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Heven's door  作者: 三月
6/8

scene3 神埼勇輔の場合ー前編ー

神埼勇輔16歳、とある高校に通う一年生。それが過去の俺の肩書きだった。

過去というからには、今は何をしてるんだ?と聞かれるかもしれないが、今じゃ勇者をやっている。

別に頭がイカれただとか、そんなんじゃなく真面目な話、本当に勇者をやっているのだ。

正直、俺自身でさえも、これが夢だったり嘘だと言われたほうが良いと思っている。

今でも信じられないが事の発端は通学途中、妙な光に包まれて気を失った事から始まる。

そして目覚めるとそこは異世界だった。

目の前には不思議な装束を身に纏った女がおり、俺を召還した巫女だという。何の目的で召喚したのだと問えば、勇者として世界を救って欲しいとのたまった。

何でも魔王が復活してどうのこうのと長ったらしい話を始めたが、要はこの世界の人間に代わって魔王を滅ぼして欲しいということらしい。

魔王と言われるからには強いのだろうと問えば、この世界の人間が束になっても勝てないと言われた。

っていうか、そんなに強い存在相手に俺一人で戦えってのは酷過ぎるだろう。しかも見ず知らずの他人の為に無償で自分の命を投げ出せなんて無茶苦茶すぎる。

そもそも何の見返りもなく奴隷のように命令を聞いて命を捨てろだなんて、この巫女頭沸いてんのか?と思ったが、元の世界に帰る方法もなければ、何もしなければ数年後には世界が滅び、貴方を含む全ての人類は死に絶えるでしょうだのと言われれば、嫌でも魔王を何とかしなくちゃいけないのは目に見えていた。

勝手に人のことを呼びつけておいて、死ぬときは一緒ね☆とばかりに自分の意思を無視して運命共同体にされる………この悪辣さはカタギのモンじゃねぇなと思わせる理不尽ぶりだった。

まぁ、唯一幸いだったのは、俺には異世界トリップ補正なる意味不明な力が宿ったようで宮廷魔術師○○人分の魔力がどうとか、王国騎士○○人分の力があるだの色々言われた。何にしても何時死ぬか分からない危険地帯の中で、それに抗う力があるということは素晴らしい事だ。誰だって死にたくはないしな。

そんな訳で俺は巫女が見繕った仲間と共に旅立ち、様々な出会いや別れを経験し、研鑽を重ね、とうとう魔王城に乗り込んだのだった。

そして魔王と対峙した瞬間、時が止まったかのような錯覚を覚えた。

異世界トリップ補正で常人では計り知れない力を得、更に日々の研鑽によって磨かれた俺の力は相当なものになっていた。しかし、その俺の力をもってしても目の前に立ちふさがる魔王の力は強大に見えたのだ。

目の前の魔王は長身の美丈夫で一般人には耐えられないような殺気を放っていた。

「ほう、今代の勇者は期待出来そうだな」

真っ赤な瞳に炎を幻視させられるような激情が迸る。

「テメェが魔王か!テメェのせいで俺はこんなクソみたいな世界に呼ばれちまったじゃねぇか!反省して滅びろコラァっ!」

俺はカチコミに行く鉄砲玉の如く魔王に斬りかかった。

「ぬぅ、やるではないか!」

俺たちはその後、何百、何千と打ち合いを果たしたが一向に決着は着かなかった。

「クソっ!往生際が悪ぃやつだ。さっさと仕留めるか!」

「フン、口の悪い坊主だ。これは灸をすえてやらねばならんだろうな!」

俺と魔王は互いに罵り合った後、自分が放てるであろう最大級の技を放った。

「さっさと死ね!このくたばり損ないがぁぁぁぁ!!」

「格の違いというやつを見せてやろう!うおぉぉぉぉ!!」

魔王が放った幾百の魔弾に、城をも倒壊させる俺の渾身の力を込めた衝撃波がぶつかろうとしていた瞬間---


                  

「おや、お取り込み中でしたか?」

そんな間の抜けた台詞を呟きながら突如として現れた男の元に、勇者と魔王、互いに渾身の力を込めた必殺の一撃がぶち当たったのだった。

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