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血都A ―仮面の英雄を止めろと命じられた俺は、この街の嘘を暴く―  作者: 灰庭 透


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【第一話】焼き付いた街

この街は、かつて血で栄えた。

そして今も、誰かが自分の血を燃やしている。

彼は爆発犯だ、罪人だ。

それでも一部の人間は、彼をこう呼ぶ。

――仮面の英雄、と。

俺の仕事は、その男を止めることだ。

焦げた臭いは、服の繊維にまで入り込む。

A市に着任した初日、俺はそれを知った。

サイレンの余韻がまだ空に残っている。

灰が舞い、粉塵が喉の奥に貼りつく。救急車の赤色灯が、崩れた建物の影を切り刻んでいた。

「――朝凪、動くな。足元見ろ。」

背後から低い声が飛ぶ。

振り返ると、上司の獅子さんが立っていた。

獅子レイジ。

特殊災害対策局・A市支部の現場指揮官。

冷えた眼をした、感情の温度が読めない人だ。


俺は言われた通り足元を見る。

瓦礫の隙間に、細いワイヤーみたいなものが見えた。

爆発物の残骸か、あるいは――罠。

「ここはまだ終わってない。爆発は一回とは限らないからな。」

獅子さんはそう言って、崩れた外壁の方へ顎をしゃくった。


外壁、そこには――“人の影”が焼き付いていた。

黒く炭化した輪郭。腕を上げた姿勢のまま、壁に貼りついている。

まるで、逃げようとした瞬間だけが切り取られたみたいに。


心臓の奥が、きゅっと縮んだ。

「……これが、仮面の男の。」

俺が言いかけたところで、獅子が短く遮った。

「見るな、慣れるな。どっちも地獄だ。」


仮面の男。

二十年間、A市のどこかで爆発を起こし続ける犯人。

国家は“テロリスト”と発表し、メディアもそれに追随する。


それでも――。

この街には、別の呼び方がある。

ささやくように、祈るように。

――“仮面の英雄”。


「英雄、ね。」

俺の隣で、同期の坂津トキヤが口角を上げた。

トキヤは現場を見る目だけが妙に鋭いが、時折危うさがある。

「俺、嫌いじゃないっすよ。あいつ。A市の“闇”を燃やしてるって噂、マジっぽいし。」

「噂でテロリストを正当化するな。」

獅子の声は硬い。

その硬さに、トキヤは肩をすくめて黙った。


「朝凪アレン」

少し離れた場所で端末を操作していた女性が、淡々と呼ぶ。

立花ミカ、分析官。

獅子と同じくA市支部の上司。

落ち着いた声が、現場のざわめきをひとつ上から見下ろしているみたいだった。

「因子の残滓、採取できた。解析に入る。」

立花の手元には、携帯型の解析装置がある。


この世界の異能は、血液に含まれる“因子”の変換で発現する。

因子の残滓は、火薬やガスとは違う痕跡が残る。


立花さんは、焼き付いた壁に視線を向けたまま、淡々と続ける。

「波形……一致。」

「何とだ?」

獅子さんの声が、ほんの少しだけ低くなった。

立花さんは、ためらいなく答えた。

「二十年前。A市で最初に記録された大規模爆発と同一の波形。」


空気が凍った。

二十年前、俺はまだ生まれていない。

それなのに、この街はずっと燃えている。

「――同じ人間がやってるってことですか?」

俺の声は、自分でも思ったより乾いていた。

「可能性は高い。少なくとも、同じ因子変換式を使っている。」


立花さんは端末を閉じ、俺を見た。

「朝凪アレン。A市は普通の任地じゃない。ここにいると、次第に価値観が壊れていく。」

獅子さんが、その言葉を受け継いだ。

「命令は単純だ。仮面の男を止めろ。」


単純だ。

でも、“止める”の意味は簡単じゃない。

仮面の男は爆発犯だ。罪人だ。

それでも――失踪が減ったと囁く声がある。

地下に連れていかれた者が、“戻らなくなった”と喜ぶ者さえいる。


おかしい。街が、どこかおかしい。

俺は焼き付いた影を見つめ、息を吸った。

「……わかりました!」

自分の言葉が、粉塵の中で妙にくっきり響く。

「英雄でも、罪人でも関係ない。爆発で終わらせる“救い”なんて、俺は認めない!」


獅子さんの目が、わずかに揺れた気がした。

立花さんは、何も言わない。

ただ、ほんの少しだけ眉を寄せた。


そのとき。

遠く、崩れた高層ビルの屋上で――青い火花が瞬いた。

風に揺れる黒い外套。

こちらを見下ろす、白い仮面。

距離があるのに、“目が合った”と錯覚する。

背筋が冷えた。


同期の春日井ヒマリが息を呑む。

「……いた!」

次の瞬間、仮面の男の足元で、炎が一度だけ脈打った。

火花は空に散り、影は――消えた。

遅れて、熱の余韻が風に乗って届く。

立花さんが小さく呟く。

「……因子が、燃えている。血の匂いがする。」

俺は拳を握った。


止める。

燃やす正義を。

この街の嘘を暴くために。

――それが俺の仕事だ。

ご覧いただきありがとうございます。

初投稿のため、登場人物の名前を表記しておきます。

主人公:朝凪アレン

同期1:坂津トキヤ

同期2:春日井ヒマリ

上司1:獅子レイジ

上司2:立花ミカ

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