王女さまとルリの小鳥
王女さまのお部屋に飾った結晶でできた檻の中、たいそう綺麗なルリの子鳥が ツィッチェ ツィッチェ ないている。
「ウサギの時計は壊れてしまって、時間を告げる音は鳴らない。ねえわたくしの小鳥、どうか時間を知らせてちょうだい」
ツイッチェ ツイッチェ! それならお任せ王女さま、貴女のためになきましょう!
ルリの小鳥は誇らしげに王女さまにお知らせする。お目覚めの瞬間もお食事の時間も紅茶の時間もおやすみなさいの合図だって!綺麗な羽をばたつかせ、なきごえ空気にふるわせる。
ツイッチェ ツイッチェ! 王女さまお目覚めの時間! カーテンを開けて朝日を浴びて!
「おはよう小鳥、朝日がまぶしいわ。着替えをすませたら朝食をとってこようかしらね」
王女さまは小鳥に微笑み小さなあくびをひとつもらす、活けたお花は機械じかけで油を吸って歯車がすべる。
ギ ギギギ ギギギギギ
「油が足りないのかしら、昨日も耳障りだったけれど……。ウサギの時計ったら生意気に傲慢なんだから」
それなら壊してしまいましょう!と、小鳥は言う。王女さまは慈愛に満ちていらっしゃるからそれは今度の機会にしましょうね、と小鳥に笑いかける。
ツイッチェ ツイッチェ! 王女さまお食事の時間! 今日はコショウの雨で味付けされた丸焼きの豚!
「さあいただきましょう小鳥、お肉がやわらかくておいしいわ。海辺になったレモンをかけると尚いいでしょう」
王女さまはおいしいお食事に舌鼓、ナプキンできれいに口元をふいて少しうとうとお昼寝の時間。小鳥は羽をばたつかせるのをやめて、そのときだけなくことだってやめてしまう。
ツイッチェ ツイッチェ! 王女さま紅茶の時間! 今日のオススメはまろやかなのどごしのミルクティ!
「……あら? もうそんな時間なのね小鳥。さあさ、お昼寝はおしまいにして取り寄せたケーキでもつつこうかしらね」
王女さまは音をたてないようにミルクティを味わう、目玉のケーキは誰のもの?(多分それはニタニタ笑った猫のもの!)
ごりごり ごりゅごりゅ
味は全然しないけれども、食感がなんともいえなくって癖になる前に王女さまは吐き出されてしまった。
慣れないものを口にしてはだめね、と王女さま。小鳥は少し残念そうに同意する。ミルクティは冷めてもまろやかのどごし残る。
ツイッチェ ツイッチェ! 王女さまおやすみの時間! 羽毛よりも軽い寝台の上におのりになって羊を数えて眠りましょう!
「おやすみなさい小鳥、あなたと健やかに過ごせた今日という日をわたくしは喜びます」
王女さまは一足先に夢のなか、小鳥のいない夢のなかで王女さま幸せそうに夢心地。
王女さま気づかない、ルリの小鳥の結晶の鳥籠が溶けていること。
王女さま気づかない、小鳥は逃げ出そうとして失敗してしまったこと。
王女さま気づかない、失敗した小鳥がウサギの時計でできた花につっこんで花瓶を割らしてしまったこと。
王女さまはルリの小鳥の声を聞く前に、その日自力で起き出して、小鳥が地面で這いつくばっているのにようやく気づく。
「ああ、なんてこと!」
ツイッチェ ツイッチェないていた、ルリの小鳥はひどく無様で、結晶の鳥籠からもう二度と出れないようにはじめて羽をもいでしまった。
ルリの小鳥は檻のなか、ツイッチェ ツイッチェないている。お知らせするのは王女さまのご予定と、おはようとおやすみのための合図のこと。
それからなきだすルリの小鳥、もがれた羽を嘆きなく。
ツイッチェ ツイッチェ! ずっとこのまま籠のなか、王女さまに看取られ死ぬのでしょう! ツイッチェ ツイッチェ! ピーチチチ!