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現代謎妖怪絵巻

肉塊の1000円マック

作者: 岸田太陽

 もうマックでいいや。


 残業で帰れなくて終電逃して会社泊まりでお腹が空いて疲れ果てた私は、近くの二十四時間営業マクドナルドで適当に腹を満たすことにした。


 明日は七夕だが、私に彦星様はいない。

 短冊にもしっかり『リア充滅びますように』とお願いをしておいた。

 叶えれるものなら叶えてみろ。


 マックの入り口に、『クォーターパウンダーゴールドリング』なるアホみたいに高いハンバーガーの宣伝が書かれた看板が立っていた。

 そう言えば今日だったっけ。

 まあ、私はチーズバーガーでいいんだけど。


 まだ六時の早朝だというのに、店内はやたらと混み合っていた。

 どうやら物珍しさでやって来た客がけっこういるらしい。


 その店内に、奇妙な物体を見つけて、私は目をこすった。

 膝くらいまでの大きさ。

 肌色で、肉の塊のように見える。

 三段腹が垂れるようにぶよぶよしていて、その一部が手や足のように見える。


 なんだあれ。


 他の人が気づいている様子はない。

 もし気づいていたらとっくに騒ぎになっているはずだ。


 肉塊はぺたぺたと歩いてカウンターの列の後ろに立つ。

 そこに別の客がやって来て、肉塊は蹴飛ばされて転んだ。

 蹴飛ばした方の客も、気づいた様子はない。


 まあ、しかし世の中には変なものがいる。

 例えば、ペットボトルに詰まった河童とか。


 私は肉塊に近づいて、おそらく背後と思われる方向からその頭(?)を軽く叩いてみた。


 ビクゥッ!

 と肉塊が震えた。

 慌てたように手をばたばた振って振り向く。

 肉塊の正面は、皺がなんとなく顔のような形を作っていた。


 私が肉塊を見つめていると、肉塊はそろそろと移動して、店内に置かれた観葉植物の影に隠れた。

 隠れきれてないけど。


 じーっ、と肉塊を見つめる。


 肉塊はキョドっている。


「……もしかして、ハンバーガー食べたいの?」


 尋ねてみると、肉塊は体を前に倒した。


 多分、頷いたんだと思う。



    §



「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」

「チーズバーガー単品とバニラシェイクS」


 肉塊にちらりと目をやる。


「……あと、百円マックたんぴふゥ!」


 背後から体当たりをされた。

 口から変な声が出てカウンターのお姉さんの0円スマイルが崩れた。


 肉塊に目をやると、店内に貼られた千円マックの宣伝をしきりに指し示している。


 この贅沢者め……。


「あ、あの……。ハンバーガーとチーズバーガーそれぞれ単品に、マックシェイクバニラSでよろしいでしょうか?」

「あー、待って」


 まあ、興味が無いってわけでもないし。


「やっぱり千円マックで」



    §



 店内は混み合っていたので、テイクアウトにして近場の公園に行った。


 早朝の公園に女一人、千円マックを食べるの図。

 虚しい。

 一応隣には謎の肉塊がいるけど、他の人には見えないらしいので関係ない。


 私はハンバーガーを半分に分けて、肉塊に渡した。

 これって他の人からみたらどう見えるんだろう。

 ハンバーガーだけ浮いているのか、それとも渡した瞬間に消えるのだろうか。

 確かめようがないので分からない。


 肉塊は体の中央あたりにある皺を開いて、そこにハンバーガーを挟んだ。

 やっぱりそこが口なのか。

 私もハンバーガーをかじる。


 うん。確かに味は悪くない。

 けど、千円も出す価値があったかどうかは分からない。

 まあ、限定生産品なんてそういうものだ。


 ベンチに並んで二人(?)もさもさと高いハンバーガーを食べる。

 たまにポテトをつまむ。


 何やってるんだろうなあ、と思わないでもない。


「ごちそうさま」


 食べ終わった私が手を合わせると、隣の肉塊も手を合わせた。


 そしてそのままぺたぺたと歩いて、肉塊は去っていった。


 なんだったんだろう、あれ。


 またいつか河童に会ったら聞いてみよう。

 あいつがどの程度役に立つ知識を持っているか知らないけど。


 私は肩をすくめて、駅に向かって歩き出した。

お題:1000円マックで書いた短編です。

普段マクドナルドなんて行かないので苦労しました。

ちなみに作者は1000円マック食べていません。味の感想は登場人物の個人的なものであり、実際の1000円マックの味とは関係がありません。

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