【第十五話】止める側
この街は、かつて血で栄えた。
そして今も、誰かが自分の血を燃やしている。
彼は爆発犯だ、罪人だ。
それでも一部の人間は、彼をこう呼ぶ。
――仮面の英雄、と。
俺の仕事は、その男を止めることだ。
青い残滓が、まだ瞼の裏に焼き付いている。
支部全体の灯りは既に落ちているが、一室だけ誰もいない会議室には灯りがついており、俺は一人で座っていた。
机の上には、今日の報告書。
『因子波形が一致。二十年前記録と同一のものと断定。』
紙の上の文字は冷たい。
あの夜も、同じだった。
地下。 焦げた匂い。 焼きついた人影。青い炎。
「……止める。」
あの時はそう言った。
だが、止められなかった。
机の端に置いた拳が、わずかに震える。
あいつの顔が浮かぶ。
若かった。 馬鹿だった。 まっすぐだった。
あいつらが分析して、燃やして、俺が守れば、この都市を救えると思っていた。
でも違っていた。
都市ぐるみの違法献血があったのは許せなかった。
だがいくら懇願されようとも、燃やしてはいけなかった。
被害者を楽にさせることは出来ても、その業をたった一人に背負わせることになってしまう。
結局俺は止められずに、都市は守られた。
仕組みは形を変えただけで残った。
あいつは今も燃やし続けている。
何の解決にもならないと分かっていながらも、逃げている。
いや。
逃げたのは、俺かもしれない。
内部から変えると言いながら、 結局のところ均衡の側に立った。
ふと会議室の窓見ると、自分の顔が映る。
「……これ以上は、絶対にさせない。」
今回は違う。
あの炎の前に立った少年は、 燃やさないと言った。
あの目は、かつてのあいつと違う。
あいつは怒りで燃えた。
あの少年は、選ぼうとしている。
「止める側は地獄だ。」
誰もいない部屋に言葉が落ちる。
止めるということは、 見捨てる選択も含む。
燃やす方が、どれだけ楽か。
それでも。
指先が白くなるまで、拳を握る。
今回こそ。
青い炎は、まだどこかで揺れていることだろう。
────今度こそは、俺が止めてみせる。
【登場人物】
指揮官:???




