今日は楽しいひなまつり
桃の節句に寄せて。
明かりをつけましょぼんぼりに
お花をあげましょ桃の花
五人囃子の笛太鼓
今日は楽しいひなまつり
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彼女の祝言を自分の笛で祝えるのだ。喜ばしいことではないか。
言い聞かせてみるものの、全くそんな気分にはなれなくて。
ただただ、愛しい。
俺が幸せにしてやりたかった。
そんな想いが後から後からあふれでてくるのだ。
あなたへの恋心に気付いた瞬間に俺の恋は終わっていた。
あなたは俺の主人の息子どのの婚約者で、俺はただの下男だったから。
身分という大きな歪みが二人の間に横たわっていて、俺もあなたもその歪みを飛び越えることはできないのだった。
だから懸命に懸命にその想いを押し潰した。
何回も何回も何回も。
でも潰せば潰すほどむくむくと感情は膨れ上がり、ついに祝言の今日まで大きくなり続けていた。
もういい加減現実を見なくてはいけない。
あなたは、今日この式が終われば完全に俺以外の男のものになるのだから。
それを思うと無性に悲しく、空しい。
他の男のために着飾ったあなたを見て美しいなんて言いたくはない。
しかし確かにその言葉が一番よく似合っていて。
だから俺は笛を吹く。
五人囃子の一人としてこの祝言を素晴らしいものにしてみせよう。
私の愛するあなたのために。
たとえ今日を境に他の誰かのものになるとしても、今だけはあなたも笛の音の虜だ。
だから、いいだろうか。
演奏をしている間だけ、あなたを好きでいていいだろうか。
愛していていいだろうか。
捨ててしまう前に、もう一度だけ大切にしたいのだ。
好きだ好きだ好きだ好きだ。
でももうさようなら。
願わくは、君が幸せであるように。
笛の音に全てを込めた愛の告白。
今日は楽しいひなまつり。