(8)サポートキャラ(後編)
本日二話投稿二話目です。
更新チェック中から来た方はご注意ください。
本日回復薬の回復量を見直しました。
「品質と職業レベル」に出てくる品質「D-」の回復量を170から80に変更しました。
急遽変更したので、文章的におかしなところがあればご指摘お願いいたします。
「ま、まあそれはともかくとして、改めてよろしく。俺はハジメという」
「はい。存じてます」
頷いて返事をした女性に、ハジメは疑問を持った。
名乗っていなかったのに、何故ハジメの名を知っているのか。
そもそも先ほどから、牛獣人としての知識もしっかり持っている。
言葉でコミュニケーションが取れるサポートキャラは初めてなので、それについてしっかり聞いておこうと考えた。
ただ、その前にしておかないといけないことがある。
「名前は無いんだよな?」
キャラの作成時に名前がないことは確認しているが、念のため本人にも聞いて見る。
「はい。ですので、ぜひハジメ様が付けてください」
「あー、いや、うん。名前を付けるのは良いんだけど、その前に・・・・・・」
「はい?」
「様付けは止めてもらえると助かるんだが?」
別に敬称を付けることを否定しているわけではない。
自分としては、様付けされるような力も能力もないと思っているので、そう呼ばれるのがこそばゆく感じるのだ。
そんなことを言ったハジメを、じっと見ていた牛獣人の女性は、にっこりと笑って言った。
「駄目です」
その表情を見たハジメは、これ以上ごり押しするのを諦めた。
言外に様付けで呼ばれても恥ずかしくないような人間になってくれ、と言われているような気がした。
「じゃあ、まあそれはいいや。それで、名前ね・・・・・・」
少し考えてから思いついた名前を言ってみる。
気に入らなさそうであれば、すぐに次の名前を考えるつもりだ。
「イリスと言うのはどうだ?」
ハジメがそう言うと、何度かその名前を呟いていた女性がニコリと笑った。
「はい。それでは今から私は、イリスと名乗ります」
「そうか。よかった」
名前が決まったところで、先ほど気になったことを聞いてみることにした。
「さっきから牛獣人とかの話をしているが、記憶があるのか?」
ハジメが気になっているのは、サポートキャラにも自分と同じように以前の記憶があるのかどうかという事だ。
そう言った話は、掲示板にも出ていなかった。
「いいえ。ありません。私の記憶は、今ここから始まっています。ただ、種族としての普通に知られている知識とかが、記憶としてあるようです」
「サポートキャラとしては?」
「それは勿論あります。一人目が彼女なので知らないようなので、サポートキャラについて、私が説明させてもらいます」
本来であれば、一人目のサポートキャラが説明する部分を、イリスが担うことになった。
ルフは言葉が話せないので、当然と言える。
「ああ、頼む・・・・・・って、彼女!?」
思わず聞き逃そうになったが、驚いてルフを見た。
「気付いてなかったんですか? 彼女は雌ですよ?」
二人のやり取りをしっかり聞いていたのか、どことなくルフの機嫌が悪くなっている気がするハジメだった。
「サポートキャラについてですが、まず私達は主である貴方に逆らうことが出来ません」
「・・・・・・そうなの?」
「正確に言えば、主に害するようなことができない、と言った感じです」
「害するってまた微妙な表現だな」
命のやり取りは当然として、どこまでが害することになるのかが曖昧なのだ。
「そうですね。ですので、その辺の判断はあくまでもサポートキャラ個人個人の資質によるかと思います」
「究極的には、主の為だと判断した場合は、他者をそそのかして殺害したりとか? ああ、いやすまん。別に。イリスとかルフが、そんなことをするとは思っていないぞ」
微妙な表情になったイリスを見て、ハジメがそうフォローした。
「・・・・・・場合によっては、そういう事も可能かもしれません。・・・・・・いえ、不可能ですね」
突然言い直したイリスに、ハジメが首を傾げた。
「・・・・・・ん? どういう事?」
「そもそも私達は、主に対して殺意と言うのを持てないようです」
「それは・・・・・・それでまた嫌な感じだな」
感情が制限されているというのが、生物にとっていい状態とは思えない。
その思いを察したのか、イリスはニコリと笑った。
「心配して下さり、ありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。殺意とか負の感情に関しては、全く持てないというわけではなく、長続きしないと言った感じのようです」
「ああ、なるほど」
負の感情と言うのは、持ち続けるだけでかなりのエネルギーを使う。
例えば怒りと言った感情をずっと持っていると言うだけで、かなりのエネルギーになるため、すぐに忘れてしまうと言ったことは、よくあることだ。
「あと、これは恐らくになるんですが・・・・・・」
言いづらそうにするイリスに、ハジメは先を促した。
「何か気づいたことがあったら言って。この先何があるかわからないから、出来るだけ余裕がある今のうちに聞けることは聞いておきたい」
「はい。では・・・・・・ハジメ様は、私達に対して、横暴な真似をしたいと思いますか?」
「いや、そんなわけ・・・・・・ああ、なるほど」
イリスの言いたいことに気が付いて、ハジメは苦笑した。
「サポートキャラがプレイヤーに対して逆らうことが出来ないように、プレイヤーもサポートキャラに対して、無体を働くことが出来ないようになっていると?」
「そうです。ただ、今言った通り、あくまで推測でしかありません。何しろ実例が私達だけを基準に話していますので・・・・・・」
「・・・・・・ん? 俺たち限定? 他のプレイヤーとかサポートキャラとかは?」
「それは流石に、実際を見たことがないので、何とも言えません」
「そういやそうか」
それを聞いたハジメは、肩の力を抜いた。
どうにも先走り過ぎていたようだった。
「牛獣人としての記憶とサポートキャラとしての知識があるという事だけど、実際にどうなんだ?」
「どう、とは?」
ハジメの曖昧な質問に、イリスが首を傾げた。
「いや、だからほら・・・・・・全く見も知らない男の傍で生活をしていくことに対しては・・・・・・」
「ああ、そういう事ですか」
ハジメが言いたいことを察して、イリスがその白い頬をさっと赤くした。
しばらくもにょもにょしていたイリスだったが、意を決したようにハジメの耳に唇を寄せて言った。
「・・・・・・期待していますよ、御主人様」
「ふぐっ!? ごほっ、げほっ、けほけほっ」
「だ、大丈夫ですか、ハジメ様!?」
突然噴出したハジメの背を、イリスがさすりだした。
「い、いや、大丈夫だ。・・・・・・普通に男と共同生活することについて、聞いたつもりだったんだが・・・」
「へ・・・・・・!? え、あっ!?」
今度はイリスが、自分の勘違いに気付き、真っ赤になってうろたえ始めた。
「え、えーと。よ、よろしくお願いします」
イリスは、誤魔化すように三つ指をついて頭を下げた。
「い、いやまあ、ええと。・・・・・・それってやっぱり、サポートキャラとしての感情?」
誤魔化そうとするハジメに、若干ジト目を向けるイリス。
「いえ。どちらかと言えば、牛獣人としての習性です」
「いや、習性って・・・」
「ひ、一目惚れしやすいんですよ! ええ、もう。女性にこんなこと言わせないでください!」
思わぬイリスの告白に、ハジメも目を丸くするしかなかった。
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その後はいろんな意味で微妙な空気になってしまった。
といっても、二人(+一匹)しかいない以上、いつまでもそうしているわけにもいかず、別の確認をすることにした。
「そ、それはともかくとして、イリスのステータスを確認しようか」
無理やり話を切り替えるハジメに、イリスがほんの少しだけ睨むようにしていたが、一度ため息を吐いて話に乗ってきた。
「はい。よろしくお願いします」
ルフと同じように最初からスキルが付いているのであれば、特に何かする必要はないのだが、もし空欄ならスキルを決める必要がある。
早速<メンバー>の項目からイリスの情報を表示した。
名前:イリス
種族:牛獣人
職業:農婦(駆け出し)LV1
体力 :120
魔力 :120
力 :6
素早さ:2
器用 :4
知力 :3
精神力:3
運 :10
スキル:栽培LV3、料理LV1、棍棒術LV1、怪力LV1
固有スキル:緑の手
「・・・・・・ええっと、イリスさん」
「・・・・・・はい、なんでしょう?」
「怪・・・・・・「言わないでください!」・・・・・・はい」
確認の為聞こうとしたところ、あっという間に遮られてしまった。
「そのスキルも、牛獣人の特徴なんです・・・・・・」
そう言いながらしょんぼりしているイリスを、可愛いなと思いながらハジメは、気になったことを聞いた。
「へー。という事は、牛獣人は全員こ(・)れ(・)を持っているってことか?」
「はい」
「いや、そんなに落ち込まなくても。スキルがあるってことは確実に役に立つんだから、誇る・・・・・・のは微妙としても、使いこなしてやる、くらいに思ってた方がいいと思うが?」
ハジメの言葉に、イリスが顔を上げた。
「あ、あの・・・・・・」
「ん?」
「女のくせにとか、気持ち悪いとか思わないんですか?」
思ってもみなかったことを言われて、ハジメは目を瞬いた。
「いや、考えてもみなかったな。最初に聞こうとしたのは、どういうスキルなのか聞こうと思っただけだし」
ハジメがそう言うと、イリスがあからさまにホッとした表情になった。
その後は、なぜか顔を赤くしながら、チラチラとハジメを見ている。
「・・・・・・・・・・・・ん?」
「な、何でもありません! そ、それで、スキルの事でしたね?」
「あ、ああ・・・・・・そうなんだけ、ど?」
あからさまな話題転換だったが、ハジメは何かおかしいなと思いつつ首を傾げた。
ここで女性の機微に気付けるような性格であれば、○○年も独り身を続けていなかっただろう。
そのハジメの様子を、ホッとしたようなどことなく残念のようなどっちつかずの表情を浮かべて、イリスが話を続けた。
「怪・・・・・・のスキルは、重いものを簡単に持ち運べたり、振り回したりすることか出来るスキルです」
「ああ、なるほど。だから棍棒術なのか」
後々は、重いハンマーとかを振り回せるようになるという事だ。
イリスのような美貌の女性が、鈍器を振り回している姿を思い浮かべて、ハジメは一瞬身震いをした。
「・・・・・・・・・・・・ハジメ様?」
「あ、いや。うん。なんでもないよ? ・・・・・・それで、栽培と料理に関しては何となくわかるけど、<緑の手>って何?」
「緑の手、ですか?」
イリスは、初めて聞いたような表情になった。
「え? あれ? だって、固有スキルの欄に表示されてるだろ?」
「固有スキルですか?」
同じ画面を確認しているはずなのに、どうやらイリスには固有スキルが見えていないようだった。
念の為、ルフのステータスを見てもらったが、同じように固有スキルは見えないとのことだった。
「固有スキルはプレイヤーにしか見えないのか。また無駄に凝った作りになっているな」
「そうですね」
同じ画面を見ているはずなのに、プレイヤーとサポートキャラで見えるものと見えないものがあるらしいということがわかった。
固有スキルに関しては、頼りのヘルプさんにも載っていなかった。
ルフの<鋭敏な鼻>もそうだが、かなり有用なスキルであることだろう。
名前の字面とスキル構成から何となく想像できるが、それが正解かどうかは分からない。
サポートキャラであるイリスには、スキルなどのある程度の知識が入っているが、それも全てではないらしい。
固有スキルもそうだが、あくまでも自分自身に関わる最初の情報だけが与えられている。
この先どうやって成長していくかは、あくまでもプレイヤー次第という事になる。
もっとも、ハジメはこれを身に付けてほしいと言った要望を出すことはあるが、最終的には本人に決めさせるつもりだ。
押し付けたくないというのもあるが、あくまで本人が選んだものでないと、いい方向に伸ばすことが出来ないと考えているためでもある。
空きスキルが出来るはまだ先の話なので、当面は今あるスキルを伸ばすことを考える。
ただし、戦闘はルフが伸び悩んでいるように、ほとんど戦闘が起こらないので、伸ばすとすれば<栽培>スキルになる。
この<栽培>スキルだが、今のハジメにとっては、非常に相性がいいスキルだ。
何しろ、イリスに薬草などを栽培してもらった物を、ハジメが調合すればいいのだから。
問題があると知れば、栽培するスペースがあるかどうかだが、<購買>で解決済みだ。
元々薬草が栽培できないかなと調べていたので、畑が拠点に拡張できることも既に確認してある。
というわけで、今あるGPを使ってイリスの装備を整えるのと、拠点の拡張を決定したのであった。
イリスはハーレム要員二号です。
一号は当然ルフですが、何か?w
※感想にてとある理由からタリスの名前を変えた方がいいのではないかというご意見をいただきました。
作者も皆様にタリスの名前が定着する前に変更したほうがいいと判断したために、タリスの名前を変更することにしました。
変更後の名前は「イリス」です。
え? 変わってない? き、キノセイデスヨ、たぶん。




