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異世界白刃録 ~転生先で至高の斬撃を目指す~  作者: U字
第十章 Bランク昇格試験
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第三話 ~ナマール戦線異状アリ!~

 撤退戦は、森を出たところで明らかに楽になった。

 組織的に魔物たちが追い詰めにかかり、休息一つでも苦労した森の中。

 一方、何とか森を出れば、魔物たちの動きは明らかに組織立っていたが、積極的にこっちを狙ってる感じはなかった。お蔭で、通常の警戒さえすればちゃんと休息をとることが出来た。

 ただ、森の奥に居た特異個体の他の魔物への支配が森の外へとおよんでいることも確かで、安心は出来ないんだけど。


 そうこうしながら、出来るだけ消耗を押さえるために接敵を押さえつつの試験官アジュラさんに引率された地味な行程は数日続き、ようやく最寄りの町であるナマールの町へとたどり着いた。


 多少古ぼけた城壁に囲まれたその町は、来訪者を拒むように城門を固く閉ざしていた。


「おーい! お前らも魔物に追い立てられた口かー?」

「そうだ! 城門を開けてくれ!」


 城門の上で見張りをしていた冒険者らしき男の言葉にアジュラさんが返すと、しばらくしてゆっくりと門が開いた。


「やっと休める……」


 そんなリディのつぶやきは、僕らの総意だった。

 休息時間が取れても、野宿で敵中だから、やっぱり心は休まらなかったからな。


 そうして久々に落ち着ける領域に足を踏み入れたんだけど、やけに冒険者が多い。

 気になった僕は、門の近くに立っていた男性冒険者に声を掛けた。


「あの、ここらで見えるだけで百人近くいるんですけど、冒険者多すぎませんか? 入る前の言葉から周辺の人たちが魔物に追い立てられて集まってるみたいですけど、ナマール地方はもう見るべき資源は取り尽くされてて、そもそも追い立てられる冒険者が寄り付かない気がするんですけど」

「ああ。Aランクパーティの『ブラックウルブス』と、それに雇われた露払いの手伝い用の中堅パーティたちさ。ドラゴン狩りのためにパーティ全部に召集を掛けて、その集合場所に向かう途中で追い立てられたらしい」


 アルクスで笑いものになったから、それを取り返すために気合入れて準備してたらしいのに災難だねぇ――と、あわれむように言葉が続けられた。

 その、笑いものにしたというか、悲劇になりそうなのをそこで食い止めた元凶としては、苦笑いくらいしか出来なかったけどな。


「おい、何してる? さっさとギルドに行くぞ」

「あ、はーい」


 そんな風にアジュラさんに声を掛けられ、少しばかり先に進んでいる一行へと慌てて駆け出した時のことだ。


「もしもし、そこな少年」


 振り返った僕は、思わず声を失った。


 肩に置いた手の人差し指を立てて僕のほっぺに刺す古典的手口や、真後ろを取られたのに声を掛けられたことに気付けなかったことにではない。


「マトイ・ヤクサ……!?」

「あ、流石に覚えててくれました?」


 のん気に笑みを浮かべるのは、かつて帝都で僕の剣を揺らがせた女剣士。

 師匠の姉にして宿敵の、僕の目指すべき道の先に居るかも・・しれない存在だった。


 向こうが殺す気だったらとっくに死んでるよなとか、考える余裕はなかった。

 ただ、本能的に距離を取って抜刀しようと動き始めたところで、その動きが止められた。


「『神の奇跡の残骸』」


 思わぬ言葉を耳元でささやかれ、とっさに動きが止まった。


「あっ、ふーん。やっぱり、あなたも知ってるんですね。お国の普通じゃない方のお偉いさんたちとちょくちょく会ってるそうですし」

「お前、どこでそれを?」


 僕にだけぎりぎり聞こえるような声に答えながら、周囲を確認する。

 リディはすでに抜刀してるが、大きく実力差をつけられていることもあってか先に仕掛けようともせず間合いを詰めてこない。ルーテリッツさんは混乱した様子で動けていないし、メアリーはリディの後ろで矢を放てる体勢で援護に徹するつもりのようだ。

 アジュラさんやその他の事情を知らない人たちは、事情が分からないのでもちろん静観の様だが、いつでも動けるように油断はない。


 そんな中、マトイが僕と肩なんて一方的に組んでやけに親しに周囲に呼びかけ始めた。


「いやぁ、皆さん申し訳ない! 私とここなミゼル君は同志なんです。ほら、同じヤマト風の服でしょう? ちょっと前に会ったときにイタズラが過ぎてしまいまして、この通りです。お騒がせしました。――あ、ちょっと彼をお借りしますねー」

「おいこら!? ちょっと待て! 勝手に決めるな!」


 僕の当然の文句に、マトイはすぐさまささやきモードに戻る。


「弟子入り云々は今は忘れましょう。せめて、交渉だけでもさせて下さい。今回はどうしようもなくヤバいんですよ。お互い、死ねない理由があるはずですし、期間限定でならば手を取り合えるはず。こっちは|反国家組織(本職)的に、堂々と出来ないお話もあるんで、ちょっと人払いが要るんです」

「なら、リディやメアリーやルーテリッツさんは居ても良いだろう?」

「言ったでしょう? 人払い・・・をするんで、あなた以外が来るのは無意味です。――今回の特異個体は、あなたが思ってるよりもずっと特殊ですよ」


 『人払い』について、僕以外は無意味との発言と、以前マトイが帝都を『死なせた』出会いの夜を思い出す。

 ……まあ、あの時のタネなら、僕かルーテリッツさんくらいしか行けないだろうか。で、ルーテリッツさんが交渉の席でやれることはないというか、火力はあっても戦闘が本職じゃないから両方の陣営的に動きが読めないしなぁ。


「あ、アジュラさん。みんなを連れて先に行って下さい。僕は、少し旧交を温めてから行きます」

「ちょっとミゼル!? そいつは――」

「大丈夫ですよ、あなたの彼氏は無傷でお返しします。ええ、我が剣に誓って、ね」

「かぁ!? かかかかかかか……!」


 急にフリーズするリディに、「思ったよりもチョロかったですね」なんてつぶやいて僕を連れて行こうとするマトイ。

 その前に、フォローしなきゃ。


「メアリー! ちょっと来て。大丈夫だから」


 そう声を掛ければ、首をかしげ、警戒を維持しながらもハーフエルフの少女はゆっくりと近づいて来た。


「リディが落ち着くまでしか時間ないから手短に言うけど、交渉してくるからこの女の正体含めて無難に誤魔化しといて」

「……ふ~ん。まぁ~、早く帰ってきなよぉ~」


 きっとよく分からないままだろうが、僕のことを信じてくれたのか、何も聞かずに頼みごとを聞いてくれたメアリーは、さっさと戻っていく。


 こうして、正気を取り戻したリディが暴れまわったりのリスクを無くし……出来る限り押さえ込み、大人しくマトイに肩を抱かれて歩き始めたのだった。


「正直、もう少し渋られると思いました。武装解除までは覚悟してたんですがね」

「それくらいじゃ、今の・・僕ら四人がかりでも勝てる気がしない。この状態で刀を取り上げたら、せめてお前の全力の斬撃をもう一度見るって『最後の希望』まで無くなっちまうだろうが」

「……やっぱり、イサミの弟子じゃなくて、私の弟子でないと道理に合わないと思うんですけど?」

「弟子入り云々は忘れるんじゃなかったのか? 約束一つ守れないんなら、今からでも帰るなりお前の斬撃くらって僕が死ぬなりしても良いんだぞ?」

「えー。今のはそっちが誘ってきたのが悪いでしょう?」


 ちなみに。

 こんな殺伐としたようなほのぼのしたようなやり取りをしつつ肩を組んで歩く僕らは、話の内容がよく聞こえていない周囲の冒険者や住民たちから、年の離れた姉弟や、仲の良い母子のように微笑ましく見られていたことは、僕が知るよしもなかった。





活動報告ですでにお知らせしていますが、12月に大きな出張が入った都合で、先週の更新をお休みしました。

この先も一切影響がないとは言い切れないので、活動報告をご確認ください。

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