第一話
……皆さんは、異世界トリップというものをご存知だろうか?
最近は一部の界隈で有名、人気になっているらしい、小説にするなら基本ファンタジーに分類されるものである。
似たようなジャンルに異世界転生なんかや異世界召喚なんかもあるが、トリップと召喚の境ってなんなんだろうね?
……話がそれかけたが、まあ要するに「神様のミスで死んじゃった!チート貰って異世界に!」とか、「異世界の人間は召喚時にチートが貰える!お姫様に召喚されて魔王退治!」などというものである。
なぜこのような話をしてるのかって?そりゃぁもちろん、現在進行形で起きている奇妙な出来事に説明を付けるとすれば、まさに異世界トリップってやつだからかな?若干違うかもしれないが。
現代日本ではそうそうお目にかかれない広い草原と整備されていない街道、それに壁で囲まれている街みたいなものを見て、俺はこうなった経緯を思い出していた……
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それはある高校二年の冬のことだった。実に一般的な高校生ライフをエンジョイしていた俺、平安 昇は……
高校二年の冬なんてフレーズは、何だか青春とかラブロマンスとかそんなものを連想させはしないだろうか。
そんなことを、友達である納呂 巧に連れられてきたあるイベント会場で、人混みに揉まれつつ考えていた。
「お~い、昇。生きてるかぁ~?」
「あぁ、何とか。巧は大丈夫じゃなさそうだな。……それにしても、本当に人が多いな。」
「ああ、聞いてはいたんだが、ここまでとは思ってなかった。」
「全く、人の休日を何だと思ってるんだ。」
「悪ぃね、付き合わせちゃって。」
手に持った紙袋を落とさないようにしつつ、眼鏡をくいっと持ち上げる納呂。元々小柄でひょろっとした奴だが、結構プルプルしている。
「取り敢えず欲しいものは手にいれたし、サークルさんにも挨拶したし、今日は満足かな。」
「今日はって……もしかして。」
「ああ、出来れば明日とかも手伝って欲しいんだよねぇ?」
俺は両手に抱えた紙袋やらなんやらを落とさないようにしつつ、巧を睨む。
「このオタクめ、人の休日を何だと……」
「どうせ暇だろ?なに?彼女でも出来ましたかぁ?」
「くっ。」
「それにオタクって、お前も人の事言えないでしょ?」
「いやいや、お前ほどドップリじゃ無えよ。」
そう、俺は別にこいつに誘われなければこんなイベントなんかには……
「と言いつつも、ちゃっかり自分の欲しいものも買ってただろ?同じだよ。」
「うっせぇ、だぁってろ。」
「睨みながら怒鳴るなよ。チンピラとイケメン足して三で割った上でチンピラ足したみたいな顔なんだから、怖いだろ?」
「ほぼチンピラじゃね?合計1じゃないし。それに俺の顔にイケメン成分があったら、今こんな所にいないっつの。」
「ハイハイソーデスネ。」
くだらない会話をしつつも、帰路につこうとする俺たち。普通なら、このまま帰って明日も納呂に付き合っていたんだろう。そう、何事も起きなければ。
突然地面が光り出した。周りを見て、結構な広さで光っているのを確認する。
「なにこれ?イベント?」
「こんなの予定されてたっけ?」
「ちょっwwwめっちゃww光wっwてwるwww。」
周りもざわざわと騒いでいる。
「おい、巧。なんか知ってるか?」
「いや、僕は聞いてないし、知らないよ?」
だんだんと光は強くなっていく。それこそ目を開けていられないほどに。
「これってやばいんじゃ…」
「聞いたことないし、早くこっから離れ……」
ふっと浮遊感を感じ、直後意識を失った。
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『さて、次は……君でいいか。』
聞こえてきた声で目を覚ます。真っ白な部屋、いや空間だろうか。広さが分からない。取り敢えず落ち着いて声の主を探す。
『ふむ、突然のことなのに、パニックにはなっていないようだね。』
また声が聞こえる。まるで頭に直接声が聞こえるみたいだ。
『うん、頭では無く魂に響いてるんだけどね。まあいいや、さっさと本題に入ろうか。』
さっきから考えていることを読まれている?もしかしてこれって、神様にryのテンプレ?
『みんな同じようなことをいうね。まあだいたいあってるよ。それで、君たちの言うゲームのような世界……まあ、レベルとか魔法とかのある異世界に行ってもらうんだね。』
別に死んだわけでもないし、魔王退治ですか?
『いや、娯楽みたなもんだよ。そこそこ強い力を与えて、異世界で自由に生きてもらおうってやつ。君らはチートで嬉しい、僕は面白くて楽しい。winーwinってやつだね。』
ふーむ、でも、元の世界がいいってやつもいるんじゃないの?
『そういう人間はそのまま元の世界に帰すし、希望するなら異世界で死んだら元の世界、元の時間に戻れるよ。もちろん死んだ後に聞くから、そのまま死にたければ戻さないけど。』
それはありがたいね。なら行くよ、異世界。
『そうこなくちゃ。じゃあ、どんなチートが欲しい?そこそこのレベルならいいよ。』
……確認するけど、ゲームみたいな世界で、魔法やレベルが有るんだったよな。魔法は誰でも使えるのか?
『うん。そりゃあ低いレベルのうちから強い魔法を使いたいなら、チートでもなきゃ無理だけどね。』
レベルってのは経験値で上がるのか?
『その通りであってるよ。まあ魔物とかもいるし、最悪歩いたり、飲食なんかの動作でも経験値はもらえるよ。』
そうか。……やっぱりレベルが上がると、経験値が貰い辛くなったり、必要な経験値が上がったりするんだよなぁ。
『まあね。レベルに上限がないから、その分結構厳しめにしてるかな。』
じゃあ、次のレベルにあがるのに必要な経験値を100固定にして、最低でも1以上経験値が入るっていうチートは有りか?
『うーん、なるほどねぇ。……公平性……でも楽し……よし、認めよう。』
おお、通った。
『ただし、流石に多少の制限はつけさせてもらうね。まず魔物を倒さないと経験値がもらえない。これは五レベルになったらかけさせてもらうよ。次に一体の魔物から……いや、一回に手に入る経験値は三十まで。まあそんなところかな。』
流石に制限はかかるか。でもまあ、ゲームなんかで面倒くさいレベル上げが楽になるならいいか。
『じゃあ君のチートはこれで決定だね。ちなみに、他の面白いチートとしては、無限に武器を作って、使ったり射出したりするのとか、MP無限なんてのが有ったよ。他人の能力を奪うみたいなのは禁止にしたけどね。』
へ?そんなのも有りだったの?だってそこそこのレベルだって……
『さあそれじゃあ楽しい異世界生活を!』
ちょっ、おまっ……
結局姿を見ることもないまま、突然真下に空いた穴に落ちて行く。
「うわぁぁぁぁー」
そして、また意識を失った。
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そして冒頭の通りに、一人で異世界にほっぽり出された訳である。
「まあしゃーない、取り敢えず巧を探すか。……見つかるのかね?先に生活基盤か?」
巧探し及び生活基盤の確保を当面の目標として、まずは若干遠くに見える街……と思われるものに向け歩き出した。