前なんだから!


 こいつだよ!

 人の体を使って、勝手に何やってくれてんだよ!


 あんな、ヘロヘロのみっともない斬撃が僕の体を使って放たれたとか、屈辱の極みだよ!


――へぅっ!? ご、ごめんなさい! ……うん? えっと、エリーちゃん? エリーちゃん!? だって間接はそっちには曲がらな痛たたたたたた!? ゆ、ゆるしてー!? 約束破って条件満たしてないのに干渉しちゃったのは謝るからぁ!?


 そのまま、どれだけ呼びかけても女神さまことナズナが返事をすることはなかった。

 こっちからどうしようもないし、これ以上どうこうする気もないんだけどさ。


「で、実力があるのは分かった。それで、今回の戦いに力を貸してもらえるのか?」

「そのことなんですけど、冒険者資格がないんですよ、彼女たち。他の身分証明も。ただの道楽者の旅人なもので」


 僕の答えに、質問者であるゲイルさんは目線を鋭くする。


「それは、お前が身元を保証するのか? それとも、お前ら?」

「ミゼル・アストールの名にけて」

「それだけか? お前の腰の剣に誓えるか?」

「ええ、もちろん」

「なら良い」


 ゲイルさんは表情を緩め、恐らくは中断されていたのだろう作戦会議が続けられる。


 ブレイブハートの名前なんて流石に責任が重すぎて独断では使えなかった。

 ただ、僕個人の名前はともかく、なんで斬撃を放つための棒きれ一つに誓っただけで安心されたんだ?





 マトイたちを紹介した翌朝。

 ナマールの町は、見渡す限りの魔物たちに囲まれていた。


 古くとも一応は城壁を備えているからこそ、戦いになるのだ。

 メアリーは回復魔法の腕を見込まれて救護班へ。ルーテリッツさんは、オーバーキルでチャージ時間も長い精霊砲ではなく、魔物を殺すには十分な中程度の威力の攻撃を連発することを重視した運用をすることを前提に、城壁上の魔法職や弓兵たちの班へ。


 そして、僕とリディや偽名で潜り込むマトイにサラとの顔ぶれは、城壁外へ飛び出しての斬り込み班でその時を待っていた。


「リディ。今は『敵』に集中してくれよ?」

「……分かってるわよ。『サクラ』もよろしく」

「ええ、こちらこそ」


 恐ろしい敵だからこそ、その強さはよく分かる。故に今は手を組もうとの言い分を、何とか飲み込んでくれたリディ。

 だがまあ、全く気にするなってのも無理だよな。


「よし、お前ら。行くぞぉ!!」


 総司令兼先陣のゲイルさんの掛け声で城門が開かれ、斬り込み部隊が一気に魔物たちの中へと突っ込む。

 城門が破られたら終わってしまう中、不定期に補修を行うための時間を稼ぐのが、これ以外には石を投げるくらいしか出来ることのない近接戦闘職の仕事なのだ。


 そんな中、敵中奥深くへと突き進む影が一つ。


 その女性は、まるで無人の荒野を行くかの如く、軽やかに足を進め続ける。

 その流麗な剣線は、相変わらずのほれぼれとするものだ。

 誰かに呼ばれたような気もするが、彼女の斬撃をただの一つとして見逃すまいと、ただ必死に喰らいついていく。


 やっぱりマトイ・ヤクサの斬撃は、もはや悔しさすら感じないほどに僕の遥か高みにあるんだよなぁ……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ