(14)香水騒動
パティへの納品を済ませて戻ってきたハジメは、残りの作業を行うことにした。
イリスは既に、中断した作業の続きを行うと言って、畑に戻っている。
そこまでして一緒に行く必要があるのかと思わなくもないが、それを言うとまた睨まれてしまうのがわかっているので、あえて藪をつつくつもりはない。
日が暮れるまでにそんなに時間は無いのだが、それでもやることはあるようで、戻ってきてすぐに畑に行ってしまった。
ハジメはハジメでやることはあるので、特に問題はない。
結局、パティへは品質Cの回復薬の事は言い出せなかった。
今のこの状況で売り出せば、とんでもないことになるのが分かっていたためだ。
いつになれば落ち着くのかが分からない以上、ある程度の在庫が確保できてから納品するつもりだ。
最初はいきなり言い出そうかと思っていたのだが、それどころではない雰囲気だった。
各種香水に引きずられるように、他の商品も売れているようで、それらの商品の確保でも忙しくしていた。
そんな中で、未だ出回っているとは聞いていない品質Cの回復薬を出せば、どんなことになるのかが想像に難くない。
ついでに、その他の物も作ってから納品をすることにした。
どれを引き取ってもらえるかが分からないので、一通り作って持って行くことにする。
何を作るのかと言うと、遠征で拾って来た物から出来るアイテムだ。
まずは、魔力草を使っての魔力回復薬。
続いて毒草を使っての毒薬。
最後に麻痺草を使っての麻痺薬だ。
毒薬と麻痺薬は、火属性のエンチャントを施せば、毒消しと消麻痺薬になる。
浄化の炎という意味らしい。
それだったら光とかでもよさそうなのだが、光の属性エンチャントは、品質を高めるときに使うので、使えないのである。
二つの属性を同時にエンチャントするのは、今のハジメにとっては高度な技術になるので、まだ手を出せる範囲ではない。
そのためいきなり品質Cを目指すことはせずに、まずは品質Dを目指してそれぞれの物を作っていった。
「よし。これで一通り出来たな」
毒薬・毒消し・麻痺薬・消麻痺薬が品質D-で作ることが出来た。
これ以上は、材料の品質の問題と、ハジメの腕の問題で作ることが出来なかった。
腕のせいと言っても、回復薬と同じように乳鉢と乳棒ですりつぶして水に混ぜるだけなので、慣れればすぐに品質Dは作れるようになるだろう。
同じような工程と言っても、元の材料によって潰し方が変わるところが、面白いところだ。
そう言った細かいところは、<神の作業帳>には記載がないので、自身のメモ書きに付け足していく。
そんなことをしていると、遠征で採取した物は全て使い切ってしまった。
勿論その間に、イリスも戻ってきていたので、夕飯を食べて今日の作業はお開きに・・・・・・しようとしたところで、再びパティからのメールが届いていた。
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メールを見ると話がしたいという事だったので、フレンドの中にあるチャットを使うことにした。
パティも既に拠点に戻っているとのことだった。
早速チャットで連絡を取ってみると、すぐに返答があった。
『すまんなあ。時間は大丈夫か?』
『気にするな。こっちだって迷惑をかけている方だろ?』
『はは。うちからすれば、商品が売れてるんやし、迷惑とは思わないわ』
『そうか。それで? 原因が分かったって?』
パティからのメールには、原因が分かったので、連絡を取りたいという事が書いてあったのだ。
『それがなあ。ちょうど今日の売れ出したころに、掲示板に書き込みがあったんよ。それのせいで売れ出したんやわ』
『掲示板? どの板だ?』
『女性専用やから、ハジメは見れんと思うで?』
今の掲示板は、各種族専用だったり性別専用だったりと言った専用掲示板が立っている。
しかもその機能は、名目だけでなく制限を掛けると本当にその種族だけだったり性別だけしか使えない。
非常に高性能な掲示板になっているのだ。
パティが言っていた女性専用の掲示板もその一つで、その名の通り女性しか利用することができない。
勿論、男性専用掲示板もあるが、ハジメはほとんど見たことがない。
『ああ。女性専用か』
『そうなんよ。それで、その掲示板見る限りでは、今の騒ぎが当分落ち着きそうもないんよ』
『ああ、なるほどな』
多少予想していたハジメだったので、さほど驚きはしなかった。
『だが、どうする? 今以上の納品は、材料的にどう考えても難しいぞ?』
短縮作成を使えば何とかなると言いたいが、残念ながら香水用の香草の確保が難しいのだ。
薬草ほど簡単に確保が出来ない上に、畑でも安定して採取できるとは言い難い状況だった。
念の為、横で見ていたイリスを見るが、首を振っていた。
『折角だから掲示板でも聞いてみたんやけど、薬師をやってる人でもエリア内で香草は見たことがないって、書き込みがあってな』
『え・・・・・・!? そうなのか?』
流石にその情報には驚いた。
採取の森のエリアでは、第一段階で普通に生えていたので、他のプレイヤーも同じような状況だと思っていたのだ。
『そうなんよ。逆にどうやって探し出したのか、不思議がっていたわ』
『どうもこうも、普通に生えていたのを採取しただけなんだが? ・・・ああ、待てよ? 何となく思い当たりがあるな』
『ほんま? それって言える情報?』
『そう言えば、パティは会ったことが無かったか』
『うん? どういう事?』
『俺の一人目のサポートキャラなんだが、魔獣系なんだよ』
ハジメがその書き込みをしてから、しばらく間があった。
『あ~。何となく想像ついたわ』
『俺も鑑定で手当たり次第に探したのもあるが、ルフの鼻が特殊で、一つ見つけた後は、探し出してくれてな』
『なるほどなあ。そういうわけか。これは、当分この状況が続くと思った方がええな』
『だろうな。俺の方もなんとかするが、さっきも言った通り、今はこれ以上増やすのは無理だぞ?』
ハジメも儲けることが出来るので何とかしたいのはやまやまだが、出来ない物は出来ない。
『そうやなあ。ほな、一日ごとの限定販売にするわ』
数がたくさん出せない以上、どうしようもない。
『そうか。大丈夫なのか?』
『ほな、まずは掲示板で情報出して様子見ることにするわ』
『苦労かけるな』
『こういう苦労やったら、いつでも掛けてええで』
勿論、儲けが出ているからこそ言える言葉である。
だが、ハジメはパティの予想のさらに上を行った。
『だったら苦労ついでに、他にも扱ってみないか?』
『・・・・・・ハジメ、今度は何をやらかした?』
『失敬な。毒薬、毒消し、麻痺薬、消麻痺薬を作っただけだ』
これら四つに関しては、他にも販売している露店があることは既に確認済みだ。
『何や、普通の品揃えやな。それだったら引き受けるで』
『後は、魔力回復薬なんてのもある』
『・・・・・・ま、まあ。それも他に出ているところもあるわな』
先の四つに比べて、数は激減するが、それでも扱ってないわけではない。
勿論、品質の問題は常に付いて回るが。
『他にもあるが、これは香水の問題が落ち着くか、他で出回ってから出した方がいいな』
最後に含みを持たせて、回復薬の話も出しておいた。
この時点での品質Cの回復薬は、香水以上の騒ぎになりかねない。
『なんや、まだあるんかいな。いっそのこと出してしまわんか?』
『いいのか? 間違いなく、女性だけでなく男も来ることになるぞ?』
『・・・・・・はは、それだけで何となく想像がついたわ。やっぱり遠慮させてもらうわ』
『そうしたほうがいい』
『ほな、今から掲示板に書き込みでもして様子を見てみるわ』
『ああ。明日には追加で納品できるから持って行くな』
『頼むわ。ほな』
『ああ。お疲れ』
最後に挨拶をして、チャットを終えた。
「と、いう事になったが、香草は大丈夫か?」
チャットを終えてすぐに、隣で見ていたイリスに確認した。
「はい。今日と同じ量でしたら大丈夫です。先を見越して、生産量増やしますか?」
問われたハジメは、しばらく腕を組んで考えた。
「いや。止めておこう。香水だけで食っていく気はないしな。それよりも回復薬と魔力回復薬を安定させたほうがいい」
「分かりました。魔力草は数日で安定して生産できるようになります」
「そうか。助かるよ」
現状、ここまで安定して回復薬が出せているのは、間違いなくイリスが管理している畑があるおかげだ。
しかも質が良いのが採取されるので、製品の品質も確保できている。
しばらくの間は、回復薬と魔力回復薬で稼ぐことが出来るだろう。
勿論参入者が増えてくれば、今ほど稼ぐことは難しくなるのだが。
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翌日は、イリスが朝から畑仕事で、ハジメはルフを伴って、ヘミール湖で水の採取だけをして拠点へ戻った。
拠点についたらルフはそのまま自由にさせた。
以前と同じように、夕方には戻ってくるように言ってある。
午前中に調合作業を行ってから、午後には交流の街に行く予定になっているためだ。
パティの露店への納品もあるのだが、今の市場を調査する目的もある。
交流の街に来るプレイヤーはどんどん増えて行っているので、その分売られる商品も変わってくるのだ。
当然、それに対応していかないと立ち遅れてしまうことになる。
イリスと一緒に、一通り露店を見て回る。
最初に来た時から既に、露店は倍以上の数になっていた。
交流の街に来たばかりの者を狙った商売や、独自の商品を用意したりしている露店など、既に住み分けが出来つつあるのが面白い。
勿論、パティの露店も独自路線を行っている一つになる。
「調子はどうだ?」
しばらく離れた場所で見ていたが、落ち着いているようなので、パティに話しかけた。
「数量限定販売にすることは、昨日のうちに掲示板で知らせたからな。朝のうちは忙しかったけど、今は落ち着いているわ」
「朝はという事は、朝のうちに売れてしまったという事か?」
「そうやねん。あっという間は、少し言い過ぎやけど、それでも早かったで。これで間違いなく、香水はうちの看板商品やな」
パティは、そう言ってニンマリと笑った。
「そうか」
「香水のおかげで、他の商品も売れていくから有難い限りやね」
「それはよかった」
香水だけ売れてもパティの露店は、やがては立ち行かなくなっていく。
他の商品が売れるのは、必要なことなのだ。
「何を他人事のように言うてる。ハジメの回復薬もその内の一つや」
「そうなのか?」
「そうや」
香水につられて回復薬を購入する者が多いという事だ。
装飾品なども置いているのだが、それらの物は戦闘で壊れたりしない限りは、買い替えたりはしない。
品質が上がったりすれば話は別だが、そうそう簡単には質のいいものは出回ったりはしないのだ。
ハジメ以外にも取引している相手がいるからこそ、パティもそういったことはしっかりと把握しているのだ。
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パティの露店への納品も終えて、拠点へ戻ろうとした帰り道のこと。
何人かの男たちに道を遮られた。
「・・・・・・何の用だ?」
用件は分かりきっているが、一応聞くことは忘れない。
万が一、別の要件の可能性があるからだ。
「お前が、あの店に香水を卸しているんだな?」
代表格なのか、男のうちの一人がそう言って来た。
残念ながら予想は外れていなかったことが、それだけで理解できた。
「そうだが、それがどうかしたのか?」
元々隠せるとは思っていないので、あっさりそう答えた。
「何。私も露店を開いている者でな。是非とも私の店にも・・・・・・」
「断る」
用件を切り出した男を遮って、きっぱりと断った。
「貴様!!」
後ろにいた男がいきり立ったが、代表格の男がそれを遮った。
「理由を聞いても?」
ハジメはため息を一つ吐いてから答えた。
「流行りだしてからたった一日で俺が、香水を卸していると調査できたのは素晴らしいと思うんだが、あと一歩足りなかったな」
「・・・・・・なんだと?」
「今日になってあの香水が、数量限定販売になったことは知らないのか?」
代表格の男が、後ろにいた者に確認の視線を飛ばした。
それを受けた者が、一つ小さく頷いた。
「・・・・・・そうか。済まない。こちらの確認不足だったようだ」
少なくとも代表格の男は、数量限定販売がどういう意味を持つのか、推測できる頭はあるらしい。
だが、それでもハジメにとっては、取引相手として、不足しているところがある。
「そうか。だったらもう用事はないな?」
ハジメはそう言って、立ち去ろうとしたが、代表格の男がそれを遮った。
「出来れば、今後は私とも取引をしてほしいものだが・・・・・・」
「すまんが、それも断らせてもらうよ」
「・・・・・・理由を聞いても?」
ハジメは一つため息を吐いてから言った。
「じゃあ言わせてもらおう。お前がしているのは、横から利益をかっさらおうとしている行為だ。そんな相手と取引しようとは思わないな」
「・・・・・・そうか」
一言でもパティを通してだったら、まだ考える余地はあったのだが、それすらもしていない。
他の者がどう考えるかは別として、ハジメはそんな相手と取引しようとは思わない。
ハジメの言葉を聞いて、代表格の男が顔色を変えたが、ハジメはそれを無視して立ち去った。
力づくでもくるかと思ったが、それをしたらどうなるかのは理解できていたらしい。
結局その後は、何事もなく拠点へと戻れたのであった。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:作成師LV13(1up)
体力 :1000(+80)
魔力 :1580(+100)
力 :22(+2)
素早さ:26(+3)
器用 :56(+5)
知力 :34(+3)
精神力:28(+3)
運 :9
スキル:調合LV8(1up)、魔力付与LV5(2up)、鑑定LV6、俊敏LV4、短剣術LV3、風魔法LV2、収納LV3(1up)、空き×1
職業スキル:短縮作成
名前:ルフ
種族:フェンリル(子)
職業:子狼LV9(1up)
体力 :1440(+120)
魔力 :153(+21)
力 :62(+5)
素早さ:44(+3)
器用 :15(+2)
知力 :27(+4)
精神力:18(+2)
運 :10
スキル:噛みつきLV7(1up)、威圧LV4、俊敏LV5、気配察知LV4、空き×1
固有スキル:鋭敏な鼻
名前:イリス
種族:牛獣人
職業:農婦(駆け出し)LV7(1up)
体力 :833(+112)
魔力 :724(+94)
力 :41(+4)
素早さ:8(+1)
器用 :29(+4)
知力 :17(+2)
精神力:19(+4)
運 :10
スキル:栽培LV6、料理LV4(1up)、棍棒術LV3、怪力LV4、空き×1
職業スキル:種子作成
固有スキル:緑の手




