(5)豚の肉
翌朝。
定番の筋肉痛もどきは無かった。
「・・・あれ?」
ステータスを確認してみたが、職業LVアップが無かった。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:作成師LV4
体力 :370(+10)
魔力 :630(+50)
力 :6
素早さ:7
器用 :18(+3)
知力 :10(+1)
精神力:12(+2)
運 :9
スキル:調合LV3(1up)、鑑定LV2、俊敏LV1、短剣術LV1、風魔法LV1
いつもとステータスの上がり方も少ないので、やはり職業レベルによるレベルアップのステータスの上がり方は大きいのだろう。
昨日は、回復薬の作成もさほど数を作れなかったので、レベルアップが無かったのもしょうがない。
「よしっ」
昨日の反省点は、一気にいろいろなことに手を出し過ぎたという事だ。
だからと言って、今進めている香草の実験を止めるわけではない。
まずは今乾燥させている香草でどうなるのかを試してみることから始める。
新しい香草の採取はしばらくはお預けにする。
そう気合を入れて、昨日夜の間放置していた香草を確認しにフィールドに出る。
ルフが付いて来そうになったが、すぐに戻ると言うと、部屋の中に戻って行った。
「・・・あれ? 香草どこ行った?」
ここで初めて、風で飛ばされていることに気付いた。
「それはそうだよな。そんなことも忘れるなんて、何をやってるんだ」
思わず膝をつきそうになったが、ぐっとこらえてどうするかを考えた。
石とかで抑えてもいいのだが、どう考えても香草にダメージを与えそうだ。
「紐とかで縛りつけてもそれは一緒かな?」
取りあえずいい道具もないので、ちょうどいい大きさの石で押さえておくことにした。
いずれはこれも改善しないといけないだろう。
いや、そもそも乾燥させて上手くいくかどうかも分からないのだが。
どうせ手さぐりでやるしかないので、一つ一つ試していくことにする。
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今日から数日は荷車へ向けて寄り道をせずに、薬草採取のみを行うことにした。
湖周辺で採取をしているのだが、湖自体が大きいこともあってか、群生地帯が無くなるという事はなさそうだった。
そもそもまだ湖も周回していないのだから、一周する頃には元の群生地帯が元の状態に戻っていることを期待している。
薬草がどれくらいの周期で生え変わるのかは把握していないので、期待通りになるのかは不明だが。
少なくとも当分の間は、薬草に困ることはなさそうだ。
そしてモンスターとのエンカウント。
今日もモンスターとは遭遇しなかった。
一応掲示板をチェックして、採取エリアではモンスターの出現率が少ないという事は確認している。
「といっても、これは少なすぎじゃないか? 拠点の近場だからか?」
拠点から離れた場所に行った場合は、遭遇率も変わるかも知れない。
だが、ここ数日の様子を見ている限りでは、湖周辺ではほとんど遭遇しないと考えた方がよさそうだ。
そうなると、以前却下した案が頭に浮かんでくる。
「現地で調合したほうが、効率よくないか?」
そもそも拠点で調合することにこだわったのは、戦闘になった時に放置することになってしまうからだ。
ただし、一日一回程度で戦闘が済むのであれば、それはそれでいいのかもしれない。
「作ったアイテムをどうやって持ち運びするのかと言う問題もあるけど、それは袋とかで対処できそうだしな」
よく言えば、様子を見ながら、悪く言えば場当たり的に色々方針を決定しているので、コロコロと変わってしまっている。
現地生産も一度捨てた案だが、状況が変われば拾い上げるのもありだろう。
そもそも誰かが確認しているわけではないのだ。
より効率が良い方にシフトするのは、悪い考え方ではないだろう。
さらに言えば、荷車を購入する案は捨てるわけではない。
サポートキャラが増えた場合に、ハジメが拠点に残って調合をして他のメンバーで採取をするという事もあり得るのだから、用意すること自体は問題ないはずだ。
スキルで、アイテムボックスもどきの物も探せばあるかも知れないが、今はスキル枠がいっぱいいっぱいなので保留にしている。
もっとも、どう転ぶかは増えるメンバー次第だ。
それはともかく、明日は調合用の道具を持ってきて現地生産を試みること決めるのであった。
朝から薬草狙いで、更にルフの鼻が大活躍したため、この日は百本を超える薬草を採取できた。
採取も慣れてきているので、比較的品質が良いものも取れてきている。
薬草単体だけでDランクを超える物は無いが、それでも「E+」が半分以上採れた。
百本以上をとっても処理がしきれないので、採取を終えて拠点に戻る。
中に入る前に、朝に石を置いていた香草を確認したが、今度は風に飛ばされることなくきちんと残っていたので、そのまま放置を続けることにした。
拠点の中に入ってそのまま回復薬の作成を始めた。
勿論、ヘミール湖の水も忘れず採取してきているので、その分はDランク狙いで作成する。
特に失敗もなくDランクの物が作成することが出来た。
それよりも「D+」が作成できたことが本日の成果だろう。
この調子で作り続ければ、Cランクも目指せるかもしれない。
ヘミール湖の水が無くなった後は、通常の回復薬の作成だ。
これも失敗せずに全ての薬草を処理することが出来た。
一応、自分たちが使うために、回復薬は常備しているがその本数は五本程度が残るように調整している。
それ以上になると持ち歩くのが煩わしくなる上に、そもそも戦闘も数多くあるわけではないので必要ない。
就寝する前に、ルフと戯れてからこの日の作業は終えることにした。
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「あいだっっ!!」
さらに翌日。
前日は無かった筋肉痛もどきが起こっていた。
ステータスを確認すると、しっかりLVが上がっていた。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:作成師LV5(1up)
体力 :470(+100)
魔力 :780(+150)
力 :7(+1)
素早さ:8(+1)
器用 :23(+5)
知力 :14(+4)
精神力:17(+5)
運 :9
スキル:調合LV4(1up)、鑑定LV3(1up)、俊敏LV1、短剣術LV1、風魔法LV1、空き×1
器用値の伸びがいい感じになっている。
というよりも、体力の伸びが悪い気がする。
とは言え、戦闘らしい戦闘を行っていないので、こんなものかもしれない。
一応、回復薬を作るときにはある程度体力は使っているはずなのだが、こんなものなのだろうか。
残念ながらステータスを考察するような掲示板は立っていないので、何とも言えない。
スキルも<調合>と<鑑定>に関しては、順調に上がっているので喜ばしい。
逆に戦闘に関係ある他の三つは全く微動だにしていない。
戦闘を行わないことにはこれもどうしようもないので、しょうがないと割り切るしかない。
そのうち戦闘スキルを上げるために、討伐遠征なども必要になってくることもあるだろう。
現状はそこまでする必要もないので、取りあえず気にしないことにする。
職業レベルがLV5になったので、スキルの枠が一つ解放されていた。
掲示板情報にあった通りだ。
今のところ急いで取る必要があるスキルは無いので、このままにしておく。
いざ必要になった時の為だ。
と、思っていたのだが、ステータスの確認を終えてメニューを確認していると、クエストが増えていることに気付いた。
増えているのは、調合系だと考えていたら別の物も増えていた。
New!「魔力付与を覚えよう」
増えたクエストを見ていて、一番気になったのはこれだ。
魔力付与をヘルプで確認すると、物質に対して様々な魔力の付与をする技術らしいことがわかった。
改めて増えたクエストを確認してみる。
残念ながらクエストでは、納品する物は書いてあっても何の技術を使うかまでは書いていない。
それではと<神の作業帳>を確認してみると、新たに追加されている物があった。
新しく増えたアイテムを確認すると、どうやら魔力付与が必須の技術になっていた。
ついでに作成に必要な物も未だ見たことがない物だったので、取りあえず余裕が出来るまでは保留にすることにした。
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諸々も確認が終わった後は、現地生産を試すために湖へ向かった。
取りあえず様子を見るために、一つ目の薬草の群生地で三十本ほどの薬草を採取する。
ちなみに、ルフも採取しつくすことが無いようにしているのを理解しているのか、毎回違う場所に案内してくれている。
本来であれば、戦闘でも活躍できるだろうが、その戦闘自体が発生しないので、こればかりはどうしようもない。
ハジメがその場で調合を始めると、ルフは辺りを警戒しているのか、クルクルと回り始めた。
近すぎず、遠すぎない場所で見回っている当り、完全にハジメがやっていることを理解しているのだろう。
明らかにハジメが知っている犬とは知能が違っている感じだ。
こういうと犬派の方々から抗議が来そうだが、ハジメは犬派なので普通の犬たちも知能が高いことは十分理解している。
それでも比べると明らかに上と言った感じなので、別に贔屓目で見ているわけではない。
サポートキャラの選択時に、<幸運のチケット>を使ってよかったと、改めて思うハジメだった。
一か所目での作業をそろそろ終えようとしたその時、事件は起こった。
周囲を警戒していたルフの唸り声が、聞こえて来たのだ。
一応周辺を見回して、すぐに来ないことを確認してから、慌てず騒がず道具をある程度片づけた。
流石に全部をしまえるほどの時間はない。
ルフが警戒している方を見ると、ゴブリンと違った何かが寄ってきているのが分かった。
「・・・・・・豚?」
姿形は豚そのものだった。
ただし、その性格は完全にモンスター仕様になっている。
牙が生えていれば、猪と言われても分からなかっただろう。
それはともかく、鑑定をしてみると、<オイリオブタ>と出て来た。
来ているのは一匹だけだったので、ホッとした。
群れで来られると対処が全く変わってくるからだ。
近づいてくるその豚を見ながら、さてどうしようかと考えていると、ルフがいきなり仕掛けた。
その後は、ルフの独壇場だった。
ハジメの付け入る隙間は全くなく戦闘が終わってしまった。
「うーむ。このままだと戦闘が全くできないな」
そんなことを思いつつも、オイリオブタの傍で嬉しそうに尻尾を振るルフを撫でるのを忘れずに行った。
横たわっているオイリオブタを見つつふとある疑問が湧き上がった。
「ルフ、こいつ食べる?」
「ワフ!!」
ハジメがそう言うと、ルフが嬉しそうに返事をして来た。
「そうか。食べるのか。・・・・・・食べてていいよ」
その声を待っていたかのように、ルフが速攻でオイリオブタに食いつき始めた。
パックに包まれた肉を見慣れている元(?)日本人としては、何となく引いてしまうような光景だが、これも自然の摂理と割り切ることにする。
そもそも以前にゴブリンを自らの手で殺しているので、ひどい嫌悪感はわいてこなかった。
一応食事をしつつも周囲の警戒は忘れていないのか、時々周辺の様子を窺っているルフを横目に見ながら、ハジメは残りの薬草を調合し始めた。
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その後は二か所ほど場所を移して、この日の作業を終えた。
作れた回復薬は、五十本ほどがDランクの物で、残り十本がEランクの物だった。
明らかに現地生産の方が効率がいいので、このまま現地生産を続けることに決めた。
いつまでも続けるつもりはないが、それはより効率的な方法が確立できてからだ。
気になることがあるとすれば、ルフのレベルが全く上がる見込みがないことだ。
これは湖周辺で活動している限りは、モンスターとの遭遇が少ないのでどうしようもない。
今は、焦って周辺を調査するよりもまずは生活を安定させることが先だ。
今でも生活自体は出来ているのだが、必要最低限と言った感じなので、何とかそれを改善したい。
具体的には、風呂に入りたい。
購買には石鹸とシャンプーがあることも確認済みだ。
ただし、石鹸はともかくシャンプーは贅沢品扱いなのか、それなりの値段がする。
そもそも管理人がどういった経路でこれらを手に入れているのか、不明なのだが。
そう言うわけで、しばらくの間は湖周辺で活動をして、何としても風呂が入れる生活を手に入れると改めて決意するハジメであった。
すでに日別ランキングに載っていて驚いている作者です。
ランクイン記念として本編では絶対に出てこない設定を一つ公開します。
それはミクシードワールドというタイトルについて。
ミクシードは、ミックス(混ぜる、混ざる)とシード(種)を合わせたものです。
ワールドはそのままですねw
シードの「種」は、植物の種以外もイメージしています。
いろんなものの種ということになります。