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第二十九話

「ローブを被っていたのもそれが理由? 元の世界じゃ怪しくて捕まりそうだけど」


冷静だ、冷静になるんだと唱え続ける。ラノベの主人公ってスゲーよな、美少女や美人相手になんの動揺もなく過ごせるんだぜ?俺には無理だね。何時かは慣れるんだとしても今は無理だ。なんとか外面を取り繕うんだ!


「流石に元からこんな姿だったわけじゃないよ! ……まあ、見た目を隠すのもあるけど、このローブ防具としても結構優秀なんだよ」


パタパタと手を振る葵さん。ローブをアピールしているんだろうが可愛い動作にしか見えない。あれか、残念は天が二物を与えないためのつりあいでマイナスなのか。


「そうなんだ。そのローブのせいで金が無いの?」

「まあそれもあるんだけど、チュートリアルでもらった水の魔導機あるだろう? 飲水の分はそこまででもないんだけど、お風呂に入ろうと思ったら結構いるじゃないか」


風呂ですか。それは結構な量の水を…………チュートリアル?


「葵さん、でいいかな?」

「別にシエルでいいよ? ボクも昇って呼ぶから。」


名前呼びの許可ゲットォ! じゃなくて。


「じゃあシエル、チュートリアルってなんぞ?」

「へ? チュートリアルだよ。普通に説明とか、色々あったよね?」


何それ聞いてない。


「そんなもの全くなしに草原に立ってたんだけど」

「えっ」

「チュートリアル、あったの?」


葵さんあらためシエルにドキドキしていたのもぶっとぶくらい、オラおでれーたぞ!



********************



聞いてみれば、この世界にある程度ランダムで飛ばされた後は一緒だが、その前にチュートリアルが白い空間であったそうだ。


チュートリアルではよくあるゲームの操作説明みたいにウィンドウの操作法や、簡単な世界観の説明によく似た映像、5レベルまでレベルが上ったりおすすめのスキルなんかの説明があったりのサポートなんかがあったらしい。


なんで5レベまではチートの制限が緩かったのかなーって思ってこそいたが、まさか他の連中はチュートリアルでサービスで5レベまで上がってたなどとは思わなかった。ふざけんな。


「それにいくつかの必需品ってことでアイテムももらえたし……昇もアイテムボックスに入ってなかったかい?」

「入っていたっていうと?」


入っていたのは服と剣、後はポーション位だった気がする。今はごちゃごちゃしているけど、あの時は金も無かったよな。


「大体一週間分くらいの食料と水、一万ゴールドに魔導機がいくつか、それから……」


そんなに至れり尽くせりだったのか。サポートの差に酷いものを見た。謝罪と賠償を要求する!


「こっちは服と銅の剣、HPとMPポーションが五個ずつしか無かったし、なんの説明も無かったんだけど。せめて皮の盾とは言わないから、お鍋の蓋みたいな防具も入れといてくれってくらい何もなかったんだけど」

「それは……何と言うか……酷いね」


お通夜みたいな空気になる。


「ま、まあ今はこうやって元気に過ごせてるし、いいんだけどね」

「そ、そうか。それならいいんだ」


あははーと笑いあう。暗い空気は嫌だし、さっさと話題を進めよう。


「まあチュートリアル以外にはそんな違いはないみたいだね」

「そっすねー。チュートリアルの後は何をしてたの?」

「そうだね、まずは人里がないか探したね。で街が見つかったからそこの宿を拠点に魔物を狩りつつお金を貯め……ようとしたんだけど、なかなかうまくいかなくてね」


さっき言ってた浪費のことか。そういえば風呂とか言っていたけど、


「生活魔法は覚えてないの?あれ風呂要らなくなるし、水も出せるし、MP無限なら至れり尽くせりだと思うんだけど」

「その、せっかく異世界に来たんだから魔法を使いたいだろ?どうせなら派手な攻撃、文字通り火力を挙げようと思って火属性魔法のスキルを5まで上げて、それから電気属性魔法もかっこいいし便利そうだから、この前のレベルアップで4まで上げちゃって……」


えぇっと、火で15ポイント、電気で10ポイントか。最初から10ポイント持っていて、5、いや上がったって言ってるし6レベだろうから、全部で25ポイントになって、25引く25……考えなくてもわかる。


「もうレベルアップまで何もスキルを覚えられないわけか」


こくんと頷くシエル。あれか、後先考えずに持ってるものは片っ端から突っ込む人か。ギャンブルとかは絶対させたらだめなタイプだ。


「後どれくらいでレベル上がるの?」

「ごひゃくさんまんはっせんひゃくにじゅうきゅうですぅ」


ちょっときつめに睨みつつ聞いてみれば、なんか子供みたいな発音と上目遣いで答えが返ってきた。ちょっとドキッと来た。いや、正直に言えば死ぬかと思った。冷静! 冷静!


まあ五百万位か。どれくらい魔物を狩ればそんなに溜まるのか、ちょっと想像がつかない。経験値に関しては他の人間と絶対に話が合わない自信すら出てきた。


「まだしばらく先になるのか……な?」

「そうだね、相当先になると思う。その間どうしようかなぁ……」


ため息ひとつとっても可愛……じゃなかった、これはぼっち卒業のチャンスじゃなかろうか。MP無限なら十分有用なチートだ、パーティーに一人いれば魔法の心配が無くなるわけだし。


「あの、さ。しばらく一緒に旅をしない? 俺生活魔法も使えるし、お金なら余ってるからさ」

「えぇっ? いやその、確かに渡りに船というか、地獄に仏というか、有難い話なんだけど……」


驚いたっ、といった感じの反応の後、わたわたとし始める。


「……そんなに恩を貰っても、返す当てが無いんだよ。それにそっちにメリットが無いで「ある! あるよ全然」」


若干食い気味だが反応させてもらおう! ぼっち卒業。それだけでも十分にメリットだよ! それにチート持ちなんだから戦力としてもこの世界の冒険者よりずっと頼りになる。高火力の無限砲台とか、一家に一台欲しい位だろ? 


「そ、そんなにかい?」

「そんなにだよ! 一緒に来て欲しい(ぼっち卒業のための)大切な人だ!」

「大切っ! ……そ、そんなに言うんなら。ふつつかものですが、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく!」


生活魔法のMPも人一人の生活費も微々たる物だし、むしろ来てくれるならこっちの方が感謝だよ。いやぁ、これでぼっち卒業だ!

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