【第十三話】処理
この街は、かつて血で栄えた。
そして今も、誰かが自分の血を燃やしている。
彼は爆発犯だ、罪人だ。
それでも一部の人間は、彼をこう呼ぶ。
――仮面の英雄、と。
俺の仕事は、その男を止めることだ。
サイレンが外から響いてきて、赤い光が階段を照らす。
「動くな!」
黒い装備の男たちが雪崩れ込む。
銃口は俺たちではなく、 濃縮槽の残骸に向けられている。
「現場を封鎖。映像遮断しろ。局員三名、事情聴取対象だ。」
まるで訓練の延長みたいな口調だった。
俺は炎を灯したまま立っている。
「下がれ。」
同室の男が前に出る。
「これは内部告発案件だ!」
「いや、事故だ。」
即答。
「因子暴走による連鎖爆発。記録はそうなる。」
空気が凍る。
「……ふざけるな。」
「事実は管理されるものなんだよ。」
赤い光に照らされた階段を、ゆっくりと歩いてくる一人の男。
白髪交じりの頭。
しわの刻まれた穏やかな顔。
優しそうな目。
「若いねぇ。」
その一言で、地下の空気が変わる。
血と焦げの匂いの中で、 まるで応接室にいるかのような声。
「よく見つけた、だがこの結果は失敗だ。」
何かに怒る訳でもなく、驚きもしない。
焦げ付いた影を一瞥して濃縮槽の残骸を軽く靴先で触れる。
そして、柔らかい声で語りかける。
「君たちは、正義感が強い立派な局員だ。」
視線が俺に向く。
「だがね、都市は感情では回らないんだよ。」
俺は睨み返す。
「……これはあんたが仕組んだのか。」
「……」
「あんたがやったのかって聞いてんだよ!!」
男は小さく笑う。
「“私が”やった?違うよ。」
初老の男はゆっくりと視線を巡らせる。
「都市が選んだんだ。」
「都市が、選んだ?」
「救える命を増やすために、必要ないものを削っただけのことだよ。」
さらりと言う。
「君たちは英雄だ。だが英雄は結果で評価される。」
視線が俺に止まる。
「暴走事故は減った。市民は救われた。それに何の疑問を抱く必要があるのかね?」
一歩近づく。
炎の熱を気にも留めない。
「この都市は正しい。」
ぞっとする。
「……人は?」
俺が問うと、笑みをそのままに男は少しだけ首を傾げる。
「人、とは?名簿に載る者か?載らぬ者か?」
沈黙。
「誰かを救うためには、何かを犠牲にしなくちゃいけないのはわかるね?それを下の方から順番に行っているだけの話だよ。」
一拍置いて、答える。
「これが“都市”だよ。」
同室の男の拳が震える。
だが、殴らない。
「炎の局員は隔離する。彼はまだ若い。今回はちょっと驚いて燃えすぎただけだ。」
「……燃えすぎ?」
「そうだとも。だが、君の力は今後の都市運営に必要な力だ。」
ぞっとした。
必要?
こんな仕組みに?
「……俺が、全部燃やしてやる!!」
黒装備の男たちが一斉に構える。
そのとき。
背後で、分析官が端末を握りしめているのに気づいた。
手が震えている。
だが目は、泣いていない。
────
画面に映る因子波形。
青。
揺れている。
さっきまで、二つ並んでいた波形。
今は、一つだけ。
燃やす波形。
私は、記録を抜き取る。
消される前に。
いつか暴くために。
その夜。
地下は事故扱いになり、同僚は一人逃亡。
都市は守られた。
三人の関係は、守られなかった。
【登場人物】
新人1:???
新人2:???
新人3:???
初老の管理者:???




