(4)ギルドのルール
第一エリアの第三段階を越えた先にある街は、決まった場所にあるわけではない。
方角は勿論、距離もそれぞれのプレイヤーによって変わってくるのだ。
「結局、手当たり次第に探すしかないってことね」
「そうなるな」
第三段階を越えた先にある街を探すにあたって、バネッサがため息を吐きながらそう言い、ハジメもうんざりした表情になっていた。
今まで行けた場所から一日以内で見つかるような場所にあればいいのだが、そうでない場合は時間がかかるのが目に見えているためだ。
報告例の中には、距離的に三日かけて歩いてもつかないような場所にあったという例もある。
「ルフが上手いこと匂いとかで見つけてくれればいいんだが、実際は難しいだろうな」
「クーン?」
名前を呼ばれたことに反応して、ハジメの足元で寝そべっていたルフが頭を持ち上げてハジメを見た。
ハジメはそのルフの頭を一撫でする。
「そうね。うまいこと風下にいればいいけれど、そんなに都合よくは行かないでしょうからね」
ハジメの言葉に、バネッサも同意して頷く。
「まあ、なんだ。手間がかかるかも知れないが、何とか探し出してくれ」
「そうね。地道に探すわ。急ぐわけではないのでしょう?」
「ああ。ゆっくりやってくれればいいさ」
街を探すことにしたといっても、特になにか急ぎの用事があるわけではない。
そもそも今まで街を見つけて来たプレイヤーが、なにか特殊なイベントが発生したという話もない。
精々が、どこかで聞いたことのあるテンプレのイベントだけなので、街に関してはあくまでもおまけ要素で、プレイヤーにとってはほとんど意味がないのではないかとまで言われている。
街が発見されたときは大騒ぎになったが、そうした情報が出揃うことによって現在では騒ぎも収まっていた。
そんな事情に加えて、ハジメが街探しを急いでいない理由がもう一つある。
「それに、今は街を探すことよりも、携帯拠点の効果を調べることの方が先だからな」
もともと『携帯拠点』に不具合が出ないかを調べるために、遠征をする必要があったのだ。
今回の街探しは、あくまでもそのついでなのだ。
「それはいいんだけれど、夜には戻ってくるわよ?」
『携帯拠点』の中に『転移石』を置いておけば、本拠点に直ぐ帰ってくることが出来るため、夜にわざわざ『携帯拠点』に泊まる必要はないのだ。
バネッサの言葉に、ハジメも頷いた。
「ああ、それは構わないさ。夜の間に長時間放置してどうなるかとかを調べたいからな」
いかに結界で守られているとはいっても、使われているテント自体はごく普通のものだ。
当然長持ちするようなエンチャントは掛けられているが、それだけである。
何度も出し入れすれば、傷んだりすることは当然起こりうると考えている。
そうしたことを調べるためには、どうしても使って確認するのが一番いいのだ。
「そう言う事ならいいけれど、私たちだけでなく、他の人にも頼んだらどう?」
「ああ、勿論そのつもりだ。折角ギルドに所属しているんだからな。ただ、それにしたってある程度は自分たちで先に調べた方が良いだろう?」
「確かにね」
ハジメの言葉に、バネッサは納得して頷くのであった。
このあとバネッサたちは、一週間ほどかけて第三段階の周辺を調査することになった。
第三段階と第四段階(?)の区切りは、丁度分かりやすく森が途切れている所だというのが分かっている。
正確には、平原から森に入った少し先、というのが境界だというのがヒエロニムスの言葉だった。
その言葉に従って、バネッサたちは森と平原の境界に沿って移動を繰り返したのだ。
一週間をかけて森の周辺を歩いたバネッサたちだったが、その日数だけでは元の位置に戻ることはできなかった。
そのことからも、ハジメたちの本拠点を中心にしたこの森が、かなり大きなものであることがわかる。
さらに、出てくるモンスターは、森の中よりもかなり頻度が低く、レベルも低めだった。
周辺調査と携帯拠点の調査という名目が無ければ第三エリアに籠ってレベリングした方が遥かにましだ、というのがバネッサとエイヤの言葉である。
実際、調査の後半は、エイヤが抜けてルフとバネッサだけで調査を行っていたほどである。
それだけの期間をかけて調査を行ったバネッサたちだったが、結局街の発見どころか、人と遭遇することは無かったのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
一週間である程度のデータが取れたので、今度は複数のギルドメンバーに調査をお願いするためハジメはイリスと共にパティの店を訪ねた。
だが、パティの店に入ると、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「だから、あんたには売れないって言ってるじゃないか!」
「ある物を売れないとは、どういうことだ!?」
店の中で男女が言い争いをしている。
最初に「売れない」と言った女性がイーネスで、後者の男性がアルノーだ。
二人が言葉を止めて言い争っている間に、ハジメが店内にいたギルドメンバーに状況を聞いた。
速い話が、店に出ている装備を巡っての言い争いのようだった。
最初にアルノーが目を付けた装備を、イーネスがギルドメンバーに与える予定があるから売れないと言ったらしい。
最初は軽いやり取りだったのだが、お互いに引けなくなったらしく、ヒートアップした結果今の状態になっているそうだ。
幸いにして、店の中にいるのがアルノー以外には『紅月華園』のメンバーだけだったのでよかったが、下手をすればパティの店の評判に関わる騒ぎになるところだ。
その肝心のパティはというと、店の中にはおらず、シエラが困ったような表情で睨み合っている二人を見ている。
止めようとはしているのだが、シエラの言葉は二人には届いていなかった。
普段表に出てくることは無いのだが、こうした場面だとどうしてもサポートキャラだと軽んじられることもあり、それが悪い意味で如実に表れてしまったといえる。
もっとも、周囲にいる他のプレイヤーも止めることが出来ていないので、サポートキャラ云々よりも実力の差がでているのもある。
そうした状況を察したハジメが、ため息をついて二人に近づいった。
「二人とも、そこまでだ」
ハジメがそう言うと、それまで睨み合っていた二人が、ハジメに視線を向けて来た。
ハジメの実力は知れ渡っているので、イーネスもアルノーもその言葉を無視するわけにはいかなかったようだった。
「なんだ、お前も邪魔をするのか?」
「ハジメ、こんな奴の言う事なんか聞く必要ないよ!」
「だから、待てと言っているだろうが」
お互いに言葉を続けようとする二人に、ハジメは呆れた表情になる。
二人が沈黙したのを確認したハジメは、まずはイーネスを見て言った。
「まず、イーネス。ギルドメンバー用のアイテムに関しては、店には並べずに他できちんと確保するようになっていたはずだが?」
「うっ!? け、けど・・・・・・」
言葉に詰まったイーネスに、ハジメは更に畳み掛けた。
「けど、じゃない。仮にもサブマスターが、ギルドのルールを無視するようなことをするな」
「うっ・・・・・・。す、すまん・・・・・・」
「それを言うのは、俺にじゃないだろう?」
ハジメに頭を下げようとしたイーネスに、ハジメが右手で止めた。
それを見たイーネスが、もう一度詰まりながらもきちんとアルノーに頭を下げた。
「少し言いすぎた。・・・・・・すまなかった」
「むっ・・・・・・!? い、いや。俺も言いすぎたところがあるからな」
まさかこうまで素直に頭を下げられると思っていなかったのか、アルノーが視線をそらしながらそう言った。
それを見たハジメは、今度はアルノーを見て続けた。
「それから、アルノー」
「なんだ?」
「お前も既に、一国一城の主なんだ。迂闊な言動はしない方がいい」
「なんだと?」
言われた意味が分からずに、アルノーが眉を顰める。
「最初のやり取りはともかく、その後の言動は、聞いた限りでは大手ギルドの権力で、無理やり言う事を聞かせるような言葉も入っていたようだが?」
「そ、そんなつもりは・・・・・・!!」
多少の自覚はあったのか、アルノーは少し慌てたように手を振った。
それを見たハジメは、ため息をついた。
「だから、それを俺に言っても仕方ないだろう? 今、店の中にいるのがうちのメンバーだけだったからよかったが、もし違っていたらおそらく変な噂が広まっていたぞ?」
「う、むっ・・・・・・。き、気を付けよう」
「まあ、お前のギルドの事は俺には関係ないから、どういう噂が広がろうと関係ないがな」
「いや、悪かった。それと、助言助かった」
慌ててそう言ったアルノーに、ハジメは「気にするな」と続けるのであった。
完全に当初の勢いを失った二人を見たハジメは、最後にぐるりとこちらの様子を伺っていた者たちに言った。
「そういうわけだ。元々はこちらに否がある話だから、お前らも今日の事は変に話をしないように」
ハジメがそう言うと、周囲にいた者たちは頷いたり小さく返事をしたりした。
そして、丁度その時、タイミングを見計らったように、『紅月華園』のもう一人のサブマスターであるエミーリエが店内に入って来た。
「あら? なにか微妙な雰囲気が漂っているけれど、なにかあったのかしら?」
小首を傾げてそう聞いてきたエミーリエに、ハジメが軽く説明をした。
その話を最後まで聞いたエミーリエは、小さな笑みを浮かべたまま、イーネスを見た。
「イーネス、後でお説教ね」
「そ、そんな!」
「いいから、黙っていなさい」
彼女の笑顔を見て顔色を変えたイーネスを、視線だけで封じたエミーリエはアルノーに向かって頭を下げた。
「それから、アルノーさん、ご迷惑をおかけしました。気にされていた装備に関しては、取り置きさせていただきます。こちらも商売の事ですから無料でとはいきませんが、割安でお譲りしたいと思います」
「い、いや。そこまでしてもらう必要は・・・・・・」
若干慌てた様子のアルノーに、エミーリエは首を左右に振った。
「いいえ。そう言うわけにはいきません。値段に関しては、後ほどパティが戻ってきたときに、ご相談させてください」
「わ、わかった。では、後ほど来ることにする」
エミーリエの勢いに押されるように、アルノーは一つ頷いた。
「はい。お手数をおかけいたしますが、お待ちしております」
笑顔のまま頭を下げたエミーリエを見たあと、アルノーは短く「ああ」とだけ返事をして店から出ていくのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
アルノーが去った後、その場でお説教モードに入りそうなエミーリエを止めて、ハジメたちは裏の部屋に入った。
そして、ハジメが「もういいぞ」と言った瞬間、エミーリエがものすごい笑顔になって、イーネスを見た。
「イ~ネス~! あなた、何をやっているのよ!?」
「ごごご、ごめん!」
「ごめん、じゃないでしょう! 幸い今回は向こうにも非があったから何とか収まったけれど、そうじゃなかったら、うちの評判が思いっきり落ちていたわよ!」
例えアルノーに非が無かったとしても、今回のようなことで彼が他のギルドを貶めるような噂を流すようなことはしないと思うが、それでもそういった噂はどこから流れるかは分からない。
折角順調な滑り出しを見せている『紅月華園』の評判が、ガタ落ちになるのは間違いなかっただろう。
店内では売り言葉に買い言葉で、ついヒートアップしてしまっていたイーネスが、しょんぼりした顔になった。
「・・・・・・ごめんなさい」
そのイーネスの顔を見て、エミーリエがため息を吐いた。
「ハア。わかったなら、もういいわ。・・・・・・ただし!」
怒りを収めたエミーリエを見てイーネスはが安堵の表情を浮かべたが、エミーリエが念を押すように続けた。
「何もお咎めなしというわけにもいかないから、イーネスは当分パティの店の出入り禁止ね」
「とと、当分ってどれくらい?」
エミーリエの言葉にイーネスが顔を青褪めさせた。
「さあ? その辺はパティとも相談した方がいいわね」
「・・・・・・わかった」
イーネスはそう言ってガクリと項垂れるのであった。
それをみたエミーリエが流石に気の毒かと思ったのか、励ますように言った。
「別に消耗品なんかを買ったらダメとは言っていないんだから、攻略にはそこまで影響はないわよ」
「・・・・・・え?」
「それはそうでしょう? 貴方はギルドでもトップの実力があるんだから。それを落とされたらそれはそれで問題があるのよ」
エミーリエがそう言ったのに続いて、それまで黙ってやり取りを見ていたハジメが口を挟んだ。
「そうだな。イーネスはそっちの方面で頑張ってもらった方が良いだろう」
「わかった」
エミーリエとハジメにそう言われたイーネスは、多少安堵の表情浮かべて頷くのであった。
そんな二人の様子を見ながら、ハジメは言いにくそうな表情で言った。
「安心している所申し訳ないが、もう一つあるぞ」
「えっ!? まだか?」
ハジメの言葉に、イーネスがビクッと慄きながらそう言い、エミーリエが首を傾げた。
そのエミーリエの顔を見て、やはり気づいていなかったのかとハジメは内心で安堵のため息を吐いた。
下手をすれば、戦闘組と生産組で亀裂が入ったかもしれない。
「生産組の問題があるだろう? イーネスが言ったことは、生産組との信頼を損なうことだぞ?」
「えっ!?」
ハジメにそういわれて、イーネスとエミーリエが驚いた表情になった。
『紅月華園』の生産組は、ギルドのメンバー用に卸す分とそれ以外に分けて生産を行っている。
それは、店に来る客を身内だけにしないようにする目的と、生産組の技術が身内用に偏らないようにするためにそうしているのだ。
ただし、これに関しては、イーネスが悪いとも言い切れない。
そうしたルールはあくまでも生産組とパティとの間でのルールだったので、直接聞いたことが無かったからだ。
ハジメからそうした説明を聞いて、イーネスとエミーリエはようやくそのことを知った。
「まあ、そのことに関しては、俺たちも迂闊だったと言えるだろうがな」
そう言ってため息を吐いたハジメと同じように、エミーリエもため息を吐いた。
ハジメの言う通り商人たちと生産組だけのルールにしてしまったために、今回の件が出たとも言える。
今回のイーネスの言動が迂闊だったのは確かだが、そうしたルールをきちんとギルドのルールとして表に出してなかったのも問題があるのだ。
そうしたことを踏まえて、ハジメは再度ため息を吐いて言った。
「今回の事からもわかるが、今までなあなあでやってきたことも、きちんと明文化したほうがいいかもしれないな」
「それはそうね」
ハジメの意見に同意するように、エミーリエは大きく頷いた。
結局このあとイーネスは、パティからもガッツリと怒られるのだが、それ以上の大きな変化は起きなかった。
エミーリエの釘差しが聞いたのかは分からないが、アルノーも店で見ていた者たちも他の誰かにこの話を広めようとはしなかったのだ。
勿論、だからと言ってお咎めなしというわけは行かないので、イーネスがパティの店に直接来ることはしばらくの間なかったのである。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:特級作成師LV12(2up)
体力 :5274(+120)
魔力 :8578(+203)
力 :825(+21)
素早さ:787(+22)
器用 :1622(+47)
知力 :949(+28)
精神力:1188(+34)
運 :20
スキル:上級調合LV13、上級魔力付与LV15(1up)、魔付調合LV13、鑑定LV20(master!)、俊敏LV14、短剣術LV11、槍術LV4、風魔法LV16、地魔法LV16、水魔法LV16、
火魔法LV16、収納LV20(master!)、宝石加工LV20(master!)、装飾作成LV18(1up)、光魔法LV17(1up)、闇魔法LV17(1up)、錬金術LV17、気配察知LV4、魔力操作LV17、空き×7
職業スキル:短縮作成
名前:ルフ
種族:フェンリル
職業:魔狼LV33(2up)
体力 :10283(+261)
魔力 :4265(+140)
力 :1219(+42)
素早さ:702(+25)
器用 :362(+12)
知力 :385(+15)
精神力:419(+14)
運 :10
スキル:牙撃LV19、激爪LV17、威圧LV19、俊敏LV18、気配察知LV20(master!)、収納LV19(1up)、火魔法LV18(1up)、魔力操作LV19、報酬LV18、
体当たりLV18、水魔法LV18(1up)、風魔法LV16(1up)、土魔法LV16(1up)、遠距離走法LV13(1up)、隠密LV14(1up)、発見LV7(2up)、空き×4
職業スキル:遠吠え
固有スキル:鋭敏な鼻
名前:イリス
種族:牛獣人
職業:農婦(達人)LV19(2up)
体力 :7818(+261)
魔力 :4594(+161)
力 :648(+28)
素早さ:348(+16)
器用 :687(+27)
知力 :442(+22)
精神力:605(+29)
運 :10
スキル:上級栽培LV15(1up)、料理LV20(master!)、棍棒術LV12、怪力LV19、採取LV20(master!)、成長促進LV20(master!)、水魔法LV20(master!)、採掘LV9、
地魔法LV20(1up→master!)、収納LV19(1up)、収穫LV19、体術LV8(1up)、魔力操作LV15(1up)、交渉LV11(1up)、鑑定LV9(1up)、空き×6
職業スキル:種子作成、農地管理
固有スキル:緑の手
名前:バネッサ
種族:アマゾネス
職業:戦乙女LV36(2up)
体力 :8075(+242)
魔力 :4640(+160)
力 :827(+30)
素早さ:636(+27)
器用 :503(+21)
知力 :600(+25)
精神力:463(+21)
運 :10
スキル:上級剣術LV5(1up)、槍術LV19、弓術LV20(1up→master!)→上級弓術LV1(New!)、体術LV20(master!)、火魔法LV17、風魔法LV17、水魔法LV13(1up)、地魔法LV13(1up)、
魔力操作LV19、収納LV18、解体LV15、鷹の眼LV16、俊敏LV14(1up)、採掘LV6(1up)、鑑定LV6(1up)、空き×3(1up)
名前:エイヤ
種族:ダークエルフ
職業:魔導士LV28(3up)
体力 :2443(+180)
魔力 :6551(+422)
力 :351(+22)
素早さ:413(+24)
器用 :596(+37)
知力 :709(+40)
精神力:508(+31)
運 :10
スキル:火魔法LV20(master!)、風魔法LV20(master!)、土魔法LV19(1up)、水魔法LV19(1up)、精霊術LV20(master!)、弓術LV14(1up)、鷹の目LV16(1up)、魔力操作LV20(master!)、
料理LV15、精霊魔具作成LV12(1up)、交渉LV4、火炎魔法LV4(1up)、烈風魔法LV4(2up)、空き×2




