(16)回復薬騒動(前編)
本日二話投稿一話目です。
いつものようにルフを第一エリアに放って、ハジメとイリスがそれぞれの作業を行う。
一通りの作業を終えた後は、納品のためにパティの露店へ向かった。
このところは、香水の売れ行きも落ち着いてきているという事で、今までのように香水の作成も急がなくてよくなっている。
その分、回復薬と魔力回復薬の作成に時間がまわせてるので、かなりの在庫が確保できて来ていた。
今回は、その二つの薬のCランクの品質の物を卸すための商談もすることに決めていた。
「相変わらず、流行ってるようだな」
「あ、ハジメやん。いらっしゃい」
「ああ」
パティの露店の前では、数人のお客が品物を見ていた。
最近では、人が途切れているところを見たことが無いので、かなりいい調子なのだろう。
勿論、ハジメの香水が一役買っているのは、言うまでもない。
「そうそう、ついに今朝あたりから出回り始めたで」
「ん? 何がだ?」
「Cランクの回復薬や」
それを聞いてもハジメは驚かなかった。
「そうか」
「あれ? 驚かないん?」
「予想できていたのだから当然だろう? それに、お前も同じだろ?」
パティは、ハジメのその答えに、ニマッと笑った。
「流石ハジメやね。というわけで、卸す準備は出来とるんやろ?」
「俺が既に作っていることは疑っていないんだな」
「自分で仄めかしといて、良く言うわ」
「それもそうだな」
ランクの低い魔力回復薬を卸す時に、それとなくだが既にCランクの物を作れることを仄めかしておいたのだが、パティもきっちりと察していたようだった。
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「そう言うわけで、明日から持ってきてな」
「ん? 明日からでいいのか? 元々今日から卸すつもりで持ってきているんだが?」
「なんや、そういう事なら早う教えてや。勿論、今日からでええで」
再びパティは、笑った。
完全に商人の笑いになっている。
だが、次のハジメの言葉で、ピタリと動きを止めた。
「魔力回復薬もあるんだが、良いんだよな?」
「・・・・・・なんやて?」
「魔力回復薬もある。なんだ、そういう反応をするってことは、こっちはまだ出回ってなかったのか」
「・・・・・・そういう事や」
ハジメの反応に、何故かパティは肩を落としている。
さすがや、とか、ありえへん、とか、色々呟いているが、聞こえなかったふりをしておいた。
「大丈夫なんか? また前の時のような騒ぎになると思うで?」
「それはこっちの台詞なんだがな。こっちは、それぞれ一日二百は卸せると思うぞ?」
「二百・・・・・・」
数を聞いたパティが、何故か虚ろな視線になっていた。
それだけの数の商品を捌くことを考えて、色々と思う所があったのだろう。
「ま、まあ、それだけあれば大丈夫やろ。売り切れになるのは、しゃあないとしても。それよりもホンマに大丈夫やの?」
「ああ。回復薬と魔力回復薬は、最初から量産するつもりだったからな。薬草も魔力草も十分に用意できる」
既に畑は二つになっているので、その二つを一日二百程度作るだけの数は確保できるのだ。
問題があるとすれば、エンチャントする際の魔石だが、ルフのおかげで在庫は十分にある。
拠点に、資材置き場の小部屋をわざわざ用意したくらい溜まってきている。
「なんや、相変わらずハジメと話とると、色々と常識が吹っ飛ばされるな」
「そうか? これくらいの事は誰でもやっていると思うが?」
ハジメは、プレイヤーなりサポートキャラが畑を作って、そこで出来た物をどちらかが調合すると言うのは、普通に思いつく事だと思っている。
実際に、ハジメと同じようなことを実行しているプレイヤーもいるにはいるが、ハジメほど成長していないのも確かだった。
いずれは彼らも追いついてくるだろう。
ハジメは、自分のやり方が独占できるなんてことは、欠片も考えていない。
今のところ先行できているのは、自分たちが持っている職業のおかげだとは思っているが、そこまで話す気はない。
まあ、パティも何となく察してはいるだろうが、あえて問いかけてくる必要も感じていない。
職業やスキルを詳しく教えないのは、プレイヤーの常識になっている。
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「そうなると、やっぱり露店だけで商売するのは、手狭やな」
「なんだ? 店舗の購入は考えてないのか?」
交流の街に元々ある建物は、まだ誰にも売られていない。
「あんなん、高すぎてまだ手が出せんわ。多分、どっかの集団が購入することになると違うん?」
未だこの世界においては、ギルドと言う組織は出来ていない。
そもそも攻略すべき土地が、拠点を介していくしかない以上、団体で押し寄せるわけにもいかない。
更には、既に別のプレイヤーが一度に行けるのは、五人までとなっていることが確認されていた。
そうなると、生産系はともかくとして、戦闘系のギルドが出来づらくなるのも、ある意味当然といえる。
その生産系もある程度まとまって活動するグループは出てきているようだったが、まだギルドを作るところまでは行っていないのが現状だ。
そう言った事情の為、パティは「集団」という微妙な言い方をしたのだが、建物と言う箱を手に入れれば、ギルド結成となるのだろう。
事実上、まとまって活動している以上はギルドと変わりはないのだが。
「そんな動きも出ているのか」
「どうやろな? 集団で動いているグループはいくつかあるらしいわ。けど、実際どの程度の物かまでは確認できてへんらしいわ」
この辺の話になると、パティにとっても聞き伝えのようだっだ。
「他人事だな。パティは、ギルドとかは作らないのか?」
「うーん。そう言う話も来たりするけどなあ。いまいちピンと来ないんよ」
「そうか」
ギルドに所属するとなると、ずっと付き合いが続くことになる。
相性などもあるのだから、そう言った感覚も重要になるだろう。
とはいえ、パティとて商人同士の繋がりはあるので、いつそう言った話がまとまってもおかしくはない。
集団になると起こる弊害と言うのももちろんあるが、やはり一人で出来ることには限りはある。
もちろん場合によっては、ハジメもそう言った組織に属するあるいは、作る必要になる可能性がある。
今は自前で素材を調達できているが、場合によっては調達手段を得る必要があるのだ。
そう言った場合には、どうしても組織という物に頼るしかない場合もある。
今のところは考えていないが、常に選択肢の一つとしてはあり得る。
出来るだけ自己完結を目指しているが、今後の成長の方向によっては、必要になるかも知れない。
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パティにCランクの商品を卸し始めてから一週間ほどたったある日。
その間に、ハジメが職業LV16になったり、ルフとイリスが職業LV5を超えたりしたが、概ね平常通りの作業をこなしていた。
それぞれ空きスキルがさらに増えていたが、今のところ決めていない。
新しいスキルを覚えるよりも、今は既存のスキルを伸ばすことにしたのだ。
このペースでスキルが増えて行けば、扱いきれないスキルが出てくる場合もあり得るが、それに関しては今後の課題になっている。
いつものようにパティへと商品を卸しに行くと、パティが若干焦ったような表情になっていた。
「何かあったのか?」
当然それに気づいたハジメは、パティへと問いかけた。
そう言えば、何となく交流の街全体がいつもよりざわめきが大きくなっている気がしていた。
「ああ、ハジメ。遂に来るものが来よったで」
「? 何のことだ?」
「一部集団による、薬草と回復薬の買い占めが始まったんや」
「・・・・・・ああ、なるほどな」
一部商品を使った独占とそれによる利益の独り占めを狙ったものだ。
特に初期の回復薬は、そう言ったことに使われやすい。
未来永劫独占を続けることは難しいが、短期的に儲けを出すには十分な利益が見込める。
当然非難も来るが、それ以上のメリットがあるのも確かなのだ。
「狙われているのは、回復薬だけか?」
「そうや。魔力回復薬までは手が出なかったらしいわ」
「そうか」
「始まったのは、昨日今日と言ったところやけど、もう値段に影響が出始めたようや」
回復薬は、戦闘職にとっては必須アイテムと言っていい。
何しろ戦闘をしていてダメージを受けないことなどないのだから。
攻撃をかわし続ければダメージを受けなくて済むが、そんなことは現実的にあり得ない。
当然、回復薬を独占できれば、利益は膨大になるだろう。
ただし、だ。
「そんなに影響あるのか? 薬草なんて自前で調達できるだろう?」
調合のスキルが使える職業は、薬剤師や錬金師など様々あるが、そのほとんどが第一エリアが薬草の採取できる所だと確認されている。
さらにハジメように、拠点に畑を作っている者もいないわけではない。
自前で薬草を調達さえすれば、さほど値段には影響がないはずなのだ。
勿論、便乗して値を上げる者がいたとしても急激に上がるとは思えない。
そのハジメの疑問に、パティが何とも言えない表情で答えた。
「それがなあ。どうもその集団は、回復薬が作れる職を囲い込んでいるみたいや」
「なるほどな。そういう事か」
「それにな。ランクCの回復薬が出回り始めたばかりで、作れる者が少ない時を狙ったらしいわ」
タイミング的には絶好の機会だったと言えるのだろう。
ランクDでも代用が出来ないわけではないが、やはり先を走っている戦闘組にとっては、ランクCの回復薬は喉から手が出るほど欲しい商品だ。
一度使い始めてしまえが、その使い勝手の良さからどうしても欲しくなるのはどうしようもない。
勿論割に合わなければ、ランクDを使うのだが、そのランクDの物も値が上がっているとなると話は別だ。
こうして、悪循環が生まれてしまって、結果として値が高騰していくという事になる。
そうなれば当然、初期の安いときに回復薬を買い込んだ者達が大きな利益を得ることが出来るのだ。
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しばらく考え込んでいたハジメだったが、やがてパティに問いかけた。
「出来る限りでいいが、ここ数日のランクCの回復薬がどれくらい出回っていたか調べられるか?」
無茶と言えば無茶な質問だが、商人たちであれば、大体の数くらいは把握しているだろうという考えからの質問だ。
何も正確な数字は望んでいない。
おおよその数が分かればいいのだ。
一瞬呆気にとられたパティだったが、ハジメの目的を理解したのだろう。
真剣な表情になって同じように考え込んだ。
「さすがに、私ひとりじゃ無理や。二時間ほど待ってくれれば、大体は分かると思うで?」
「そうか。じゃあ確認を頼む。あと・・・・・・」
さらに言いつのろうとしたハジメを、パティが遮った。
「薬草をどれくらい集められるか、やろ?」
パティの言葉に、ハジメは笑った答えた。
「そうだ。できればランクD以上が好ましい」
「わかった。それも合わせて調べておくわ。・・・・・・でも、ええのか?」
ハジメがやろうとしていることは、確実にハジメを表舞台に引き出すことになる。
それが一時的になるか、長期的な物になるかは別として、周囲が騒がしくなることは間違いないだろう。
「その集団とやらのやり方も別に否定はしないが・・・・・・何となく気に入らん、と言うのが答えにならないか?」
別にハジメとて、正義感を出しているつもりはない。
結果として周囲には、正義感のように見えるかもしれないが、それはそれである。
ハジメの動機としては、その一言だけで十分だった。
「アハハハハ。なるほど、気に入らない・・・・・・ね。確かにそうやわ」
パティとしてもその答えが気に入ったのか、ハジメの作戦に乗ることにした。
もしこの話を進めたとすれば、間違いなくパティの負担の方が大きくなる。
だが、それもハジメの言葉で吹っ切れた。
こうしてこの騒動をきっかけに、結果はどうあれ、パティもまた頭角を現していくことになるのであった。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:作成師LV16(1up)
体力 :1230(+150)
魔力 :1770(+100)
力 :33(+3)
素早さ:34(+3)
器用 :84(+6)
知力 :48(+4)
精神力:48(+5)
運 :9
スキル:調合LV8、魔力付与LV7、鑑定LV6、俊敏LV4、短剣術LV3、風魔法LV2、収納LV5、空き×2
職業スキル:短縮作成
名前:ルフ
種族:フェンリル
職業:狼LV5(5up)
体力 :2310(+550)
魔力 :584(+200)
力 :113(+35)
素早さ:75(+18)
器用 :30(+10)
知力 :43(+7)
精神力:29(+5)
運 :10
スキル:噛みつきLV7、威圧LV6(1up)、俊敏LV6(1up)、気配察知LV5、収納LV3(2up)、火魔法LV2(1up)、魔力操作LV2(1up)、空き×1
職業スキル:遠吠え
固有スキル:鋭敏な鼻
名前:イリス
種族:牛獣人
職業:農婦(一人前)LV5(5up)
体力 :1673(+484)
魔力 :1019(+152)
力 :77(+18)
素早さ:19(+5)
器用 :55(+12)
知力 :34(+8)
精神力:43(+10)
運 :10
スキル:栽培LV8、料理LV4、棍棒術LV3、怪力LV5(1up)、採取LV3(2up)、成長促進LV3(2up)、水魔法LV2(1up)、空き×2(New!)
職業スキル:種子作成
固有スキル:緑の手




