(10)交流の街
イリスが加わった翌日。
彼女の職業レベルが上がっていた。
畑とも言えない大きさだが、家庭菜園を作ったことが影響したのだろう。
名前:イリス
種族:牛獣人
職業:農婦(駆け出し)LV2
体力 :246(+126)
魔力 :225(+105)
力 :12(+6)
素早さ:3(+1)
器用 :8(+4)
知力 :5(+2)
精神力:6(+3)
運 :10
スキル:栽培LV3、料理LV1、棍棒術LV1、怪力LV2(1up)
固有スキル:緑の手
昨夜の夕飯と今朝の朝ご飯は、イリスが作ったものを食べた。
今までは出来合いの物を食べていたのだが、それを話すとニッコリと笑って「これからは私が作ります」と宣言された。
ハジメに不満もあるわけもなく、有難く頂くことにした。
この世界に来てから初めてキッチンがキッチンとして稼働した。
別にハジメに料理が出来ないわけではなく、むしろ前の世界にいたころはよく料理をしていた。
冷蔵庫が無いために、材料を購入したところで腐らせてしまいそうだったので、調理をしていなかっただけだ。
さらに人数が増えれば、作った方が安上がりになるのは確かだ。
しかも畑があるので、野菜なども作ってもいいだろう。
そんなわけで、外食は別にして、久しぶりに他人が作った手料理を食べたわけだが、思いっきり堪能した。
美味しそうに食べるハジメを、イリスが嬉しそうに見ていたのは、残念ながら気付かなかったのだが。
ハジメとルフは、レベルアップは無かった。
ルフはともかくとして、ハジメはエンチャントの作業を初めて行ったのでレベルアップするかと思っていたのだが、そこまで甘くはないらしい。
まあ実際エンチャントしたのが、四属性+無属性の五種類を作っただけなので、当然と言えば当然なのだが。
ちなみに、イリスはレベルアップしていたのだが、どういうわけか起きた時の筋肉痛もどきは起こっていなかった。
あの現象はプレイヤーだけに起こることなのか謎のままだった。
本日の予定は、<交流の街>の様子を見に行く予定だった。
行くのはハジメとイリスの二人だけで、その間ルフは<採取の森>で自由に活動させることにした。
<採取の森>は、ヘミール湖があるエリアの事だ。
活動できるエリアが、<交流の街>と二つになったことでどちらのエリアに行くかを選択できるようになった。
その際に表示されていた名前が、<採取の森>だったのだ。
一応北と南に森があることは確認してあるのだが、さほど詳しく調べてあるわけではない。
サポートキャラがプレイヤーと別のエリアに存在できることは、掲示板で確認済みだったので、安心してルフを<採取の森>へ送り出した。
夕方になったら拠点傍に戻ってくるように言ってある。
ルフは、昨日一日拠点で過ごしていたので、嬉しそうに駆け出して行った。
今後は、拠点だけで過ごす日は、ルフに関してはエリア内で自由に過ごさせた方がいいのだろう。
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ルフを送り出した後は、イリスを伴って<交流の街>へと繰り出した。
ただし、街とは言ってもNPCのような存在がいるわけではない。
いくつかの建物が建っているようだが、それらはまだプレイヤーが使える物ではない。
まだ、というのは、いずれ使えるようになるという事になるのだが。
それは勿論、GPを支払って購入することが出来るという事だ。
建っている建物は、表通りに面して十件程度建っているだけなので、あとはプレイヤーが自由に建てていくことになる。
新しく建築物を建てる場合は、建築のスキルを持ったプレイヤーに依頼をするか、<購買>で依頼をするかどちらかになる。
<交流の街>がエリアとして増えた段階で、<購買>にそのメニューが追加されていた。
プレイヤーに依頼して建てる建物は、好き勝手に立てることはできず、土地を購入してから建築を依頼する流れだ。
今ある建物が、中心になるようにしっかりと制御されているのだ。
既存の建物は勝手に使えない。
プレイヤーの一人が、建物を勝手に使おうとしたそうだが、強制的に排除されたという話だった。
中に入って自由に見る分には何もされないのだが、その場に止まって何かをしようとするとシステムが動作するらしい。
というわけで、現在ある建物は誰にも使われることなく放置されているのだが、その周辺では商人らしきプレイヤーが露天もどきを開いていた。
プレイヤーによっては机を持ち込んでその上に商品を並べている者もいる。
屋台もどきを持ち込んでいる料理人らしきプレイヤーもいた。
「いや、なかなか商魂たくましいな」
「そうですね」
街と言うには大げさだが、すでにバザーのような雰囲気になっていた。
並べられている商品も様々で、食品から武器防具に至るまで露天それぞれで違っていた。
いくつかの露店を回ってみたのだが、見た感じでは<購買>で売られている商品よりも値が下に感じた。
「・・・どこから商品を仕入れているんだ?」
ハジメの疑問に、イリスも首を傾げることしかできなかった。
「それぞれのエリアからやで」
その疑問に、たまたま近くにあった露店の女店主が答えてくれた。
「エリアから?」
「職業を商人にしたもんは、エリア内に露店のようなものがあってな。そこから物を買うたり、売ったりできるんや」
そう親切に教えてくれた女店主を、ハジメは改めて観察した。
種族はヒューマンではなく、人とは違う耳と尻尾が見えていた。
獣人であることは分かるが、どの種族かまではハジメには区別が出来なかった。
顔面偏差値は、はっきりと美人と言える顔つきだった。
ちなみに彼女に限ったことではなく、今まですれ違った獣人だと思われる種は、全員がハンサムあるいは美人と言える顔立ちをしていた。
ハジメが見とれているのに気付いたイリスが、ハジメの背中を抓ってきた。
「痛っ・・・!?」
イリスの方に顔を向けたが、そのイリスは視線を合わせないように顔を横に向けていた。
それを見た店主が、笑いながらからかうような表情を向けて来た。
「アハハハハ。仲がいいことで、結構なことや」
「・・・・・・どうも。あ、あと教えてくれてありがとう」
「なんもなんも、ええんや。これでうちを贔屓にしてくれたら言うことなしやからな」
「勿論いい物があれば、贔屓にさせてもらうぞ?」
ハジメの反撃に、女店主は一瞬虚を突かれたような表情になりそれから笑顔を浮かべた。
「兄さん、やるなー。そう返して来たのは初めてやわ」
「そうなのか?」
「大抵は戸惑ったような顔になるからな。ひどいのになると、大したもん置いてないくせにと、捨て台詞を言って去っていく者もいたなあ」
「それはまたひどいな」
確かに見た感じは特別いいものを置いてあるとは言い難かった。
だが、値段はともかく置いてある物は工夫が感じられた。
他の露店とは違うような商品が並べてあるのだ。
ハジメにしてみれば、特に大した返しをしたつもりは無かったのだが、女店主には何かの琴線に触れたらしい。
「まあうちも好きでやってるんやから、ええけどね。それはともかく、うちは狐獣人のパティや」
「ヒューマンのハジメだ。・・・名乗るときに種族を付けたほうがいいのか?」
「どうやろな? 兄さんがうちの種族を気にしてたようだったら付けただけや」
どうやらハジメが種族が何かを考えていたことに、気付いていたらしい。
「それは、失礼なことをしてしまって、すまん」
「気にせんといてや」
「私達獣人は、お互いの種族は何となくわかりますが、ヒューマンであるハジメ様にはなかなか区別がつきにくいかと思います」
なおも言いつのろうとするハジメに、イリスがフォローして来た。
「そういう事や。それに兄さん、いやハジメさんか? ハジメさんは、獣人のいない所の出やろ?」
「わかるのか?」
「そらもう。基本、獣人がおる世界のヒューマンとは全く別種の視線やからな」
パティがそう言うと、隣にいるイリスも頷いていた。
イリスは昨日生み出されたばかりのはずなのだが、そう言った知識(経験?)も入っているのだろう。
「なるほどな。出来るだけ気を付けることにしよう。ところで・・・」
「なんや?」
「”さん”は無理に付けなくてもいいぞ?」
ハジメの言葉に、パティは顔をしかめた。
「ばれないようにしているつもりだったんやけどな」
「それは仕方ない。慣れないうちは誰にでも違和感はあるからな」
君やさんを名前に付けない世界から来ている場合は、なおさら違和感があるだろう、とハジメは続けた。
その割にはイリスは最初から違和感がなかったなと、思わず彼女の方を見た。
「私は最初からそう言う存在になっていますから」
ハジメの疑問に答えるように、イリスがそう答えた。
「プレイヤーに違和感を持たないような存在になっているという事か」
「サポートキャラは全般的にそういった存在らしいで」
「そうなのか?」
「まあ、うちが知っとる限りやけどな」
パティの言葉に、納得したように頷くハジメだった。
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思わないところで話し込んでしまったが、ハジメは本題に入ることにした。
ここまで話をして、パティなら任せても大丈夫だと判断したのだ。
「ところで、商談したいことがあるんだがいいか?」
「商談? 何かを売り込みたいん?」
「まあ端的に言うとそういうことだな」
ハジメはそう言った後、何かを言おうとしたパティを抑えて懐からハーブ薬を取り出した。
勿論サンプル用の物だ。
「・・・これは?」
「鑑定してみてくれ」
ハジメに言われるままに鑑定をしたパティは、探るような視線をハジメへ向けた。
「これは、どこで手に入れたん?」
思った通り食いついてきたパティに、ハジメは笑顔を向けた。
露店を見て回ったときに、香水の類が置かれていないことも確認済みだ。
「作った」
「・・・・・・は?」
「いやだから、自前で作ったんだが?」
パティは、一度サンプルに目を向けてから、マジマジとハジメを見た。
「これを? ハジメが?」
「・・・ひどいな。俺がそれを作ったら何かおかしいのか?」
顔をしかめたハジメだったが、斜め後ろから吹き出すような音が聞こえて来て、全てが台無しになった。
ハジメが振り返ってみると、イリスが笑いを堪えるような表情になっている。
「・・・・・・イリス」
「す・・・・・・すいません」
一応謝罪は口にしたが、それでも表情は変わらなかった。
ハジメが怒っているわけではないことをきちんと察しているのだ。
「いや、ごめんな。あまりに意外な組み合わせだったもんやから」
一度、どういうふうに見えているのか問い詰めたくなってしまったハジメであった。
「・・・・・・納得いかんが、それはまあいいとして、それは売れそうか?」
「ハジメのことやし、きちんと調べているだろうから言うけど、値段次第やね」
当然と言えば当然の回答に、ハジメも頷いた。
「一本につき五百辺りでどうだ?」
「卸値で?」
「いや、売値だ。卸値は七掛けの三百五十で考えている」
それを聞いたパティは、笑顔を見せた。
「うちに三割も持たせてくれるん?」
「別に高くはないと思うが?」
ハジメにしてみれば妥当な値段だと思っている。
どういう置き方をするのかは完全に任せるが、店を開けている間は、パティ本人かサポートキャラが張り付いていないといけないのだ。
「そう言ってくれるとありがたいなあ。人によっては、平気で九掛けとか持ちかけてくる人もおるしな」
「それはまた・・・どうせ店先に置いておくだけだろとか言うのか?」
「そうそう。まあそう言う輩は丁重にお断りさせてもらっているけどなあ」
「当然だな」
溜息を吐くパティに、ハジメは深く頷いた。
「ハジメが話の分かる人で良かったわ」
「まあ、これくらいはな。それに、こちらとしてもパティを選ぶ理由もあるしな」
「参考までに聞いてもええ?」
「単純な話だ。店先の品揃えが女性向けになっている」
そのことは、最初に露店を見た時から気づいていた。
別に男が買ってはいけない物を置いているわけではないが、明らかに女性を意識している物を置いている。
香水も別に男が使ってはいけないという事はないが、明らかに女性の方が需要は高いだろう。
そういったことを考えて、パティに取引することを持ちかけたのだ。
「初見でそこまで見抜かれたのは、商人仲間以外では初めてやなあ」
「そうなのか?」
「そうなんよ。まあそれはともかく、その条件やったら、うちとしては是非とも取引をお願いしたいな」
そう答えるパティの表情を見て、自分の判断は間違っていなかったと改めて確信したハジメであった。




