第四話
目の前の出来事に唖然としていたが、十秒位すると惨劇の後が光になって消えた。何も残っていない。
「あれ?アイテムドロップとか、金とかは?」
慌てて探すも何もない。全部消えたみたいだ。
「何も……残っていない……だと。」
少なくとも今日何処かに泊まるだけの金は必要なのだ。しかし何も残っていない。
「そうだ!アイテムウィンドウは……」
ウィンドウを開くと、幾つかアイテムが増え、枠の一つが数字になっていた。
・ポーション(HP) ×5
・ポーション(MP) ×5
・異世界の服 ×1
・異世界の靴 ×1
・木の棒 ×1
・犬歯 ×3
・23
「良かったぁ、威力の出し過ぎとかでアイテムが消えた訳じゃないのか。それにしても、本当にゲームみたいだ。剥ぎ取りすらも要らないなんて。」
そもそも剥ぎ取りなどせず、(まさか一撃で大惨事が起きると思っていなかったので)死体を丸ごと街に持っていくつもりであった。
「にしても、ある程度覚悟してたとは言え、生き物を殺したのに、あんまり堪えないな。何でだろう。」
ゲームのような世界だし、一時的にグロ注意でも結局光になって消えるためだろうと見当をつける。
「まあ気にしない方向で行こう。で、一匹で二十三……ゴールドかな?それとアイテムが稼げた訳か。経験値は……8ポイント増えてる。あと92でレベルアップするのか。」
金の単位が分からないので、取り敢えずゴールドと呼ぶことにする。一泊いくらか分からないし、レベル上げにもなるから、しばらく狩をしよう。
「じゃあ、次の獲物を探しますか。」
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かれこれ二、三時間程魔物を倒し、レベルは3つ上がり、七百八ゴールド貯まった。
ポイントは早速だが物理耐性無効と貫通を3レベルにしておいた。これで足し算なら100%か?どうせ一発なので違いがわからないが。
「これで宿屋に泊まれるか?にしても魔物を探す方が大変だな。」
大量の魔物がいるなら良かったものの、そこまで多く魔物がいるわけでは無かった。コボルトの他にはテンプレな兎や四、五匹で固まっていた狼なんかと遭遇したが、今の所全て一発で片づいた。
アイテムドロップは兎肉に皮、骨なんかが増えていた。これも売れれば金になるだろう。そう思いたい。
「金が足りないかもしれないからまだ狩もしたいけど、そろそろ街に行った方がいいよなぁ。でもレベル8って、低い気がするよな。どうしようか。」
日はまだ沈みそうにないが、宿を探したり、ギルドなんかや何やらと、色々時間がかかるだろうし、日が沈んでからでは遅いのだ。
「まあ、安全の方が大事だよな。街に行こう。」
というわけで、再度街へと向かった。魔物を探す時に離れてしまい、またしばらく歩きだ。
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異世界テンプレ、街壁の門と言えば門番と通行証やら身分証が云々のやり取りではないだろうか。少なくとも俺はそう思ってた。
「ああ、そこの兄ちゃん。一応犯罪歴が無いかだけ調べさせてな。悪いねぇ、規則なんで。」
ドキドキワクワクしながら、いろいろと過去や身分証の言い訳を考えていると、門番に声をかけられた。
「あ、はい。いいっすよ。」
「……うん、よし。通っていいよ。」
何か水晶を近づけたと思えば、通行許可が出た。
「……え?何も無いの?」
「……え?」
田舎の出()というでっち上げで手に入れた話によると、戦争中でもない限り、そんな厳しいチェックなんてしないそうだ。というより、普通は素通しらしい。えー……
ついでに冒険者ギルドの存在を聞いてみたが、こっちはあるそうだ。良かった。安い宿も聞いてみると、ギルドの近くに一泊八十ゴールドの食事付きの宿があるそうな。正直相場がわからんが、金が足りるみたいで安心した。
お礼を言って街に入る。先にギルドに向かって登録をしよう。
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ギルドの場所は聞いていたので、迷わずに着いた。中にはいると、カウンターに受付嬢、掲示板におそらく依頼とおぼしき紙が貼ってあるTHE・ギルドがあった。鎧に結構な武器を持った冒険者って感じの人に、酒瓶の乗ったテーブルには俗にいうゴロツキみたいな奴も「おいガキ、ギルドに用事か?」すごい、テンプレです。
「田舎から出てきたんで、登録をしようとね。」
「てめぇみたいなガキがか?ぎゃははは!ガキは家でママのおっぱいでも吸ってろっての。」
やっと異世界って感じのイベントに、若干の感動を覚えて相手を見る。と、こっちが見ているのが不快なのか、ゴロツキが立ち上がって近づいてくる。周囲からは
「止めた方がいいんじゃ……」
「可哀想に、ディッシュのレベルは7だからな。」
なんて声も聞こえる。び、微妙……。見たところ30歳くらいだ。しかし7レベが高いのだろうか、周りは手を出さない。
「オイガキ!なにガンくれてんだ!うらぁ」
「うわっ」
ゴロツキが胸ぐらを掴んできた。異世界でもこんなのいるんだなぁ、と思いつつも、若干苦しいので腕を掴む。
「無駄だよ、4、5レベルのガキの力じゃ7レベルの俺にいてててぇぇぇぇ!」
「……こんなもんか。」
三十歳位の年の、しかもそこそこ強いのであろうおっさんが出すには情けない声な気がする。ほら、周りの空気も変になってる。
「くそっ!こんガキゃぁ!潰す!らぁ!」
「あぶっ、ガキ相手に、切れんなよおっさん……っとと。」
「避けんな!」
「やだよ、つうかこれ反撃しても大丈夫だよね?」
レベル7なら大丈夫だろうし、そこそこ本気で殴り返す。
「ぶべらっ」
「嘘だろ?ディッシュがやられた?」
「あんな子供にか?冗談だろ?」
おっさんが一発で吹っ飛ぶと、周りがまた何か……というか俺って何で子供扱いされてんだ?
一応駄目押しに蹴りを入れる。伸びたおっさんを放っておいて、受付に行く。
「すみません、ギルドに登録を」
「ひっ、は、はい、登録ですね。」
めっちゃ怯えられた。……なんぞこれ?
ディッシュさん目線で行くと、そこそこ命の危険のある仕事場にチンピラっぽい風貌のガキがきて、生意気な口を聞き、その後睨んできました。
装備品が仕事を舐め切ってるとしか思えない服としょぼい剣で堂々としてる昇にイラっとしたわけです。
切れやすいゴロツキ相手にチンピラがメンチ切ってる光景?……で、そこそこ強いはずのゴロツキがワンパンでK.Oされたら、ちょっと怖いですよね。ビビりもしますわ。
ちなみに1レベル差でワンパンなのは物理耐性無効と貫通、及び油断のせいです。ついでに言うともし器用の基本値が3だったり、その上で顔やらなんやらの胴体以外を狙っていたら、もう一発か「見せられないよ!」なことになっていた可能性がありました。