第一話 噂の転職サイト、使ってみた
ーーー時は2024年、この世は大転職時代ーーー
人々の仕事への意欲や関心、考え方はこの数年の間に飛躍的に進化したと言ってもいい。
働き方改革による影響もあるが、○○○ウイルスの影響でテレワークという自宅にいながら仕事ができるという画期的な働き方が出てきた事で、働くという文化において一つの転機が訪れているのである。
そんな仕事の在り方を考えさせられるこの時代、待遇や勤務条件をめぐり会社を転職する若者が圧倒的に増えている。
自分らしくある為に、守る家族のために、キャリアアップのために…と理由は様々だが転職をするのはむしろ今の時代の流行りなのかもしれない。
そんな中、まさに今この瞬間、転機が訪れた男がここに一人。
そう、この俺。新田悠斗にとって最大の転機が!!
それは…
『退職!!!!!!!圧倒的退職!!!!!!!!!ありがとう神様!これでブラックとはおさらばだぜーー!』
そう、人生のメインイベント退職であった。
◇
みんなは気持ちのいい朝を迎えるために必要な事って分かるかい?
日光を浴びる?ノンノン。眠気覚ましのコーヒー?それも違う…。
正解は、これ。
『ケツの穴に日光を浴びせる、ア○ル日光浴さ!』
こんなことをしているが俺は決してそっちの人間では無いから安心してくれ。
どこかの文献で読んだのだが、どうやら通常の日光浴と比べると何倍ものパワーを受けられるのだとか。
まじですごいよこれ、めっちゃエネルギーを感じるもん。
平日の朝方からこんなことをして我ながら悲しくなってきた…
ちなみにこんな馬鹿なことをしてられるのも仕事を辞めブラック企業からおさらば出来たからである。
本当に神に感謝だぜ。
気持ちよくなったところで服を着始めて部屋を見渡しながら
『部屋も片付いたしめちゃくちゃ落ち着くなぁ。仕事してた時なんて帰ってきてはそのまま寝てたもんな…掃除なんてできねぇよ』
と心の声が出る。ストレスフリーとはこのことか!と肌で感じることになるとは…
そんな俺は心の余裕も生まれた事で充実した生活を送っている。
のだが、一つ問題点があるのだ。それは
『…もう金が、無いんだよなぁ…』
財布には所持金427円とギリギリ今日の飯ぐらいは食べれそうなものだが…
一人暮らしが大変だというのは実際にやってみて初めて痛感した。
実家暮らしのみんなは今のうちに甘えておきなさい…そして親に偉大なる感謝を…
『帰ってきてご飯があるっていうのは本当に涙が出るよな…感謝しかねぇよ。』
父さん母さんごめん…仕事辞めてア〇ル日光浴なんてしてごめんなさい。ぼくまっとうに生きるよ。
仕事を辞めてからというものの、やりたい事をたくさんやったおかげで貯金なんてものはもうカケラも残っておらず、そろそろ家賃を払うのがギリギリの状態にまで追い込まれていた。
『そろそろ仕事、探さねぇと…めんどくせぇ』
とりあえずYouTubeも飽きたしTVでも見ようかな、とおもむろにTVを付けた。
最近めっきり見なくなったから新鮮だ
チャンネルボタンをポチポチしていると
―ラーラルルラ! 転職は〇〇!!―
最近YouTubeでもよく見かけるようになった広告の一つだ。
どうやらこんな無職でもエージェントが勝手に合う仕事を見つけてくれるらしい…
怪しい…。とても怪しい…のだが無職の俺にとっては仕事を1から探すより手っ取り早い…。
『…とてつもなく怪しいけど…。エージェント?だっけか、頼ってみるか』
背に腹は代えられない。とりあえず家賃払えないしやってみるか!
『さて、転…職。いや俺の場合再就職か?いや変わらん!!仕事探すぞ!!!!』
こうして俺は転職エージェントとなるものを使ってみる事にした。
噂の転職サイトは果たして使い物になるのだろうか…
◇
PCの前で待たされて早5分。エージェントとの相談とのことだが…
『いや、遅くね?』
無職のテメーが言うな!と突っ込まれそうなものだがいろいろと緊張してしまい間が持たなくなっていた。
『いや、集中!真面目にやらない…』
と、画面が切り替わりエージェントが画面越しに話しかけてきた。
「初めまして。私は転職エージェントの桜井と申します。あなたが新田悠斗さまでお間違いありませんか?」
俺の好きな萌えボイスや!たまらん!
『はい、本日はよろしくお願いいたします』
鼻の下を伸ばしつつも真面目に話を聞くことにした
こうして転職における面談が始まったのであった。
◇
面談は10分ほどで終わった。意外とあっさりしているもんだな。
前職の仕事や退職理由などいろいろと質問があったのですごく緊張した。
それにしても最後の問いかけだけは気になるのだが…
「では最後に2つほど質問させてください。1つ目はあなたにもう一つの人生があるとしたらどのように生きたいですか?」
もう一つの人生?生まれ変わったらみたいなニュアンスか。
アニメキャラみたいにいっぱいハーレムしてぇ…とかはこの際置いておこう。恥ずかしくて言い出せないよ…。
『そうですね、守るべき者のために力を尽くして果てるのも悪くないかもしれません』
「ありがとうございます。では最後の質問です。あなたは自分の手で未来を変えることを望みますか?」
最後の問いかけにはもちろんYESで返したのだが…
『あの質問、意味あったか?』
後日、転職についての企業紹介や説明などがあるらしい。今日は疲れたしとりあえず寝ることにしよう
『おやすみ、世界』
瞼を閉じ俺は眠りについた
◇
午前7:36分、小鳥のさえずりとともに同時に俺は目を覚ました
とりあえず窓を開けて新鮮な空気を吸おう。
窓の前に立ち扉を開けた瞬間だった。
目の前に広がっていたのは華やかでにぎやかな街並みとファンタジー世界でしか見たことのないような景色。
獣人に貴族、おまけに馬車まで…これ現実か?
エレガントな雰囲気を持つ街の姿を目の当たりにした俺は
『…………………………………………………………………………………は?』
流石に言葉を失ってしまった。
さすがに夢か、そうか。疲れてたのかもしれない。
とりま深呼吸だ…。落ち着けぇ…。
しか、目の前の景色は変わることなく目の前に存在していた。
『え、なにこれ、ほんまなん?』
混乱している中で転職エージェントの桜井さんから電話がかかってきた
恐る恐る電話に出ると
「おはようございます。よく眠れましたか?」
そりゃまぁよく寝れたからよくわかんない状況なわけで…
『ぐっすりではあったんですけど…よくわからないっすね』
「あら、どうされましたか?」
これは、信じてもらえるのか?
『あのぉ、窓開けたらなんかファンタジーの世界みたいな景色で、ほら、今!馬車走ってる!って言っても信じないですよね…はは』
ついに頭がイかれたか?と思われても仕方ない受け答えだと思っていたのだが…彼女からは予想だにしない返答が返ってきた。
「いや、信じますよ。無事転送は完了したみたいですね」
ん?
いや、俺の聞き間違いだよね?
『転送?え?は?ど、どういう状況?』
「実はですね、あなたの求めるお仕事は日本にはございませんでして…急遽異世界ではあるのですがここ”セイント”において転職活動を行うことになりました!」
いや、なりました!じゃないでしょ、え?これガチすか?
「これから一緒に頑張っていきましょう!!最後までサポートいたします!!」
『いや…転職先、異世界っすか』
転職エージェント、恐るべし…