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ミクシードワールド ~神の作業帳~  作者: 早秋
第三章 全体イベント
43/74

(5)全体イベント後半戦

 消耗品の消費が激しいことは、すぐさまプレイヤーたちに知らされることになった。

 戦闘組だけではなく、生産組にもだ。

 何しろ、薬草や魔力草の採取さえできればいつでも買取してもらえるような状態なのだ。

 その通知のおかげで、生産組の中で今回のイベントに直接関係のなさそうなスキルを持っているプレイヤーは、空きスキルを利用して<採取>スキルを取得して、エリアに採取を行いに行くようになった。

 スキルを付けたばかりのプレイヤーだと品質が低い物しか取れないのだが、それでも問題なく売れるのだ。

 稼ぎになると分かっている物をむざむざと逃すような真似はしない。

 ちなみに、その消耗品を買っている戦闘組は、通常通り自前でそれらを購入している。

 イベントだからと特別扱いになっていない理由は、襲って来たモンスターを討伐すれば、それらの素材は討伐したプレイヤーの物になるためだ。

 襲って来るモンスターの規模から考えても、赤字になることは無いと見られているのである。

 ついでに、モンスターの襲撃はイベント扱いなので、クエストと同じように特別な報酬が貰えることも期待されている。

 もっとも、武器防具の修繕から始まって消耗品までの料金は、特別料金になっているのだが。

 

 生産組のプレイヤーが採取を行っているとしても、その数は大勢に影響があるわけではない。

 彼らが採取に加わったからといって、生産量に大きな変化を与えるほどではなかったのだ。

 戦闘組が消耗品の消費を抑えなければならない状況には変わりはなかった。

「・・・・・・だからといって全く使わないわけにもいかないんだよな、これが。おっと・・・・・・!」

 向かって来たモンスターを一撃で倒したカールが、ぼやくように呟いた。

 東側の責任者であるカールのところまでモンスターが来ているのだから状況は良くはない。

 イベントが始まってから既に六日が経っている。

 カールがいる場所は、東の塔にある要の装置がある部屋だ。

 イベント五日目あたりからこの部屋にもモンスターが来るようになっていた。

 といっても五日目は、一度の襲撃で一度あるかないか、といった程度だったのだが、今日は確実にその頻度が上がっていた。


 その理由も既に気付いている。

 四日目の話し合いでヤーコブが気づいていた事実に、カールも気付いたのだ。

 勿論、その情報は戦闘組のリーダー間で情報を共有している。

 だからといってすぐに戦闘スタイルや防具を変えられるはずもなく、注意喚起をするだけで終わってしまった。

 水中環境のモンスターについての弱点や生態に付いては、しっかりと周知はした。

 だが、その隙間を縫うように、五日目あたりから水中環境のモンスターの割合が増えて来たのだ。

 多種多様なプレイヤーが存在しているとはいえ、陸上で活動するタイプのプレイヤーが多いためにしっかりと弱点を攻めてきているといえる。

 相手の弱点を攻めるのはごく当たり前の事なので、それについてどうこう言うつもりは、カールには無い。

 むしろ交流の街の環境を考えれば、そういったモンスターが攻めてくることを考えなかった時点で、こちら側の認識が甘かったのである。

 いくらイベントで死ぬことが無いと言っても負けで終わる気は毛頭ない。

 これは、このイベントに参加しているどのプレイヤーでも考えている事だろう。

 例え弱点を攻められているからと言って、簡単に負けるつもりはない。

 そう考えるのは当然の事なのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 イベント六日目の夜。

 緊急自体が発生したと生産組側から戦闘組リーダー達に招集がかかった。

 そして、襲撃が終わった頃を見計らって緊急の会議が開かれることになった。

 生産組のリーダー四人だけではなく、その場にいる全員が暗い表情をしているのを見て、ついに恐れていた事態が発生したと戦闘組は理解した。

 

「・・・・・・その顔を見れば何となく理解できるが、招集した理由を聞こうか」

 戦闘組を代表してアルノーが、そう口火を開いた。

「その予想は間違ってないと思うで? ついに、消耗品の補充率が五割を切ってしもうたわ」

「ごっ・・・・・・!?」

 思った以上の低さに、戦闘組の参加者が目を剥いた。

 こうなることがわかっていたので、戦闘組もリーダーだけではなく、主要なメンバーが揃っている。

「明日配布できる回復薬系は、今晩フル稼働で何とか生産を頑張ってもらっても、いつもの五割や。魔力回復薬系に至っては四割も配られへん」

 明日は最終日になる。

 今晩は徹夜して作成するなどの無理をしても、その程度しか生産が出来ないと判断されたのだ。

 

「・・・・・・厳しい、な」

 カールがポツリとつぶいた言葉が、静まり返っている場内に響いた。

 その言葉に、その場にいる全員の顔がゆがんだ。

 どう頑張っても回復薬が切れることが予想できるのだ。

 戦闘組は、少なくともリーダーの目の届く範囲内では、ぎりぎりを見極めて使用している。

 これ以上使用を控えろとは言えない。

 生産組もそれがわかっているからこそ、今の今まで何も言ってなかったのだ。

 

「仕方ないだろうな。最後の最後まで粘りたい者に出来るだけ多くの薬を配って、諦める者は配ることを止めるしかあるまい」

「それしかない、か・・・・・・」

 アルノーの言葉に、戦闘組リーダーたちが決断した。

 今から回復薬に関する情報を流して、イベント攻略が厳しくなったことを伝える。

 その上で、最後まで粘る者を立候補形式で募るのだ。

「出来れば、生産組パーティで戦闘に参加している者達は、参加を控えてくれるとありがたい」

「それはそうやろな」

 戦闘組からの提案に、パティは同意した。

 他の生産組リーダーたちも同じだ。

 より戦闘での連携が強い者達が残ったほうが良いに決まっている。

 例えばハジメのパーティは、ルフ・バネッサ・エイヤの三人が戦闘に参加いるが、逆に言えば三人しかいないとも言える。

 それであれば、五人がきっちりと揃っている戦闘組のパーティにより多くの回復薬を回したほうが良いと判断したのだ。

 要は、数よりも質を取ったのである。

 

 話し合いが終わりそうな雰囲気になったので、その場にいたハジメが一つ提案をした。

 戦闘組であれば思いつくかと思ったのだが、話に出てこなかったのでこの場で話した方が良いと考えたのだ。

「人数が減るのであれば、最初から塔の防衛をメインにした方が良くないか?」

「む? ・・・・・・そうか。そうだな」

 今までは、交流の街全体を守ると言うつもりで、城壁をメインに防衛をしていた。

 ただしそれは、数がいたからこそ出来ていた作戦だ。

 人の減り具合によっては、塔だけを防衛するように切り替えた方が良いかもしれない。

「それは明日の集まり具合を見てから判断しよう」

「まあ、その方が無難だろうな」

 ハジメとしては参考になればと考えて提案したのだ。

 今すぐその作戦に変更してほしいと、ごり押しするつもりは毛頭ない。

 

「他に何か思いついたことがあれば言ってくれ。明日はこのような場を設ける時間すらないかもしれないからな」

 アルノーが締めくくるように、そう聞いてきた。

 既に言いたいことは無いのか、沈黙が返って来た。

「そうか。では、明日が最後だ。最後の最後まで粘ろうではないか」

 その言葉に、その場の全員が頷いた。

 状況は絶望的とも言えるが、諦めるのは最後の最後でいいと、この場の誰もが考えているのである。

 

 明日はいよいよ最終日。

 イベント最終盤に向かっての戦いが始まるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 リーダー会議の内容は、すぐさま掲示板で伝えられた。

 回復系統の薬が足りなくなりそうだということは、既に伝わっていたので大きな混乱は起きなかった。

 ただし、戦闘組だけが残って防衛を行う事に関しては、反論が起きた。

 結果がどうあれ、最後まで見守りたいというプレイヤーが続出したのである。

 といっても掲示板でのことなので、実際にはどれくらいの数がいるかはその時点では不明だった。

 そういったプレイヤーに関しては、特に排除はしていないと言った上で、作戦を邪魔しない範囲で戦闘に加わるのも構わないという事も伝えられたのである。

 そうした内容が夜の間に掲示板で話し合われた。

 結局、この七日間の間は、夜の襲撃が無かった。

 そして一夜明けた朝。

 いよいよ最終日の襲撃が幕を切って開けられるのであった。

 

 最終日の初撃は、これまでの襲撃とは比べ物にならない程の大量のモンスターが襲来した。

 モンスターのレベル自体はさほど高くはなかった。

 だが、数が尋常ではなかった。

 雑魚に近い大量のモンスターを減らすには、大規模魔法による攻撃が一番手っ取り早い。

 何しろもたもたしていると、次の襲撃が来るかもしれない。

 次の襲撃がレベルの高いモンスターが来ないとは言えないのだ。

 魔力回復薬が減るのを覚悟で、魔法持ちの者達が雑魚モンスターを片づけて行った。

 その甲斐あってか、次の襲撃前にはモンスターの襲来を防ぎきることが出来た。

 

「・・・・・・何とかなったのはいいが、魔力回復薬の消耗具合はどれくらいだ?」

 一番気になることを、アルノーはすぐさま確認した。

 何よりも重要な情報だと分かっているのか、次の襲撃が来る前に結果が上がって来た。

 その結果に、アルノーは眉をしかめた。

「思った以上にひどいな」

 傍にいたアルノーのサポートキャラも同じような表情になっている。

 回復薬はともかくとして、魔力回復薬は次の襲撃が来れば枯渇する所まで減っていた。

 人数が減った分、大規模魔法を使う頻度が増えたので、その分の消費が増加したのだ。

「じり貧だな」

 残りの襲撃があと一回なら何とかなるだろうが、そんなはずがない。

 昨日の様子を考えても最低、後二回は襲撃があるはずだ。

「自然回復に任せるのか?」

 サポートキャラが聞いてきた。

「そうしたところで、今度は回復薬の消費が増えるだけだ。ここまで来ると、下手に小細工はしない方が良い」

「というと?」

「今まで通りに進めるしかないな」

 自分達の薬の残量がどれくらい残っているかはきちんと把握しているだろう。

 もう回せる薬はないこと周知して、後はそれぞれの判断に任せるしかない。

 厳しい戦いになることは分かっているが、もうこれ以上の手の打ちようがないというのが本音なのだった。

 

 

 

 最初に陥落の報告が上がってきたのは、西の塔であった。

 西側では、一度目の襲撃で魔力回復薬が枯渇してしまったらしい。

 魔力が切れるという事は、回復手段が薬に頼るしかなくなる。

 結果として、回復手段がなくなりリーダーによる奮戦もむなしくモンスターに破壊されてしまったのである。

 西の塔が落とされたことによって、これまで西を襲撃していたモンスターが北と南に進撃して来た。

 当然その分の負担が増えることになり、より薬の消費が激しくなる。


 これまで何とか保っていた均衡だったが、西の分のモンスターが増えたことにより、その均衡も崩れ去ってしまう。

 次に陥落したのは、南側の塔だった。

 南側のモンスターの残りは、東側に向かって来た。

 こうなるともはや手が付けられない状態になる。

 残った北と東の塔のどちらが先に落ちたかは不明だが、ほとんど同時に二つの塔は陥落した。

 アルノーも最後まで残って奮戦したのだが、多勢に無勢。

 いくらアルノーとはいえ、永遠に体力が続くはずもなく、最後はどのモンスターに止めを食らったのか分からない程の傷を負っていた。

 アルノーが最後に見たのは、何とか彼を回復しようとするサポートキャラの姿だった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 こうして初めての全体イベントは、プレイヤー側の敗北という結果に終わった。

 初の全体イベントということで、若干浮かれていたプレイヤー達は、その結果に衝撃を受けることになる。

 今までの経過から、イベント自体を甘く見ていた所があったのだ。

 これを機に、生産組では全体の生産についての見直しが始まり、戦闘組では別環境でのモンスターの戦闘方法の研究が始まることになる。

 だが、それはまだ少しだけ先の話。

 今はまだ、プレイヤー達は、イベント失敗について喧々囂々の議論を行うことになるのであった。

 名前:ハジメ

 種族:ヒューマン(人間)

 職業:上級作成師ハイクリエイターLV28(2up)

 体力 :3627(+100)

 魔力 :5879(+161)

 力  :334(+16)

 素早さ:418(+20)

 器用 :852(+40)

 知力 :535(+26)

 精神力:697(+30)

 運  :20

 スキル:調合LV19(1up)、魔力付与LV18(1up)、鑑定LV16(1up)、俊敏LV8、短剣術LV7、風魔法LV8、地魔法LV8(1up)、水魔法LV7、火魔法LV8(1up)、収納LV14(1up)、宝石加工LV11、装飾作成LV9、光魔法LV9(1up)、闇魔法LV8、錬金術LV8、空き×5(1up)

 職業スキル:短縮作成

 

 名前:ルフ

 種族:フェンリル

 職業:魔狼LV9(3up)

 体力 :7137(+392)

 魔力 :2682(+211)

 力  :718(+61)

 素早さ:407(+37)

 器用 :207(+19)

 知力 :213(+21)

 精神力:244(+22)

 運  :10

 スキル:牙撃LV13(1up)、激爪LV8(2up)、威圧LV14、俊敏LV15(1up)、気配察知LV14(1up)、収納LV13(1up)、火魔法LV12(1up)、魔力操作LV12、報酬LV14(1up)、体当たりLV12(1up)、水魔法LV11、空き×4

 職業スキル:遠吠え

 固有スキル:鋭敏な鼻

 

 名前:イリス

 種族:牛獣人

 職業:農婦ファーマー(一人前)LV38(2up)

 体力 :4724(+161)

 魔力 :2633(+102)

 力  :327(+21)

 素早さ:142(+11)

 器用 :379(+31)

 知力 :197(+14)

 精神力:275(+21)

 運  :10

 スキル:栽培LV20(2up→master!)、料理LV15(1up)、棍棒術LV7、怪力LV14(1up)、採取LV17(2up)、成長促進LV15(1up)、水魔法LV13(1up)、採掘LV8、地魔法LV13(1up)、収納LV12(1up)、収穫LV11(1up)、空き×4(1up)

 職業スキル:種子作成

 固有スキル:緑の手

 

 名前:バネッサ

 種族:アマゾネス

 職業:戦乙女LV11(3up)

 体力 :5032(+360)

 魔力 :2649(+241)

 力  :440(+45)

 素早さ:316(+39)

 器用 :247(+30)

 知力 :297(+36)

 精神力:201(+30)

 運  :10

 スキル:剣術LV18(1up)、槍術LV13(1up)、弓術LV13(2up)、体術LV15、火魔法LV10、風魔法LV10(1up)、魔力操作LV13(2up)、収納LV12(1up)、解体LV10(1up)、鷹の眼LV10(1up)、空き×3(1up)

 

 名前:エイヤ

 種族:ダークエルフ

 職業:魔法使いLV28(3up)

 体力 :711(+60)

 魔力 :2639(+243)

 力  :140(+15)

 素早さ:170(+19)

 器用 :235(+26)

 知力 :306(+32)

 精神力:204(+22)

 運  :10

 スキル:火魔法LV17(2up)、風魔法LV17(2up)、精霊術LV18(2up)、魔力操作LV18(2up)、料理LV9(1up)、精霊魔具作成LV4、空き×4

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