(2)目玉商品と売れ筋商品
各魔法のスキルがLV20の<master!>で止まっていたエイヤだったが、<魔導士>がLV20になったことでようやく進展が見られた。
<魔導士>がLV20を越えて職業スキルである<合成魔法>を覚えたのだが、それと同時に上位魔法に当たる魔法が解禁されたのである。
基本的には、それぞれの基礎魔法である四つの魔法スキルには、それに対応する四つの上位スキルがある。
例えば、<火魔法>であれば<上級火魔法>がそれにあたるが、それらの上級魔法を覚えられるのは<魔導士>ではなくそれぞれの属性の<魔術師>だけなのだ。
そのため<魔導士>を選んだエイヤは、各種上級魔法が出ていなかったのだ。
<魔導士>が使える上級魔法は、<合成魔法>を覚えたうえに各種基礎魔法を<master!>している必要がある。
<魔術師>が覚えられる上級魔法は、選んだ職の一種類しかない。
ただし、上位互換のスキルとして覚えるので、下位の魔法スキルと入れ替わりになりスキル枠を消費しない。
一方、<魔導士>のスキルは合成魔法として完全に別物のスキルとして扱われるため、スキル枠を消費するなどの違いがある。
ついでに、これらのスキルが複合スキルではないかという議論も出たが、今のところは否定されている。
というのも、これらの魔法はあくまでも魔導士だけが覚えられるスキルで、前提となる<合成魔法>が無いと覚えられないからだ。
生産の複合スキルはそうした前提の職業スキルがあるわけではないのである。
現在、エイヤが<合成魔法>を覚える条件を満たしているのは、火魔法と風魔法だ。
火魔法の上位スキルに当たるのが<火炎魔法>で、風魔法の上位スキルに当たるのが<烈風魔法>になる。
「<火炎魔法>と<烈風魔法>はいいが、<火風魔法>は?」
<火風魔法>は、<火魔法>と<風魔法>の合成魔法になる。
ハジメの問いかけに、エイヤが首を左右に振った。
「ううん。今回はやめておく。これ以上攻撃スキルが増えても器用貧乏になり兼ねないから。それに枠もないし」
エイヤの残りの枠を完全に失念していたハジメが、納得して頷いた。
「そうか」
今回覚える合成魔法は、一つのスキルに付き枠を二つ消費する。
今ある空きスキルでは、三つを覚えることはできない。
さらに、エイヤの今覚えているスキルで、基礎魔法の土魔法と水魔法は、他の二つに追いついていない。
これ以上、攻撃スキルを増やしてもエイヤが言った通りスキルアップが追い付かないというのも分かる。
加えて言うと、今後は<精霊魔具作成>の強化にも力を入れることになったので、益々戦闘スキルは伸ばす機会が少なくなるのだ。
もっとも、それに関してはバネッサも同じなのだが。
ハジメやイリスは、空きスキルが増えてきているが、今のところこれ以上のスキルを増やす予定はない。
アイテムの作成にしても畑の管理にしても、必要なスキルが今のところはない。
むやみにスキルを増やすよりも、空きスキルを増やしておいた方がいいということになった。
今後必要になるスキルが出てくるかは分からないが、今あるスキルを伸ばす事を考えたのである。
ついでに言うと、ハジメはともかくとして、イリスは専業の職業に近いため他のスキルもほとんど意味をなさない。
農業に関わるようなスキルが出てくれば別だが、今のところはそのようなものは出ていない。
ハジメが作っている回復薬との兼ね合いがあるため、イリスは農業に重点を置いた方が効率が良いのである。
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いつもの卸し分と新しい商品を持って、ハジメとイリスはパティの店を訪れた。
「あっ、ハジメやん。いらっしゃい!」
久しぶりに顔を見せたハジメを見て、パティが笑顔になった。
「ああ。久しぶり」
ハジメは、第三段階をクリアするためのアイテム作成で拠点に引きこもっていたため、交流の街に来ること自体が久しぶりの事になる。
「随分と長い間籠ってたみたいやけど、その分成果もあったみたいやね」
「ああ。お陰さまでな」
第三段階をクリアしたことを掲示板に報告した時は、特にハジメの名前を出したりはしていない。
だが、既に交流の街では、クリアをしたのがハジメだという噂は出回っている。
ハジメとしても特に隠すつもりはないので、噂に関して否定したりはしていない。
掲示板を簡潔に済ませたのは、単に面倒だっただけだ。
「でも、お陰で生産組も攻略に乗り出すプレイヤーが増えて来たで?」
「ほう。そうなのか?」
「そうなんよ。ここ最近、生産組と思しきプレイヤーが消耗品を買って行くのが増えてるわ」
ハジメが掲示板にクリアに付いての情報を出してからポツリポツリと増えて行き、今では戦闘組に負けないくらいの勢いで買って行っていた。
ただし、生産組の勢いが良いのは、これまで戦闘に関してのスキルが上がっていなかったため、その分消耗も激しいためだ。
いずれは落ち着いていくだろうとパティは考えている。
「まあ、生産組の場合、第三段階をクリアすることの明確なメリットが見えなかったからな」
そのハジメの言葉に、パティが興味を持ったような視線を向けた。
「うん? ということは、明確なメリットがあったん?」
「俺の場合は、お題がアイテムを作ることだったからな。スキルから職業までレベルが軒並み上がったぞ?」
肩を竦めてそう言ったハジメに、パティは納得したように頷いた。
「なるほどー。これは、うちらも本格的に攻略始めることを考えた方がいいかな?」
パティは、交流の街で店を開いているので、わざわざエリアの攻略を進めるメリットが少ない。
モンスターを討伐していても、交渉スキルには全く影響が無いのでそう考えるのも当然だろう。
だが、イベントが起こってそこでスキルのレベルがあげられるとなれば、話は変わってくる。
「そのあたりはそれぞれの判断だろうが、少なくとも無駄になるという事は少ないと思うぞ?」
「そうみたいやね。それじゃあ、うちらもそろそろ攻略を検討したほうがええか」
ハジメの提案に、パティは真剣に考えるような表情になった。
少しの間悩んでいたパティだったが、ふと思い出したように顔を上げてハジメを見た。
「ところで、今日はそのことを話しに来たわけやないんやろ?」
そういったパティの口調は穏やかだったが、目は「さっさと出す物を出すように」と語っている。
「ああ、勿論だ。・・・・・・だが、ここで出すのか?」
今までハジメとパティはカウンターの脇で話し込んでいた。
今回は、多くの新作を持ち込んでいるので、カウンターにそれらを広げると確実に商売の邪魔になる。
ハジメの言葉でそのことを察したパティが、若干顔を引き攣らせながら右手を左右に振った。
「いやいや。待って待って。ちゃんと裏に行くで」
慌ててそう言ったパティは、店をシエラに任せてハジメとイリスを連れて裏へ向かった。
在庫置場に置かれたテーブルの上に、ハジメが次々と新しく作った製品を置いて行った。
パティはそれを見ていた時点で呆れたような表情を見せていたが、商品をチェックし始めてからは顔を引き攣らせていた。
「な、なんやねん、これ!」
最近イリスが店に持ち込んでいた商品は、最先端というものからは半歩ほど後退していたものだった。
だが、今回ハジメが出して来たものは、最先端どころか明らかに今出回っている商品よりも高品質なものばかりなのだ。
パティが顔を引き攣らせるのも無理はないといえる。
パティの叫びを聞いたハジメは、肩を竦めた。
「だから言っただろう? イベントで色々上がったって。当然、プレイヤースキルだって上がっているさ」
ハジメが作った『破結石』は、回復薬の作成など直接は関係ないものもある。
だが、作っている最中も感じていたが、明らかにプレイヤースキルが上がるような感触は得ていた。
だからこそ、イベントアイテム作りに精を出し、その結果が今目の前にあるというわけだ。
一通り商品のチェックを終えたパティは、呆れた様子でハジメを見た。
「うちとしては大歓迎なんやけど、また騒がれることになると思うで?」
そんなパティに対して、ハジメは肩を竦めた。
「今更だろ? それに、イベントの話と絡めて売り込めば説得力が増すよな?」
「それはそうやけど、ええの?」
「構わないさ。そもそも掲示板だって詳しく説明するのが面倒だっただけだ。パティが噂として広めてくれれば、それに越したことはない」
あくまでも面倒だったことを強調するハジメに、パティはジト目を向けた。
「まあ、話のネタになるから別にええけどね。それで? これらは一気に出してもええの?」
「勿論だ。そのために持って来たんだしな」
小出しにして騒ぎになるのを抑えることも出来なくはないが、ほとんど意味が無い。
それだったらイベントクリアを理由にしてしまって、一気に出した方がいいとハジメは考えているのだ。
パティが並べられた商人の中から<回復薬Ex>と<魔力回復薬Ex>を手に取った。
「それにしても、この二つは今まで通り売れるか微妙やで? 回復量が多いんのはいいんやけど・・・・・・」
パティの懸念に、ハジメも頷いた。
バネッサも同じことを言っていたが、パティもやはりそのことが気になるようだった。
「そう言われるだろうと思ってな。対策を考えて来た」
バネッサと話をしたのは、<~Ex>が売れるかどうかという話だけだったのだが、そもそもそれだけを作っていては収入に響く可能性がある。
それは流石に状況としてはまずいので、ハジメもここに来るまでに案を考えていたのだ。
視線だけで先を話すように促したパティに、ハジメが話を続けた。
「回復薬、高回復薬、回復薬Exでそれぞれどれかの品質を選んで作ればいい」
ハジメが言っていることは、要するに名前の違っているものをそれぞれ用意すればいいという事になる。
だが、その分ハジメの負担は大きくなる。
それが分かったのか、パティは首を傾げた。
「それが出来ればええけど、大丈夫なん?」
「問題ないさ。というより、問題だったら最初から提案していない」
ハジメのもっともな言葉に、パティは頷いた。
「そう。それならうちは何の問題もないわ。今までの売り上げでそれなりの傾向も見えとるしな」
「ああ。その辺は任せる」
どの商品をどの程度補充していくのかというのは、完全にパティの領域になる。
ハジメは要求された分のアイテムを作って納品すればいい。
それが今までのやり方で、ハジメはそれを変えるつもりはない。
ある程度の今後の方針が決まめたところで、ハジメはパティの店をあとにした。
第三段階のことについては、パティにも言った通り、今後は彼女の店から噂として広まることを期待している。
他のプレイヤーが第三段階をクリアしたことにより、ハジメに何かの影響があるかは分からないのだが。
そんなことを考えながら、ハジメはイリスと共に交流の街へ来たもう一つの目的を果たしに鉱山地区へと向かった。
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交流の街の北側になる鉱山は、街を出てしばらく歩いた所に入口がある。
「地区」としては、山を中心にしていくらかの広さの部分がそれにあたるようだが、鉱山としての入口がきちんと設けられているのだ。
鉱山入口までの道では、モンスターも出たりするようだが、ハジメとイリスの二人で倒せるようなモンスターしか出てこない。
早い話が、交流の街に来れるようなレベルのプレイヤーであれば、簡単に倒せるようになっているのだ。
ただしそれは鉱山に入るまでの事で、坑道の奥に進めば話は変わってくる。
今一番奥まで進んでいるパーティでも倒せないようなモンスターが、ゴロゴロと出てきているともっぱらの評判だった。
当然生産組では奥まで進んで採掘をするというわけにもいかず、生産組が護衛を雇って奥に入るか、<採掘>のスキルを覚えた戦闘組が奥に行くかのどちらかになっている。
残念ながら坑道の中で転移石を使う事は出来ないが、結界石を使う事は出来るようで、採掘中に襲われるといったことは防ぐことが出来る。
そんな危険地帯に、二人だけで何をしに来たのかというと、坑道入口で働いている【受付】を見に来たのだ。
プレイヤーから【受付】と呼ばれている存在は、当初坑道にはいなかった。
プレイヤーが掲示板で何気なく呟いたのを見た運営が、それに似たような存在を用意したのだ。
【受付】が、ゴーレムなのかそれとも普通の肉体を持ったプレイヤーやサポートキャラと同じような存在なのかは分かっていない。
基本的には、坑道へ入るための受付の業務に特化した行動しかとっていないのだ。
それこそゲームで出てくるNPCのようにテンプレの受け答えしかしないのだ。
もっとも普通のゲームよりは、受け答えの幅が遥かに広い。
そのような仕様になっているのは、運営の情報を知られないようにするためという話が一般的になっているが、真実は分からない。
「それで? 何故こちらにいらしたのですか?」
坑道の入口に来てから【受付】を観察しているハジメに、イリスが聞いてきた。
「いや、単にこの【受付】の現物を見てみたかっただけだ」
「そうですか。それで? 何かわかりましたか?」
「少なくとも今の俺には作れないという事は分かったな」
そう。ハジメとしては、この【受付】と同じようなものが作れないかと考えて、ここまで来たのだ。
だが、材料から技術まで、さっぱり分からなかった。
そもそもハジメたちプレイヤーを召喚したり、サポートキャラを用意できるような存在だ。
そんな簡単に出来るとも思っていなかったが。
「なるほど。そう言う事でしたか」
そう言われて初めてここに来た目的を知ったイリスが、納得したように頷いた。
結局、大したヒントを得ることも出来ずに、ハジメとイリスは鉱山地区を後にするのであった。
※前話の終わりと日付が同じなので、レベルアップ・ステータスの変化なし。
エイヤのスキルだけ変わっています。
名前:エイヤ
種族:ダークエルフ
職業:魔導士LV21
体力 :2023
魔力 :5564
力 :301
素早さ:355
器用 :510
知力 :615
精神力:436
運 :10
スキル:火魔法LV20(master!)、風魔法LV20(master!)、土魔法LV18(1up)、水魔法LV18(1up)、精霊術LV20(master!)、弓術LV13(1up)、鷹の目LV15(1up)、魔力操作LV20(master!)、
料理LV15(1up)、精霊魔具作成LV11(1up)、交渉LV4、火炎魔法LV3(New!→2up)、烈風魔法LV3(New!→2up)、空き×1




