(1)第一エリア
次話投稿は本日15時になります。
チュートリアルをクリアしたことにより、第一エリアが解放された。
モニターが置いてある机とは反対側の方向の壁に扉が出来ている。
一度だけ扉を開けてみたが、しっかりと玄関のようになっているのに思わず笑ってしまった。
「第一エリアとなってるってことは、第二以降もあるんだろうが・・・そのたびに扉が増えていくのか?」
今はどうでもいいことを考えてしまったが、それは後々わかることだと後回しにした。
玄関の先の扉を開けると、そこには草原が広がっていた。
建物に囲まれた以前の風景とは明らかに違っていて、ハジメは少しの間その光景に見入ってしまった。
草原の光景に見入っているハジメに向かって、弱い風が吹いて草の香りを運んできた。
テレビを通して見ているのとは違い、明らかに実感を伴う光景だった。
何の準備もなしにフィールドに行こうとするほど愚かではない。
ルフが外に行くのかと付いてきたが、外に行くのはもう少ししてからと言いつつ、ついでに首すじも撫でておいた。
それで理解できたのか、ルフは先程までいた場所で再びうつ伏せになった。
どうやらそこを定位置と決めたらしい。
「さて。準備と言っても、まずは報酬の確認からかな?」
チュートリアルの達成報酬に初期装備があったので、それを確認することにした。
初期装備として入っていたのは、旅用の服と外套一つにサンダルが一足。
後は銅の短剣一本に名刺くらいの大きさのカードが一枚入っていた。
初期調合セットは、乳鉢に乳棒が一つずつ。
それに作ったものを入れる為のガラス瓶が十本分あった。
取りあえず、旅人用の服に着替える。
今まで着ていたのは、室内着と言う名のスウェットだったので、流石にそれで外に出る気にはならない。
「服を入れる箪笥とかも揃えないとな・・・」
今あるのが初期の配置物とチュートリアルのクエストで手に入れただけの物なので、いずれは生活用品も揃えないといけない。
その為には、クエストをこなしてGPを稼がないと揃えることが出来ない。
「そういやこのカードはなんだ?」
表(?)にはプレイヤーカードとだけ書かれている。
裏を見ても表と同じ白い塗装がしてあるだけで、特に何かは書かれていなかった。
「こういう時のヘルプさん」
カードを眺めていても分からないので、ヘルプに頼ってみるとしっかりとプレイヤーカードの項目があった。
プレイヤーカード:プレイヤー用の身分証。これを使ってプレイヤー同士でGPのやり取りが出来る。
同じような物にサポーターカードがあるが、機能としてはほとんど同じ。
プレイヤーカードは、拠点のGP全部が使えるようになっているが、サポーターカードは振込み型になっている。
サポーターカードに振り込んだ分のGPは、拠点のGPからは引かれる。
「なるほどね。サポーターカードもあるのか。今はルフだけだからいらないかな? ・・・いや、待てよ?」
プレイヤーカードを持ち歩いて、落としてしまったりした場合はGPが外では使えなくなってしまう。
今のところ他のプレイヤーとの交流が出来ないが、こんなカードがあるという事は交流が出来るようになるという事だろう。
その時にカードが無くて全く使えなくなるのは困る。
だったらいっその事、ルフ用のカードを作ってそのカードに貯金していくのはどうだろうか。
「あ、だめだ。サポーターカードから拠点への移動が出来ないか」
サポーターカードの項目を見てみると、そんなことが書いてあった。
「しょうがないか。取りあえずフィールドに行くときは、このカードを持って行くのは止めよう」
いずれは他のプレイヤーとの交流も出来るようだから、その時に持って行くことにした。
ルフ用のカードを作るのもやめておいた。
カードのチェックをしたついでに、GPの確認をすると千GPが貯まっていた。
チュートリアルクエストで貯まった分だ。
何に使うかを考える前に、クエストをチェックすることにした。
クエストをこなせばGPが入るが、こなすための道具が必要なのにいざ購入しようと思ったらGPが無いというのでは話にならない。
すぐにクエストを確認してみる。
クエストは既に新しいものが出てきていた。
New!「薬草を採取しよう」
New!「回復薬を作ろう」
New!「ゴブリンを討伐しよう」
New!「ヘミール湖の水を採取しよう」
New!「神の作業帳を受け取ろう」
一番最後以外はゲームでもよく見るタイプの物だ。
一応中もチェックしたが、特に違いは見つけられなかったので、同じものと考えていいのだろう。
というわけで、今一番気になる「神の作業帳を受け取ろう」を受領してみることにする。
内容は、<神の作業帳>を受け取るだけ。
受領アイテムも<神の作業帳>というシンプルな物だ。
クエストを受領してすぐに、完了のメッセージが流れた。
受領箱を確認すると一冊のシンプルなノートが出て来た。
表面には<神の作業帳>と書かれている。
<神の作業帳>の最初のページに使い方(?)が書かれていた。
1、アイテムの作成方法もしくは入手方法が記録されます。
2、表示されていないアイテムは、条件を満たさないと見ることが出来ません。
3、クエストアイテム百種とクエスト外アイテムがあります。
クエストアイテム百種全てを作成すると、全てのページが埋まりますので頑張ってください。
4、クエスト外アイテムは、クリアには関係ないアイテムだが、今までに作成・入手した物が記録されます。
5、表示されるアイテムには、作成可能状態と作成済状態があります。
作成済み状態になると条件達成になります。
何気にクリアするのに必要なアイテムだったらしい。
これが無いと、百種のアイテムなんて探し出すことすら難しいだろう。
勿論、手当たり次第に探しても条件は満たすだろうが、ほとんど砂漠に落とした宝石を探し出すのに等しい。
有難く使わせてもらうことにして、今表示されているアイテムが何かを見ることにした。
といっても今表示されているアイテムは、回復薬の一つだけだった。
回復薬作成のクエストも出ているので、早速作って・・・みたたかったが、そもそも材料が無いので、取ってくるしかない。
クエストは、「神の作業帳を受け取ろう」が完了して消えた代わりに、「神の作業帳で三種類作成済み状態にしよう」が出ていた。
同時に受けられるクエストに上限があるのか確認するために、上から順番に受けてみる。
討伐クエだけは、後回しにしたが問題なく受けられた。
同時に受けられるのに上限が無いのか、あるいは偶々五個は受けられただけなのかは、今のところ分からない。
この先クエストが増えてくれば、それも分かるだろう。
あるいは、掲示板から情報を仕入れることが出来るかもしれない。
それはともかくとして、全部のクエストを受領出来たので、次はいよいよ採取及び討伐に出かけることになるのであった。
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初めてのお出かけ・・・ではなく、フィールドへの外出は、出合頭の戦闘が発生することもなかった。
当然ルフも連れてきている。
外に連れ出されてはしゃぐ様子を見ていると、フェンリルではなくただの犬としか見えない。
フェンリルが遊んでいるのを横目で見ながら周囲を確認した。
拠点を中心にして草原が広がっている。
目で見える範囲では、拠点から東側に大きな湖があるのが見えた。
方角は拠点を出た時間と、太陽の方角から何となく決めた。
目視できるとはいえ、それなりの距離がありそうなので、歩くと結構かかるだろう。
「ルフ、行くぞ」
ハジメが声を掛けると、すぐにルフが傍に寄ってきた。
歩いて三十分程度で目標にしていた湖に着いた。
途中、スキルの<鑑定>を使いながら歩いて来た。
当然薬草があれば、採取もしようと思っていたのだが、確認できたのは全て雑草と表示されていた。
湖に来たのは、勿論湖の水の確保と、水辺に薬草が生えていることを期待している。
水辺の傍によって、水をすくって鑑定すると<ヘミール湖の水>と出て来た。
どうやらこの湖が、クエストで必要な水を確保するための場所で間違いないらしい。
更に、もう一つの目的もある。
それは、拠点の水道(?)から出る水との違いが無いかを確認するためだ。
ちなみに、鑑定を行うとアイテム名と説明の他に品質も出てくる。
先程手ですくった<ヘミール湖の水>は、品質「D-」だった。
ここに来る途中で、適当に手で取った雑草は「E」と表示されていたので、少なくとも品質は「E」まであるらしい。
品質については、後でヘルプさんに頼ってみることにして、取りあえず第一目標の薬草を採取することにした。
最初の薬草は、探し始めてから十分程度で探すことが出来た。
これが早いのか遅いのかは分からない。
群生していればラッキーと思っていたのだが、残念ながらその場所には一本しか生えていなかった。
取り方が品質に影響するかもしれないと思い、慎重に採取をした。
一応根からも取ったつもりだったのだが、それでも採取後に鑑定してみると、品質は「E+」だった。
品質にがっくりしながら、ふとルフがいないことに気付いた。
辺りを見回すと、少し離れた場所に移動している。
ハジメが顔を上げたのに気付いたのか、ワンワンとハジメに向かって吠え始めた。
何となく自分を呼んでいるように感じたので、採取した薬草を薬草袋に入れて、其方の方へ向かう。
ハジメが近寄ってきたのを確認したルフは、あたりの草をフンフンと嗅ぎ始めた。
もしやと思ってその草を鑑定すると、見事に薬草だった。
しかも群生している。
ハジメが最初の薬草を採取しているときに、薬草に鼻を近づけて匂いを嗅いでいると思ったが、本当に探し当てるとは思っていなかった。
すぐに、ルフの固有スキルの<鋭敏な鼻>に思い当たった。
もし薬草以外にもルフの鼻が役立つのなら、最高の仲間と言えるだろう。
「おー。よく見つけてくれたな。ありがとう」
勿論首筋を撫でながら褒めるのを忘れない。
ルフも褒められているのが分かっているのか、嬉しそうに尻尾を振っていた。
「しばらくここで採取しているから、辺りを警戒していてくれ」
ハジメがそう言うと、ルフは言葉が分かっているのか、ワンとひと声吠えた。
「・・・まさか、本当に通じてる?」
何せ種族がフェンリルだ。
もしかしたらそういう事もあり得るかもしれないと思い、心に留め置くことにしておいた。
この場所での採取は五本だけでやめておいた。
一応周辺には二十本以上ありそうだったが、どうせこの後も薬草は採取をすることになる。
その時に全くなくなっていると困るからだ。
今度こそ品質「D」を目指して採取をしたが、残念ながら最高でも「E+」だった。
何が悪いのか分からないが、「E-」と言うのもあった。
「うーん。この辺は数を取って慣れるしかないのかな」
ちなみにこの時点でハジメは、「E-」→「E」→「E+」の順に品質が上がっていると考えているが、それは正しい。
拠点に戻って確認すると、品質は「A」が最高でその後「E」まで下がっていく。
それぞれのランクで三段階の評価があるので、全部で十五段階あるという事になる。
ごくまれ「S」という評価も出るそうなのだが、ここまでの物を作成できれば、超人の域に達しているそうだ。
それはともかくとして、取りあえずクエスト用にと自分の回復薬用に必要な分がまだ足りていないので、すぐに次の群生地を探すことにした。
頼りになるのは、ルフの鼻である。
ハジメ自身でも探してみたのだが、圧倒的にルフの方が早かった。
何か所か群生地を転々としながら薬草を採取していく。
薬草は全て湖の水辺で見つかっている。
水辺以外の場所に無いのか探し出すのも今後の課題と言えるだろう。
まだ湖の周辺全てを散策したわけではないので、まだ余裕はあるのだが。
本日の目標だった薬草百本を採取したところで、本日の最終は終えることにした。。
「そう言えば、モンスター出てこなかったな」
採取の間に一度は出るかと思ったモンスターは、この日は結局出てこなかった。
出ることを期待していたわけではないが、早いうちに戦闘に慣れておかないと、と言う考えもある。
戦闘に関しては、また次回以降という事にして拠点へと戻るのであった。