(2)回復薬作成と初戦闘
次話投稿は18時になります。
拠点へ戻って、まずは薬草採取のクエストをクリアする。
得られたGPは、薬草二十本で二百GPこれが安いのか高いのかは微妙な所だ。
メニューの購買で確認したが、定食が五十GPで出されているところを見ると、二百GPは大体二千円と考えていいだろう。
ちなみに拠点の改造は、数万GPで部屋の追加とかできるので、逆に改築が安すぎと考えることもできる。
ただ、改築に数十万単位でかかるようだと、誰も利用はしないだろうが。
一つ薬草採取のクエストを完了させて、もう一度クエストを確認すると、しっかりと薬草採取のクエストが新たに出ていた。
それを確認したハジメは、ほっと安心して息を吐き出した。
もし薬草採取が一度きりのクエストだと、今後の生活の目途がたたなくなってしまう。
四百GPになったところで、今晩の夜食とルフ用の肉を買っておいた。
しめて七十GP。
肉が安いのは加工していないためだろうか。
ルフはどれくらい食べるのかは分からないが、取りあえず今はこれで様子を見ることにした。
「足りなかったらちゃんと教えてくれ」
ルフにそう言って、肉を与えた。
購入時に容器に入っていたので、そのまま与えている。
ルフの食事を見ながら自分の夜食も取ることにした。
取りあえず満足だったのか、ルフからは催促はされなかった。
ついでにトイレの部屋にルフが通り抜けられる通り穴を作る。
何となく拠点の改築の項目を見ていたら百GPで出ていたので、さっさと改築することにしたのだ。
これでルフがトイレの催促をしても、いちいち扉を開けに行かなくて済む。
ちなみにルフは、トイレのしつけに関しては、一発で理解してくれた。
やはりかなり知能は高いらしい。
扉に関してもすぐに理解できたのか、一度教えてやると二度目は自分から行くようになっていた。
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夜食を終えた後は、いよいよ回復薬の作成に取り掛かる。
手順は、最初から<神の作業帳>に書かれていた。
1、乳鉢と乳棒を使って、薬草をすりつぶそう。
2、すりつぶした薬草と適量の水を混ぜよう。
3、薬草が完全に溶けきれれば完成。
実に単純な表記だった。
どれくらいの量の薬草に対して、どれくらいの水が必要かも書いていない。
まあ全部が全部書いていたら、ただの作業になってしまうので、その辺に関しては自分で研究していくことにする。
ちなみに三番に関しては、最初突込みを入れるかどうか真剣に悩んだ。
薬草が水に完全に溶けることなんてあるのか、ということだ。
普通は残りかすのような物が残るはずなのだが。
「・・・完全に溶けたし」
取りあえず一枚の薬草をゴリゴリとすりつぶして、こんなもんかと思ったところで水に混ぜると、すりつぶした薬草が溶けきってしまった。
どうなってるんだろうと思わなくもなかったが、そもそも不思議世界にいるので、こういう事もあるのだろうと納得することにした。
出来た回復薬を納品用の瓶に移して、回復薬の完成になる。
名称:回復薬
品質:E-
効果:体力を40回復する
「品質、ひっく!」
まあ失敗せずに出来ただけでも良しとすることにした。
そもそも失敗することがあるのかは分からないのだが、考えないほうが幸せになれる。
「しかし、体力40回復って・・・多いのか少ないのかわからんな」
薬草採取もそうなのだが、回復薬作成のクエストは、品質を問わずになっているためさっさと次を作ることにした。
最初は実験の目的もあったので薬草一枚だけだったが、今度は薬草二枚を使って作る。
乳鉢の容量的には、まだまだ余裕がある。
ひたすら無心になって薬草をすりつぶして、水と混ぜ合わせた。
次にできたのは、以下の物だった。
名称:回復薬
品質:E
効果:体力を50回復する
品質が一つ上がって、回復値もあがっている。
「お、この調子で上がっていけばいいかな?」
今度は調子に乗って薬草五枚で作成してみた。
流石に乳鉢の容量的にぎりぎりだったが、それでも作成することは出来た。
ただし、品質は「E」のままで上がらなかった。
「しょうがない。色々試してみるしかないか。
その後は、五枚ずつ処理することにして、色々試すことにした。
後から水を加えるのではなく、すりつぶす段階で少しずつ混ぜたり、薬草のすりつぶしに時間を掛けてみたりしてみる。
夢中になってやっているうちに時間があっという間にたって、今日採取した分の薬草が全てがなくなった時には、深夜を回ろうとしていた。
最後に出来た回復薬が次の物だった。
名称:回復薬
品質:E+
効果:体力を60回復する
現実はなかなか厳しいようだった。
それでも一日で「E+」まで行けたのは、良かっただろうと思うことにする。
ちなみに、これまで続けて来て失敗は一度も発生しなかった。
品質が悪い物が出来ることはあっても、失敗と言うのは無いのかもしれない。
ひたすら作った回復薬は全部で八十本だった。
そのうち二十本を自分用に残しておいて、後は全部クエストで処理することにした。
回復薬の納品クエストは、十本で二百GPの報酬だ。
回復薬クエストも、反復クエストなので、何度でも受けられる。
これが六十本分あるので、六回分で最終的には千二百GP獲得できた。
「・・・あれ? 結構稼げてないか?」
一日の報酬としてはかなり高い方ではないだろうかと思う。
少なくとも当分の間は、食事に困ることは無いだろう。
寝る場所は最初からあるので、衣食住に困ることは当面無いことになる。
となるとここはやはり人間だ。
贅沢がしたくなってくる。
ハジメが、一番最初の贅沢に選んだのは、お風呂の設置だった。
早速、拡張機能から確認をしてみた。
一番小さい風呂場で、一万GPだった。
目標としてはちょうどいいだろう。
最初の目標が定まったところで、今日の作業は終えることにする。
明日からは、薬草採取の日々が始まることになる。
電気かどうか分からない怪しい明かりを消して、今日はおとなしく就寝することにしたのであった。
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翌朝。
目覚めてみると体の節々が痛かった。
「おおお?! なんだこれ?」
感覚的には、筋肉痛なのだが、そんな運動をしたつもりはない。
もしやと思って、自分のステータスを確認してみた。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:作成師LV3
体力 :250(+210)
魔力 :400(+360)
力 :4(+3)
素早さ:3(+2)
器用 :10(+9)
知力 :8(+7)
精神力:8(+7)
運 :9
スキル:調合LV1、鑑定LV1、俊敏LV1、短剣術LV1、風魔法LV1
ステータスが軒並み上がっていた。
「まさか、寝ている間にステータスの清算をしてるのか? いや、でも運はその場で上がっていたよな?」
行動結果でステータスが上がるのは分かっていたが、特に反応が無かったので経験が足りないのかと思いこんでいた。
だが、ステータスの更新に寝ることが必要なのだとすれば、今の現象も理解できる。
ただしSPを使って上げた運に関しては、その場で上がっていた。
「SPを使った場合は、その場で上げれるけど、他は別ってことか?」
今はそう推測することにして、今日の作業をすることにした。
「しかしこれ、今日は湖に行けるのか?」
幸いにして、今日の分の食費は稼げているので、無理に行く必要はない。
取りあえず様子を見ることしかできないので、朝のうちは昨日足りなかった道具をそろえることにした。
ポチリポチリと必要な道具を揃えている間に、懸念事項だった筋肉痛もどきは治まっていた。
これなら問題ないと、今日も湖まで出かけることを決める。
外出までの間に、五百GPも使っていた。
道具類が一つ一つそれなりに高価だったのだ。
買ったのは、ろ過するためのろ過機と水を入れるための革袋だ。
革袋は念の為、複数枚買ってある。
昨日は夢中で忘れていたのだが、探索中に水を飲みたくなる事もあるだろう。
ろ過機は、昨日作業中に、ろ過したらどうなるんだろうと思いついたためだ。
夜の回復薬作成時に試してみる為に、購入しておいた。
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朝食を終えて、湖へ薬草採取に出かける。
今日は革袋もあるので、湖の水を採取することも忘れない。
水の採取は、その日の最後でよかったと後で思いつくのだが、この時は少しも考え付かなかった。
アイテムボックスなんていう便利な物は無いのに、わざわざ水の分の重量を増やすようなことをしたのだ。
それに気づいたのは、ある事件が起こった時だった。
ルフが探し出した昨日とは別の群生地で、薬草採取としていた時の事。
傍にいたルフが、突然吠えだした。
其方の方を見てみると、背が低い人型の生物が二体近づいてきていた。
それが近づいてくると、ハジメにもその正体がわかった。
「・・・ゴブリンってやつか」
完全に目標にされているようで、逃げることは出来ないだろう。
戦闘を行う覚悟を決めて、ゴブリン二体を迎え撃つことにした。
ルフとわけて一体ずつ相手が出来るので、初戦闘の状況としては上出来だろう。
「ルフ、そっちのは頼んだぞ!」
聞こえているか分からないが、そう行ってみるとルフが「ワフ」と返事を返して来た。
いくら一体をルフに任せたからと言って、自分の受け持ちの一体だけに注意を払えばいいわけではない。
別の戦闘の状況も一応把握しておかないと、いきなり不意打ちを食らうなんてことにもなりかねない。
もう一体の方の状況を確認しつつ、こちらはゆっくりと対応しようとしたら、いきなりゴブリンから突っ込んできた。
「! 様子を見るとか全くなしかよ!」
ゴブリンにその辺の知恵を求めるのが間違っていたらしい。
あるいは、ハジメ相手だと勝てると思ったのか。
棒のような物を持っているゴブリンは、その棒を振りかぶってからハジメに向かって振り下ろして来た。
ただし思ったよりも、振り下ろすスピードは無かった。
余裕を持って回避を、なんてことが初めての戦闘であるハジメに出来るはずもなく、大袈裟に避けた。
慣れてくれば、ぎりぎりで回避して攻撃に移れるのだろうが、そうそう甘くはない。
戦闘に慣れた者であれば、初撃をゴブリンに譲るという事自体が無いのだが、そんな考えは、今のハジメには無い。
それからとしばらくの間は、ゴブリンの攻撃を避けるのが続いて、全く攻撃に移れなかった。
そもそも持っている短剣をどこに向ければいいのか分からない。
闇雲に振り回しても無意味だと言うのは分かっているので、何とか攻撃につなごうとしているのだが、それが上手くいかない。
そんなことを繰り返しているうちに、突然状況が変わった。
「ガウッ!!」
という唸り声と共に、ハジメと対峙していたゴブリンに横からルフが襲い掛かっていた。
不意打ちだったのか、ゴブリンは全く対応できていなかった。
あっという間に態勢を崩したゴブリンは、その喉元をルフに食いつかれていた。
ゴブリンは何とか逃れようともがいているが、態勢が悪いのかルフの牙を全く外すことが出来ないようだった。
このままルフに任せていても終わるだろうが、今のうちにやっておきたい事があった。
ハジメは、ルフに抑えつけられているゴブリンの眉間に、持っていた短剣を突き刺した。
今後も必ずこういう状況は来ると分かっているので、今のうちに生き物を殺すという事をしておこうと思ったのだ。
ここまで大型の生物を殺したのは、勿論初めての事だ。
「・・・その割には忌避感とかが、全くないな」
首を傾げたハジメだったが、少なくともこの世界で生きていくのには、好都合だろう。
だからと言って、快楽者になるつもりもない。
あくまでも生きていく上で、必要なことだと割り切ることにした。
無事に初の戦闘を終えたハジメは、ゴブリンの右耳を回収した。
クエストの納品に必要な部位だったのだ。
完了するためには、あと三体倒さなくてはならないのだが、ゴブリン討伐クエストは期限があるわけではないので、のんびりやっていくつもりだった。
その後は、ゴブリンと遭遇することもなく、薬草の採取を行ってから拠点へと戻るのであった。