闇~ダークサイド~
あらすじのような発想であたためていた作品ですエタらせる気はないので長い目で見ていただければ幸いです。なお本作品は医学知識の乏しい作者が書いておりますので御容赦下さい。なお本作はガン患者及びその関係者に一切悪意を持って書いてはおりませんので御容赦ください。
「ちくしょう!なんだったんだ俺の人生…」
投げつけた缶ビールの空き缶に野良猫が驚いて逃げてゆく。
足元には握りつぶした空き缶が既に7本は転がっている。不意にこみ上げてきた不快感に近くの用水路に首を差し出し胃の中身をぶちまける。不快な酸味と苦味の混合液を吐き出しながら涙がこみ上げる。
「胃がんですね…それもかなり大きくなっています、私としては早急に手術することをお勧めします。」
レントゲン写真をポインターで指し示しながら医師に告げられた言葉が圧し掛かる。
いままで47年間くそ真面目にやってきた。酒は付き合い程度、タバコはやらずギャンブルも興味が無い。何人かの女性とも付き合ったが『真面目すぎて面白くない』と去っていった。大出世とは縁遠いが課長にはなれた。両親は他界、兄弟もいない…そんな自分がいったいなんでこんな目に遭わねばならないというのか…。
入院を明日に控え上司からかけられた一言は「まあお前の居ない穴は皆で適当に埋めておくからまあ養生しろ」だったのだ。適当…そんなに俺は会社にとって軽い存在だったのか…?。
会社を出たその足でコンビニに入り缶ビールを買い求め帰宅途中の公園で自棄酒を始めた。飲み屋でくだを巻くのはイヤだったし自宅で飲むのは寂し過ぎた…。公園で飲みだしたのだってソコに痩せた野良猫がいて、つまみに買ってきた竹輪を投げてやったらガツガツ食いだしたのでそれを見ながら飲みだしただけなのであった。その相棒もさきほどの八つ当たりで退散してしまった…。
「おじさん…」
ふいに後ろから声をかけられ振り返るとジーンズにパーカーを着た少女が後ろに立っていた。
「…なんだ?お嬢ちゃん、こんな時間にコンナとこいたら危ないぞ?」
ふわっと花が咲くような微笑を返されドキリとする。
「あのさ…アタシもさっきの子みたいにお相伴になっていいかな?」
さっきの子?少し思考し野良猫が思い浮かぶ。
「なんだ?家出かなにかか?竹輪はさっきの奴が全部食っちまったし…お嬢ちゃんにビールはダメだろ?まあいいやこれでなんかくいな?」
そういって財布から2千円取り出し手渡そうとして少女の顔が急接近しているのにどぎまぎする。
鼻腔をくすぐる甘い香りをかいだ瞬間、男は意識を失っていた。
巡回の警察官に起こされ慌てて財布を改めた男は現金もカードも無事だったので少女の事は酔って見た幻だと自分を納得させ翌日入院のために病院へ向かうのだった。
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「ありえませんが奇跡としか言いようがありません…。」
入院の翌日、手術前の検査結果をみて医師は愕然としていた。前回の検査であれだけ胃の広範囲に広がっていた腫瘍が綺麗さっぱり消えていたのだから無理も無い。
男は医師に心当たりを聴かれ自棄酒を飲んだ話をした。間違いなくそれは原因じゃありませんと医師に断言されながら男はもしかしたら天使に会ったのかもしれないなとぼんやり少女を思い出していた。
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「有り得ん!」
頭をかきむしり医師の芥川は憤っていた。患者の胃がんが綺麗さっぱり消えていたのである。20年間癌専門医としてやってきてあり得ない現象だった。もっとも小さい癌や潰瘍が自己治癒してしまう事は無いではない…だが今回の患者のレベルまでなった癌が消えるなどあり得なかった。
もっとも通常の医師であれば患者の身に起こった奇跡を喜ぶべきであろう…。だが芥川にはそれが喜ぶどころか憤りでしかなかった。自分の見立てが違ったのではないかと思われるのではないか?という自尊心への刺激、なにより予定していた晩餐のメインディッシュが奪われた事に芥川は憤っていた。
「仕方が無い…味は落ちるが養殖モノで我慢するか…まあ来週は久しぶりの乳がんのオペだそれまで楽しみが伸びたと思おう。」
携帯に手を伸ばすと芥川は電話をかける。
「んぁい…こりゃ芥川の旦那…どうしたんです?もうじきサイズのいい天然モノが手に入るんじゃなかったんです?」
「少々予定が狂ってね。悪いが丹堂君、適当に見繕って家に一人届けてくれるかね?」
「御代さえいただけりゃまあ問題ありません。…そうですねセンター街で拾った一ヶ月物の家出JKなんざどうです?すい臓に仕込んでありますけど?」
「ああそれで構わない代金はいつもどおり手渡しでいいかね?」
「問題ありません。んじゃ7時にはお届けに上がります。」
「うんよろしく頼む。」
携帯を切ると芥川は思いをめぐらせる。胃であればフルボディの赤の予定だったがすい臓であればフルーティな軽めのロゼにするとしよう…。クラッシックを聞きながら晩餐に思いをはせる芥川であった。
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