欲しがりの義妹に転生したと思っていたら、ざまぁされる幼馴染だったようです
「オーガスタス様には、やはり他にお好きな方がいらっしゃるのかしら……」
ほう、と切なげなため息を吐くのは、ペネロープ・ネズビー伯爵令嬢。
私が勝手に決めた王宮イケオジランキング第四位、ロバート・ネズビー伯爵閣下の一人娘である。
緩くウェーブのかかった金髪は父譲り。儚げな面差しは、ロバート様の亡き奥様に生き写しといわれる美人さんだ。
美人といえば私の義姉もそうだけど、美の系統が違うというか。
月光のごとき銀髪に夜空の瞳。凛とした麗人系の姉に対し、華奢で小柄なペネロープ様は繊細なガラス細工を思わせる儚げ美人だった。
そのペネロープ様の瞳から、ほろりと真珠のような涙がこぼれ落ちる。
「最近はずっと辺境に行かれたきり、先だっての王宮夜会にも結局おいでにならず……」
「それはたぶん、この前の魔物騒ぎのせいだと思いますけど」
そう言う私に、ペネロープ様は涙を浮かべたまま「ふふっ」と笑いかけてくださった。
「優しいことを言ってくれるのね、リーシャさん。さすがはイングリッドご自慢の妹君だわ」
それを聞くなり、私の横でマカロンを摘まんでいた義姉が「むっふー」と得意げに鼻から息を吐く。
「でしょう? それはそうと、ペネロープを泣かせるなんて、そのオーガスタスとかいう男は最低ね。一体どこの何者なの?」
「ああ、まだ言ってなかったかしら。オーガスタス・ベレスフォード様。紋章官のベレスフォード様のご次男よ」
「ごふうっ!?」
私は思わず飲んでいた薔薇紅茶を噴きかけた。
ベレスフォード様といえば、私の中の王宮イケオジランキングでネズビー伯爵と熾烈な争いを繰り広げ、惜しくも第五位となったお方ではありませんか。
理系の院生がそのまま歳を重ねたような怜悧な面差し。難関中の難関といわれる上級文官試験を首席で突破し「歩く王室典範」と言われるほどの識者である。
(つ……つまり、推しのご令嬢と推しのご令息がご婚約……ッ!?)
順当に行けば、結婚式にはネズビー伯爵、ベレスフォード様を始め、お二人と親交のある王宮の名だたるイケオジたちが勢揃いすることになるはずだ。
そうなれば、
(デビュタントの夜の、あの夢の競演が再び目の前に……ッ!)
思わずデュフフ、と口許が緩みかけた私だったが。
「でも、そんなに不実な男なら、婚約なんてやめてしまったら?」
という義姉の言葉にはたと我に返った。
「ええ……。なので今日はお二人に彼の人となりを見極めていただこうと、こうして来ていただいたわけですの」
私ことリーシャのデビュタントから一週間。
義姉と私、そしてペネロープ様は、ネズビー伯爵ご自慢の薔薇園にて、お茶をいただいているところだ。
蔓薔薇の絡みついた瀟洒なガゼボに用意された席は全部で五つ。
うち二席はまだ空いたままである。
義姉はため息をついて空になったティーカップを見下ろした。
いくら美味しいローズティーとはいえ、三杯目ともなるとさすがにお腹に溜まってくる。
「ま、こうして遅刻してくる時点で、すでに結論は見えたようなものだけど」
義姉がふんと鼻を鳴らした時だった。
キョエエエエエッ!
突如、甲高い鳴き声があたりの空気を震わせたかと思うと、建物の向こうでずしん、ずしんと立て続けに二回、重たい物が地面に落ちたような音がした。
ばさばさあっ! という羽音に頭上を見れば、鞍をつけた飛竜が二頭、旋回して飛び去っていくところだ。
(うわあ、何これ。すっごい既視感)
前回は私のデビュタントの夜だったよなあ……。
と遠い目をしていると、ほどなく屋敷の執事がやってきた。
「ヴォルフ・デビアス辺境伯ご子息様、オーガスタス・ベレスフォード様、ご到着されました」
「こちらにお通ししてちょうだい」
一礼して執事が下がっていき、入れ替わるように現れたのは、いずれも辺境騎士団の制服に身を包んだ二人の男性である。
見事なアッシュブロンドを総髪に束ねた背の高いほうがヴォルフ様。
もう一人、炎のような赤毛をつんつん立てた若者が、私を一目見るなり目をまん丸く見開いた。
「えっ、リーシャ?」
「ガス兄ちゃん?」
「なんでおまえが」
「なんで兄ちゃんが」
ここにおんねん? という私達の声が盛大にハモった。
◇◇◇
「いやあ、驚いたわ! まさかあのリー坊が伯爵さんとこのお嬢様になっとったとはなあ」
私の隣にどっかりと座るなり、ガス兄ちゃん――オーガスタス・ベレスフォード様はからからと笑った。
「あの頃はこーんなちっこかったのに」
「ちょう、頭そんなぐりぐりせんといて! 髪ぐしゃぐしゃになるやんかー!」
前世の記憶を取り戻す前、五つになるまで「リーシャ」が住んでいたのは、王都からかなり離れた地方都市だった。
近所には古びた大きな家があり、そこに住む赤毛の少年は、ご町内でも有名な悪ガキで。でもリーシャのことは何だかんだと可愛がってくれたから、リーシャも「ガス兄ちゃん、ガス兄ちゃん」とくっついて回っていたのを覚えている。
でも、まさかその家がベレスフォード様のご実家で、ガス兄ちゃんがそこのご次男だったとは!
「ま、リーシャはいわば、俺の幼馴染ちゅうわけや」
「!!」
(お……幼……馴染……?)
私はぴしりと凍りついた。
知ってる。この展開、前世で嫌というほど読んだやつ……!
幼馴染の女の子ばかり優先し、婚約者であるヒロインをないがしろにする男。それを悲しみつつも耐え続ける健気なヒロイン。
けれどある日、一念発起したヒロインは婚約を破棄し、最終的に男と幼馴染はざまぁされてひどい目に遭うのだ。
(嘘っ! 私って、欲しがり義妹じゃなくて他人様の婚約をぶち壊す系幼馴染だったわけ――!?)
気づけばペネロープ様はもちろん、義姉も、なぜかヴォルフ様までが険しい顔でこちらを凝視している。
私は大慌てでオーガスタス様の手を振り払い、逆隣に座る義姉にぴとっと身を寄せた。
「とととととりあえず! せっ席を代わりましょうっ! ガス兄……じゃなかった、ベレスフォード様は! ペネロープ様のお隣に座るべきだと思いますっ!」
「何やリー坊、恥ずかしがっとんのか? 淋しいなぁ。ええやん、久しぶりに会うたんやし」
途端に、ヴォルフ様と義姉の瞳にめらっ、と青白い炎が燃え上がる。
「おまえの席は」
「ベレスフォード様の席は」
二人が同時にペネロープ様の隣をびしいっ! と指さし、
「あちらだ!」
「あちらですわ!」
(わあ、すごい。息ぴったり)
やっぱり義姉の本命はヴォルフ様に違いない。
そう思ったら、なぜだか胸がちくりとしたけれど。
「あ、あの……わたくしは、無理にとは申しませんわ」
ペネロープ様が、消え入りそうな声で口をはさんだ。
「オーガスタス様がお嫌でしたら、どうぞそのまま……」
その瞬間、オーガスタス様の笑顔がぎしりと固まる。
「……いえ。そちらへ参ります」
さっきまでの地方訛りはどこへやら。ぎくしゃくと立ち上がったオーガスタス様がペネロープ様の隣へ移動するのと入れ替わりに、ヴォルフ様がごく自然な所作で私の隣に腰を下ろした。
「……デビアス様? そこはわたくしの妹の隣ですけれど?」
「空いていたので」
しれっと答えるヴォルフ様と、笑顔のまま目がまったく笑っていない義姉。
けれど私はそれどころではなかった。
ペネロープ様の隣に座ったオーガスタス様は、さっきまでとは別人のように口を噤み、蒼白な顔で拳を握りしめている。ペネロープ様はペネロープ様で、うつむいてティーカップを見つめるばかりだ。
(ああ……これ、完全にお約束の展開だ)
幼馴染には方言丸出しでへらへら笑い、婚約者には敬語で塩対応。そしてそれを悲しみつつも、健気に耐え忍ぶヒロイン。
(でもって、それもこれも原因は私じゃん!?)
詰んだ。
今度こそ詰んだわ、私。
よりによって推しの子と推しの子の婚約をぶっ壊す幼馴染ポジションだなんて。
(一体私が何をしたっていうのよ――っ!?)
◇◇◇
あの後。
「こここ、この後はぜひとも若いお二人でっっ!」
と、どこぞの仲人のような台詞を残し、逃げるように帰宅した私だったが――。
「昨日のネズビー邸での茶会には、デビアスが同席したそうだな」
なにゆえ私は自宅の応接室で、不機嫌MAXの金髪イケメン王子に詰問されているのでしょうか……。
「おっ、王国の輝ける星たる……」
「面倒な挨拶でごまかそうとするな。質問に答えろ」
この方はラドフォード第三王子殿下。
茶会の翌朝、突如王宮の使いがやってきたと思ったら、義姉は王妃様のお茶会に呼び出され、その留守を狙いすましたように殿下が我が家にやってきたのだ。
「……はい。いらっしゃいました」
「ならなぜ僕だけ招ばれない?」
「…………は?」
何であの場に殿下が同席する必要が?
――という疑問が、はっきり顔に出たのだろう。
殿下は頬を赤らめると、視線を逸らしてぼそりと言った。
「デート、だったのだろう? 二組の」
「……っ! 確かに!!!」
ペネロープ様とオーガスタス様。義姉とヴォルフ様。
そこに一人で挟まる私。
(ちょ、それって!)
婚約者同士の二人を引き裂く幼馴染、かつ義姉の本命を狙う欲しがり義妹!
(いやいやいやいや……)
いくら何でも属性盛り過ぎ。
確かに私はピンク髪にピンクの瞳の典型的な偽ヒロイン顔だけれども!
「き、奇数では一人あぶれてしまうではないか。だから、僕が入ればちょうど三組に……」
「あー。まあ、それはそうですけども……」
私が欲しがり義妹なら、殿下は義姉の当て馬だ。
この場合、私と殿下がペアを組めば、私とガス兄……オーガスタス様の幼馴染ペアは解消するからいいとして、義姉と殿下の間に割り込む欲しがり義妹、というポジションは依然として消えないままである。
(現に今も、おねえさまと殿下の婚約話は完全に消えたわけじゃないらしいし)
殿下は相変わらず婚約者を確定しないまま、夜会では義姉をエスコートし続けているし、今日なんて王妃様直々に義姉をお茶会に招いているのだ。
黙り込んだ私に痺れを切らしたのか、殿下がいらいらと口を開いた。
「何をそんなに考え込むことがある。もしやおまえ、ベレスフォードに気があるんじゃないだろうな」
「っ! とんでもない!!」
私は必死で首を横に振った。あんなざまぁ案件、頼まれてもお断りである。
「ならいい。言っておくが、ベレスフォードは昔からネズビー嬢一筋だ。万に一つも可能性はないからな」
「……へ?」
私は目を瞬いた。
オーガスタス様が?
ペネロープ様一筋? 昔から?
「でもあの、昨日見た感じ、とてもそうとは……」
私が昨日の茶会での様子を話すと、殿下は「チッ」と舌打ちした。
「あの馬鹿、まだそんな調子なのか。学院時代からちっとも進歩してないじゃないか!」
(? おや?)
「知ってのとおり、ネズビー嬢は伯爵家の一人娘だ。当然、婿を取って家を継ぐことになる。一方、ベレスフォードの父は紋章官として男爵位を持ってはいるものの、一代限りの法服貴族に過ぎない。身分的に釣り合わないからと求婚は諦めていたのだが……」
ガラガラと馬車が玄関先の轍を踏む音がした。
どうやら義姉が帰ってきたようだ。
「そこへ来て、ネズビー伯爵家のほうから婚約の打診が来た。ベレスフォードは、それならせめて自分も父のように自力で爵位を手にしようと辺境騎士団に志願したんだ。あそこなら入団した時点で騎士爵、手柄を立てれば帯剣貴族として王宮勤めの道も拓けるからな」
(おやおやおやおやぁ……?)
て、ことはですよ。
「つまり、ペネロープ様とオーガスタス様は両想い……?」
「いや、ベレスフォードはネズビー嬢に嫌われていると思っているぞ?」
「えっ」
何でそうなる?
「ベレスフォードが辺境に発つ日、暇乞いをしに行ったが顔も見せず、昨日の茶会では目も合わせてくれなかったと」
「誤解です! 最初の時はわかりませんが、昨日のお茶会のあれは事故みたいなもので!(ペネロープ様は)間違いなく(ベレスフォード様が)好きですよ!」
次の瞬間、ノックもなしに、応接室のドアがバアン! と開いた。
「……殿下。これは一体どういうことですの?」
つかつかと部屋に入ってきたのは、氷のような眼差しの義姉と。
「アリシア嬢。今の話は本当ですか」
なぜか蒼白な顔をしたヴォルフ様だった。
◇◇◇
窓の外はうららかな春の日射しが優しく降りそそいでいるというのに、応接室の中は厳冬期のツンドラもかくやというほど冷え切った空気が充満している。
「わたくしを王宮に呼び出しておいて、その隙に妹に近づくとは。ずいぶんと姑息な手をお使いになりますのね、殿下?」
音もなく私の隣に腰を下ろした義姉が、冷え冷えとした口調で言った。
「誤解だ、イングリッド! 俺は決してそんなつもりじゃ」
(あ、殿下、一人称がまた「俺」になってる)
「リーシャもリーシャです。殿下はね、確かにお顔はいいし並外れて優秀な頭脳をお持ちの方ですけれど、性格は本っっ当――に捻くれていらっしゃるの。甘い言葉に騙されてはいけないわ」
「待ってください。ではアリシア嬢は殿下のことがお好きなのですか」
相変わらず蒼白な顔をしたヴォルフ様の言葉に、私は大慌てで首を横に振った。
「いいえ! それだけは絶っっっっ対! 天地がひっくり返ってもあり得ませんっ!」
ここでしっかり否定しとかないと、ざまぁフラグが立っちゃうからね!
「あら、そうなの? そうよね、わたくしったらとんだ早とちりをしてしまって。恥ずかしいわ、うふふ」
途端に義姉は機嫌を直し、ヴォルフ様も目に見えてほっとした顔になった。
「では、先ほど聞こえたアリシア嬢のお言葉は、違う方の話だったのですね」
「ええ。あれはペネロープ様がオーガスタス様をお好きだという意味で」
「えっ」
「確かか?」
驚くヴォルフ様と半信半疑の殿下に、今度は義姉が説明する。
「そうよ。ペネロープに聞いたら、あの子、学院時代からずっとオーガスタス様に片思いしていたのですって。でも自分は伯爵家を継ぐ立場だし、こちらから婚約を言い出せば、家格が下位のオーガスタス様はたとえ嫌でも断れない。だからずっと黙っていたけれど、とうとう我慢しきれずに、お父様のネズビー伯に無理を言ってお願いしたのだと言ってたわ」
「しかし、辺境に旅立つ時には顔も見せてくれなかったと」
「あの時は一晩中泣き明かして、ぱんぱんに腫れてしまった顔を見られたくなかったのですって」
あー、これはあれだ。典型的な両片思い。
お互い、相手のことを思いやりすぎてすれ違っちゃうやつだ……。
「だとしたら、まずいな」
「ですね」
不意に表情を改めた殿下とヴォルフ様に、私と義姉は揃って首を傾げる。
「どうしてですか」
「何かありましたの?」
殿下とヴォルフ様は顔を見合わせた。
「実は今朝方、ネズビー嬢が」
「実は昨夜、ベレスフォードが」
婚約を解消したいと王宮に。
婚約を解消するので魔境の最前線に行かせてくれとヴォルフ様に。
それぞれ申し出たという――。
◇◇◇
オーガスタス様は今朝方早く飛竜で辺境に向かったと聞いて、義姉の顔から血の気が引いた。
「どうしましょう。わたくしのせいですわ。わたくしが『婚約なんてやめてしまったら』なんてあの子に言ったから……!」
「落ち着け、イングリッド。まだ間に合う! とりあえず俺と君で王宮に行き、ネズビー嬢の婚約解消の取り下げ手続きを申請しよう」
「では、私はアリシア嬢を連れて辺境に急行します。アリシア嬢、ベレスフォードに、ネズビー嬢側の事情を話していただけますか?」
「はい!」
というわけで、私たちは二手に分かれ、殿下と義姉は王宮に、ヴォルフ様と私は辺境に向かったのだったが――。
キョエエエエエッ!
「ひえええええっ!」
思えば、前世でもジェットコースターとか絶叫系のマシンが苦手だった。
飛竜怖い。いや、飛竜自体は可愛いけれど、それに乗って飛ぶのはめっちゃ怖い!
「しっかり掴まっていてください、アリシア嬢」
「はいいいいっ!」
言われなくても、怖すぎて手が離せない。
私はヴォルフ様の胸に思いっきりかじりつくようにして、飛んでいる間中カタカタ震えっぱなしだった。
「そんなに怖がらなくても、決して貴女を落としたりはしませんよ」
「はいいいいっ!」
「……まあ、それはそれとして私としては思わぬ役得ですが」
「はいいいいっ!」
「うん。これは全然聞こえてないな……」
――という道中ではあったものの。
夕刻、辿りついた辺境伯領では、先週デビュタントでお会いしたばかりのイケジジ辺境伯閣下に、
「なんじゃ、ヴォルフ。もう花嫁をかっ攫ってきたのか? やりおるのう」
と笑われつつも、何とかオーガスタス様に事情を説明し。
「せやけど、あの方はあんな美人さんやし、俺はオトンみたいに頭キレるわけやないし」
となおも弱腰なオーガスタス様に、
「いい加減にしぃや! ガス兄ちゃん、あんたいつから惚れた女を泣かすようなヘタレになったん?」
とキレ散らかし、それを見ていた辺境騎士団の皆様から謎の拍手喝采を受ける、という経緯を経て、翌日再び飛竜の上の人となった。
――のだが。
「あのう、デビアス様?」
「どうぞ、私のことはヴォルフと」
「ヴォルフ様。これは一体?」
「抱っこ紐です」
「抱っこ紐」
「昨日、ずいぶんと怖がってらしたので」
「…………」
現在、私はヴォルフ様の肩から斜め掛けされたハンモックのような布の中にすっぽり包まれた状態で飛竜に乗っている。
安心感という意味では、確かに昨日の比ではない。
比ではないが、違う意味でさっきから心拍数も体温も上がりっぱなしだ。
「今日はずいぶんとおとなしいですね」
「はい」
「何を考えていらっしゃるのですか」
「……うまくいくといいなと思って。ペネロープ様とオーガスタス様」
嘘じゃない。半分くらいは本当にそう思っている。
残りの半分は、間近で見えるヴォルフ様の顎のラインが素敵だな、とか、風に靡くアッシュブロンドの髪が何て綺麗なんだろう、なんて考えていたとしても。
「大丈夫ですよ。辺境の騎士は、狙った獲物は決して逃しませんから」
「……なら、よかったです」
キョエエエエエッ!
と飛竜が鳴いた。眼下に王都の街並みが広がっている。
「とりあえず、王宮の前庭に降りますね」
言うが早いか、ヴォルフ様はぱっと手綱を放し、飛竜の上で立ち上がった。
「え、ちょ、待って待って。まさかこの高さから飛び降りるとか、ひぃや――あぁぁぁぁぁぁ!」
だからジェットコースターもフリーフォールも駄目なんだってばああああ!
ずどーん! とヴォルフ様が着地を決めた時には、私は意識を失っていたという……。
◇◇◇
結果的に、ペネロープ様とオーガスタス様の婚約は解消されることなく、来年には結婚式を挙げるそうだ。
「そもそも、互いの家の同意もなしに婚約の解消なんかできるわけないやろ。婚約が成立した時点で法的にも社会的にも義務が生じるんやから、合意もないのに一方的に解消するやなんてナンセンス極まりないわ。そんなこともわからんのかこのボケが!」
――と、立て板に水のようにまくしたてたのは、王宮イケオジランキング第五位、「歩く王室典範」こと紋章官のベレスフォード様である。
何だろう、黙って立ってれば怜悧なイケオジ眼鏡なのに、口を開くと方言丸出しのこの口調。シュールすぎて眩暈がする。
(――だが、そこがイイ!)
デビューしてから持ち歩くようになった扇の陰で、にんまりと唇を緩めつつ、私は初々しく頬を染めて婚約式に臨むペネロープ様とオーガスタス様を見守った。
私の横にはいつものように義姉と、義姉をエスコートするラドフォード殿下。
そして逆側の隣にヴォルフ様。
「ちょっと。わたくしの妹から、もう少し離れていただけますこと?」
「妹君のエスコート役は私です。イングリッド嬢こそ、少々距離が近すぎでは?」
頭越しに交わされる会話を余所に、私は檀上に並び立つネズビー伯爵とベレスフォード様のイケオジっぷりに、今日もワクテカが止まらないのだった。
〈Fin〉
皆様のご要望にお応えして義妹シリーズ第三弾。このままシリーズ化してしまうのか?(笑)
タイトル上の「転生義妹」リンクから、義妹ちゃんの他の話もお読みいただけます。




