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その二

しかし、そんな哲也の人生の歯車が、少しずつ狂い始めてきたのは、それからさらに三年ほど経った頃からだ。


自慢の一人息子は、見事にお受験に合格して、都心の有名私立学校の幼稚園に通っている。

妻は、料理教室やPTAの会合にと余念がない。

幸せを絵に描いたような家庭であった。


ある日のこと、哲也がいつものように残業を終えて帰宅すると、玄関のドアに鍵がかかっていることに気付いた。


「あれ? おかしいな」


哲也は呼び鈴を数回鳴らしたが、家の中からは応答がない。

普段なら、妻と息子が迎えてくれるはずだった。


「どこかに出掛けているのか」


そう思った哲也は、スーツのポケットから鍵を取り出すと、ドアの鍵を開けて家の中へと入った。


家の中は真っ暗闇だった。

哲也は照明を点けると、飲み物を取りに台所へと向かった。

台所のシンクには、今朝の朝食の食器が手付かずで置かれている。

哲也は、少し変だな、と思った。


妻は、料理教室に通う程、料理が大好きである。

これまでは、毎晩哲也がどんなに遅く帰宅しても、手料理を作って哲也の帰りを待っているのが当たり前だった。

それなのに今日は、朝の片付けもしないでどこかに出掛けて行ったのだ。

もしかしたら、余程切迫したことが起きたのではないだろうか?

哲也は急に不安になった。


すると、玄関のドアが開く音が聞こえた。

妻が言った。


「ただいま。あら、パパ帰って来てるの?」


妻の声と同時に、息子がリビングに駆け足で入ってきた。

台所に立つ哲也を見つけると、すぐに足元にやって来た。

息子が言った。


「ただいま。パパ」


哲也が言った。


「おかえり。今日もちゃんと勉強してきたか?」


息子が言った。


「うん。僕ちゃんと勉強してきたよ」


すると、続けて妻がリビングへと入ってきた。両手にはスーパーのレジ袋を持っている。

妻が言った。


「ごめんなさいね。もう少し早く帰ってくるつもりだったんだけど、会合がなかなか終わらなくて。今夕飯の準備をするわね」


哲也が言った。


「帰って来て誰もいないから、びっくりしたよ」


妻が言った。


「電話しようかと思ったんだけど、電話するタイミングがなくて」


哲也が言った。


「まあ、何でもないなら別にいいさ」


それだけ言うと、哲也は息子と一緒に台所を後にした。

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