【第四話】二十年前の青
この街は、かつて血で栄えた。
そして今も、誰かが自分の血を燃やしている。
彼は爆発犯だ、罪人だ。
それでも一部の人間は、彼をこう呼ぶ。
――仮面の英雄、と。
俺の仕事は、その男を止めることだ。
支部に戻った瞬間、俺の足はもつれた。
視界が白く弾ける。
次の瞬間、床に叩きつけられていた。
「アレン!」
ヒマリの声が遠い。
獅子さんが俺を抱え上げる。
「医療室!」
俺の意識は途切れかける。
血が、足りない。
身体の奥が、空洞みたいだ。
目を開けると、白い天井があった。
鼻先に消毒液の匂いがして、腕に冷たい感触があった。
赤い液体が、チューブを通してゆっくりと流れ込んでいた。
「……輸血。」
掠れた声が漏れる。
立花さんが静かに答えた。
「精製因子液、国家支給。」
俺はぼんやりと天井を見つめる。
他人の血で、俺は立っている。
あの男は、自分の血を燃やしているのに。
「共振、広げすぎ。」
ミカの声は淡々としている。
「次は、心臓が止まる。」
止まる?心臓が?
俺は目を閉じる。
青い炎が、脳裏に残っている。
別室。
解析モニターに青い波形が映る。
規則的で、異常なまでに安定している振動。
「……変わってない。」
ミカの声は小さい。
二十年前の記録と、完全一致。
あの夜の地下施設、崩れ落ちる天井、血と焦げ付いた肉の匂い。
そして、青い炎。
「まだ、生きていたとはな……」
背後から獅子の声。
ミカは振り返らない。
「……うん。」
短い返事。
獅子は静かに続ける。
「どんな手を使っても、アイツを止めるしかない。」
その言葉に、ミカの指がわずかに止まった。
止める。
あのときも、そう言った。
だが止められなかった。
モニターの青い波形が、微かに乱れる。
「……消耗が、進んでる。」
獅子は沈黙した。
休憩室。
輸血パックが空になりかけている。
身体に、熱が戻る。
『お前になら、出来るかもしれない。』
あの声が、まだ耳に残っている。
『真実を知りたくはないか。』
俺はゆっくりと拳を握る。
他人の血で立つ俺と、自分の血を燃やす男。
同じ因子を使っていても、選び方は違う。
燃やさない。
暴く。
それが俺のやり方だ。
ーー青い炎は、まだどこかで揺れている。
【登場人物】
主人公:朝凪アレン
同期1:坂津トキヤ
同期2:春日井ヒマリ
上司1:獅子レイジ
上司2:立花ミカ
仮面の男:???




