(11)チートスキル?
色々と細かい内容を決めた後で、パティとは別れた。
今回の話で、香水だけではなく回復薬も引き取ってもらえるようになったのは嬉しい誤算だった。
回復薬は他でも扱っている店があったので、半ば諦めていたのだ。
「ぶっちゃけると、回復薬はエリア内からも手に入れられるんやけど、ハジメからの方が利幅が大きいねん」
そう言っていたのだが、流石商人だとハジメの中だけで思うことにした。
「それに、この品質やったら捌けそうやしな」
基本的に、商人の第一エリアから得られる商品は全てEランクの物だそうだ。
ハジメがパティに渡した回復薬は、Dランクの物なので、戦闘職にとっても使い勝手が良いという事になる。
回復薬は、完全に消耗品なので明らかに香水より回転率が速い。
そのためいくらあっても問題ないということで、香水以上の納品を求められた。
イリスと相談したうえで、きちんと納められる量を約束したのだが、次回はまた増やせることも話しておいた。
パティの店で、回復薬がどれくらいの量を捌けるかにもよるが、クエストで消化するよりも安定しそうな感じだった。
というのも、しばらくパティの傍で見ていたのだが、置いてあった回復薬はすぐに売り切れてしまったのだ。
Dランクの回復薬はまだ数が出回っていないので、こんなものだとパティは言っていた。
数が出回るようになれば、今ほどの量は出て行かないだろうが、しばらくは大丈夫だとも言っていた。
なぜなら<交流の街>に来ていないプレイヤーがまだたくさんいると見込まれているためだ。
そう言った情報も既に、商人同士では専用掲示板でやり取りされているとのことだった。
ハジメの場合は、作成師がユニークの職業の為そう言った掲示板という物自体が存在しない。
作ったところで書き込めるのがハジメだけなので意味をなさないのだ。
最後にパティからフレンド登録することを約束して別れた。
フレンド登録は、<交流の街>に入った後でメニューに追加される機能だそうだ。
一通り説明を聞いた限りでは、ハジメが知っている物と大差なさそうだったので、了解したうえでその場は別れたのだった。
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パティとの商談を終えて拠点を戻ったのはいいが、時間的には中途半端な時間だった。
夕方にはなっておらず、ルフは戻ってきていない。
かといって、二人で採取を行くには時間が足りない感じだったのだ。
というわけで、イリスは昨日の続きをするという事で、裏庭に行った。
残ったハジメは、改めてメニューの確認をすることにした。
追加されていたのは、パティから聞いた通り、<フレンド>の項目が追加されていた。
機能的には、それこそハジメが知っているゲームと大差が無かったのだが、それに合わせて拠点への出入りの許可する機能があった。
基本的に拠点へ他のプレイヤーやサポートキャラを招く場合は、その拠点のプレイヤーの許可が必要になる。
それを自動的に許可することが出来る機能だ。
よほど信用している相手でないとこの機能を使う事は無いだろうが、この機能を使う利点が一つだけある。
この機能のおかげで、他のプレイヤーとパーティを組んで、拠点のエリアを攻略できるようになるのだ。
最大でも三人パーティだったのが、六人まで組めるようになるので、これはかなりのメリットになるだろう。
もっともモンスターがほとんど出てこないハジメにとっては、大したメリットにはならないのだが。
取りあえず、パティとのフレンド申請だけ出しておいて、メニューの確認を終えた。
それよりもログを確認していたら、昨日は気づかなかった物を見つけた。
作成師がLV10になったことで、職業スキルが取得できていたのだ。
スキル名は、短縮作成。
効果は、材料があればすぐに成果物が出来るスキルだ。
簡単に言えば、薬草を水を用意しておくだけで、調合の作業をしなくてもすぐに回復薬が出来てしまう。
「なんだこれ? こんな便利なスキルあっていいのか?」
思わず言葉に出してしまったハジメだが、当然デメリットはある。
品質に関しては、今まで作った最高の物から一段階下の物しか作れない。
今のハジメで言えば、回復薬を例に取ると最高でD+の物が作れているが、短縮作成を使うとDの物しか作れない。
当然品質は、用意してある材料に依存するので、更に低くなる可能性があるのだ。
とはいえ、それはほとんどデメリットにはなりえない。
それ以上にメリットが大きすぎる。
「・・・このスキルが、作成師にしかないとしたら、どう考えてもチートスキルだな」
短縮作成は、別に調合に限った物だけに適応されるわけではない。
ただし、短縮作成が適応されるのは、あくまでも一度でも作った物に限られるので、スキルがない物は作れないという事になる。
「このスキルの情報を公開するかどうか・・・悩ましいところだな」
公開したらしたでいろんな意味で狙われる原因になりかねないし、しなかったらしなかったで、情報の秘匿だと責められることになりそうだ。
「取りあえず黙っておくか」
しばらく考えて、この情報が他のプレイヤーから出てくるまでは、ハジメからは言わないように決めた。
もし作成師専用の職業スキルであれば、ハジメが言わない限り誰にも分からないだろうし、他の職業でも取得できるのであれば、特に隠しておく必要がないからだ。
今のところ、作成師と言う職業自体も公表していないので、ばれる可能性は少ない。
ちなみに、<鑑定>スキルで他人のステータスや職業を見ることは出来ないので、その辺は安心している。
取りあえず水と薬草、それから出来た物を入れる容器を用意して、短縮作成を試してみる。
エンチャントのように、一瞬光のエフェクトが出て来た後には、しっかりと回復薬が出来ていた。
今回は回復薬五個分の量を用意していたのだが、しっかりとその数量分できている。
「・・・便利すぎるだろ、これ」
残念ながら用意した水が拠点の水という事もあって、ランクはEの物だった。
だが、作成出来る時間から考えても十分に役立つスキルだ。
「となると、やっぱりあれは取得しておいた方がいいな」
ハジメが考えているのは、今ある空きスキルに<収納>のスキルを取得することだ。
パティから聞いたのだが、収納のスキルはいわゆるアイテムボックスのスキルの事だった。
取得できるかどうかは、職業によるらしいのだが、先ほど確認をしたら取得可能で表示されていた。。
基本的には生産系の職業は取得できるとのことだったので、作成師もその例に洩れていなかったらしい。
スキルレベルによって、持ち運びができる大きさは変わるのだが、最初はおよそ1㎥の大きさの物を収納できるという事だった。
更にスキルに関して、もう一つの情報も得られていた。
これは掲示板情報なのだが、スキルレベルの合計が二十になるとスキル枠が新たに獲得できるというものだ。
現在のハジメのスキルLVの合計は十六なので、あと四つ上がれば空きのスキル枠が出来ることになる。
それを考えると、今あるスキル枠を使って<収納>のスキルを獲得したほうがいいだろう。
勿論<収納>スキルを獲得して、ヘミール湖の水を確保するのだ。
水を使うのは、回復薬に限ったことではないので、拠点にヘミール湖の水があるに越したことはない。
何より、今後は畑からも薬草が採取できるようになるのだ。
それを考えると、今までの現地生産だけではなく、拠点で作成することを考えた方がいいという事になるのだ。
というわけで、空いているスキル枠に<収納>のスキルを取得した。
結果、現在のハジメのステータスとスキルは次のようになった。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:作成師LV10
体力 :770
魔力 :1280
力 :14
素早さ:16
器用 :43
知力 :25
精神力:20
運 :9
スキル:調合LV6、魔力付与LV1、鑑定LV5、俊敏LV2、短剣術LV1、風魔法LV1、収納LV1(New!)
職業スキル:短縮作成
相変わらず戦闘系のスキルは全く変化がない。
こればかりは、戦闘をほとんど行っていないのでしょうがないだろう。
エンチャントは、これから伸びていくことを期待している。
収納は、成長の条件がいまいちはっきりしないと言っていたので、取りあえず言われたとおりひたすら使うしかない。
これで今のところスキルのセットも終わったので、イリスの様子を見に行くことにした。
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パティに香水を卸すことが出来て、結構な金額のGPが入ってきたので、そのGPを使って一番小さい畑を設置していた。
勿論、イリスの了承をもらったうえで設置したのだが。
畑で何を育てるかは、パティの店でどれくらい消費されるかを確認しながら調整していくことになっている。
パティからは、優先するのは回復薬でとは言われていた。
回復薬も香水も消耗品であることは違いがないのだが、どう考えても香水は一度買ってしまえば、すぐに新しい物が必要になる物ではない。
使い切ってしまうまでに時間がかかるので、当然回復薬に重点を置くことになるのは、理解できる。
「様子はどう?」
「あ、ハジメ様」
ハジメが声を掛けると、イリスは作業の手を止めて近寄ってきた。
「畑はまだ耕している最中ですから、何とも言えませんが、土は悪くないようです」
「ああ、やっぱり土も影響してくるんだ」
「当然です。実験場は既に種を植え終えているので、成長するのを待つだけです」
一番小さいものとはいえ畑が追加されたので、裏庭の畑もどきは実験場と命名。
畑は今後追加されるたびに、第一農場、第二農場と呼ぶことにした。
現在はまだ第一農場しかないのだが、これは資金の問題で畑が増やせないためだ。
畑が増えてくれば、イリスもずっと付きっきりで管理するしかないと言っていた。
ただ、そうなったときは、ハジメもほとんど作成しっぱなしと言う状態になってしまうので、そこまで大量に畑を増やすことは考えていない。
<神の作業帳>を見る限りでは、まだまだ作る物はたくさんありそうなので、回復薬だけを作っているわけにはいかないのだ。
こうなってくると、戦闘スキルが付いているのは、枠的に勿体なかったという事になる。
ただしこれも結果論で、戦闘スキルなしでエリアに出ることが出来たかどうか、と問われると無理だと即答できる。
いずれは戦闘スキルを上げるために遠征も考える必要があるのかもしれない。
その場合は、畑の関係で長時間離れるのが難しいイリスと要相談、という事になる。
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何となくイリスの手伝いをしつつ畑を耕していると、夕方の時間になったので、イリスと揃って室内へと戻った。
ルフの事も忘れてはいないので、<採取の森>のエリアに出る。
エリアに出ると、入口の傍できちんとルフが待ち構えていた。
ハジメが出て来たのを察知したルフが大きく尻尾を振り始めて、足元にあった物を口にくわえて差し出して来た。
「・・・・・・ん? 何か持ってきてくれたのか?」
ハジメが手を差し出すと、その上にポトリと落として来た。
<鑑定>をしてみると、そこに魔晶石と表示された。
魔晶石というのは、魔石のさらに一段階上の扱いになっている素材だ。
当然エンチャントの素材としても使われる物になる。
ちなみに魔石や魔晶石は、それ自体に属性のエンチャントすることもできるが、別の物にエンチャントする際の触媒として使われることもある。
むしろハジメのようなエンチャントのスキルを持っている者にとっては、そちらの方が用途としては多くなるだろう。
「よく見つけてきてくれたな。ありがとう」
ルフがそう言った事情を察して持ってきてくれたのかは分からないが、役に立つことは間違いないのできちんと礼を言うのは忘れない。
「それにしてもどこで拾って来たんだろうな?」
「そのうち連れてってもらうしかないでしょうね。もしかしたら、鉱脈でもあるかもしれません」
「そうだな」
次に行けるのがいつになるのかは分からないが、少なくともルフが往復できる位置には何かがあるのかもしれない。
もっとも、ルフの足はハジメに比べてかなり速い可能性の方が高いのだが。
取りあえず、魔晶石に関しては保留にすることにして、拠点へと戻るのであった。




