【第二話】青い炎の残り香
この街は、かつて血で栄えた。
そして今も、誰かが自分の血を燃やしている。
彼は爆発犯だ、罪人だ。
それでも一部の人間は、彼をこう呼ぶ。
――仮面の英雄、と。
俺の仕事は、その男を止めることだ。
A市では、爆発の翌日は静かだ。
それは復興が早いからじゃない。
誰も深く追及しないからだ。
俺は朝凪アレン。
特殊災害対策局A市支部に配属された新人だ。
昨日の現場は、既に立入禁止テープで囲われている。
報道は最小限、死傷者数も曖昧。
「数字が少なすぎると思いませんか?」
支部に戻る途中、ヒマリが小声で言った。
春日井ヒマリは因子履歴を読む能力を持つ。
爆発現場に残る因子の“痕跡”を追える。
「何が?」
トキヤが問い返す。
「壁の炭化面積と熱量から推定すると、もっと被害が出ているはずなんだよね。でも公式発表は軽傷者数名でさ……」
トキヤは鼻で笑う。
「国家発表だぞ?盛るか削るかは向こう次第だろ。」
俺は何も言えなかった。
街は、どこか静かすぎる。
そのとき、道端で年配の男が呟いた。
「……また青い炎か。」
俺は足を止める。
「あのすみません、何か知ってるんですか?」
男は俺の腕章を見て、少しだけ目を伏せた。
「昔な、うちの弟が消えた。地下の工事に連れていかれたまま戻らなかった。」
ヒマリの視線が揺れる。
「でもな、二十年前に“青い炎”があってから、失踪は減った。」
男は空を見上げた。
「爆発?ああ、怖いさ。でもな……あの炎が燃えた夜だけは、誰も地下に連れていかれなかった。」
トキヤが小さく息を吐く。
「英雄ってやつか。」
男は首を横に振った。
「英雄なんてもんじゃない、終わらせる人だよ。」
終わらせる。
それは救いか、それとも――逃げか。
支部で窓の外を覗いていた獅子さんが、ふと振り返って俺の目を見た。
「青い炎の話を聞いたな?」
俺は驚く。
「顔に出てる。」
立花さんが淡々と補足する。
「青い炎は、通常の因子燃焼より温度が高い。理論上は、自分の血を媒介にしている可能性がある。」
部屋が静まる。
「自分の……血?」
俺の声がかすれる。
「外部因子を使えば暴走率が上がる。だが波形は安定している。つまり――」
立花さんは一瞬だけ視線を落とした。
「長期間、自分の因子だけで燃やしている。」
トキヤが低く言う。
「マジですか!?正気じゃないっすよ!!」
獅子が、静かに口を開く。
「正気だ。だから止めるんだ。」
その瞬間、支部の警報が鳴った。
――市内南部、廃棄区画。
また爆発。
モニターに映るのは、夜空を切り裂く青い炎。
赤ではない。
熱を孕んだ、澄みきった青。
俺の胸がざわつく。
あれは怒りの色じゃない、罰の色だ。
自分に向けた、罰。
「出動するぞ」
獅子の号令で、俺たちは走り出す。
青い炎が、まだ空に揺れていた。
【登場人物】
主人公:朝凪アレン
同期1:坂津トキヤ
同期2:春日井ヒマリ
上司1:獅子レイジ
上司2:立花ミカ




