第三十八話
「ふぅーはっはっ! さらばだ少年!」
「まあ三日に一度はこの街に帰ってくるけどな」
「そうそう、そもそも今はまだ永遠に浮くわけじゃないんだから」
小さなおじさんと幼女に土下座をかまし、本気で三分間であの惨状を修繕した生産組が、それから一週間ほど俺達を協力させて作った空中庭園、名前はまだ決まっていない上に一見ただの空飛ぶ人工芝を乗せた鉄板にガラクタとプロペラが乗っているだけとかいうそれに乗ってそんなことを言う。高いところからセリフを言うのが好きなんだろう。
実際に完成するとは思わなかったが、重量の関係で空飛ぶ城にならなかったのは良かったと思うべきか残念だと思うべきか……
なんだか良くわからん脅威のメカニズムとやらで作られたアレを見ていると、もう少し何とかならなかったかなぁと思う。思うが、これ以上連中に付き合うのはいやだ。楽しいけど楽しいのがいやっていうか、楽しくないものもあったというか。この二週間のことは忘れてしまおう。
「出来ればもう二度と会いたくないし、もう迷惑なことすんなー!」
「善処しよう!」
とくにこの栗田さん、異世界だし厨二でも問題ないよね! を地でいっている人だが、データとか研究とかとテンションが上がると暴走する、物凄い面倒な人だった。会ったときから知っていたけどな。
とにかく、実に平和に解決することが出来たのである。げんこつやデコピンを構えると震える集団が出来た気もするが、きっと気のせいだ。誰が何と言おうと平和的解決だ!
「少年もその剣を壊すなよー!」
「銅の剣折れたのはあんたらのせいだろうが!」
「はっはっは、気にするな!」
戦車の砲弾を打ち返そうとしたら砕けた銅の剣の代わりに、あのロボットの残骸から連中に作らせた謎合金の剣を腰から下げている。この合金の名前もミスリルやアダマンタイトやオリハルコンなんかの案こそ出たがまだ決まっていない。適当に合金の剣でいいか。
空高く飛んでいくのを見送りながら、そろそろドワーフの国を離れようと思った。主に三日以内に。次に行くのは獣人の国かぁ。ここの連中はロリコンだったわけだが、もしかしたらけも耳フェチの同類がいるんだろうか。そうだとしたらもういっそどこかに引きこもってしまいたいよ。
「あ、昇。彼らの見送りご苦労様」
「ああ、シエルか。苦労ってほどでもなかったけど、あいつらは人の話を聞かないからちょっと心配ではあるな。まあいいや、そろそろ獣人の国目指して出発しようか」
「りょうかーい」
この二週間、あいつらの実験に付き合いつつも噂を何とかしようと奮闘したが、途中からほとんどシエルにまかせっきりだったからな。観光なんかも楽しんでいたみたいだからいいんだけどさ。
「ところで昇、君は護衛依頼を受けてヒトの国からドワーフの国に来たけど、今度もそうするのかい?」
「うんにゃ。ぶっちゃけるとアレ結構退屈だったり面倒だったりしたからさ。野宿なしで行けたほうが嬉しいし、さくっと行こうかと思ってる」
「どうやってだい? ボクは馬車より速くなんて走れないよ?」
無論抜かりは無い。昨日のうちにひとっ飛びいって、安全そうなところに空間魔法で転移できそうなポジションを確保しておいたのだ。それに加えて直接テレポートするから怖いのであって、ゲートみたいなものを作って通れば向こうも見えているから何の問題も無いという頭のいい考えがでている。
「そんなこともあろうかと、ちゃっちゃらちゃっちゃっちゃーちゃちゃーん、ワープゲートー!」
「……へ?」
「いつでもどこでもくぐるだけ! 連中に車を作ってもらうのも考えたけど、異世界でも無免許運転はだめでしょ? ってことで、さあいこうか」
若干放心状態のシエルをつれてゲートをくぐる。ああ、剣を振り下ろして空間を切り開くとかネタを仕込むのを忘れていたな。
「さーて到着っと。近くにある町にでも行って早速宿を取ろうか」
「どういうことなの」
別に観光に移動なんて必要あるまい。まして草原や荒野なんかを眺め続けるなんて苦行に近いよ。時代は選択肢一つで移動できるゆとり仕様なのだ!
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「あの、そこのお兄さん! ちょっといいですか?」
「はい?」
無事に街に入り、狼版のなめ猫って感じの人や尻尾と耳だけ狐の人など、あらゆるランクの獣度がそろっていそうな光景に二人そろって目を奪われていると、そんな声に呼び止められた。
振り返ると、黒い髪に和服っぽい服を着て、腰におそらくだが刀、持つところや反り返りが刀っぽいものを差した俺よりも小さな少年がこちらを見ていた。中学生くらいだろうか、おそらくトリッパーだろう。
「お兄さん悪いことしたことあります?」
「ええっと、そりゃあ好き嫌いをしたことや赤信号渡ったことくらいはあるけど、おまわりさんのお世話になることはしてないよ?」
いきなりそんなことを聞かれて落ち込みそうになる。そんなに悪いやつに見えるのだろうか。まあいったいどのような行いが悪いとかそんなことを聞かれているようでもないし、こっちに来てから悪いことをしたかっていう質問だろう。
「そうですか。では、これから悪いことをなさる予定は?」
「無いよ! 失礼なやつだなぁ」
「残念です。それでは「トツカ様! 急に走り出してどうしたにゃ!」」
さようなら、には見えない雰囲気で続きそうな言葉を遮ってネコミミの女の子がやって来た。なんだ、こいつリア充か。
「いえ、僕よりも強そうな気配がしたので」
「そんなはずあるわけ無いにゃ! トツカ様より強い奴なんていないにゃ!」
気配って、そういうスキルだろうか。そう思っていると、隣のシエルが反応した。
「はは、昇のほうが強いに決まってるじゃないか。なあ?」
「ふふーん、彼氏の自慢かにゃ? トツカ様が戦う所を見たことがにゃいからそんなことが言えるにゃ」
「かかか彼氏!? ……ふ、ふん、そっちこそ昇の強さを知らないからそんな大口が叩けるのさ」
自分の手柄でもないだろうに自慢げなシエルと向こうのネコミミが威嚇しあっている。別にどっちが強くてもよかろうに。
「トツカ様! あんな奴倒しちゃって下さいにゃ!」
「昇! 負けるわけないよね!」
「ちょうどいいですね、僕もあなたと戦ってみたかったんです。どうですか?」
白熱している外野に断りを入れようとしたらトツカ少年までそんなことを言い出した。え、これそういう流れ?




