第三十六話
「でも昇、攻撃が効かないのにどうするのさ！ いくらさっきみたいに速く動けても、魔法は効かないんだよ？」
未だにチートが魔法だと思ってるのか。そろそろネタばらしでもするべきだろうか。解説キャラは残念へまっしぐらだぞ。
「そうだぞ少年。ファンタジー補正で上等な武器を持っているんだったら耐性も貫通できようが、その武器は見た感じただの銅のなまくらだろう。そんな装備で大丈夫か？」
「大丈夫だ、問題ない」
「昇！ ふざけてないで一旦話し合い……」
「大丈夫だって、誰も死なせたりしないからさ。街に帰ったらおいしいものでも食べようか。それにアレ、倒してしまってもかまわんのだろう？ 大丈夫、この戦いの勝率は99％以上です。いくぞデカブツ！ ここが貴様の墓場だ、うおぉぉぉ！」
「ふざけてるんだよね！ やめてよぉ！」
「それにさ、この戦いが終わったら大事な話しがあるんだ。だから、信じて待っていて欲しい」
「なんでさっきはネタっぽい調子だったのに今度はまじめになるのさ！」
チートのネタばらしっていう大事な話があるんだが、なんで赤くなってるんだ？ 酸欠か？ まあいいや。
魔法が効かないんだから物理攻撃しかない。まさか本当に役に立つことがあるとは思ってなかったけど、スキルをとっておいて良かった。まあ俺には物理耐性貫通があるーとかしゃべったらしゃべったでそれがフラグくさいけどさ。
早速近づこうと走り出したら、生産集団から離れたからかファイティングポーズっぽい姿勢になるロボ。シャベルを前にドリルをこっちに向けた、なんかあれが刀だったら牙突しか想像できないポーズだな。というかそのまんまだ。あ、若干シャベルのひじが曲がってるか。
まあ問題ない。突っ込んで斬る、物凄いシンプルにまとめたけどやることはそれだけだ。
正面から突っ込むと、まずはショベルが降ってきた。横にかわすと次はドリル。まあ速さが足りない。ドラゴンのほうが怖かった。
動力っぽい背中のタンクから出ているケーブルを斬れば止まるだろうと飛び上がると、ひじから人間では出来ない角度で曲がったシャベルに後ろからはたき飛ばされた。いってぇ。
完全に油断していたからもろにくらったが、そうか、そんなドッキリビックリな動きもするのか。ってドリルで地面を掘ってる？ シャベルで土を……ぬわぁ！
飛び道具がないと思ったらそんなことをするのね。石とか岩とか混じっててくらったら痛そうだ。あと埋まりそうだ。急いで飛び退く。
さて、まだ他にも隠し玉とかありそうだけど、攻撃はくらっても痛いですむし、動力だけ狙う必要もないからもう片っ端からバラバラにしちまおう。さっきまでは手を抜いていたが、今度は本気で加速して突っ込む。
ショベルが動き始めたときには足に到着している！ まずは手の届く範囲で適当に斬り刻み、次にジャンプして肩から斬り落とす。ポンプは爆発してもいやだからケーブルだけ斬って、胴体をバラバラにしながらコクピットと思われる球体をそっと少し離れた地面に落としておく。どうだ！ 本気を出せばこんなもんですよ！
地面で球体を慎重に斬って中から人を取り出し、他の連中と同じようにしておく。全部終わって加速を解くと、バラバラと崩れるロボットだったもの。はっはっは、能力を解説するなんて負けフラグを立てるからこうなる。
戻ったら縛られて正座のまま土下座している生産組。ずいぶんと器用な連中だ。
「ただいまー」
「ばかっ！ びっくりしたんだよ！」
いきなり怒られた。流石に泣きそうな相手にっち、っせーな。反省してマースとかネタはどうかと思うのでやめようと思った矢先に抱きつかれた。これはなんの不意打ちですか！ 心臓を止めようという攻撃か！
「チッ、リア充め」
「いちゃいちゃすんなよ」
「吹っ飛ばされたときの声可愛かった」
ぼそぼそとつぶやいているが、全部聞こえてっからな。反省って文字は無いのか、こいつら。特に最後！ ゆっくりお話をしようじゃないか。
「あー、うん、すいませんでした」
「本当だよ、ばか」
「……反省してるんで、放してもらえないかなー。周りを見よう、空気を読もう」
「っ！？」
あわてて離れるシエル。いや、嬉しかったけど物凄く恥ずかしいとかそんなレベルじゃないからね？ 特に横からのオーラが尋常じゃないからね？
「……というわけであんたたちの夢と希望はあんな感じで潰えたわけだが、これでお話できますかね？」
「どうやったかはわからんが、確かに我々の負けだな。降服しようじゃないか」
「でも、話し合いの前に必要なことがあるっす」
「この通り土下座で謝罪中です。ほんとすんませんでした」
「謝るのも必要だけど、悪いことしたら他にもあるよね？」
「男にお仕置きされてもなんも嬉しくない！ やめろ！ よせ！ 話せばわかる！」
「歯ぁ食いしばれぇ！」
「と言いながら岩を乗せないでぇ！ 重い！ 痛いぃ！」
しばらくそれで反省してろ！
土下座のままの奴には背中に、起き上がった奴には足の上に重石を乗せる。これって下にギザギザなくても拷問じゃ……
