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ミクシードワールド ~神の作業帳~  作者: 早秋
第六章 運営からの直接依頼
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(9)運営からの報酬

 今ハジメの目の前にいる運営は、以前のときと違ってハジメと同じ顔ではなかった。

 それでもなぜか、以前の運営と同じ存在だということがわかった。

「あれ? 最初に気にするところは、そこなんだ?」

 ダビデ像に代表されるような中世ヨーロッパ系の顔立ちをしたその男は、ニヤけた表情をしており折角のイケメンが台無しになっている。

 そんなどうでもいいことを考えていたハジメに、運営は指をさしながら突っ込んできた。

「うわっ! ひっど! よりにもよってそんな感想はないんじゃないか?」

「事実だ。それに、勝手に人の心の中を読んでいる方が悪い」

 ハジメが開き直ってそんなことを言うと、運営は楽しそうに笑い出した。

「ハッハッハ! 何ともハジメらしいね」

 そんなことを言って来る運営だったが、今のハジメの態度は半分以上虚勢が入っている。

 何しろ目の前にいる今の運営からは、初めてヒエロニムスに会ったとき以上の威圧感を感じる。

 以前はそんなことは全く感じていなかったのだから、もしかすると姿も関係しているのかもしれない。

 そんなことを考えたハジメに、運営はパチパチと拍手をした。

「正解! まあ、そんなことはどうでもいいか。そろそろ本題に入るよ?」

 唐突な話題転換だったが、ハジメとしてもいつまでも軽い話題に付き合うつもりはなかったので、コクリと頷いた。

 

 そんなハジメを見ながら、運営はごそごそと懐の中から二つのアイテムを取り出した。

 ひとつは先ほどハジメが送ったはずの<神のオーブ>で、もうひとつはここにあるはずのない<神の作業帳>だった。

「何故それがここに?」

「現物が目の前にあった方が良いと思ってね。ちょっと拝借させてもらったよ」

 首を傾げるハジメに、運営がさらりとそう答えた。

 何でもありだな、と思ったハジメは、突っ込むのはやめておいた。

 それに、この場に来て、何となくだが運営の正体にも気が付いている。

 その予想が当たっていれば、反抗したところで無駄な相手なのだ。

「そうか。それで? わざわざこんな場所に呼んだということは、何かあるんだろう?」

「いやいや。そう身構えないでよ。単に依頼の物をちゃんと作ってくれたから、お礼を言おうと思って呼んだんだよ?」

「それだけか?」

「そうだよ?」

 こんな場所に呼ばれて身構えていたハジメは、その答えにわずかに脱力した。

 

 そんなハジメを見てニヤリと笑った運営は、持っていた<神のオーブ>を少しだけ上に持ち上げてみせた。

「それに、折角だから、ちょっとした技でも見せてあげようと思ってね」

 運営はそう言うと、持ち上げた<神のオーブ>を一度ハジメにも見えるようにしてから、両手で包み込んだ。

 すると、その手の中から次第に光が漏れて来て、やがて直視するのが難しい程にまで強い光になった。

「・・・・・・なんだ?」

 右手でその光を遮りながら、何とか状況を見ようとしたハジメだったが、光のせいで何が起こっているのかはよくわからない。

 次にハジメが気が付いたときには、運営の手には五つの光があった。

 そして運営が「えいっ」とその光を空に放ると、一つの光はハジメへと向かい、残りの四つはどこか別の場所へと飛んで行った。

「うわっ!?」

 自分へと向かって飛んできた光に驚いたハジメは、思わず声を上げながら身構えてしまった。

 反射的な行動をとってしまったが、飛んできた光は特に抵抗もなくハジメの胸の中に入り込んできた。

「・・・・・・これは?」

 胡乱な目で見たハジメに、運営は大袈裟にため息をはいた。

「うわっ、その顔はひどいな。依頼達成の報酬だよ。あとこれも」

 運営はそう言って、持っていた<神の作業帳>をハジメに向かって放り投げた。

 

 いきなり放り投げられても流石に取り落とすことは無かったハジメは、受け取った本のタイトルを見て怪訝な表情になった。

 そこには、<神の修練帳>と書かれてあったのだ。

「なんだ、これは?」

「うーん。言うなれば<神の作業帳>のバージョンアップ版? 大丈夫。今までの分もちゃんと書かれているよ」

 運営に促されて中身を確認したハジメは、確かに今まで作ったものが全て記載されていることを確認した。

 ただし、<神の作業帳>で指定アイテムだったものが基本アイテムに、指定外アイテムは独自アイテムに変化している。

「何が変わったかは、分かったかな? ここから先は、ハジメが自由にやっていけばいいさ。まあ、今までも十分好きにやって来たみたいだけれど」

 そう言った運営は、クククッと小さく笑ってから続けた。

「さっきの光は・・・・・・後で拠点に帰ってからステータスを確認すればいいよ。ああ、ここでは<鑑定>は使えないから、確認できないよ。というか、さっきから僕に使おうとしてただろう?」

 <鑑定>スキルを使おうとしていたハジメは、運営の言葉にピタリと止まった。

「ああ、別に気にしなくていいさ。それだけスキルを使うのが身に付いている証拠だ。むしろ僕としては嬉しいよ」

 そんなことを言って来る運営に、ハジメはばつの悪そうな顔になることしかできなかったのであった。

 

 そんなハジメに気にした様子を見せることもなく、運営は両手を広げた。

「さあ、僕からは以上だ。折角クリアしたんだ。色々聞きたいことがあるんじゃないか?」

「・・・・・・聞いていいのか?」

「勿論さ! まあ、答えられないこともあるけれど、それはそれ。前よりも答えられることは増えているさ。ああ、それから、こちらで禁止ワードを設定しておくから、他のプレイヤーに伝えようとしても伝えられないこともあるからね」

 それを聞いたハジメは、なるほどと納得した。

 運営があの世界を「ゲーム」と考えているのなら、その位のことはやっていてもおかしくはない。

 この場でした質問の答えも「クリア」の報酬のうちなのだ。

 それならば、とハジメは遠慮なく今までの疑問を聞くことにした。

「お前は神なのか?」

 何とも中二臭い質問だったが、ハジメにしてみれば、こんな世界を気楽に用意できる存在などそれしか思い浮かばない。

 そして、ハジメに問われた運営は短く笑った。

「神・・・・・・神ねえ。少なくともハジメが知っている神のうち、全知全能の神とやらではないことは間違いないね。ただし、人智をを超えた力を持つ存在としての神なら当てはまるんじゃないか?」

「・・・・・・なるほど。それじゃあ、次だ。なぜあの世界を用意した? なぜ俺だったんだ?」

「次といいながらふたつ同時かい? まあ、いいけれど」

 そう言って一度言葉を区切った運営は、少し考えるように間をおいてから続けた。


「そもそもの理由は大したことではないよ。ハジメの世界のゲームとやらを見ていて、自分も似たような世界が作れないかを試してみたかったんだ。そしたら、僕と似たような存在たちが次々と興味を持ってね。結果今の形に収まったというわけだ。

 ハジメを選んだ理由は、特にこれというのはないよ。単に僕の招待状に、ハジメが反応しただけだ。ただ、ミクシードワールドに来た者の共通点として、元の世界に退屈していた、というのはあるかな?」

「・・・・・・退屈、か」

「ああ、楽しかっただろう?」

 得意そうな顔になる運営を見ながら、ハジメは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「・・・・・・否定はしない」

 まんまと運営の思惑に乗せられている気もしなくはないが、あの世界にきてからの生活が充実していたのは間違いない。

 最初のころこそ、戸惑いや怒りという感情も多少はあったが、今となってはそんなものは無くなっていた。

「さっきクリアと言っていたが、この先はどうすればいい?」

「どうもこうもないさ。それこそハジメの好きにすればいい。ああ、こっちからも依頼を出すから出来ればやってほしいな」

「・・・・・・報酬が良ければな」

 ハジメの答えに運営は、クククッと笑った。

「まあ、出来るだけ期待に応えるようにするよ。ああ、そうそう。折角だからヒエロニムスの住む世界も見回ってみるといいよ。今までになかったアイテムも見つかるだろうさ」

「ほう?」

 思ってもみなかった情報に、ハジメは眉を吊り上げた。

 運営の方針からして、そんな情報を与えてくるとは思わなかったのだ。

「こっちから言わないとハジメの場合、いつまでたっても拠点に引きこもっていそうだからね。わざわざ他の世界と繋げたのに、それじゃあつまらないだろう?」

「他の世界?」

「そうさ。何となくは気づいていたんだろう? 第一エリアの第三段階から先は、もともと存在している別の世界さ。ハジメから見れば、異世界ということになるのかな? 世界中を見て回れば、色々有益な物も見つかるはずだよ」

「そうか」

 運営からの情報に、ハジメは納得したように頷いた。

 

「それじゃあ、これが最後になるが、『五人目』以降はいないのか?」

 サポートキャラが四人で止まっているのは、長らくプレイヤー間でも議論になっていることだった。

 ハジメももっとサポートキャラが増えればと思ったことは、一度や二度ではない。

 その問いに、運営はあっさりと首を左右に振った。

「いや、そんなことはないさ。ちゃんと条件は用意してあるよ。ただ、まだプレイヤーたちが見つけれていないだけさ」

「そうか」

「そういえば、そのうちの一つは、ハジメが見つけたね」

 その言葉からクリアが条件の内の一つだったのだろうと、ハジメは当りを付けた。

 さらに、運営の言い方では、他にも条件がありそうだった。

 考え込んだハジメに、運営は笑顔を見せた。

「まあ、色々とやってみるといいさ。これ以上は言わないけれどね」

「ああ、当然だな」

 最初から条件が分かっていては、折角のゲームも面白くない。

 もっとも、プレイヤー間で情報を共有している時点で攻略本を見ているようなものじゃないかという意見もあるが、そこはそれ、一番に条件を見つけるという楽しみ方だってある。

 とにかく、まだまだサポートキャラを増やせそうだという事が分かれば、ハジメとしては十分だった。

 

「それじゃあ、そろそろ質問も打ち止めかな?」

 考え込んだハジメを見て、運営はポンと両手を合わせた。

 他にも色々と聞きたいことはあった気がするがハジメだったが、いきなりの事だったのですぐには思い浮かばない。

「・・・・・・ああ、こんなもんだろう」

「まあ、これからも僕と会える機会はあるさ。それまでに考えておけばいい」

「わかった」

「それじゃあ、拠点へ戻すよ」

 頷くハジメを見て、運営はそう言った。

 その言葉に、ハジメは運営を見ながら「ああ」と頷いた。

 そして、次の瞬間には、ハジメは拠点へと戻ったのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 拠点へと戻って来たハジメは、思わず「あの野郎」と呟いていた。

 最後の最後に運営は、とんでもない情報を与えて来たのだ。

 それは「そういえば、そろそろ第二陣が行くと思うからよろしくね」というものだった。

 第二陣というのは、言うまでもなくハジメたちのようなプレイヤーがさらに追加されるということだろう。

 この情報を開示すれば、再びお祭り騒ぎになることは目に見えている。

 その前に運営から聞いた情報を他のプレイヤーに話すだけでも十分驚きだというのに、だ。

 もっとも、どこまで情報を開示できるかは、ハジメ自身が確かめないといけない。

 これから降りかかってくるだろう面倒に、ハジメはため息をはくのであった。

 

 そんなハジメの様子を、イリスたちサポートキャラは、訝し気な表情で見ていた。

 ハジメにしていれば、長いこと運営と話していた気分になっていたのだが、彼女たちにしてみれば、一瞬の出来事だったのである。

 彼女たちの様子を見てそのことを察したハジメは、「何でもない」といいながら端末へと向かった。

 運営に言われた通り、ステータスを確認しなければならない。

 そして、すぐに運営が何のことを言っていたのか、理解できた。

 今までハジメやルフ、イリスは、職業が<master!>になっていて、それ以上の職業は無かった。

 それが、さらに上の職業が追加されていたのである。

 その職業とは、ハジメが<神級作成師>、ルフが<フェンリル>、イリスが<農婦(神人)>だった。

 更に、バネッサとエイヤは、それぞれ<戦女神>と<神威魔導士>がグレーアウトして今の職業が<master!>になれば、次の職業として選べるようになっていた。

「ハジメ様、これは?」

 ハジメと一緒に画面を確認していたイリスが、不思議そうな顔で聞いてきた。

「ああ、これが報酬の一つみたいだな」

「そうでしたか」

「これで、今の職業を<master!>する楽しみが増えたわね」

「楽しみ」

 ハジメの言葉に、三者三様の答えが返って来た。

 

 早速とばかりに、既に<master!>になっている三人(ルフ含む)を転職させることにした。

 そして、ルフを転職させた際に、他の全員が驚くことになる。

「ハジメ、話せた。ようやく。嬉しい」

 そこには銀髪を持つ少女がひとり立っていたのだ。

 いうまでもなくルフが変化した姿だった。

 一瞬呆然としていたイリスは、慌てたようにルフが着るための衣装を探しに走り、バネッサとエイヤは「可愛い!」と叫んでルフに抱き付いていたのであった。

 

 少しの間騒がしくなっていた拠点だったが、すぐに落ち着きを取り戻して改めてステータスを確認した。

 すると、五人全員に共通して<天恵スキル>というものがあり、そこには<神の加護>というレベルを持たないスキルが追加されていたのである。

 このスキルのおかげで新しい職業の道が開けたのは間違いない。

 こうしてハジメたちは新たな力を手に入れることになったのである。

 

 その後は、ルフたちに運営と会っていたときに話した内容を話して驚かれたり、パティの所に行って同じ話を繰り返してさらに驚かれたりした。

 そのときのパティの反応は、中々に見ものだったのだが、それはまた別の話。

 このときに持ち帰ったハジメの情報は、プレイヤーたちを大いに賑わせることになるのだが、特に強さが頭打ちになっていたトッププレイヤーたちが張り切ることになったのは、ある意味当然だろう。

 交流の街に大きな爆弾を落とすことになったハジメは、拠点に戻って今回の最後の報酬を確認することにした。

 それは五人目のサポートキャラの獲得である。

 そして、新たに仲間を加えたハジメは、新しくなった<神の修練帳>と共に、更にこの世界を賑わせて行くことになるのであった。

 これでミクシードワールド ~神の作業帳~ の話は終わりになります。

 といっても、まだ今章の掲示板回が残っています。

 一応これで一区切りとさせていただきますが、この後も外伝的な話を書くつもりはあります。

 最初の一つ目は、最後に思わせぶりに書いてしまった、パティとの会話でしょうか?w

 詳しくは活動報告に書きますので、そちらをご覧ください。

 それでは、本編を最後までお読み下さいまして、ありがとうございました。

 

 早秋


 P.S パティの話は明日あげる予定です。

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